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第7章 勇者と絶望編
第63話 絶望との邂逅
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「ブヒイ!」
謎のオークが口元を吊り上げて笑った瞬間、ヒロが放った銀光が、激しい音を立てて弾かれた。
凄まじい衝撃がヒロの手に伝わり、同時に放ったショートソードの刃が弾かれてしまう。
「まずい!」
「ブヒイブヒィィィ」
攻撃を弾かれ体勢を崩したヒロに、オークがハルバードの斧刃による攻撃をキャンセルすると、振りかぶった体勢から石突きを使った突きへと、攻撃を変化させていた。
ハルバードの石突きが、必殺の突きとなってヒロの胸を襲う。
迫り来る攻撃を見て、ヒロはスローモーションの世界で最善の回避方法を模索する。
この至近距離から放たれた突きを、体さばきだけで避けるのは不可能……左右のどちらかに避けても体のどこかに風穴が空くため、後ろに避けるのは問題外だった。
剣で払おうとしても、あの地面にクレーターを作る程の力である。弾かれて突き殺される可能性が高い。なら……ヒロはあえて足を一歩前に踏み出し、自らハルバードの突きに向かって飛び込んでいく。
「ブヒィィ⁈」
ヒロは迫りくる突きを待つのではなく、逆にショートソードの腹で先に攻撃を受け止める。
肉厚のある剣の根本付近の腹で突きを受けたヒロは、そのまま剣の角度を調整し横に傾けた。
「外れろぉぉぉぉっ!」
「ブヒイィ⁈」
オークの突きが軌道をズラされ、ヒロの頬を切り裂きながら後方へと流された。
点の攻撃である突きだからこそ可能な、神業的回避でヒロはオークの攻撃をからくも退ける。
突きの動きに体が流され体勢を崩したオークとヒロが交差した時、ヒロは体を駒のように横へ回転させ、無防備な謎のオークの背へ剣を走らせていた。
何らかの防御方法で防がれた必殺の一撃……だが強力な能力ほど、何らかの制約や使用制限が掛かるはずと判断したヒロは、能力発動直後のチャンスを逃さなかった。
無防備な背に剣を走らせるヒロだったが……。
「なっ! 一撃だけじゃない? パッシブか回数制なのか⁈」
ヒロの攻撃がオークの皮膚に当たると、再び弾かれて攻撃が通らない。
ヒロは後ろに下がり距離を取ると、失敗したと顔をしかめた……ヒロとシンシアの間に謎のオークを挟む形になり、二人は分断されてしまった。
シンシアは未だ謎のオークから発生られる重圧により、体を思うように動かせないでいる。
救出対象のシンシアが、オークの後ろにいる以上、逃げることはできない。
「ヒロ! な、なんですかこのオークは? この殺気……尋常ではありませんよ」
村の外から陽動してくれていたリーシアとケイトが、合流地点から異変を感じ取りヒロ達の元へ駆けつけていた。
「リーシア、気をつけてください。こいつは攻撃を弾きます。おそらく何らかの能力かスキルだと思いますが、こちらの攻撃が通りません」
「攻撃を弾く? オークがスキルを……まさか、オークヒーローなんですか⁉︎」
「このオークを知っているのですか?」
「聞いたことはあります。普通、魔物は固有能力があってもスキルは使えません。ですが、ごく稀にユニークと呼ばれる個体がスキルを使いこなすことがあると……」
「厄介ですね……」
「たしか昔、オークヒーローと言われるオークのユニークモンスターが現れた時、いくつもの国が滅びたと……スキルを使うオークとなると、あれはオークヒーローの可能性が高いです……どうしますかヒロ?」
「逃げの一手です。時間が経てば、他のオークが集まって来ます。ケイトさん動けますか?」
リーシアの後ろから付いてきたケイトの気配に、謎のオークから目を離さずに問い掛ける。
「な、なんとか……でも、ギリギリよ。あのオークを見ていると怖くて、足が竦んで動けなくなりそう……」
声を震わせながら力なく答えるケイトは、できるだけオークヒーローを見ないようにしていた。
「僕とリーシアであのオークの注意を引きます。その隙にシンシアさんを連れて逃げてください」
「だけどあなた達は?」
「私とヒロなら何とか逃げ切れます。先に二人で逃げてください」
明らかに絶望的な状況の中で、ケイトとシンシアの二人に逃げろと言う。だが恐怖でまともに動けないケイトは、二人の言葉に従うしかなかった。
「分かったよ。でも二人には私たちを救出した依頼料を払わなきゃいけないんだから、絶対に逃げ切ってよ!」
「分かっています。ここで死ぬつもりはありません」
「私もです。まだ生きて、やらなければいけない事がありますから……」
「ブヒィィィ」
オークヒーローがヒロ達に、『別れの言葉は交わした終わったか』と、言いたげな顔で声を上げた。
これから死に行く者に最後の時間を与えるが如く、静観していたオークヒーローがついに動きだした。
肩に担いでいたハルバードを構えるオークヒーロー……対するは英雄とリーシアのタッグチーム。
絶望への挑戦が始まる!
