上 下
63 / 226
第7章 勇者と絶望編

第63話 絶望との邂逅

しおりを挟む
「ブヒイ!」
 
 謎のオークが口元を吊り上げて笑った瞬間、ヒロが放った銀光が、激しい音を立てて弾かれた。

 凄まじい衝撃がヒロの手に伝わり、同時に放ったショートソードの刃が弾かれてしまう。
 

「まずい!」

「ブヒイブヒィィィ」


 攻撃を弾かれ体勢を崩したヒロに、オークがハルバードの斧刃による攻撃をキャンセルすると、振りかぶった体勢から石突きを使った突きへと、攻撃を変化させていた。

 ハルバードの石突きが、必殺の突きとなってヒロの胸を襲う。

 迫り来る攻撃を見て、ヒロはスローモーションの世界で最善の回避方法を模索する。

 この至近距離から放たれた突きを、体さばきだけで避けるのは不可能……左右のどちらかに避けても体のどこかに風穴が空くため、後ろに避けるのは問題外だった。
 
 剣で払おうとしても、あの地面にクレーターを作る程の力である。弾かれて突き殺される可能性が高い。なら……ヒロはあえて足を一歩前に踏み出し、自らハルバードの突きに向かって飛び込んでいく。


「ブヒィィ⁈」


 ヒロは迫りくる突きを待つのではなく、逆にショートソードの腹で先に攻撃を受け止める。

 肉厚のある剣の根本付近の腹で突きを受けたヒロは、そのまま剣の角度を調整し横に傾けた。

 
「外れろぉぉぉぉっ!」

「ブヒイィ⁈」


 オークの突きが軌道をズラされ、ヒロの頬を切り裂きながら後方へと流された。

 点の攻撃である突きだからこそ可能な、神業的回避でヒロはオークの攻撃をからくも退しりぞける。

 突きの動きに体が流され体勢を崩したオークとヒロが交差した時、ヒロは体を駒のように横へ回転させ、無防備な謎のオークの背へ剣を走らせていた。

 何らかの防御方法で防がれた必殺の一撃……だが強力な能力ほど、何らかの制約や使用制限が掛かるはずと判断したヒロは、能力発動直後のチャンスを逃さなかった。

 無防備な背に剣を走らせるヒロだったが……。
 
「なっ! 一撃だけじゃない? パッシブか回数制なのか⁈」

 ヒロの攻撃がオークの皮膚に当たると、再び弾かれて攻撃が通らない。

 ヒロは後ろに下がり距離を取ると、失敗したと顔をしかめた……ヒロとシンシアの間に謎のオークを挟む形になり、二人は分断されてしまった。

 シンシアは未だ謎のオークから発生られる重圧プレッシャーにより、体を思うように動かせないでいる。

 救出対象のシンシアが、オークの後ろにいる以上、逃げることはできない。


「ヒロ! な、なんですかこのオークは? この殺気……尋常ではありませんよ」


 村の外から陽動してくれていたリーシアとケイトが、合流地点から異変を感じ取りヒロ達の元へ駆けつけていた。


「リーシア、気をつけてください。こいつは攻撃を弾きます。おそらく何らかの能力かスキルだと思いますが、こちらの攻撃が通りません」

「攻撃を弾く? オークがスキルを……まさか、オークヒーローなんですか⁉︎」

「このオークを知っているのですか?」

「聞いたことはあります。普通、魔物は固有能力があってもスキルは使えません。ですが、ごく稀にユニークと呼ばれる個体がスキルを使いこなすことがあると……」

「厄介ですね……」

「たしか昔、オークヒーローと言われるオークのユニークモンスターが現れた時、いくつもの国が滅びたと……スキルを使うオークとなると、あれはオークヒーローの可能性が高いです……どうしますかヒロ?」

