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第8章 勇者と囚われの虜囚編

第72話 ヒロ、行きすぎた過ち

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【リアルタイム】イジメ動画問題 part 2

1:名無し@イジメ撲滅
Vtubeに上がったリアルタイムのイジメについて話し合うスレ

問題動画
http://Vtube. *******. *******.

県立開帝高校 1年A組 イジメ問題

被害者: Vtube人気ゲーム実況者 ゲーム鬼

現在、ある高校の教室でいじめが発生
動画主がいじめ動画を証拠としてVtubeに動画をアップ
現在、いじめ証拠動画として、動画ランキング爆上げ中

拡散希望

531:名無し@いじめいくない
盛り上がってきたな!
しかしコイツら空前絶後のアホだなw

532:イジメっ子撲滅委員長
ここまで見事なイジメ暴露動画も中々ないな……「お前をイジメてる」って普通言うか? 自分でw
モザイクが入れて、ピー音で名前を伏せているけど、直ぐに特定されるだろコイツらwww

533:名無し@いじめいくない
面白すぎるw
動画で撮られている可能性に気付けないアホ達

534:イジメ対策委員会
県立開帝高校って、頭がいいエリート学校だろ?
何時何分に誰々が誰々に何をしたって変な会話……普通気付くだろ?

535:イジメっ子撲滅委員長
>>534
 勉強はできるけど、頭の中はお花畑な奴らなんだろ
しかしここまで見事なイジメ証拠動画は見た事ないな。
Vtubeで人気のゲーム実況Vtuber、ゲームが上げたイジメ証拠動画って事もあるが、もう動画再生数5万超えたぞw

536:名無し@いじめいくない
>>535 
スゲ~よな。まだ投稿して30分だろw
どんどん拡散して話が広がってるな
イジメた奴らの人生終わったな……南無

537:元いじめられっ子
いじめをする奴らは、いじめられる側の気持ちが分からないんだよ! ドンドン拡散して人生終わらしてやれ!

538:イジメ対策委員会
>>535
この動画主のゲーム鬼って有名?
自分はゲームしないから知らないけど……

539:ゲーム好きいじめられっ子
>>539
超有名です。
誰もマネできない超絶プレイに舌を巻く人が続出です

540:イジメっ子撲滅委員長
さっきから学校に通報しようとしているんだが、電話が繋がらない。
おそらく動画を見た人達が学校に通報しまくっているみたいだな

541:元いじめられっ子
俺も電話しよう。いじめた奴らにキッチリと分からせてやる。イジメは犯罪だって!

542 : ゲーム好きいじめられっ子
>>541
イジメは犯罪なんですか?

543:元いじめられっ子
>>542
イジメは犯罪です。
殴る蹴るは暴行罪
怪我をすれば傷害罪
嫌な事を無理矢理させれば強要罪
無理矢理お金をたかれば強盗罪
物を隠されたり壊されれば窃盗・横領・器物破損罪
公然と悪口や冷やかしやを言えば侮辱罪

544 : ゲーム好きいじめられっ子
>>543 サンクス
取り敢えず、今起こっているゲーム鬼のイジメをやめさせるために、自分も学校に通報します


…………


 県立開帝高校の全教職員は、鳴り止まない電話の対応に追われていた。

 出る電話は全て、Vtubeを見た人からのいじめの通報だった。

 どの電話も学校に対して、何もしないのか? いじめを放置するつもりか? と抗議の声も混じり、ついには県の教育委員会からも直接校長へ連絡が入っていた。
 事が公になり、次々と派生していく事態に、関係部署が一斉に動き出したのだ……。


「分かっています。加害者と被害者の双方と話し合い、問題を解決した後に、インターネットに投稿された動画を消させます。それでは……」


 四十代半ばの中年の男性が額にかいた冷や汗をハンカチで拭きながら電話を切ると、机に両ヒジをつきため息を吐く、


「また本上君か……まったく、大人しくしていればいいものを」

「校長、教育委員会は何と?」


 横に控えていた教頭が電話の内容を確認したく校長に声を掛けてくる。


「可及的速やかに、事態の収拾をするようにとのことだ……急いで本神君とイジメに加担した三名をここに呼びなさい。まずは話を聞きます」

「分かりました。すぐに呼び出します」


 教頭が問題の生徒を呼び出すため、校長室を出て行くと、部屋に残された校長は椅子の背もたれにもたれ掛け、一人深いため息を吐き出していた。


「ふ~、多少アレンジはしたが、これでいいだろう。これで勇者として別の方向に覚醒できればいいが……さて本神 英雄ヒーロー、おまえはどんな『   ヒーロー』を演じてくれるかな……」

 校長と呼ばれた中年の男性がそう呟くと、無数のモザイクが何もない空間から現れ、男性の体を覆い隠す。するとすぐにモザイクが消え、最後には誰も座っていない椅子だけが取り残されるのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 リーシアが当てもなくヒロの姿を探し始めて三十分……中庭や校庭を見て、一年生の教室がある一階から上へと、リーシアは校舎内を順番に見て回っていた。

