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第4章 勇者と森のクマさん編
第46話 勇者と不穏な空気
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「もっとよ! 早く次を出しなさい! さあ早く!」
「ちょ、ライムちゃん。ストップよ! もうオーガベアーを解体したでしょう!」
「足りないんです! まだまだ解体したいんです! この際、何でも良いですから解体させてぇぇぇぇ」
ライムに胸ぐらを掴まれ、ガクガク揺すられるヒロ。
「何でも良いならあります。だから揺すらないでくださいぃぃぃぃぃ」
目が血走るライムを、ナターシャが羽交い締めにしてようやくヒロから引き離してくれた。まるで何かの中毒患者のように解体を望む姿は、薬物切れによる禁断症状みたいな様相を呈していた。
「さっき薬草採取のクエストに行った際に、狼に襲われまして、それを倒して回収しておいたんです。いま出します。『リスト』」
アイテム袋のメニューを操作するヒロに、まだかまだかと待ち構えるライムをナターシャが押さえてくれている。
とりあえず、森で倒した狼七体を床に置くと……。
「な⁈ 森林狼じゃないの! しかも七匹も! ちょっとヒロ、これをどこで倒したの?」
「森の外周です。薬草採取クエスト中に遭遇しました」
「おかし過ぎるわ。森林狼が群れで森の外周部に現れるなんて、絶対にありえない……オーガベアーと言い、森で何かが起こっているの? 調査する必要があるわね」
「森林狼! Eランクでオーガベアーには及びませんが、この際 贅沢はいってられません。今は質よりも量です! 森林狼七匹……腕が鳴ります」
何か言い知れぬ、不穏な空気に頭を巡らせるナターシャと新たなる解体に心躍らせるライム。
二人の別々の思いが交差する解体部屋の中で、ヒロは早く帰りたいと思うのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
辺りはすっかり暗くなり、町に明かりが灯り出す時間……昼間の町とは、違う趣の喧騒がアルムの町に立ち込め始めていた。
昼よりも夜の方が人の入りは少なくなり、町から活気はなくなるものだが、その場所にある建物は逆に昼に比べ人の出入りがより激しさを増し、一層に騒がしくなる。酒に料理、歌にダンスと店の中は様々な人々の発する熱気に満ち溢れていた。
一日の疲れを癒す者、溜まり溜まった愚痴を吐き出す酔っ払い、仕事の話、私生活の話、噂話……人々が酒を片手に語り合う。
そんなアルムの町の酒場の一つに、見知らぬ男が酒を求めて入ってきた。
夏に近づき、暑さが増すこの時期に、フードを目深く被った男は、空いているカウンターへと静かに座る。男は、店の亭主に酒と軽いツマミを頼むと、静かに飲みながら周りの客が話す声に耳を傾け静かに聞き入っていた。
「おい、聞いたか? ポテト三兄弟の話!」
「聞いた! 聞いた! いい気味だよな!」
「しかしEランクの殲滅の刃、三人相手にGランクが一人で立ち向かったらしいじゃないか」
「オイオイ、Gランクッて冒険者成り立ての初心者だろ? どうやってEランク三人に勝ったんだよ? 嘘臭え~」
「あの場にいたけど、あの動きはただモンじゃないね。片手で同時に射られた矢を掴んだ時にはたまげたぜ! しかも一本じゃねえ、三本同時に射られた矢を片手でだぞ?」
「嘘だろ? もし本当ならGランクな訳ねえだろ」
「いや、俺がギルドのクエスト募集の掲示板の前で、ソイツに尋ねられて薬草採取クエストを教えてやったから、多分Gランクなのは間違いない」
「ああ、ソイツなら知っているぜ。何日か前にギルドのラウンジで、斧使いのゼノンと揉めてた奴だろ?」
「あ~、キラーシスターと一緒にいた奴か!」
「ああ、ブラッディシスターの知り合いなら、あの強さは納得だよな」
「歩くファイナルウェポン、シスターリーシアの男か……どんだけ強いんだよ! 痴話喧嘩なんてされたら、巻き添えで死人が出るんじゃね~かそれ?」
カウンターで静かに酒を飲んでいた男が、酒場で話題に上がる話に反応し、おもむろに中央のテーブルで呑む三人の冒険者達へと酒を持って近づいて行く。
「いや~、面白そうな話をしてらっしゃいますね」
「あん? 誰だテメー?」
酒場で見た事がないフードの男に、警戒する冒険者たち。
