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第8章 勇者と囚われの虜囚編
第81話 ヒロの休息、女神の堕落!
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「カイザーの息子という事は……オークヒーローの子供ですか?」
ヒロが驚き、思わず声に出してしまった。
「そうだ! ん? オークヒーローとはなんだ? 父上を侮辱するな! 父上はロリコンじゃないぞ!」
「そうです。ロクでなしではありますが、ロリコンはさすがに」
「ん……そうか! たしかヒーローの発音がロリコンを意味する言葉だって、カイザーが言っていたな。オークヒーローと言う名称は、オーク達を区別するために、人が勝手に付けた名前であるけど、オークにしてみればロリコン野郎と侮辱した言葉ですね。お父さんを悪く言って申し訳ない。謝ります」
二人のオークに、ヒロが頭を下げていた。
「分かってくれたならいいよ。しかしヒロはオークの言葉が本当に話せるんだな。オーク族以外はみんな言葉が通じないから、俺ビックリした」
「ですな。いくら会話しようとしても言葉が通じず、戦いを挑まれますから」
シーザーとムラクの二人に謝罪するヒロ、するとヒロの袖を摘んだリーシアが、『クイッ』と何度か軽く引っ張り、小声で話し掛けてきた。
「ヒロ、どうなってますか?」
「はい。今自己紹介されています。こちらの大きいオークがムラクさん。そして小さいオークの子供が、どうやら僕たちが戦ったオークヒーローの息子さんで、シーザー君と言う名前だそうです」
「え? あのオークヒーローの子ですか? 親とは違って愛くるしい姿で可愛いですが……この子も将来、あんなスリムマッチョになるのでしょうか?」
リーシアは、文字通りの死闘を繰り広げたオークヒーローの姿を思い出し、シーザーと比較して疑問を口にしていた。
「オークヒーロー、カイザー自体が特別な個体だとすると、この子も同じ存在になるかもしれませんね。遺伝の可能性もありますし」
「遺伝?」
「親の特徴や能力は子供にも受け継がれます。例えば顔や体格が似ているとか、頭の回転が速い、力が強いとかです。容姿はともかく、能力が遺伝するかは運次第ですが……」
「能力は遺伝しないこともあるのですか?」
「そうなりますね」
ヒロの答えに、リーシアが肩を落としションボリすると……。
「坊ちゃん、そろそろ戻らないと怒られます。今日のところは、これくらいにしましょう」
「ん? そうだな。よし! 話はまた明日だな。ヒロ、リーシア、明日また食べ物を持って来るから話そう。人についていろいろ聞きたいし!」
「分かりました。僕も聞きたい事があるので、また会いましょう」
「よし約束だ。じゃあ、また明日な」
そう言うと、シーザーは手に持った果物をヒロに渡し、外に出て行った。
「はあ~、ヒロといると驚きの連続で、心が休まる暇がありません」
「僕もガイヤに来てから驚いてばかりで、興味が尽きませ……んっ⁈」
「どうしましたヒロ? あ! か、顔色が真っ青ですよ」
先程まで何でもなかったヒロの体から、痛みによる悲鳴が、再び上がり始める。
「さ、さっきまで何ともなかったのですが……きゅ、急に痛みが……」
「とにかく横になりましょう!」
リーシアが手を貸し、ヒロを寝かしつける。
当然のようにリーシアは太ももを枕がわりすると、ヒロの頭を乗せくれた。
「す、すみません……リーシア、迷惑を掛けてしまって……」
「これくらい大丈夫ですよ。それよりあまり無理はしないでください。今は治すことを優先しましょう」
リーシアがヒロの頭を撫でながら優しく話し掛ける。
「ですが、リーシアも怪我しているのに……」
「私なら大丈夫です。昔から、なぜか怪我の治りが早いんです。オークヒーローとの闘いで受けた傷も治りかけています。それよりもヒロの方が重傷ですよ。死んで生き返ったのですから」
「ありがとうリーシア。こうしているだけで、痛みが消えていくみたいです」
「私も風邪を引いた時、母様によくこうしてもらってました。気にしないで、ゆっくりと休んでください」
「はい」
しばらくすると、ヒロは静かな寝息を立ててリーシアに抱かれながら眠ってしまった。
