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第5章 勇者と調査クエスト編
第51話 勇者と初めての夜営
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「やっぱりアイテム袋は便利です♪ 町の外でこんなに美味しいシチューが食べられるなんて、夢にも思いませんでした」
「パンも熱々で出来立てだから、柔らかくて美味しいですね」
ヒロと焚き火を挟み、手の込んだシチューを食べられてご満悦のリーシア。
ヒロは手で軽く千切れるほど柔らかなパンを口に運び、素朴ながらどこか懐かしい味を堪能していた。
ジャイアントバットとの戦いを終えたヒロ達は、なんとか夜営できそうな場所を見つけ食事を楽しんでいた。
クエスト中の食事といえば、日持ちを考慮して塩の味しかしない干し肉に、水分を抜いて焼き締められた堅パンが定番である。
コレは、長期のクエストやダンジョンに潜る際、水分を抜いた食料は腐り難く軽くなる利点があり、長期保存と最低限お腹が膨れれば良いと考える者が多いため、味は二の次三の次になってしまっている。
タダでさえ塩辛い干し肉と、水分がほとんど無いカチコチのパンを食べるのに水が欲しい所だが、水は最低限の量しか飲めない。
一日に人が必要とする水分量は約2ℓと言われている。水分さえ取っていれば、人は一ヶ月は何も食べなくても生きて行ける。だが水がなければ三日と持たないのだ。
仮にヒロとリーシアの二人が、四日掛けてクエストを達成しようとすると16リットルもの水が必要になってくる。
無論、水と食料以外にも必要な物資があり、必然的に最低限の装備で重量を軽くしなければならない。
魔法が使えれば、ある程度のアイテムは省けるが、いつ戦闘になるか分からないクエスト中に、貴重なMPを消費する訳にはいかない。魔法に頼ってアイテムを省いた結果、クエスト途中で魔法使いが倒されでもしたら、そのパーティーはお仕舞いである。
この様にクエストを受ける上で、なんのアイテムをどれだけ持って行くかの選定が、生死を分ける程なのだ。
だがヒロとリーシアの二人は、この問題をアイテム袋で解決していた。
入る容量は未だに不明だが、限界容量を確認しようと、色々な物を入れてみたが未だ底が見えない。
飲み水の入った樽だけでも、5樽入っている。1樽の容量が約225リットルとして、1125リットル……1t以上の水がアイテム袋に収められている。
水場がないダンジョンや森の中では、水をどう節約するかが重要な冒険者にとって、アイテム袋が高値で売れる理由をヒロは改めて知るのだった。
「タダでさえ便利なアイテム袋なのに、中に入れた物を時間停止させて熱々のシチューや冷たい水も、いくらでも持ち運べるなんて……夢のようなアイテムです」
「出来たてのパンやシチューを、暖かいまま食べられるのは、便利ですね」
「長期クエストだと美味しくない食事を、無理にでも食べなければならないので、あまり受けたくはないのですが、これなら受けても良いです♪」
「ここまでの道中で倒した魔物も、その場で解体も放置もせずに進めたから、かなり時間短縮ができましたね」
「森の中域まで二日は掛かると思ってましたが、一日で着いちゃいましたね。アイテム袋が重宝される理由がよく分かりました」
リーシアが、食後のデザートに、よく熟れたリンドの皮を剥きながらヒロに話しかける。
「とりあえず明日は、この周りを見回って魔物狩りと異変がないかの確認かな?」
「ですね。明日一杯の探索だけで問題はなさそうです。ヒロ手を出してください。ハイッ」
リーシアが剥いてくれたリンドの実を受け取り、ヒロは口に入れる……リンゴに近い果物で水分と甘みが強く、その甘さが疲れた体に染みるようで美味しかった。
「今日は交代で見張りをして寝ましょう。二時間交代でいいですか?」
「はい。じゃあリーシア、先に休んでください」
「分かりました。何かあれば起こしてください。あと魔香を切らさない様に注意してくださいね」
魔香とは、焚き火に入れる事で魔物や虫が嫌がる匂いを出すアイテムで、夜営する際には必須となるものだった。一つ焚き火に入れれば、約三時間は周りに魔物や虫を近づけない。強い魔物には効かないが、Fランク程度の魔物なら近づけなくなる。
安全に森の中で夜を明かすため、ヒロが事前に町で購入しておいた。
「分かりました。じゃあ、二時間後に起こします。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
