勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

文字の大きさ
上 下
108 / 226
第11章 勇者とオーク編

第108話 再戦、希望 vs 絶望!

しおりを挟む
 「いいか? この技のコツは、相手の注意をどれだけ引きつけておくかが肝だからな」


 ひとつ目の仮面を着け、局部にモザイクを入れたすっぽんぽん……サイプロプスがヒロにアドバイスを口にする。

 だが、謎の空間で殺され続け、心が疲弊しきったヒロに、そのアドバイスが聞こえていない……サイプロプスの足元で、すでにヒロは事切れていたからだった。


「む、また死んだか? この歳だと、こんなものか……仕方がない」


 サイプロプスが『パチリ』と、指を鳴らす……すると足元で死んでいたはずのヒロが、目を開けて飛び上がる。


「なんだ今の技は? すっぽんぽんが、確かに目の前に居たのに突然……」


 ヒロは狐に化かされたかのように、サイプロプスを見る。


「俺のとっておきは避けられんだろ? 相手が格上なら、なおさら騙されるのさ」


 顔の表情は見えないが、仮面に空いた口元が不敵な笑みを浮かべていた。


「この技はフェイントなのさ。高レベルな者同士の戦いでは、気配や殺気に敏感に反応できなければ死ぬ」

「そうか! あれは!」

「理解したか? なまじ敏感に反応する高レベルな奴ほど、この技に引っ掛かる」

「確かに、戦いの最中にアレをやられたら、間違いなく隙ができる……」

「そうだ。コイツは戦いの最中、強制的に隙を作る技なのさ。さあ理解したのなら構えろ、技を教えてやる」


 サイプロプスの言葉にヒロが反応し、再びショートソードを構える。


「いいか? この技に必要なのは殺気だ」

「殺気?」

「そうだ。せめて、コレくらいの殺気が出せないとな」


 するとヒロに対峙していたサイプロプスの体から突如、おぞましい程の冷たい殺気が生まれ、ヒロが身構える。

 対峙しているだけだと言うのに、ヒロの本能が一刻も早く、この場から逃げ出したい衝動に駆られるが、ギリギリの所でヒロは踏み止まる。


「ほう、よく耐えたな? いいぞ! 教える手間が一つ省けた」

「こ、この殺気を出せるようになれと? どうやって?」

「こうやってだ!」


 サイプロプスは言い終わる前に、剣を一閃してヒロの首を跳ね飛ばす。

 切り抜いた方向にヒロの生首が飛び、自分の首を跳ねたサイプロプスの姿を脳裏に刻み込み、ヒロは絶命する……。
 
 再び『パチリ』と指を鳴らすサイプロプス。

 ヒロの首なし死体が光ったかと思うと、ヒロが何事もなかったかのように横たわり、意識を取り戻した。


「いきなり殺すな! 説明しろ!」

「やれやれ……殺気なんて教えてどうなるもんでもない。コイツを出せるようになるには、殺し続けるか……殺され続けて覚えるしかない。殺されたくなければ、俺を憎め。さあ、俺を憎んで殺気の出し方を覚えろ!」

「そんな無茶なやり方!」


 だが、サイプロプスはヒロの言葉を無視して、手に持った剣で斬り掛かってきた。

 ヒロも負けずに、ショートソードで斬り返す。


「無茶でも何でも構わん。リーシアと二人で生き残りたいのなら、つべこべ言わずに殺され続け、殺気を自在に出せるようになれ!」

「畜生、殺される痛みがどんだけか、分かっているのかよ!」


 ヒロが吼え、それを聞いたサイプロプスが動きを突如止めると……今までとは比べ物にならない濃密な殺気がヒロに絡みつく。


「殺される痛み? 知っているさ……死ぬより痛い痛みがある事を俺は知っているさ! 見せてやろう! コレが絶望の果てを見た男の殺気だ! はいだらあああああ!」


 殺気がヒロの心を鷲掴みにする。物理的には存在しない心を、サイプロプスの殺気が確かに鷲掴みにしていた。

 ヒロは流れ出る汗が拭うこともできず、ただ立ち尽くしていた。


「甘えるなよ小僧! こんな生温い環境で教えてもらう、ありがたみを噛み締めろ!」

「……」


 ヒロはうめき声ひとつ出せず、呼吸すら止められていた。

 どれ程の人生を生きれば、こんな暗い殺意を出せるようになるのか? 死より辛い痛み……ヒロはサイプロプスの悲しみに触れ言葉を失っていた。


「分かったか? では、死んでこい!」


 サイプロプスの一言で、ヒロの心が殺気に握り潰される!