〈勇者 vs オークヒーロー、死闘のゴングが鳴り響く!〉
…………
オークヒーロー ランクS 危険度 ★★★★★
ガイアの歴史で、数えるほどしか確認がされていないユニークモンスター。
通常魔力スポットから生まれるオークは戦士が大半であるが、ごく稀にだが魔法を使うオークメイジやオークシャーマン、遠距離攻撃が得意なオークスナイパーなど、人と同じくさまざまな職を持って生まれる存在がいる。
どの個体にも言えるのは、多くは生まれないがどの職業も生まれ落ちた時に強力な能力を持っていることである。
その中で、特に注意しなければならない個体が二つ程ある。
一つはオークキング……これが生まれた場合、キングへ成長しきるまでに倒さなければ、国が滅ぶとまで言われている。これはオークキングの固有能力に問題があり、自分の支配下に置いたオークのあらゆる能力を上昇させる、眷属強加の能力のせいであった。
個々のオークのステータスを上昇させるだけでなく、産まれて数ヵ月で成人するオークの成長スピードをさらに早める。これに強加された繁殖力が合わさった時、一国を滅ぼすほどの勢力を短期間で成長させる力があるのだ。
オークの数が急激に増えた時、それはオークキングの誕生を意味する。
オークキング自体の数は多くないが、生まれることは偶にあり、十数年に一度のペースで起こり得ることであった。
通常はオーク討伐クエストの中でオークキングが発見され、数を増やす前に討伐されるのが常である。
そしてオークの中で最も危険とされるのが、オークヒーローの誕生したときであった。
伝説によれば、オークヒーローの強さは、たった一匹で一軍に匹敵する力を持つとされ、災害級モンスターに指定されている。
高い身体能力から繰り出される攻撃は想像を絶し、その拳の一撃は大地を割り、海を引き裂いたと記されている。
単純な強さだけでも脅威だが、真に厄介なのは生まれながらにして宿る、英雄としての能力にあった。
オーク族がオークヒーローの支配下に入った場合、英雄の能力でカリスマ性が極限にまで高められる。その結果……全てのオークが熱狂的に崇め、死をも恐れぬ兵へと変わってしまうのである。
オークキング以上の眷属強化能力に、死兵と化したオークの群れ……恐るべき力と数の前に、まともに立ち向かえるものは少ない。
人族の歴史上、オークヒーローは数匹しか確認されておらず、個体自体の強さはSランクに恥じない強さを誇り、最大の特徴はスキルが使える点である。
本来、魔物はスキルを使うことが出来ないが、一部のユニークモンスターと呼ばれる存在は、人と同じスキルを習得し使用する姿が確認されている。
オークヒーローは、このスキルを習得できる珍しいユニークモンスターである。魔物の高い身体能力にスキルが組み合わされればどうなるか……もし有用なスキルを獲得したオークヒーローが誕生した場合、討伐するのには、国家単位で多大な犠牲が出るのを考慮しなければならない。
オークヒーローの誕生は、オーク達にとって福音となるのか、それとも破滅をもたらす災いとなるのかは分からない。だが、人にとっては間違いなく悪魔となり得る存在である。
著 冒険者ギルド 魔物図鑑参照
謎のオークが口元を吊り上げて笑った瞬間、ヒロが放った銀光が、激しい音を立てて弾かれた。
凄まじい衝撃がヒロの手に伝わり、同時に放ったショートソードの刃が弾かれてしまう。
「まずい!」
「ブヒイブヒィィィ」
攻撃を弾かれ体勢を崩したヒロに、オークがハルバードの斧刃による攻撃をキャンセルすると、振りかぶった体勢から石突きを使った突きへと、攻撃を変化させていた。
ハルバードの石突きが、必殺の突きとなってヒロの胸を襲う。
迫り来る攻撃を見て、ヒロはスローモーションの世界で最善の回避方法を模索する。
この至近距離から放たれた突きを、体さばきだけで避けるのは不可能……左右のどちらかに避けても体のどこかに風穴が空くため、後ろに避けるのは問題外だった。