するとリーシアが眠りについたヒロの顔を撫で、顔を綻ばせて呟いた。
「ヒロ、助けてくれてありがとう」
そしてリーシアもヒロの頭を抱いたまま、いつの間にか眠りにつき、二人はつかの間の休息を取るのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「つ、ついにやりました! 一部ですが、記憶の変換が終わりました!」
部屋の中で、大地の女神セレスが歓喜の声を上げて喜んでいた。
小さなガッツポーズ姿のセレス……姉である天空の女神ディオーネが見たら、ハシタないと咎め、妹の大海の女神ノルンなら、一緒にハイタッチしていそうである。
だが部屋に一人っきりのセレスに、喜びを分かち合う家族の姿はなかった。
ヒロの魂を生前の記憶を維持したまま復活させるため、二人の女神はその力を使い果たしてしまった。深い眠りについた二人に代わり、たった一人でガイヤ滅亡の危機にセレスは立ち向かっていた。
ヒロとの約束で、ガイヤの異変を自分たちに代わって調査する条件として、セレスはゲーム機とソフトを作成する約束を交わしていたが、ゲームという概念がない世界でそれを成すのは困難を極めた。
ヒロの記憶を読み取り、ゲームの概念をガイヤに取り込もうとしたが……異世界の記憶を見ることはできなかったのだ。
苦肉の策として、セレスはヒロと自分の魂をつなげ、時間が掛かるが、ヒロの記憶をガイヤでも認識できるように変換することに……そしてついに一部ではあるが、ヒロの記憶が見られるようになったセレスは声を上げて喜んでいた。
「ようやく一歩、前進しました。ヒロ様と約束したものの、一向にゲーム機とソフトの作成が進まなくて、途方にくれてましたから……良かった」
何とか約束を守れそうだと安心するセレスは、目を閉じると、早速ヒロの変換された記憶を見始めていた。
「ここがヒロ様の暮らしていた異世界ですか? 変わった世界ですね?」
生まれた時から、ヒロが見て聞いて知ったことをセレスは追体験する。一人の男の人生を早回しで体験する中で、ヒロが暮らしていた世界の知識を蓄え、セレスは異世界を見聞し学んでいた。
ヒロのいた異世界を垣間見るセレスの目には、ガイヤとはまるで違う異様な光景が映っていた。
「人だけが、こんなに増えたというのですか⁈ 信じられません」
人が世界中のあらゆる場所に住まい、増え続けた人の数が50億を超える世界……消費を続ける物質文明。
「たった数千年で、一つの種がこんなに増えるなんてありえません。これでは世界のバランスが崩れてしまう」
世界が作り出す生産量より消費量が多くなり、資源を食い潰すだけの人々。
「人々の生活は豊かではありますが……」
消費を続けた世界の行き着く先はどこなのか。答えは分かっているのに、今を生きることに必死で問題を先延ばしにして生きる人々……そんな世界に女神は悲しんでいた。
「いけません。これはあくまでもヒロ様の記憶、今はゲームについて調べなければ」
だがセレスはそこで頭を強く振り、余計な考え投げ捨てる。いまは異世界の行く末を考えている場合ではないと、自分に言い聞かせヒロの記憶を再び辿る。
赤子時代から順調に成長し、幼稚園時代へ……遠足でヒロは一人迷子になり騒動になるも、本人は何食わね顔でひとり帰宅していた。小さな子供がお金も地図もなく、持ち前の行動力と思考だけで家に帰宅してしまい、親や関係者を驚かせる。
小学校に上がる頃には、一風変わった子供に成長し両親は将来を心配する程であった。
そしてヒロの運命を変えたあの日に、セレスはついに辿り着いた。
「おとうさん! これウラコンじゃない! ギガドライブだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
少年の魂の叫びが、セレスの魂を震わせる。
「ふう、ついに辿り着きました。あの手に持っているのが、ゲーム機ですね。お友達の家で遊んでいたウラコンもゲーム機のようでしたが、確かギガドライブは名機? だとヒロ様が言っていましたから、こちらで間違いないでしょう」
記憶の中、初めて見るゲーム機にセレスは興味津々に観察しながら、ヒロがプレイする画面をひたすら記憶する。
可愛いスライムが上から落ちてくるパズルゲーム……ぶよぶよ痛!