 四階建ての校舎内を見て回るが、どこにもヒロの姿は見えず、リーシアはついに屋上に辿り着いてしまった。

 屋上は晴天に恵まれており、ポカポカな陽気がリーシアを眠りに誘うほどの心地良さだった。

 屋上には何人かの生徒が備え付けられたベンチに座り、お昼ご飯を食べていた。リーシアは屋上をキョロキョロしながら歩いてヒロを探すが、どこにも見当たらない。屋上を一回りしてみたが、その姿はどこにもなかった。


「ヒロ……どこに行きましたか?」


 転落防止用の金網に手を置きながら、校庭のどこかにヒロがいないか確認していると……


「開いて閉じて手足の運動♪」


 屋上の入り口のさらに上から、何かリズミカルな音と声がリーシアの耳に微かに聞こえてきた。

 入り口の周りを確認すると、裏手に屋根に登るための梯子が伸びていた。梯子を使えば屋根に登れそうだと判断したリーシアは、梯子に手と足を掛けて登り始めた。

 短いスカートのため、下から見られたら丸見えなのだが、リーシアはお構いなしに梯子を登ると……丁度音楽が止まる寸前で、ついにヒロの姿を見つける事ができた!


「伸び伸びと深呼吸♪」

「ふ~ やっぱりラジオ体操は鈍った体を鍛えるのに最適ですね。第二体操もいっちゃう?」
 

 サラリーマンのアフターファイブの飲み会で、飲み足りず二軒目いっちゃう? 的なノリでスマホを操作するヒロが、梯子を登って来たリーシアに気がついた。


「え~と、芦屋さん? どうしたのそんな所で?」

「げ、元気そうですねヒロ……一体何を?」

「ん、ヒロ? なんで僕の略称を? まあいいか……見ての通りラジオ体操をしていました」

「ラジオ体操?」

「はい。ラジオ体操です。ゲームばかりしていると体力が落ちますから、ゲームの合間に体を動かすのは日課なんです。ご一緒にラジオ体操第二いかがですか?」

「えと……じゃあやって見ます。どうすれば?」

「ああ、そうか。ラジオ体操第二は知らない人もいますからね。じゃあ僕の動きを真似てください」


 ヒロがリーシアと前に立ち、スマホを操作して地面に置くと、スマホからラジオ体操第二が流れ始めた。


「軽く全身を揺すりながら両足跳び♪  12345678」
 

 リズミカルに体を動かす動きを真似て、リーシアがヒロの動きに合わせる。

 キレのある手足の動きに、コミカルな動きが合わさり、一緒に体操をしていて面白くなるリーシア……高い体能力を持つリーシアは、最後の方ではヒロの動きを見るなり、即座に動きに反応し、ヒロに合わせてキレのある動きを披露していた。


「ふ~、これはいいですね。ぜひ孤児院の皆にも教えてあげましょう♪」

「初めてにしてはいい体のキレでした。お見事です。芦屋さんなら幻のラジオ体操第三までできそうですね」 

「幻のラジオ体操第三?」

「ええ、難易度が高すぎて僕もできませんが、芦屋さんならあるいは……」

「今度教えてください。」

「分かりました。ところで、芦屋さんなんでココに?」


 ラジオ体操談義に盛り上がっていたが、ヒロは思い出したかのようにリーシアに問い掛ける。


「あっ! そうでした。ヒロを探していたんです」

「僕を?」

「はい。さっきの一件でヒロが一方的にやられるだけだったので、その……」


 リーシアはヒロの顔から視線を外し、下を見て答え辛そうな仕草をする。
 

「僕を心配して探してくれていたのですか?」

「いいえ! 教室を出る時のヒロの顔が、何かをやらかす時の顔だったので止めようと思って……」


 リーシアは心配していた。だが……ヒロが思った心配とはまったく違う事を心配して探していたようだ。

 むしろ、いじめていた三人の方が心配になって、ヒロを止めようと探していたと解釈もできる。

「こう、僕がいじめられて心配とか、僕が自殺するんじゃないか、とかではなくてですか?」

「あの程度でヘコたれるヒロではないですよね? 自殺を選ぶ? むしろピンチをチャンスと考えて、嬉々として挑むタイプですよ」

「いえ、否定はできませんが……じゃあ、僕よりもあの三人の方を心配して、僕を止めに来たんですか? だとしたら遅かったですね。もう全て終わってます」


 ヒロは少し口調を強めてリーシアに話すと、リーシアが顔を左右に振り否定する。


「違いますよ。ヒロを探していたのは、頑張り過ぎて後悔するヒロを見たくなかったからです。あったばかりの見知らぬ人を心配する程、私はいい人ではないですから」

「え? 頑張り過ぎて後悔している?」


 ヒロはリーシアの言葉にキョトンとしながら耳を傾けていた。


「私には家族がたくさんいますからね。三十人もいると毎日が戦争です。日々の日常生活を営むだけでも大騒動なんです」

「芦屋さん三十人って大家族過ぎない? ビックマミィを余裕で超えてるような……」


 ヒロが軽いツッコミを入れると、リーシアに『キッ』と睨まれ、『黙って空気を読んで話を聞けやゴラァ!』状態に……黙るしかないヒロは、心の中で正座していた。


「家族と言っても血はつながっていません。教会の孤児院に暮らす子供達と、お世話をするシスター達です」

「それで大家族なんだ」

「そういう事です。いろんな子が毎日、いろんな騒動を起こします。それはもうシスターズが根を上げるくらいの忙しさです。私もシスター見習いですから、当然みんなの面倒を見ます」