 ヒロはその場で倒れ込み絶命する。


「やれやれ……年甲斐もなく殺気を撒き散らすなんてな……こんなんじゃあの世に行った時に、アイツに言われちまうな『バカですか?』って……ふっふっふっはっはっはっ!」


 サイプロプスが口元を綻ばせて笑っていた。だが……仮面に隠された瞳から流れ出る涙に、気づく者は誰も居ない。


「さあ! 甦れヒーロー! 誰から認められなくていい! 地獄へ堕ちようが構わない! お前を鍛え上げ、必ずたどり着いて見せる! そのために俺は鬼となろう! 本上もとがみ 英雄ヒーロー見せてくれ! 絶望のバッドエンドではない……お前のハッピーエンドをな!」


 蘇るヒロと謎の男サイプロプス……二人の死闘はいつ終わるともなく続くのだった。


…………


 オーク村に夕日の赤い光が差し込んでくる。

 村の中央にオーク達が集まり、中心にいる者たちに皆が注目していた。

 輪の中心には、族長であるオークヒーロー、カイザーとその家族、妻アリアと息子シーザーの姿もあった。

 その対面には、人族であるヒロとリーシアが立ち並ぶ。

 オークと人……それぞれの陣営に分かれ対峙する中心に、戦士ムラクが立ち、声を上げた。


「時は来た! オーク族の者たちよ! 活目せよ、これより命を賭けた決闘を執り行う!」

「馬鹿が! 我らが長に挑むなど無駄な事を」

「大人しく捕まっておけ」

「いや! いま殺してしまえ!」

「雌は、オランとこの息子の嫁にくんろ」

「人族が我らに戦いを挑むなど片腹痛いわ」

「人族が族長に挑むだと? 無駄な事を……もしカイザーに勝てるなら戦士として認めてやるよ。勝てるならな!」

 周りを囲むオーク達の心良くない声が、ヒロ達に浴びせられる。

「この決闘の結果が、いかなる結末を向え様とも勝者には必ず賞賛を持って答えよう。たとえそれが人族であってもだ。この結果に異議を唱える事はまかりならん。戦士の誇りと命に掛けてオーク族は勝者に従う。良いな皆の者!」

「オーク族の強さを人族に見せつけてやれ」

「手加減は無用だぞ」

「馬鹿な人族だ。大人しく捕まっておけばよかったものを」

「息子の仇よ。お前たちなんか、死ぬばいいのよ!」


 ムラクの宣言に、若いオーク達がヒロ達を殺せと声を上げる。中には雌のオークが身内を殺された怒りで、ヒロ達に憎悪の目を向ける者もまでいた。


「ヒロ、この感じ……」


 オークの言葉が分からないリーシアは、かつて感じた事がある感情の渦の中で、悪意に晒されるヒロを心配していた。


「大丈夫です。カイザーを応援する声が多いですね。もともとココは敵地ですから……仕方がありません」


 リーシアはヒロの優しさに何も言う事が出来なかった。この人は全ての悪意を自分一人で受け入れる気でいる事を、彼女は気づいていた……そんな男の心を支えられず、少女は落ち込んでいた。


「両者前へ」


 ムラクの言葉に、ヒロとカイザーが互いに武器を持ち、前へ歩き出す……ヒロは返却されたショートソードを、カイザーはハルバートを手に対峙する。

 リーシアとアリア、シーザーの三人は後ろに下がり、最前列で二人の戦いを見守る。


「両者とも準備はいいな? 始めろ!」


 ムラクの開始の言葉と同時に、オーク達の熱気が広場を覆う。うるさくすら感じる熱狂の中で二人の漢は静かだった。

 対峙する二人に、もう交わす言葉はいらなかった……成すべき事が明確になった以上、漢達に言葉など無用だった。

 漢達の闘気が高まり、ヒリついた空気が二人の間でぶつかり合う。

 どちらともなく、二人は自らの武器を構える。

 カイザーがハルバードを後ろに振りかぶり、力を溜める。

 一撃で仕留めに来る必殺の構えに、ヒロは臆せずショートソードを中段に置き、相手が動くのを待つ。

 どれ位そうしていただろうか……互いに攻撃のタイミングを計り、微動だにしない。周りで見ていたオーク達も息を殺し二人の動く時を待つ……そして――


「はいだらあ!」


――ヒロが発した意味不明の言葉に、カイザーが反応して先に動いてしまった。

 剛腕の一撃がヒロを襲う。


〈希望と絶望……二人が合間見えた時、再び時が動きだした〉
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。 目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。 「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」 突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。 和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。 訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。 「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」 だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!? ================================================ 一巻発売中です。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...