ホッドドック好きなネズミが超高速でステージを駆け巡るアクションゲーム……ソニックザホッドドック!
絶妙なゲームバランスでやればやる程、上達が感じられる面白さの忍者アクションゲーム……ザ・ハイパー忍さん!
空飛ぶ超能力者が、迫り来る敵をバリヤーを使って倒して進む……スペースバリヤーⅡ!
謎の演歌歌手、マイコーさんが歌とダンスで敵を倒す夢のゲーム……マイコージャンソンムーンランナー!
ヒロがプレイするゲーム画面を見続けるセレス……つい記憶の中だというのに、触れられないコントローラーを触ろうとして、その手が空を切る。
「これがヒロ様のいうゲームですか……たしかにガイヤにはない物ですね。ですが、大体どういうものかは分かってきました」
記憶を辿り、セレスはゲームとは何なのかをようやく理解することができた。
「あとはこのギガドライブとソフトをガイヤで再現できれば、ヒロ様との約束を守れそうです」
変換が終わったところまでの記憶をセレスは見終わると、閉じていた目を開き、ゆっくりと深呼吸をする。
「ふう~、大体分かりました。多少細かな部分がまだ理解できませんが、何とかなりそうです。とりあえずやって見ましょう」
再び神界にある、自分の部屋に意識を戻したセレスは、さっそく神気を用いてゲーム機とソフトの作成に着手をする。
ゲーム機の形やどうゆうものかを理解したセレスは、ヒロの記憶の中で見たギガドライブの再現から始めるが……。
「形は問題ありませんが……ゲーム機を動かすのに電気なるものが必要ですが、ガイヤにはありません……どうしましょう?」
首を傾げてウンウン唸るセレス……ヒロを通してセレスは、ゲーム機と一緒に電気の概念もガイヤの世界に定着させてしまった。そのため、ゲーム機と共に電気も作り出す必要が出て来てしまう。
「だ、ダメです。電気を作り出すとなると、手持ちの神気ではとても足りません。電気は消費するから、常に作り続ける施設も必要です。それを作り出すとすると、莫大な神気が必要になってしまいます……私の手持ちの神気だけでは絶対に足りません」
セレスが顔を暗くして俯いてしまう。どうにか出来ないかと考え始める。
「ヒロ様との約束は私が勝手にしたことですから、天界の神気予算を使うわけには……あとは神気バンクから個人的に融資してもらう手もありますが、最近は神気不足でなかなか融資してくれないと聞きます。あとは闇神気……ダ、ダメです! 女神ともあろうものがそんな危険なことを考えるなんて」
セレスが顔をペシペシ叩き、自らを諫めていた
「しかし本当にどうしましょう。このままでは、ゲーム機が完成しても動かすことができません。神気さえあれば……神気さえ……」
再び目を瞑り、ウンウンと考えるセレス……すると突然、頭の中で閃きが走る。
「そうです! 何も電気を作らなくても、ガイヤにある物で代用すれば良いのでは? 例えば……そう、魔力とか! これならガイヤに普通にある物ですから、問題はありません。あとはゲーム機が電気で動くと言う概念を上手く誤魔化して魔力で動くように調整すれば……いけそうです♪」
完成したゲーム機をヒロが受け取った時のことを想像したら、何故か自然とセレスの顔は笑顔になっていた。
「フッフッフッ、ヒロ様、きっと喜んでくれますね」
ヒロを思い、そのままゲーム機の創造に没頭すること数時間……悪戦苦闘の末、ついにギガドライブとゲームソフトは完成した!
ヒロの記憶の中に出てきたギガドライブと、寸分違わない外観。神気と魔法の技を用いて、中身の動作もできるだけ記憶通りに動くよう調整した。
ゲームソフト自体は、ヒロの膨大なプレイを見ることである程度は再現できた。分からない部分は、セレス自身の解釈で補完し完成度を高めている。
そして一緒にモニターも作り出すことをセレスは忘れてはいない。モニター・ゲーム機・ソフト、この三つが揃った時、ガイヤの世界に、ついにテレビゲームが誕生した!
