勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第10章 勇者と親子の絆編

第104話 ゲーマーを信じろ!

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「オーク族にやってもらいたい事、それは……全てのオーク族には狂化バーサークしてもらい、滅んでもらいます!」

「「はい~?」」


 リーシアとカイザー、二人の声が奇麗にハモる……ヒロが発した突然のオーク大量殺害ジェノサイドの言葉に、二人が声を上げた。


「貴様、どういうつもりだ!」

「ヒロ、な、何をいっているんですかヒロ⁈」


 カイザーは少し興奮気味に……リーシアは驚きながらヒロに問いただす。


「二人共、少し落ち着いてください。今説明しますから……」

「返答によっては今、お前を殺すことになるぞ!」

「分かっています。ただその前にリーシア……最後に確認します。オーク達を助ける道を選べば、人族を裏切りことになります。その結果、町の人に後ろ指を指されようとも僕と共に歩む覚悟はありますか?」


 ヒロの真剣な眼差しに、リーシアが覚悟を持って答える。


「ヒロ……私はオーク達に触れてみて思いました。彼らは魔物などではなく、互いに分かり合える心を持った種族なのだと……姿形は違っても、家族を想う気持ちは私たちと変わらないと知りました。だから私もヒロと同じ気持ちです。オーク達を救ってあげたい。人とオーク双方が幸せになれる道があるのなら……たとえ後ろ指を指されようが、私はヒロと共にどこまでも歩みます!」


 それは少女の真剣な答えにヒロが答える。


「分かりました。リーシア……共に行きましょう。オーク大量虐殺ジェノサイドの道を」

「あっ! その道は待ってください。話を聞いてからにします。場合によっては却下です」

「ええ! リーシア、いま僕と一緒に歩むって言いましたよね?」

「確かに言いましたが、ヒロの計画はイマイチ失敗しそうで危ないですから……まず話を聞いてからにします」


 共に歩むパートナーに、イマイチ信頼されていないヒロ……やるせない気持ちを抑え、カイザーとリーシアに説明を始める。


「まずカイザー、現状を説明します」

「むう、現状だと?」

「はい。現状、僕たちがココに囚われ、この村の場所が人族にバレました」

「あの時、逃げたお前たちと同族の二人か?」

「そうです。そしてこの地で、オーク族が500匹以上暮らしているのが、脅威として問題になっています」

「問題とはなんだ?」

「オークの集団戦を得意とする種族特性と、カイザー……あなたの存在です」

「我とオーク族の数?」

 ヒロはコクリと無言でうなずいた。


「オーク族は成長が早いと聞きました」

「ああ、オークは弱い。それ故に力のない子供でいる時間が短いのだ。大体生まれてから二ヵ月くらいで大人に成長する」

「それです。人はその成長と増えるスピードを危険視しています。子供が大人の体格に成長するためには、短期間に大量の食べ物が必要なのでは?」

「ああ、子供はよく食べる。大人になればそれ程ではないが、子供の頃は皆、常に飢えている」

「このまま増え続ければ、豊富な森の恵みがあるとはいえ、いつか食べ物を巡って争いが起こります。そうならないために、数が少ない今の内にオークを殲滅しようとする動きが出てきました」

「我らとて分かっている。森の恵みにも限界がある。だからこそ、我らは一家族で一人しか子供を作れない掟を作っているのだがな」


 意外にも、カイザーの口からはオーク族一人っ子政策の言葉が飛び出して来た。


「ですが、人族にその話を信じてもらう事はできない……」

「言葉が通じんからな……だが、お前なら?」

 期待に満ちた目でカイザーがヒロを見るが、ヒロは首を横に振り否定する。


「僕がオークと話せると信じてもらうには、時間がありません。それに……オークの数が増えるのを人族は嫌っています。人より早い成長スピードと、集団戦の強さに恐れを抱いているのです。それと……」