剣で払おうとしても、あの地面にクレーターを作る程の力である。弾かれて突き殺される可能性が高い。なら……ヒロはあえて足を一歩前に踏み出し、自らハルバードの突きに向かって飛び込んでいく。
「ブヒィィ⁈」
ヒロは迫りくる突きを待つのではなく、逆にショートソードの腹で先に攻撃を受け止める。
肉厚のある剣の根本付近の腹で突きを受けたヒロは、そのまま剣の角度を調整し横に傾けた。
「外れろぉぉぉぉっ!」
「ブヒイィ⁈」
オークの突きが軌道をズラされ、ヒロの頬を切り裂きながら後方へと流された。
点の攻撃である突きだからこそ可能な、神業的回避でヒロはオークの攻撃をからくも退ける。
突きの動きに体が流され体勢を崩したオークとヒロが交差した時、ヒロは体を駒のように横へ回転させ、無防備な謎のオークの背へ剣を走らせていた。
何らかの防御方法で防がれた必殺の一撃……だが強力な能力ほど、何らかの制約や使用制限が掛かるはずと判断したヒロは、能力発動直後のチャンスを逃さなかった。
無防備な背に剣を走らせるヒロだったが……。
「なっ! 一撃だけじゃない? パッシブか回数制なのか⁈」
ヒロの攻撃がオークの皮膚に当たると、再び弾かれて攻撃が通らない。
ヒロは後ろに下がり距離を取ると、失敗したと顔をしかめた……ヒロとシンシアの間に謎のオークを挟む形になり、二人は分断されてしまった。
シンシアは未だ謎のオークから発生られる重圧により、体を思うように動かせないでいる。
救出対象のシンシアが、オークの後ろにいる以上、逃げることはできない。
「ヒロ! な、なんですかこのオークは? この殺気……尋常ではありませんよ」
村の外から陽動してくれていたリーシアとケイトが、合流地点から異変を感じ取りヒロ達の元へ駆けつけていた。
「リーシア、気をつけてください。こいつは攻撃を弾きます。おそらく何らかの能力かスキルだと思いますが、こちらの攻撃が通りません」
「攻撃を弾く? オークがスキルを……まさか、オークヒーローなんですか⁉︎」
「このオークを知っているのですか?」
「聞いたことはあります。普通、魔物は固有能力があってもスキルは使えません。ですが、ごく稀にユニークと呼ばれる個体がスキルを使いこなすことがあると……」
「厄介ですね……」
「たしか昔、オークヒーローと言われるオークのユニークモンスターが現れた時、いくつもの国が滅びたと……スキルを使うオークとなると、あれはオークヒーローの可能性が高いです……どうしますかヒロ?」
「逃げの一手です。時間が経てば、他のオークが集まって来ます。ケイトさん動けますか?」
リーシアの後ろから付いてきたケイトの気配に、謎のオークから目を離さずに問い掛ける。
「な、なんとか……でも、ギリギリよ。あのオークを見ていると怖くて、足が竦んで動けなくなりそう……」
声を震わせながら力なく答えるケイトは、できるだけオークヒーローを見ないようにしていた。
「僕とリーシアであのオークの注意を引きます。その隙にシンシアさんを連れて逃げてください」
「だけどあなた達は?」
「私とヒロなら何とか逃げ切れます。先に二人で逃げてください」
明らかに絶望的な状況の中で、ケイトとシンシアの二人に逃げろと言う。だが恐怖でまともに動けないケイトは、二人の言葉に従うしかなかった。
「分かったよ。でも二人には私たちを救出した依頼料を払わなきゃいけないんだから、絶対に逃げ切ってよ!」
「分かっています。ここで死ぬつもりはありません」
「私もです。まだ生きて、やらなければいけない事がありますから……」
「ブヒィィィ」
オークヒーローがヒロ達に、『別れの言葉は交わした終わったか』と、言いたげな顔で声を上げた。
これから死に行く者に最後の時間を与えるが如く、静観していたオークヒーローがついに動きだした。
肩に担いでいたハルバードを構えるオークヒーロー……対するは英雄とリーシアのタッグチーム。
絶望への挑戦が始まる!
