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第10章 勇者と親子の絆編
第97話 オーク、父の優しさ
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「リーシア……来ます」
「ええ、この気配はシーザー君にムラクさん、知らない気配が一つ、それと……この大きなのは、オークヒーローですね」
自分たちの元へと走り寄る者の中に、一際大きな気配があった。
リーシアは気配で、ヒロはマッピングスキルの簡易MAP画面で、自分たちに近づく者を察知していた。
「シーザー君とムラクさんもいるなら、多分怪我を治すために、ココに向かっていると考えていいかな?」
「ですね。オークヒーローにしては速度が遅い気がしますね……あの身体能力なら、もっと速く走れるはずですが?」
「シーザー君の怪我を想ってかもしれませんね。そうすると容体は一刻を争うかもしれません」
「ヒロ、まずいかもしれません。こちらから赴くのでなく、向こうから怪我をしたシーザー君を連れてくるくらいですし」
「分かっています」
ヒロはアイテム袋のメニューを操作して、予め最後の1本であるポーションを取り出した。腰に巻いたポーションホルダーに挿してシーザーの到着を待った……暫くして。
「ヒロ殿! 坊ちゃんを連れて来ました!」
「ムラクさん!」
牢屋内に声を上げながら入ってくるムラク。その後ろからシーザーを抱いたカイザーと、見知らぬ女性のオークが付き添っていた。
「ヒロ殿、お待たしました。族長のカイザー殿と奥方のアリア殿もお連れした」
するとカイザーがヒロの前に立ち、アリアもその横に立つ。
女性のオークを初めて見るヒロ。人と変わらぬ……むしろ美人の域にあるオークに息を飲んだ。
胸を隠す布と、腰に巻いた布を着こなす姿は、元の世界で言うならビキニタイプの水着に、パレオを巻いたイメージであった。
胸まである長く黒い髪を二つのおさげにし、肩から前に垂らしていた。おっとりした目は赤い虹彩をしており、さらけ出しているオーク特有の薄いピンク掛かった肌の色が、否応なしに、彼女がオークである事を物語っていた。
「初めまして、シーザーの母、アリアと申します」
頭を下げてアリアは名乗った。
「初めまして、僕はヒロ、こちらはリーシアです」
「リーシアです」
アリアの礼儀正しい挨拶にヒロも答え、リーシアもヒロに紹介してもらい、ぺこりと頭を下げた。
「我は説明不要だな……すぐに出て行く」
カイザーは挨拶なしで、ぶっきらぼうにヒロと話す。
「あなた! シーザーを助けて頂くのに、その態度はなんですか!」
「バカを言うな! 数日前に、こいつらとは殺し合いをしたばかりだぞ? シーザーのためとは言え、敵同士だった者に助けを乞うなんて……族長としてあってはならぬのだ!」
「ですが、シーザーを助けて頂くのですよ!」
「だからこそ、我がココからすぐに出て行く! こいつらも我がいては……やり難いだろう。我はシーザーを連れて来ただけだ……アリア、シーザーを頼む」
カイザーはシーザーを地面にそっと寝かすと、愛おしそうに頭を撫でる。名残惜しそうに立ち上がると、踵を返し牢屋の外に出て行こうと歩き出した。
カイザーの不器用な行動……それは息子に対する愛情と、ヒロとリーシアに対する心遣いだった。
自分がいては治療がやりづらいであろうと……負の感情を一心に受ける覚悟で振る舞う、ぶっきらぼうな父の態度。
カイザーは急ぎ牢屋を出て行こうする。
「待ってください!」
呼び止めるヒロの声に、カイザーは足を止めて振り返った。
「初めまして、僕の名前はヒロ、冒険者です。シーザー君のお父さん? 名前を教えてくれませんか?」
「な、何を言っている? お前と会うのは初めてでは……」
「いえ、シーザー君のお父さんと会うのは初めてですね。ああ、彼女はリーシア。彼女も会うのは初めてですね」
「ヒロ? 何を……あっ! そう言う事ですか♪ なら私も……コホン、冒険者のリーシアです。初めましてシーザー君のお父さん」
呼び止められたカイザーは、何を言われているのか理解が出来なかった。しかもヒロの隣にいた雌も、言葉は分からないが、頭を下げて何かを話し掛けてきた。
つい数日前、自分に敗北しボロボロになるまで打ちのめされた者が頭を下げて……カイザーはヒロとリーシアの言動を見て気がつく……だが、それに答える勇気がカイザーにはなかった。