「芦屋さん、シスターなの?」

「まだ見習いです。将来的にどうするかは保留な状態ですね。話を戻しますと、孤児院の子供達はみんないい子なんですが、みんなが毎日何かやらかすんです……」


 その時、リーシアは微かに微笑んでいた。


「やらかす?」

「はい。物を壊してしまったり、言いつけを守らなかったり……もちろんその都度、叱るのですが、頻度が多くなって来た時、私は聞いてみました。『なんでこんな事をするのって?』……そしたら子供たちが、忙しい私たちのために、みんなでお手伝いしようとして頑張り過ぎて失敗していると、泣きながら話してくれました」


 リーシアがヒロの瞳を見つめて、一生懸命に何かを伝えようとしていた。


「手伝おうとして……」

「私達が少しでも楽になるように、自分でまだできない事を、無理に手伝おうとして失敗していたんです。怒るに怒れないです。だから私は皆に言いました。頑張るのはいいですが頑張り過ぎてはいけませんって」

「頑張り過ぎてはいけない?」

「頑張る事はいいことですが、自分の能力以上の事をするにはリスクがあります。それを考えずに行動すれば失敗するのは明白です。ヒロ? あなたもたまに頑張り過ぎて失敗する事があるんじゃないですか? 先程の三人の態度は決して褒められた事ではありませんが、教室を出る時のヒロの顔は……何か失敗するのを恐れて、誰かに止めてもらうのを待つ小さな子供みたいに見えました」


 リーシアは、ヒロがいじめていた三人に何かしようとしている事を顔の表情から察していた。

 そしてヒロが自分の報復の方法がやり過ぎているかも知れない……止めて欲しいと無言のSOSを発していた事に、リーシアは気がついていた。


「僕は止めてもらいたかったのかな……ゲーム機を壊されたくらいでここまでやる必要があるのかって……でも、もう遅いです。証拠動画はネットにアップロードされましたし。ネットの掲示板も炎上しています」


 ヒロは項垂れながら自分がしてしまった事を後悔し出した。すでにいじめの証拠動画はVtubeに上げ拡散しまくっている。今さらそれをなかった事にはできない。

 そしてその結果、いじめた三人の人生がどうなるか……ヒロは結末をなぜか知っていた。

 その後、三人停学を言い渡される。停学が明けた後は、学校中の者から無視をされ続け、学校に居場所をなくした三人は他校へ転校していった……そのあとは知らない。

 進学校から転校となれば色々あるだろう。

 あの時、何も考えずに行動した結果が、三人の人生を狂わせてしまった事に、ヒロの心は自責と後悔の念に囚われていた。

 謝りたい。あの時の愚かな自分を殴ってやりたいと……ずっと後悔していた事を思い出した。


「ヒロ、大丈夫です。あなたは、まだやり直せます」


 リーシアはそっとヒロの手を握り、子供に語り掛けるように話しだす。


「ヒロ、失敗は誰にでもあります。大事なのはそれをどうするかです。間違った方向に行かなければやり直すことはできます」

「やり直す……」

「次に同じ過ちを起こさないように行動すればいいんです。私はもう間違いすぎて戻れなくなってしまいました。けど、あなたはまだ大丈夫。だから……過ちを正すことを諦めないで、愚かな私と同じ道を歩まないでください。お願いです」
 

 リーシアの瞳から涙が流れ出ていた。


 その言葉を聞いたヒロの心に、暖かな光が差す込む。『やり直すことはできる』……その言葉に、心の中で重くのしかかっていた何かが消える。

 そしてリーシアの瞳からこぼれた落ちた涙がヒロの当たる。


「芦屋さん……違う、君はリーシア? なんでリーシアが学校に? ここは一体?」


 いまの今まで、リーシアの事を忘れていたらヒロ……リーシアの涙に触れると全てを思い出すと、周りの風景がボヤけて消えていく。

 ヒロの手を握っていたリーシアもまた、同じように消えてしまう。


「リーシア! クッ、どういうことだ? これは一体⁈」


 暗闇の中に一人取り残されたヒロは、冷静になり状況を見定めようとした時だった――


「何だ⁈ 」


――ヒロの目に、突如として無数のモザイクが映り込んだ。数メートル離れた位置で幾何学模様のそれは無数にまたたき、人の輪郭を形取ると徐々に消えていく。


 そして、またたくモザイクがすべて消えさると、何もなかった空間に仮面を被った者が現れたのだ。

 ヒロは仮面の被る者を見て瞬時に悟る。顔は見えないが、コイツは危険すぎるだと……ヒロはゴクリと喉を鳴らしながら、仮面の男を凝視するのだった。



〈仮面を被った……スッポンポンの男が現れた!〉
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