〈勇者 vs オークヒーロー、死闘のゴングが鳴り響く!〉
…………
オークヒーロー ランクS 危険度 ★★★★★
ガイアの歴史で、数えるほどしか確認がされていないユニークモンスター。
通常魔力スポットから生まれるオークは戦士が大半であるが、ごく稀にだが魔法を使うオークメイジやオークシャーマン、遠距離攻撃が得意なオークスナイパーなど、人と同じくさまざまな職を持って生まれる存在がいる。
どの個体にも言えるのは、多くは生まれないがどの職業も生まれ落ちた時に強力な能力を持っていることである。
その中で、特に注意しなければならない個体が二つ程ある。
一つはオークキング……これが生まれた場合、キングへ成長しきるまでに倒さなければ、国が滅ぶとまで言われている。これはオークキングの固有能力に問題があり、自分の支配下に置いたオークのあらゆる能力を上昇させる、眷属強加の能力のせいであった。
個々のオークのステータスを上昇させるだけでなく、産まれて数ヵ月で成人するオークの成長スピードをさらに早める。これに強加された繁殖力が合わさった時、一国を滅ぼすほどの勢力を短期間で成長させる力があるのだ。
オークの数が急激に増えた時、それはオークキングの誕生を意味する。
オークキング自体の数は多くないが、生まれることは偶にあり、十数年に一度のペースで起こり得ることであった。
通常はオーク討伐クエストの中でオークキングが発見され、数を増やす前に討伐されるのが常である。
そしてオークの中で最も危険とされるのが、オークヒーローの誕生したときであった。
伝説によれば、オークヒーローの強さは、たった一匹で一軍に匹敵する力を持つとされ、災害級モンスターに指定されている。
高い身体能力から繰り出される攻撃は想像を絶し、その拳の一撃は大地を割り、海を引き裂いたと記されている。
単純な強さだけでも脅威だが、真に厄介なのは生まれながらにして宿る、英雄としての能力にあった。
オーク族がオークヒーローの支配下に入った場合、英雄の能力でカリスマ性が極限にまで高められる。その結果……全てのオークが熱狂的に崇め、死をも恐れぬ兵へと変わってしまうのである。
オークキング以上の眷属強化能力に、死兵と化したオークの群れ……恐るべき力と数の前に、まともに立ち向かえるものは少ない。
人族の歴史上、オークヒーローは数匹しか確認されておらず、個体自体の強さはSランクに恥じない強さを誇り、最大の特徴はスキルが使える点である。
本来、魔物はスキルを使うことが出来ないが、一部のユニークモンスターと呼ばれる存在は、人と同じスキルを習得し使用する姿が確認されている。
オークヒーローは、このスキルを習得できる珍しいユニークモンスターである。魔物の高い身体能力にスキルが組み合わされればどうなるか……もし有用なスキルを獲得したオークヒーローが誕生した場合、討伐するのには、国家単位で多大な犠牲が出るのを考慮しなければならない。
オークヒーローの誕生は、オーク達にとって福音となるのか、それとも破滅をもたらす災いとなるのかは分からない。だが、人にとっては間違いなく悪魔となり得る存在である。
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