ただ一言の挨拶……その一言が……族長としての立場がカイザーを躊躇させた。
「父上……」
その時、意識のないシーザーの口から、父を呼ぶ声が漏れ、その声がカイザーの背中をソット押した。
「我は、いや俺はカイザー! この子の……シーザーの父親だ! 頼む! この子を助けてくれ!」
そこには恐るべき力を持ったユニークモンスター、オークヒーローの姿はなく、息子のために頭を下げる一人の父親の姿があった。
その姿を見たヒロは、覚悟を決めた。
「必ず助けます。リーシア」
「分かっていますよ。準備万端です」
既にリーシアは座り込み、膝枕にシーザーの頭を乗せていた。
さっきまで、浅い息で苦しんでいたシーザーの寝息が、静かになる。
「まさか! シーザー⁈」
シーザーの命が、尽きたのかと思ったカイザーが声をあげる。
「あなた、大丈夫そうよ。さっきまで苦しそうだったのに、今はまるで普通に寝ている見たい」
「そうなのか?」
「リーシアのスキルのおかげです。リーシア膝枕してもらうと、痛みがなくなりますからね。僕で実証済みです」
「そうか……騒いでしまってスマン」
「構いません。今はシーザー君を救うのが優先です」
息子が苦しみから解放された事を知り、二人は安堵する。
首に固く巻かれた布をゆっくりと解くヒロ。
真っ赤に染め上がった布が、シーザーの出血量を物語り、非常に危ない状況だと伝えている。
人は身体の血液が、短時間で20%失われると、ショック死すると言われている。
体重60kgの大人で、大体2.4ℓの血液をなくすと命が危なくなる。シーザーの体重が40kgと考えると、1.4ℓでかなり危ない状況だ。
ヒロは血で塗れた布を解き終わると、傷口を確認する。傷口を覆う布がなくなったことで、傷口から流れる血の勢いが早くなった。
「リーシア、使いますよ?」
「使ってください。そのポーションの使い時は、きっと今ですから」
ヒロは最後の1本を使用する最終確認をリーシアにするが、リーシアはそんな当然なことを今さらと言わんばかりに、即答していた。
腰のポーションホルダーから、ポーションをヒロは手に取る。
容器のフタを開け、傷口の血を布で拭きながら、ヒロはポーションを傷口に流し込んでいく。
ゆっくりと時間を掛けて丁寧に……最後のポーションを一滴まで無駄なく使うため、ヒロは傷口に流し込む量を慎重に見定める。
「そ、それはなんなのだ? タダの水ではないようだが……」
カイザーがポーションを初めて見たらしく、興味を惹かれていた。
「短時間で傷を治す効果がある薬です。通常では時間がかかり過ぎて治せない怪我も、短期間で傷を治すポーションなら……」
極限まで集中した世界で、40分掛けて全てのポーションをヒロは流し込み終えた。
アイテム袋のメニュー画面を操作して、包帯がわりに裂いた服の残りの布をヒロは取り出すと、再びシーザーの首に巻き始めた。
「終わったのか? シーザーは?」
「この子は? 助かったの?」
固唾を飲んでシーザーを見守る二人が、ヒロに声を掛ける。
「最後の方で出血はほとんどなくなっていましたから、うまくポーションが効いているはずです。傷を治すために体力を使ったので、しばらく立てないかもしれませんが、おそらくもう大丈夫なはずです。一晩はリーシアにこのまま癒してもらって、様子をみましょう」
「おお! ヒロよ感謝する!」
「良かった……ありがとう。ヒロさん、リーシアさん」
シーザーの無事を知った二人は、ヒロとリーシアに感謝の礼を述べる。
「本当に良かった……」
「アリア……」
シーザーの無事を聞いて安心したのか、アリアは目に涙を浮かべてカイザーに寄り掛かる。
カイザーはそんなアリアの肩を抱き、無言で慰めている。
言葉など不要な夫婦の信頼……そんな二人の姿に、リーシアは、自分の心が温かくなるのを感じるのだった。
「良かったですねカイザー殿!」
「「「……」」」
「え? な、なんですか……この間は?」
「いたのか……ムラク」
「ムラク……ごめんなさい」
「ムラクさん……いつからいました?」
「ヒロ一体何を……あっ! ムラクさんいたんですか?」
「最初からいましたよ!」
完全にムラクの存在を全員が忘れていた……。
途中から忘れ去られていたムラクは、一人岩壁に向かってイジケルのだった!