「逃げの一手です。時間が経てば、他のオークが集まって来ます。ケイトさん動けますか?」


 リーシアの後ろから付いてきたケイトの気配に、謎のオークから目を離さずに問い掛ける。


「な、なんとか……でも、ギリギリよ。あのオークを見ていると怖くて、足がすくんで動けなくなりそう……」

 声を震わせながら力なく答えるケイトは、できるだけオークヒーローを見ないようにしていた。
 

「僕とリーシアであのオークの注意を引きます。その隙にシンシアさんを連れて逃げてください」

「だけどあなた達は?」

「私とヒロなら何とか逃げ切れます。先に二人で逃げてください」


 明らかに絶望的な状況の中で、ケイトとシンシアの二人に逃げろと言う。だが恐怖でまともに動けないケイトは、二人の言葉に従うしかなかった。


「分かったよ。でも二人には私たちを救出した依頼料を払わなきゃいけないんだから、絶対に逃げ切ってよ!」

「分かっています。ここで死ぬつもりはありません」

「私もです。まだ生きて、やらなければいけない事がありますから……」

「ブヒィィィ」


 オークヒーローがヒロ達に、『別れの言葉は交わした終わったか』と、言いたげな顔で声を上げた。

 これから死に行く者に最後の時間を与えるが如く、静観していたオークヒーローがついに動きだした。

 肩に担いでいたハルバードを構えるオークヒーロー……対するは英雄ヒーローとリーシアのタッグチーム。

 絶望への挑戦が始まる!


〈勇者 vs オークヒーロー、死闘のゴングが鳴り響く!〉


…………




 オークヒーロー ランクS 危険度 ★★★★★

 ガイアの歴史で、数えるほどしか確認がされていないユニークモンスター。

 通常魔力スポットから生まれるオークは戦士が大半であるが、ごく稀にだが魔法を使うオークメイジやオークシャーマン、遠距離攻撃が得意なオークスナイパーなど、人と同じくさまざまな職を持って生まれる存在がいる。

 どの個体にも言えるのは、多くは生まれないがどの職業も生まれ落ちた時に強力な能力を持っていることである。

 その中で、特に注意しなければならない個体が二つ程ある。

 一つはオークキング……これが生まれた場合、キングへ成長しきるまでに倒さなければ、国が滅ぶとまで言われている。これはオークキングの固有能力に問題があり、自分の支配下に置いたオークのあらゆる能力を上昇させる、眷属強加の能力のせいであった。

 個々のオークのステータスを上昇させるだけでなく、産まれて数ヵ月で成人するオークの成長スピードをさらに早める。これに強加された繁殖力が合わさった時、一国を滅ぼすほどの勢力を短期間で成長させる力があるのだ。

 オークの数が急激に増えた時、それはオークキングの誕生を意味する。

 オークキング自体の数は多くないが、生まれることは偶にあり、十数年に一度のペースで起こり得ることであった。

 通常はオーク討伐クエストの中でオークキングが発見され、数を増やす前に討伐されるのが常である。
  
 そしてオークの中で最も危険とされるのが、オークヒーローの誕生したときであった。

 伝説によれば、オークヒーローの強さは、たった一匹で一軍に匹敵する力を持つとされ、災害級モンスターに指定されている。
 高い身体能力から繰り出される攻撃は想像を絶し、その拳の一撃は大地を割り、海を引き裂いたと記されている。

 単純な強さだけでも脅威だが、真に厄介なのは生まれながらにして宿る、英雄としての能力にあった。

 オーク族がオークヒーローの支配下に入った場合、英雄の能力でカリスマ性が極限にまで高められる。その結果……全てのオークが熱狂的に崇め、死をも恐れぬ兵へと変わってしまうのである。

 オークキング以上の眷属強化能力に、死兵と化したオークの群れ……恐るべき力と数の前に、まともに立ち向かえるものは少ない。

 人族の歴史上、オークヒーローは数匹しか確認されておらず、個体自体の強さはSランクに恥じない強さを誇り、最大の特徴はスキルが使える点である。

 本来、魔物はスキルを使うことが出来ないが、一部のユニークモンスターと呼ばれる存在は、人と同じスキルを習得し使用する姿が確認されている。

 オークヒーローは、このスキルを習得できる珍しいユニークモンスターである。魔物の高い身体能力にスキルが組み合わされればどうなるか……もし有用なスキルを獲得したオークヒーローが誕生した場合、討伐するのには、国家単位で多大な犠牲が出るのを考慮しなければならない。

 オークヒーローの誕生は、オーク達にとって福音となるのか、それとも破滅をもたらす災いとなるのかは分からない。だが、人にとっては間違いなく悪魔となり得る存在である。

 著 冒険者ギルド 魔物図鑑参照
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

あなたに何されたって驚かない

こもろう
恋愛
相手の方が爵位が下で、幼馴染で、気心が知れている。 そりゃあ、愛のない結婚相手には申し分ないわよね。 そんな訳で、私ことサラ・リーンシー男爵令嬢はブレンダン・カモローノ伯爵子息の婚約者になった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...