「我の存在か?」

「カイザー……アナタは良くも悪くも人族にとって有名です。オークヒーローの名は、人族なら誰もが知る名前だと聞いています」


 ヒロがリーシアを見ると……すぐに答えてくれた。


「オークヒーローの名を知らない人はいませんね。勇者の伝説で有名です……子供に聞かせるお話の中でも大人気の物語ですからね」

「間違いなく、アナタを危険視して、全力でこの村を……あなたを討伐に来ます」

「ふん、来るならば来い。オークの戦士は死を恐れん。むしろ戦いから逃げる方が、死より不名誉なのだ。我ら戦士の誇りがそれを許さん」

「カイザー……アナタはオーク族の……家族の笑顔を守りたいのではなかったのですか?」

「そうだ」

「オークの誇り……それはアリアさんやシーザー君の命より大切なものなのですか? だったら僕は協力する気はありませんよ。だってアナタはオーク族が滅ぶ未来を選択するのに、助ける意味がありませんからね」


 ヒロの言葉にカイザーが俯いてしまう。戦士としては逃げることを許されないが、族長としてはオーク族を守りたい。そして父親として家族の笑顔を……矛盾した思いにカイザーは悩む。


「それといい方は悪いですが、怒らないでください」

「なんだ?」

「人はオークを食料としか見ていません。人からしたら、アリアさんもシーザー君もひとしく肉としか見えないでしょう」

「貴様! アリアとシーザーを肉と言うか!」


 カイザーが家族を侮辱され怒りで、殺気を漲らせ闘気をまとう。

 言葉通り場に重苦しい空気が流れ、ヒロとリーシアが動きを止める。


「現実の話をしています! このままでは、いくらアナタが僕らに闘気を覚えさせ、倒されたとしても……アナタのいないオーク族に待っているのは、皆殺しにされ、食べられる未来だけです!」

「黙れ! 黙れ! 黙れぇっ!」


 ヒロの言葉にカイザーが激昂する……認めたくない未来に耳を塞ぎ、ただ否定を繰り返す。

 横にいたリーシアはそんなカイザーを見て声を上げた。


「オークヒーローの言葉は分かりませんが、ヒロの言う言葉だけで大体分かりました。どうせオークヒーローが戦士の誇りが! とか言って駄々を捏ねているのでしょう? 下らない! 種族が違っても、男って基本同じです。自分の価値観を人に押し付けないでほしいですね! 残される女性や親を亡くした子供の気持ちを考えろ、このバカッて訳してください!」

「リーシアも同じ意見ですよ。カイザー、いくら否定しようが現実は変わりません。このままではオーク族は誰も幸せにはなれない。残された家族の気持ちと行く末をよく考えろ、このバカ野郎!」

 ヒロとリーシアは、心の内にある頑固親父カイザーに対する憤りを爆発させ、カイザーに叩きつけていた。


「ならばどうせよと言うのだ! 我が生きていればオーク族は狂化バーサークして破滅へ向かい……我が死ねば、後に残るのは、人が押し寄せ皆殺しになる未来だけ……我にどうしろと言うのだ!」


 絶望が嘆く、破滅の未来を……だが希望は諦めない!


「なら僕を信じろ! この世界の人でもオークでもない、異世界人の僕を! 本上ほんがみ 英雄ヒーローを信じろ! 幾多のゲーム世界攻略救済したゲーマー勇者を信じろ!」

「異世界人? お前は人族ではないのか?」

「少なくともガイヤの人族ではありません。ここではない、遠い大地の人間です」

「ヒロ……今さらですが、やはり勇者だったのですか?」

「いいえ……僕はただのゲーマーです。この世界では勇者と書いてゲーマーと読むことにしました」

「……ゲーマー? 相変わらず意味が分かりませんが、言いたくないのなら聞かないでおきます」


 リーシアは何かを察し、それ以上詮索はしなかった。

 それは、たとえヒロが勇者であろうと、ゲーマーと呼ばれようが、変態ヒーローに変わりはないからだった。


「カイザー、僕を信じてほしい。人とオーク、双方の幸せな未来のために」


 カイザーは押し黙り、ヒロの瞳に映る心の中を覗き見る。そして……彼は決断する。


「いいだろう。我はお前に賭けてみよう。オークと人が幸せになると言う、お前の思い描く未来に……信じてみよう家族のために!」


 するとヒロがカイザーの前に手を差し出す。


「これは?」

「友好を表す証、握手です。互いに武器を持っていない、敵対する意思がないことを表す異世界の挨拶です」

「手を握ればいいのか?」


 カイザーが差し出されたヒロの手を軽く握る。


「やりましょう。二つの種族が笑顔でいられる未来のために!」



〈希望と絶望が手を取り合った時、新たなる未来が生まれた!〉
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