勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

文字の大きさ
上 下
99 / 226
第10章 勇者と親子の絆編

第99話 オークと親子

しおりを挟む
「母上……」

「アリア……」

「「ごめんなさい」」

 仁王立ちのアリアとリーシアの前で、カイザーとシーザーの二人が土下座していた。

 二人の頬には、仲良く手のひらで叩かれた跡があり、大小の違いはあったが土下座する姿は似ており、『親子だな~』と、ヒロは感じていた。

「あなた、シーザー……次はないわよ?」

「「はい!」」

 ステレオ音声みたいにハモる二人。シーザーの目に余る情けない姿に、母アリアは嘆き、ロクデモない事を息子に吹き込むカイザーに怒りをぶつけていた。

「エロは撲滅です!」

 事実被害にあったリーシアもシーザーを引っ叩き、アリアと一緒にゴミを見る目で罪人達を見下ろしていた!

 種族を超えた、エロ撲滅委員会が発足された歴史的瞬間だった。

「ですが……シーザー、無事で本当に良かった」

「母上……ありがとう」

 アリアが息子を立たせ、力一杯抱きしめて涙を流し、シーザーも母に抱かれるがまま、動かないでいた。

「シーザー、アリア……」

 いつの間にかカイザーが立ち上がり、二人に抱き付こうとするが……、アリアの目が『キッ!』と鋭くなり、カイザーを睨み付ける。

「あなたはそこで土下座していなさい! 反省が足りません!」

「うむ……」

 そのまま土下座に戻るカイザー……ヒロはそんなカイザーの背中を見て、同情を禁じ得なかった。

「カ、カイザー悲惨過ぎる……」

「なんか、私たちと死闘を演じたオークヒーローとは、思えませんね……もはやダメダメなお父さん的ポジションですよアレ」

 いつの間にかリーシアがヒロの隣に立ち、カイザー親子の様子をうかがっていた。

 するとアリアがシーザーと共に、ヒロ達の前に歩いて来る。

「ヒロさん、リーシアさん、あなた達が居なかったらシーザーは間違いなく死んでました。なんとお礼をいったらいいか」

「ヒロ! 助けてくれてありがとう!」
 
 深々と頭を下げ、ヒロとリーシアに礼を述べるアリアとシーザー。

「いえ、シーザー君が元気になって良かったです」

「本当にありがとうございます」

 アリアは背筋を伸ばし、深々と頭を下げていた。

「頭を上げてください。僕たちは頼まれたからシーザー君を助けたのではありません。助けたいと思ったから助けたんです。だから礼はいりませんよ」

「私たちはオークですよ? それなのに……」

「人もオークも関係ありません。助けるのに理由なんていらないんです」

 ヒロのその一言が、アリアの中にある人族に対する認識が変わっていた。

「ヒロさん分かりました。……じゃあお礼の代わりに料理をごちそうさせてください」

「ごちそうですか?」

「はい! 私は料理が得意なので、お二人に食べてもらいたいのです。ダメですか?」

「いいえ、オーク族の料理は僕も興味があります。ぜひ食べてみたいです」

「腕によりを掛けて作りますね。あっ! こんな所ではなんですから、是非家にいらしてください」

 アリアは顔に笑顔を作り、ヒロとリーシアを家に招待しようとするが……押し黙って土下座していたカイザーが顔を上げて止める。

「いかん! マリア二人を牢屋から出してはならん!」

「あなたはまだそんな事を!」

「それだけはならん! 村の大半は大丈夫だろうが、一部の者は家族を人族に殺されている。下手に村の中を、その二人が歩けばいらぬ争いが起きる」

 カイザーは立ち上がり、アリアを静止する。

「外を出る事は認められん。コイツらは強い。下手に外に出せば、血気盛んな奴らが戦いを挑むかもしれん……そうなれば返り討ちだ」

「ん? つまりカイザーは、僕達を閉じ込めるために、ここに捕らえたのでなくて……」

「お前たちは、我の目的のために殺さずに連れて来た。人を憎む他の者に勝手に殺されたら堪らん。故に村から少し離れた牢に入れ、見張りを立てていたのだ。村の者が無駄な戦いを挑まねようにな」