「ふ~、あとは実際に使ってみて、記憶と間違いがないか確かめるだけです。これで何とか、ヒロ様との約束を守れそうですね」
するとセレスは、ギガドライブの前に正座してコントロールを手にする。
「たしかヒロ様は、ゲームをする時はいつもこの座り方でしたね。ゲームをプレイするための作法でしょうか?」
記憶の中で持つことができなかったコントローラーを掴むと、セレスの中にウキウキした気持ちが湧き上がってきた。
記憶の中でヒロが夢中になって遊ぶゲームを、セレスもプレイする時がやって来た!
早る気持ちを抑えながら、セレスはコントローラーに魔力を流し始める。ガイヤ製ギガドライブは電気がなくても動かせるよう、ガイヤにおいてもっともポピュラーな力……魔力で動くようセレスが完璧に調整を施していた。
「魔力消費が少し多いですが、問題はなさそうです。そろそろモニターとギガドライブへの魔力充填も十分でしょう。え~と、電源ボタンは……」
セレスは記憶の中で見た電源ボタンをONにすると、モニター画面に異世界の文字浮かび上がった!
「やりました! 起動成功です」
ギガドライブは、必ずSAGAの文字が最初に表示されてゲームが起動する……セレスは問題なく画面に映るSAGAの文字を見ると安堵し、まずまずの再現度に満足する。
そして本体が起動すると、ゲームタイトルがモニターの画面に映しだされた。
マイコージャンさんムーンランナー……それは世界的演歌歌手、マイコーを操って歌と踊りで誘拐犯を倒しながら、子供たちを救うアクションゲームだった。
「さあ、ヒロ様の異世界風に言えばテストプレイですね。もうひと踏ん張りです!」
気合を入れてテストプレイを始める女神セレス……だがコレが、セレスにとって堕落人生の第一歩になろうとは、この時、知る者は誰もいなかった!
To be continued……。
〈女神が廃神ゲーマーへの道を歩み出した!〉
ヒロが驚き、思わず声に出してしまった。
「そうだ! ん? オークヒーローとはなんだ? 父上を侮辱するな! 父上はロリコンじゃないぞ!」
「そうです。ロクでなしではありますが、ロリコンはさすがに」
「ん……そうか! たしかヒーローの発音がロリコンを意味する言葉だって、カイザーが言っていたな。オークヒーローと言う名称は、オーク達を区別するために、人が勝手に付けた名前であるけど、オークにしてみればロリコン野郎と侮辱した言葉ですね。お父さんを悪く言って申し訳ない。謝ります」
二人のオークに、ヒロが頭を下げていた。
「分かってくれたならいいよ。しかしヒロはオークの言葉が本当に話せるんだな。オーク族以外はみんな言葉が通じないから、俺ビックリした」
「ですな。いくら会話しようとしても言葉が通じず、戦いを挑まれますから」
シーザーとムラクの二人に謝罪するヒロ、するとヒロの袖を摘んだリーシアが、『クイッ』と何度か軽く引っ張り、小声で話し掛けてきた。
「ヒロ、どうなってますか?」
「はい。今自己紹介されています。こちらの大きいオークがムラクさん。そして小さいオークの子供が、どうやら僕たちが戦ったオークヒーローの息子さんで、シーザー君と言う名前だそうです」
「え? あのオークヒーローの子ですか? 親とは違って愛くるしい姿で可愛いですが……この子も将来、あんなスリムマッチョになるのでしょうか?」
リーシアは、文字通りの死闘を繰り広げたオークヒーローの姿を思い出し、シーザーと比較して疑問を口にしていた。
「オークヒーロー、カイザー自体が特別な個体だとすると、この子も同じ存在になるかもしれませんね。遺伝の可能性もありますし」
「遺伝?」
「親の特徴や能力は子供にも受け継がれます。例えば顔や体格が似ているとか、頭の回転が速い、力が強いとかです。容姿はともかく、能力が遺伝するかは運次第ですが……」
「能力は遺伝しないこともあるのですか?」
「そうなりますね」
ヒロの答えに、リーシアが肩を落としションボリすると……。
「坊ちゃん、そろそろ戻らないと怒られます。今日のところは、これくらいにしましょう」
「ん? そうだな。よし! 話はまた明日だな。ヒロ、リーシア、明日また食べ物を持って来るから話そう。人についていろいろ聞きたいし!」