リーシアはそう言って毛布に包まり横になると、すぐに眠りに入ってしまう。
リーシアから、冒険者にとって短時間で休息と睡眠を取れるのは、必須技能の一つだと教えられたが、旅やクエストに慣れていないヒロには、それはまだ真似できないものだった。
どちらかと言うと、少ない睡眠でも動けるヒロは、徹夜に強く、普段あまり寝なくても問題がない。
ヒロはショートスリーパーと言われる人種に属しており、一日の平均睡眠時間は三時間程度である。
睡眠時間が短いと言っても体に害がある訳ではなく、単に人の平均睡眠時間と同じだけの休息効果を三時間で取れるだけの話であった。
当然、元の世界では睡眠せずに起きていた時間は、全てゲームをプレイする時間に割り当てられていた事は、いうまでもない。
火の番をしながら辺りを警戒するヒロは、手持ち無沙汰になり、ジャイアンバットとの戦いで覚えたスキルをステータス画面を出して考察していた。
【女神の絆】 LV 2
女神と魂をつながった者が取得可能なスキル
女神との絆を上げる事でレベルが上がる
経験値取得にプラス補正
【Bダッシュ】LV 3
異世界のスキル
MPを消費することで移動スピードに補正が掛かる
補正スピードは通常の6倍になる
クールタイム-0.5秒
【ニ段ジャンプ】LV 2
異世界のスキル
空中で力場を作り再度ジャンプするスキル
MPを消費する
他のスキルと合わす事で、高さ・飛距離が伸びる
レベルアップにより、ジャンプの高さがアップ
【オートマッピング】LV 1
頭の中に自分の通った道を自動的にマップ化するスキル
通った事がない道は表示されない
【剣術】 LV 2
剣に分類される武器を装備した際に、威力、命中率にプラス補正
レベルにより技を習得可能
LV 1 パワースラッシュ
LV 2 連続斬り
【投擲術】 LV 1
手に持つアイテムを投げる際の威力・命中率・射程にプラス補正
レベルにより技を習得可能
LV 1 パワースロー
【気配察知】LV 1
自分の周りの気配に敏感に反応できるようになる。
気配察知の精度と範囲にプラス補正
【空間把握】LV 1
自分の周りの空間を把握することで、立体的な動きにプラスの補正が入る
空中戦闘での動きの制御に影響する
今回は新スキルだけで四つ、おまけにスキルLVもアップしている。単純な戦力の増加だけでなく、便利そうなスキルを覚えられた。
「オートマッピングスキルか……これは使えそうだな」
ヒロがステータス画面に表示されたオートマッピングのスキル名に触れると、システムメッセージが表示された。
〈簡易MAPを表示しますか? YES / NO〉
ヒロは迷わずYESを選択すると、ヒロの視界の右上に自分を中心にしたレーダーMAPが表示された。
ヒロが通ってきた道が明るく表示され、それ以外は黒色のモザイクが掛かりMAP全域を覆い隠していた。
MAP画面を指で操作すると、地図を縮尺も自由に変えられ、アルムの街までの通った道が明るく表示されている。ガイヤの地図を持たず、地理にも疎いヒロには大変便利なスキルだった。
さらにオートマッピングスキルには、もう一つの機能が備わっている事にヒロは気付いた。それは自分を中心として表示される簡易MAPに、自分以外のものが光点として表示されていることだった。
いま簡易MAPには青い光点が表示されており、その場所でリーシアが寝息を立てている。恐らくMAPには自分以外の人や生き物を、光点で表示してくれる機能があるようだ。
もしこれで敵味方を識別できるとしたら、そのアドバンテージは計り知れない。敵の接近を事前に察知したり、色で敵対関係かどうかが分かるだけで、死ぬリスクをグッと下げられる。
他に獲得したスキルの検証を程々にして、オートマッピングスキルの可能性を試すヒロ……気がつけば、アッと言う間に二時間が経とうとしていた。
そろそろ交代の時間だと、ヒロはスキルの検証を止めてリーシアを起こそうとした時、簡易MAPの端に灰色の光点が二つ現れ、急にリーシアが目を覚まし立ち上がる。
「ヒロ、なにか来ます。松明をいくつか出してください。火を着けて周りに置きましょう。暗いより明るい方が戦いやすいです」
「いま出します」
戦いにおいてリーシアの方が経験が高く、断る理由が見つからない以上、ヒロは素直に従う。
アイテム袋から松明を数本取り出し、すぐに焚き火で火を着けると四方の地面に投げる。ヒロ達を中心に周りが明るくなり、視界がある程度確保される。
そして二つの灰色の光点が近づき、肉眼で見える距離になった時、それは声を上げた。