〈希望と絶望……邂逅の果てに、新たなる可能性が生まれた!〉
「ええ、この気配はシーザー君にムラクさん、知らない気配が一つ、それと……この大きなのは、オークヒーローですね」
自分たちの元へと走り寄る者の中に、一際大きな気配があった。
リーシアは気配で、ヒロはマッピングスキルの簡易MAP画面で、自分たちに近づく者を察知していた。
「シーザー君とムラクさんもいるなら、多分怪我を治すために、ココに向かっていると考えていいかな?」
「ですね。オークヒーローにしては速度が遅い気がしますね……あの身体能力なら、もっと速く走れるはずですが?」
「シーザー君の怪我を想ってかもしれませんね。そうすると容体は一刻を争うかもしれません」
「ヒロ、まずいかもしれません。こちらから赴くのでなく、向こうから怪我をしたシーザー君を連れてくるくらいですし」
「分かっています」
ヒロはアイテム袋のメニューを操作して、予め最後の1本であるポーションを取り出した。腰に巻いたポーションホルダーに挿してシーザーの到着を待った……暫くして。
「ヒロ殿! 坊ちゃんを連れて来ました!」
「ムラクさん!」
牢屋内に声を上げながら入ってくるムラク。その後ろからシーザーを抱いたカイザーと、見知らぬ女性のオークが付き添っていた。
「ヒロ殿、お待たしました。族長のカイザー殿と奥方のアリア殿もお連れした」
するとカイザーがヒロの前に立ち、アリアもその横に立つ。
女性のオークを初めて見るヒロ。人と変わらぬ……むしろ美人の域にあるオークに息を飲んだ。
胸を隠す布と、腰に巻いた布を着こなす姿は、元の世界で言うならビキニタイプの水着に、パレオを巻いたイメージであった。
胸まである長く黒い髪を二つのおさげにし、肩から前に垂らしていた。おっとりした目は赤い虹彩をしており、さらけ出しているオーク特有の薄いピンク掛かった肌の色が、否応なしに、彼女がオークである事を物語っていた。
「初めまして、シーザーの母、アリアと申します」
頭を下げてアリアは名乗った。
「初めまして、僕はヒロ、こちらはリーシアです」
「リーシアです」
アリアの礼儀正しい挨拶にヒロも答え、リーシアもヒロに紹介してもらい、ぺこりと頭を下げた。
「我は説明不要だな……すぐに出て行く」
カイザーは挨拶なしで、ぶっきらぼうにヒロと話す。
「あなた! シーザーを助けて頂くのに、その態度はなんですか!」
「バカを言うな! 数日前に、こいつらとは殺し合いをしたばかりだぞ? シーザーのためとは言え、敵同士だった者に助けを乞うなんて……族長としてあってはならぬのだ!」
「ですが、シーザーを助けて頂くのですよ!」
「だからこそ、我がココからすぐに出て行く! こいつらも我がいては……やり難いだろう。我はシーザーを連れて来ただけだ……アリア、シーザーを頼む」
カイザーはシーザーを地面にそっと寝かすと、愛おしそうに頭を撫でる。名残惜しそうに立ち上がると、踵を返し牢屋の外に出て行こうと歩き出した。
カイザーの不器用な行動……それは息子に対する愛情と、ヒロとリーシアに対する心遣いだった。
自分がいては治療がやりづらいであろうと……負の感情を一心に受ける覚悟で振る舞う、ぶっきらぼうな父の態度。
カイザーは急ぎ牢屋を出て行こうする。
「待ってください!」
呼び止めるヒロの声に、カイザーは足を止めて振り返った。
「初めまして、僕の名前はヒロ、冒険者です。シーザー君のお父さん? 名前を教えてくれませんか?」
「な、何を言っている? お前と会うのは初めてでは……」
「いえ、シーザー君のお父さんと会うのは初めてですね。ああ、彼女はリーシア。彼女も会うのは初めてですね」
「ヒロ? 何を……あっ! そう言う事ですか♪ なら私も……コホン、冒険者のリーシアです。初めましてシーザー君のお父さん」
呼び止められたカイザーは、何を言われているのか理解が出来なかった。しかもヒロの隣にいた雌も、言葉は分からないが、頭を下げて何かを話し掛けてきた。
つい数日前、自分に敗北しボロボロになるまで打ちのめされた者が頭を下げて……カイザーはヒロとリーシアの言動を見て気がつく……だが、それに答える勇気がカイザーにはなかった。
ただ一言の挨拶……その一言が……族長としての立場がカイザーを躊躇させた。