「分かりました。僕も聞きたい事があるので、また会いましょう」
「よし約束だ。じゃあ、また明日な」
そう言うと、シーザーは手に持った果物をヒロに渡し、外に出て行った。
「はあ~、ヒロといると驚きの連続で、心が休まる暇がありません」
「僕もガイヤに来てから驚いてばかりで、興味が尽きませ……んっ⁈」
「どうしましたヒロ? あ! か、顔色が真っ青ですよ」
先程まで何でもなかったヒロの体から、痛みによる悲鳴が、再び上がり始める。
「さ、さっきまで何ともなかったのですが……きゅ、急に痛みが……」
「とにかく横になりましょう!」
リーシアが手を貸し、ヒロを寝かしつける。
当然のようにリーシアは太ももを枕がわりすると、ヒロの頭を乗せくれた。
「す、すみません……リーシア、迷惑を掛けてしまって……」
「これくらい大丈夫ですよ。それよりあまり無理はしないでください。今は治すことを優先しましょう」
リーシアがヒロの頭を撫でながら優しく話し掛ける。
「ですが、リーシアも怪我しているのに……」
「私なら大丈夫です。昔から、なぜか怪我の治りが早いんです。オークヒーローとの闘いで受けた傷も治りかけています。それよりもヒロの方が重傷ですよ。死んで生き返ったのですから」
「ありがとうリーシア。こうしているだけで、痛みが消えていくみたいです」
「私も風邪を引いた時、母様によくこうしてもらってました。気にしないで、ゆっくりと休んでください」
「はい」
しばらくすると、ヒロは静かな寝息を立ててリーシアに抱かれながら眠ってしまった。
するとリーシアが眠りについたヒロの顔を撫で、顔を綻ばせて呟いた。
「ヒロ、助けてくれてありがとう」
そしてリーシアもヒロの頭を抱いたまま、いつの間にか眠りにつき、二人はつかの間の休息を取るのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「つ、ついにやりました! 一部ですが、記憶の変換が終わりました!」
部屋の中で、大地の女神セレスが歓喜の声を上げて喜んでいた。
小さなガッツポーズ姿のセレス……姉である天空の女神ディオーネが見たら、ハシタないと咎め、妹の大海の女神ノルンなら、一緒にハイタッチしていそうである。
だが部屋に一人っきりのセレスに、喜びを分かち合う家族の姿はなかった。
ヒロの魂を生前の記憶を維持したまま復活させるため、二人の女神はその力を使い果たしてしまった。深い眠りについた二人に代わり、たった一人でガイヤ滅亡の危機にセレスは立ち向かっていた。
ヒロとの約束で、ガイヤの異変を自分たちに代わって調査する条件として、セレスはゲーム機とソフトを作成する約束を交わしていたが、ゲームという概念がない世界でそれを成すのは困難を極めた。
ヒロの記憶を読み取り、ゲームの概念をガイヤに取り込もうとしたが……異世界の記憶を見ることはできなかったのだ。
苦肉の策として、セレスはヒロと自分の魂をつなげ、時間が掛かるが、ヒロの記憶をガイヤでも認識できるように変換することに……そしてついに一部ではあるが、ヒロの記憶が見られるようになったセレスは声を上げて喜んでいた。
「ようやく一歩、前進しました。ヒロ様と約束したものの、一向にゲーム機とソフトの作成が進まなくて、途方にくれてましたから……良かった」
何とか約束を守れそうだと安心するセレスは、目を閉じると、早速ヒロの変換された記憶を見始めていた。
「ここがヒロ様の暮らしていた異世界ですか? 変わった世界ですね?」
生まれた時から、ヒロが見て聞いて知ったことをセレスは追体験する。一人の男の人生を早回しで体験する中で、ヒロが暮らしていた世界の知識を蓄え、セレスは異世界を見聞し学んでいた。
ヒロのいた異世界を垣間見るセレスの目には、ガイヤとはまるで違う異様な光景が映っていた。
「人だけが、こんなに増えたというのですか⁈ 信じられません」
人が世界中のあらゆる場所に住まい、増え続けた人の数が50億を超える世界……消費を続ける物質文明。
「たった数千年で、一つの種がこんなに増えるなんてありえません。これでは世界のバランスが崩れてしまう」