「待って! 戦う意思はないわ。この先で魔物に襲われて……お願い仲間を助けて!」
〈傷を負った若い女性二人が、助けを求めて勇者と少女の前に現れた〉
「パンも熱々で出来立てだから、柔らかくて美味しいですね」
ヒロと焚き火を挟み、手の込んだシチューを食べられてご満悦のリーシア。
ヒロは手で軽く千切れるほど柔らかなパンを口に運び、素朴ながらどこか懐かしい味を堪能していた。
ジャイアントバットとの戦いを終えたヒロ達は、なんとか夜営できそうな場所を見つけ食事を楽しんでいた。
クエスト中の食事といえば、日持ちを考慮して塩の味しかしない干し肉に、水分を抜いて焼き締められた堅パンが定番である。
コレは、長期のクエストやダンジョンに潜る際、水分を抜いた食料は腐り難く軽くなる利点があり、長期保存と最低限お腹が膨れれば良いと考える者が多いため、味は二の次三の次になってしまっている。
タダでさえ塩辛い干し肉と、水分がほとんど無いカチコチのパンを食べるのに水が欲しい所だが、水は最低限の量しか飲めない。
一日に人が必要とする水分量は約2ℓと言われている。水分さえ取っていれば、人は一ヶ月は何も食べなくても生きて行ける。だが水がなければ三日と持たないのだ。
仮にヒロとリーシアの二人が、四日掛けてクエストを達成しようとすると16リットルもの水が必要になってくる。
無論、水と食料以外にも必要な物資があり、必然的に最低限の装備で重量を軽くしなければならない。
魔法が使えれば、ある程度のアイテムは省けるが、いつ戦闘になるか分からないクエスト中に、貴重なMPを消費する訳にはいかない。魔法に頼ってアイテムを省いた結果、クエスト途中で魔法使いが倒されでもしたら、そのパーティーはお仕舞いである。
この様にクエストを受ける上で、なんのアイテムをどれだけ持って行くかの選定が、生死を分ける程なのだ。
だがヒロとリーシアの二人は、この問題をアイテム袋で解決していた。
入る容量は未だに不明だが、限界容量を確認しようと、色々な物を入れてみたが未だ底が見えない。
飲み水の入った樽だけでも、5樽入っている。1樽の容量が約225リットルとして、1125リットル……1t以上の水がアイテム袋に収められている。
水場がないダンジョンや森の中では、水をどう節約するかが重要な冒険者にとって、アイテム袋が高値で売れる理由をヒロは改めて知るのだった。
「タダでさえ便利なアイテム袋なのに、中に入れた物を時間停止させて熱々のシチューや冷たい水も、いくらでも持ち運べるなんて……夢のようなアイテムです」
「出来たてのパンやシチューを、暖かいまま食べられるのは、便利ですね」
「長期クエストだと美味しくない食事を、無理にでも食べなければならないので、あまり受けたくはないのですが、これなら受けても良いです♪」
「ここまでの道中で倒した魔物も、その場で解体も放置もせずに進めたから、かなり時間短縮ができましたね」
「森の中域まで二日は掛かると思ってましたが、一日で着いちゃいましたね。アイテム袋が重宝される理由がよく分かりました」
リーシアが、食後のデザートに、よく熟れたリンドの皮を剥きながらヒロに話しかける。
「とりあえず明日は、この周りを見回って魔物狩りと異変がないかの確認かな?」
「ですね。明日一杯の探索だけで問題はなさそうです。ヒロ手を出してください。ハイッ」
リーシアが剥いてくれたリンドの実を受け取り、ヒロは口に入れる……リンゴに近い果物で水分と甘みが強く、その甘さが疲れた体に染みるようで美味しかった。
「今日は交代で見張りをして寝ましょう。二時間交代でいいですか?」
「はい。じゃあリーシア、先に休んでください」
「分かりました。何かあれば起こしてください。あと魔香を切らさない様に注意してくださいね」
魔香とは、焚き火に入れる事で魔物や虫が嫌がる匂いを出すアイテムで、夜営する際には必須となるものだった。一つ焚き火に入れれば、約三時間は周りに魔物や虫を近づけない。強い魔物には効かないが、Fランク程度の魔物なら近づけなくなる。
安全に森の中で夜を明かすため、ヒロが事前に町で購入しておいた。
「分かりました。じゃあ、二時間後に起こします。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
リーシアはそう言って毛布に包まり横になると、すぐに眠りに入ってしまう。
リーシアから、冒険者にとって短時間で休息と睡眠を取れるのは、必須技能の一つだと教えられたが、旅やクエストに慣れていないヒロには、それはまだ真似できないものだった。