「父上……」
その時、意識のないシーザーの口から、父を呼ぶ声が漏れ、その声がカイザーの背中をソット押した。
「我は、いや俺はカイザー! この子の……シーザーの父親だ! 頼む! この子を助けてくれ!」
そこには恐るべき力を持ったユニークモンスター、オークヒーローの姿はなく、息子のために頭を下げる一人の父親の姿があった。
その姿を見たヒロは、覚悟を決めた。
「必ず助けます。リーシア」
「分かっていますよ。準備万端です」
既にリーシアは座り込み、膝枕にシーザーの頭を乗せていた。
さっきまで、浅い息で苦しんでいたシーザーの寝息が、静かになる。
「まさか! シーザー⁈」
シーザーの命が、尽きたのかと思ったカイザーが声をあげる。
「あなた、大丈夫そうよ。さっきまで苦しそうだったのに、今はまるで普通に寝ている見たい」
「そうなのか?」
「リーシアのスキルのおかげです。リーシア膝枕してもらうと、痛みがなくなりますからね。僕で実証済みです」
「そうか……騒いでしまってスマン」
「構いません。今はシーザー君を救うのが優先です」
息子が苦しみから解放された事を知り、二人は安堵する。
首に固く巻かれた布をゆっくりと解くヒロ。
真っ赤に染め上がった布が、シーザーの出血量を物語り、非常に危ない状況だと伝えている。
人は身体の血液が、短時間で20%失われると、ショック死すると言われている。
体重60kgの大人で、大体2.4ℓの血液をなくすと命が危なくなる。シーザーの体重が40kgと考えると、1.4ℓでかなり危ない状況だ。
ヒロは血で塗れた布を解き終わると、傷口を確認する。傷口を覆う布がなくなったことで、傷口から流れる血の勢いが早くなった。
「リーシア、使いますよ?」
「使ってください。そのポーションの使い時は、きっと今ですから」
ヒロは最後の1本を使用する最終確認をリーシアにするが、リーシアはそんな当然なことを今さらと言わんばかりに、即答していた。
腰のポーションホルダーから、ポーションをヒロは手に取る。
容器のフタを開け、傷口の血を布で拭きながら、ヒロはポーションを傷口に流し込んでいく。
ゆっくりと時間を掛けて丁寧に……最後のポーションを一滴まで無駄なく使うため、ヒロは傷口に流し込む量を慎重に見定める。
「そ、それはなんなのだ? タダの水ではないようだが……」
カイザーがポーションを初めて見たらしく、興味を惹かれていた。
「短時間で傷を治す効果がある薬です。通常では時間がかかり過ぎて治せない怪我も、短期間で傷を治すポーションなら……」
極限まで集中した世界で、40分掛けて全てのポーションをヒロは流し込み終えた。
アイテム袋のメニュー画面を操作して、包帯がわりに裂いた服の残りの布をヒロは取り出すと、再びシーザーの首に巻き始めた。
「終わったのか? シーザーは?」
「この子は? 助かったの?」
固唾を飲んでシーザーを見守る二人が、ヒロに声を掛ける。
「最後の方で出血はほとんどなくなっていましたから、うまくポーションが効いているはずです。傷を治すために体力を使ったので、しばらく立てないかもしれませんが、おそらくもう大丈夫なはずです。一晩はリーシアにこのまま癒してもらって、様子をみましょう」
「おお! ヒロよ感謝する!」
「良かった……ありがとう。ヒロさん、リーシアさん」
シーザーの無事を知った二人は、ヒロとリーシアに感謝の礼を述べる。
「本当に良かった……」
「アリア……」
シーザーの無事を聞いて安心したのか、アリアは目に涙を浮かべてカイザーに寄り掛かる。
カイザーはそんなアリアの肩を抱き、無言で慰めている。
言葉など不要な夫婦の信頼……そんな二人の姿に、リーシアは、自分の心が温かくなるのを感じるのだった。
「良かったですねカイザー殿!」
「「「……」」」
「え? な、なんですか……この間は?」
「いたのか……ムラク」
「ムラク……ごめんなさい」
「ムラクさん……いつからいました?」
「ヒロ一体何を……あっ! ムラクさんいたんですか?」
「最初からいましたよ!」
完全にムラクの存在を全員が忘れていた……。
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