世界が作り出す生産量より消費量が多くなり、資源を食い潰すだけの人々。
「人々の生活は豊かではありますが……」
消費を続けた世界の行き着く先はどこなのか。答えは分かっているのに、今を生きることに必死で問題を先延ばしにして生きる人々……そんな世界に女神は悲しんでいた。
「いけません。これはあくまでもヒロ様の記憶、今はゲームについて調べなければ」
だがセレスはそこで頭を強く振り、余計な考え投げ捨てる。いまは異世界の行く末を考えている場合ではないと、自分に言い聞かせヒロの記憶を再び辿る。
赤子時代から順調に成長し、幼稚園時代へ……遠足でヒロは一人迷子になり騒動になるも、本人は何食わね顔でひとり帰宅していた。小さな子供がお金も地図もなく、持ち前の行動力と思考だけで家に帰宅してしまい、親や関係者を驚かせる。
小学校に上がる頃には、一風変わった子供に成長し両親は将来を心配する程であった。
そしてヒロの運命を変えたあの日に、セレスはついに辿り着いた。
「おとうさん! これウラコンじゃない! ギガドライブだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
少年の魂の叫びが、セレスの魂を震わせる。
「ふう、ついに辿り着きました。あの手に持っているのが、ゲーム機ですね。お友達の家で遊んでいたウラコンもゲーム機のようでしたが、確かギガドライブは名機? だとヒロ様が言っていましたから、こちらで間違いないでしょう」
記憶の中、初めて見るゲーム機にセレスは興味津々に観察しながら、ヒロがプレイする画面をひたすら記憶する。
可愛いスライムが上から落ちてくるパズルゲーム……ぶよぶよ痛!
ホッドドック好きなネズミが超高速でステージを駆け巡るアクションゲーム……ソニックザホッドドック!
絶妙なゲームバランスでやればやる程、上達が感じられる面白さの忍者アクションゲーム……ザ・ハイパー忍さん!
空飛ぶ超能力者が、迫り来る敵をバリヤーを使って倒して進む……スペースバリヤーⅡ!
謎の演歌歌手、マイコーさんが歌とダンスで敵を倒す夢のゲーム……マイコージャンソンムーンランナー!
ヒロがプレイするゲーム画面を見続けるセレス……つい記憶の中だというのに、触れられないコントローラーを触ろうとして、その手が空を切る。
「これがヒロ様のいうゲームですか……たしかにガイヤにはない物ですね。ですが、大体どういうものかは分かってきました」
記憶を辿り、セレスはゲームとは何なのかをようやく理解することができた。
「あとはこのギガドライブとソフトをガイヤで再現できれば、ヒロ様との約束を守れそうです」
変換が終わったところまでの記憶をセレスは見終わると、閉じていた目を開き、ゆっくりと深呼吸をする。
「ふう~、大体分かりました。多少細かな部分がまだ理解できませんが、何とかなりそうです。とりあえずやって見ましょう」
再び神界にある、自分の部屋に意識を戻したセレスは、さっそく神気を用いてゲーム機とソフトの作成に着手をする。
ゲーム機の形やどうゆうものかを理解したセレスは、ヒロの記憶の中で見たギガドライブの再現から始めるが……。
「形は問題ありませんが……ゲーム機を動かすのに電気なるものが必要ですが、ガイヤにはありません……どうしましょう?」
首を傾げてウンウン唸るセレス……ヒロを通してセレスは、ゲーム機と一緒に電気の概念もガイヤの世界に定着させてしまった。そのため、ゲーム機と共に電気も作り出す必要が出て来てしまう。
「だ、ダメです。電気を作り出すとなると、手持ちの神気ではとても足りません。電気は消費するから、常に作り続ける施設も必要です。それを作り出すとすると、莫大な神気が必要になってしまいます……私の手持ちの神気だけでは絶対に足りません」
セレスが顔を暗くして俯いてしまう。どうにか出来ないかと考え始める。
「ヒロ様との約束は私が勝手にしたことですから、天界の神気予算を使うわけには……あとは神気バンクから個人的に融資してもらう手もありますが、最近は神気不足でなかなか融資してくれないと聞きます。あとは闇神気……ダ、ダメです! 女神ともあろうものがそんな危険なことを考えるなんて」