どちらかと言うと、少ない睡眠でも動けるヒロは、徹夜に強く、普段あまり寝なくても問題がない。
ヒロはショートスリーパーと言われる人種に属しており、一日の平均睡眠時間は三時間程度である。
睡眠時間が短いと言っても体に害がある訳ではなく、単に人の平均睡眠時間と同じだけの休息効果を三時間で取れるだけの話であった。
当然、元の世界では睡眠せずに起きていた時間は、全てゲームをプレイする時間に割り当てられていた事は、いうまでもない。
火の番をしながら辺りを警戒するヒロは、手持ち無沙汰になり、ジャイアンバットとの戦いで覚えたスキルをステータス画面を出して考察していた。
【女神の絆】 LV 2
女神と魂をつながった者が取得可能なスキル
女神との絆を上げる事でレベルが上がる
経験値取得にプラス補正
【Bダッシュ】LV 3
異世界のスキル
MPを消費することで移動スピードに補正が掛かる
補正スピードは通常の6倍になる
クールタイム-0.5秒
【ニ段ジャンプ】LV 2
異世界のスキル
空中で力場を作り再度ジャンプするスキル
MPを消費する
他のスキルと合わす事で、高さ・飛距離が伸びる
レベルアップにより、ジャンプの高さがアップ
【オートマッピング】LV 1
頭の中に自分の通った道を自動的にマップ化するスキル
通った事がない道は表示されない
【剣術】 LV 2
剣に分類される武器を装備した際に、威力、命中率にプラス補正
レベルにより技を習得可能
LV 1 パワースラッシュ
LV 2 連続斬り
【投擲術】 LV 1
手に持つアイテムを投げる際の威力・命中率・射程にプラス補正
レベルにより技を習得可能
LV 1 パワースロー
【気配察知】LV 1
自分の周りの気配に敏感に反応できるようになる。
気配察知の精度と範囲にプラス補正
【空間把握】LV 1
自分の周りの空間を把握することで、立体的な動きにプラスの補正が入る
空中戦闘での動きの制御に影響する
今回は新スキルだけで四つ、おまけにスキルLVもアップしている。単純な戦力の増加だけでなく、便利そうなスキルを覚えられた。
「オートマッピングスキルか……これは使えそうだな」
ヒロがステータス画面に表示されたオートマッピングのスキル名に触れると、システムメッセージが表示された。
〈簡易MAPを表示しますか? YES / NO〉
ヒロは迷わずYESを選択すると、ヒロの視界の右上に自分を中心にしたレーダーMAPが表示された。
ヒロが通ってきた道が明るく表示され、それ以外は黒色のモザイクが掛かりMAP全域を覆い隠していた。
MAP画面を指で操作すると、地図を縮尺も自由に変えられ、アルムの街までの通った道が明るく表示されている。ガイヤの地図を持たず、地理にも疎いヒロには大変便利なスキルだった。
さらにオートマッピングスキルには、もう一つの機能が備わっている事にヒロは気付いた。それは自分を中心として表示される簡易MAPに、自分以外のものが光点として表示されていることだった。
いま簡易MAPには青い光点が表示されており、その場所でリーシアが寝息を立てている。恐らくMAPには自分以外の人や生き物を、光点で表示してくれる機能があるようだ。
もしこれで敵味方を識別できるとしたら、そのアドバンテージは計り知れない。敵の接近を事前に察知したり、色で敵対関係かどうかが分かるだけで、死ぬリスクをグッと下げられる。
他に獲得したスキルの検証を程々にして、オートマッピングスキルの可能性を試すヒロ……気がつけば、アッと言う間に二時間が経とうとしていた。
そろそろ交代の時間だと、ヒロはスキルの検証を止めてリーシアを起こそうとした時、簡易MAPの端に灰色の光点が二つ現れ、急にリーシアが目を覚まし立ち上がる。
「ヒロ、なにか来ます。松明をいくつか出してください。火を着けて周りに置きましょう。暗いより明るい方が戦いやすいです」
「いま出します」
戦いにおいてリーシアの方が経験が高く、断る理由が見つからない以上、ヒロは素直に従う。
アイテム袋から松明を数本取り出し、すぐに焚き火で火を着けると四方の地面に投げる。ヒロ達を中心に周りが明るくなり、視界がある程度確保される。
そして二つの灰色の光点が近づき、肉眼で見える距離になった時、それは声を上げた。
「待って! 戦う意思はないわ。この先で魔物に襲われて……お願い仲間を助けて!」
〈傷を負った若い女性二人が、助けを求めて勇者と少女の前に現れた〉
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