「確かに……普通に捕虜として捕らえられたら、もっと待遇が悪いか、人を憎むオークが襲い掛かってきても不思議じゃありませんね」

「村に、いらね不安を広げるわけにはいかん。だから二人を外に出す事ができんのだ。アリア分かってくれ」

 カイザーは、頭を下げてアリアに許しを請う。アリアはそんな夫の姿を見て少し考える。

「分かりました。ヒロさんとリーシアさんの身を案じてなのですね?」

「そうだ」

「ならここで、料理をごちそうするのなら問題無いわね?」

「ここでか? むう……いいだろう」

 アリアの機転を聞かせた提案に、シーザーは妥協する。

「決まりですね。家にいったん帰りますよ。腕によりを掛けて料理しなくてはなりませんからね」

「母上、何を作るのですか⁈」

「シーザーの大好きなムシ料理を作りますよ」

「やったあ! 母上のムシ料理大好きです!」

「ふふ、シーザーの回復祝いもかねてますからね」

 シーザーがムシ料理を食べられる喜びで、病み上がりだと言うのに飛び跳ねていた。

「さあ、家に行くわよ。みんな手伝って頂戴ね」

「わ、我もか? 料理なぞできんぞ?」

「力仕事はいくらでもあります。料理は戦いなのですから!」

「な? 戦いだと? そうなのか?」

「あなた……たまには家事をやってください。炊事、洗濯、掃除……雌は毎日が戦いですよ!」

「すまね……いつも迷惑を掛けて、感謝する」

 カイザーは、毎日が戦いの妻アリアに礼を述べる。

「ふふ、分かってくれればいいのよ。さあ早く家に戻りましょう。早くしないと夕飯に間に合わないわ」

 アリアが手を『パンパン』と叩くとカイザーとシーザーは立ち上がり、牢の入り口に向かって歩き出す。

「ヒロさん、リーシアさん、ごめんなさいね。ここから出して上げられなくて……」

 アリアが残念そうな顔でヒロ達に謝るが……。

「カイザーさんの目的は分からないですが、僕達を思ってのようですし、気にしないでください」

「そう言ってもらえると気が楽になるわ。ありがとう。それじゃあ、後でとっておきのムシ料理持って来ますね」

「蒸し料理ですか? 食べるのは久しぶりですね。リーシアと二人で楽しみにしています」

 ヒロとリーシアは、カイザー家族を見送ると、リーシアがヒロに話し掛けてきた。

「ヒロ、結局どうなりましたか?」

「はい。実は……」

 リーシアに話した内容を簡潔に伝えるヒロ。

「そうですか……料理を振る舞ってくれるのですね」

「蒸し料理は久しぶりです」

「蒸し料理?」

「水を火で沸騰させて出る蒸気で、食材を熱する調理法です。楽しみですね」

「ヒロがそう言うからには、きっと美味しいのでしょう。お腹を減らして、楽しみに待つとしましょう」

 思い掛けないカイザー親子との出会いに、ヒロの中にある思いを募らせているその時!

「あの……」

 突如、牢屋の中で声を掛けられるヒロ。声のした方へ顔を向けるとそこには……風景に溶け込むが如く、気配を絶ったオークが佇んでいた!

「え? ムラクさん」

「なんでムラクさんが……あっ!」

 ヒロとリーシアの視線の先には、オーク族の若者……ムラクがイジけていた!

「もういいです……どうせ拙者なんか……皆に忘れさられた存在ですから!」

 地面に『の』の字を永遠に描き続ける、ムラクの姿があるのだった!

〈忘れさられたオーク、ムラクの号泣が洞窟内に響き渡った!〉
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。 目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。 「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」 突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。 和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。 訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。 「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」 だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!? ================================================ 一巻発売中です。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...