セレスが顔をペシペシ叩き、自らを諫めていた
「しかし本当にどうしましょう。このままでは、ゲーム機が完成しても動かすことができません。神気さえあれば……神気さえ……」
再び目を瞑り、ウンウンと考えるセレス……すると突然、頭の中で閃きが走る。
「そうです! 何も電気を作らなくても、ガイヤにある物で代用すれば良いのでは? 例えば……そう、魔力とか! これならガイヤに普通にある物ですから、問題はありません。あとはゲーム機が電気で動くと言う概念を上手く誤魔化して魔力で動くように調整すれば……いけそうです♪」
完成したゲーム機をヒロが受け取った時のことを想像したら、何故か自然とセレスの顔は笑顔になっていた。
「フッフッフッ、ヒロ様、きっと喜んでくれますね」
ヒロを思い、そのままゲーム機の創造に没頭すること数時間……悪戦苦闘の末、ついにギガドライブとゲームソフトは完成した!
ヒロの記憶の中に出てきたギガドライブと、寸分違わない外観。神気と魔法の技を用いて、中身の動作もできるだけ記憶通りに動くよう調整した。
ゲームソフト自体は、ヒロの膨大なプレイを見ることである程度は再現できた。分からない部分は、セレス自身の解釈で補完し完成度を高めている。
そして一緒にモニターも作り出すことをセレスは忘れてはいない。モニター・ゲーム機・ソフト、この三つが揃った時、ガイヤの世界に、ついにテレビゲームが誕生した!
「ふ~、あとは実際に使ってみて、記憶と間違いがないか確かめるだけです。これで何とか、ヒロ様との約束を守れそうですね」
するとセレスは、ギガドライブの前に正座してコントロールを手にする。
「たしかヒロ様は、ゲームをする時はいつもこの座り方でしたね。ゲームをプレイするための作法でしょうか?」
記憶の中で持つことができなかったコントローラーを掴むと、セレスの中にウキウキした気持ちが湧き上がってきた。
記憶の中でヒロが夢中になって遊ぶゲームを、セレスもプレイする時がやって来た!
早る気持ちを抑えながら、セレスはコントローラーに魔力を流し始める。ガイヤ製ギガドライブは電気がなくても動かせるよう、ガイヤにおいてもっともポピュラーな力……魔力で動くようセレスが完璧に調整を施していた。
「魔力消費が少し多いですが、問題はなさそうです。そろそろモニターとギガドライブへの魔力充填も十分でしょう。え~と、電源ボタンは……」
セレスは記憶の中で見た電源ボタンをONにすると、モニター画面に異世界の文字浮かび上がった!
「やりました! 起動成功です」
ギガドライブは、必ずSAGAの文字が最初に表示されてゲームが起動する……セレスは問題なく画面に映るSAGAの文字を見ると安堵し、まずまずの再現度に満足する。
そして本体が起動すると、ゲームタイトルがモニターの画面に映しだされた。
マイコージャンさんムーンランナー……それは世界的演歌歌手、マイコーを操って歌と踊りで誘拐犯を倒しながら、子供たちを救うアクションゲームだった。
「さあ、ヒロ様の異世界風に言えばテストプレイですね。もうひと踏ん張りです!」
気合を入れてテストプレイを始める女神セレス……だがコレが、セレスにとって堕落人生の第一歩になろうとは、この時、知る者は誰もいなかった!
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追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。
その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。
料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。
それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。
これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。
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