「私は旅の商人でして、この町には先ほど着きました。面白そうな話をされていましたので、話をぜひ聞かせてもらえないかと思いまして……無論、一杯奢らせてもらいますよ」
「おお、話が分かるじゃないか! よし、さあ座った座った。奢ってもらった分は話をさせてもらうぜ。お~い! マスター! 酒のおかわりだ~!」
空いていた席に座るフードの男は、そのまま話の輪に入り込み、根掘り葉掘り話を聞くと、冒険者たちの代金を置いてソソクサと店を出て行ってしまった。
「なんだったんだアイツ? やけに拳鬼シスターリーシアの話ばかり、聞いて来やがったけど?」
「薄気味悪かったな。フードで顔をずっと隠してたし」
「あ~、おれチラッと見えたけど、あれ右の頬にある痣を隠してたんだろ。変わった痣が見えたぜ」
「まあ、いいじゃねえか、奢ってくれたんだし。それより奢ってもらって浮いた分も呑もうぜ!」
「「おう!」」
アルムの町の夜は、まだまだ続くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局、ヒロが孤児院に戻れたのは夕飯前になってしまった。
ライムがおかわりを要求した森林狼七体は、一体辺り十分で解体されたが七匹もいたため、単純計算でも70分も時間が掛かってしまった。
さすがに狂気の解体屋ライムも、最後はエクスタシーの波に飲まれ、満足げに果てていた。
そこから薬草採取クエストの報告に、また受け付けに並び直した結果、ギルドに足を踏み入れてから三時間も経過してしまっていた。
だが、急ぎ孤児院へ歩くヒロの足取りは軽い! その原因は、アイテム袋に入った大量のお金だった。
なんと、オーガベアーが金貨1枚、森林狼で銀貨350枚、マンドラゴラは一本銀貨10枚、薬草採取クエストの報酬で銀貨2枚、合わせて金貨1枚と銀貨422枚の大金を手に入れ、ヒロの懐はホクホクである!
この世界の最小単位は銅貨であり、銅貨1枚はヒロの世界のお金で5円位の価値がある。1000枚ごとに銅貨、銀貨、金貨、白金貨と硬貨が変わる。1000銅貨なら1銀貨、5000円の価値になる訳だ。
今回、ヒロが手に入れたお金を銀貨で計算すると1422枚、日本円換算で711万円になる。金欠に落ち入りつつあったヒロには、嬉しい収入であった。
それにアイテム袋に入れた食べ応え満点の熊肉が、10kgも入っている。一口試食にナターシャさんが焼いてくれたが、ライムの解体の腕のおかげで、臭みがまったくない。
野生味溢れた肉汁が口の中一杯に広がり、とても美味しかった。孤児院の子供たちが喜んで食べる様子と「とってもジュ~シ~でおいしいです♪」と言う、リーシアの喜ぶ顔がヒロの目に浮かんできた。
夕飯までに間に合えばと急ぐヒロは、何とか日が落ち切る前に孤児院へ戻ってこれた。誰にも見られないよう、建物の陰に隠れてアイテム袋から熊肉を取り出したヒロは、そのまま孤児院の中へと入って行く。
夕飯の支度をしていたシスター達に、熊肉を渡そうと調理場へとヒロは足を運ぶ。
「ただいま戻りました」
「あら、ヒロさんお帰りなさい。もうすぐ夕飯ですから、呼んだら食堂にお願いします」
「えと、実は肉を手に入れたのですが、夕飯の献立に間に合いますか?」
「まあ! お肉ですか? 焼くだけなら手間も掛かりませんし十分間に合いますよ」
「良かった。それじゃあコレをお願いします」
「まあ、こんなに沢山! 子供達も喜びます。ありがとうございます」
長く青い髪をしたシスターが丁寧に礼を述べる。
「僕だけで手に入れた訳ではありません。先日、リーシアと二人で倒した魔物ですから、お礼ならリーシアにもして上げてください」
「ほうほう? リーシアと呼び捨てですか? 仲がよろしいようで、あのリーシアにも春が来たって噂は、本当だったかな?」
「ええと……」
黄色のショートの髪をしたシスターがニマニマしながら話しかけられ、ヒロが言葉に詰まっていた。
「クックックッ、二人の共同作業、むしろ二人はもう……クックックックッ」
「……」
赤い髪のオカッパシスターが不気味な笑い方をしながら、ヒロを茶化す。
「二人共、止めなさい! ヒロさんに失礼ですよ。ごめんなさいね、この子たち、自分より年下のリーシアが先に結婚するかもと、噂を聞いて焦ってしまっているの。許して上げて」
自分に対して失礼したと謝る青い髪のシスターだが、二人のシスターに関して、とても失礼な事を言っていることにヒロが気付く。
「自分が一番焦っていたくせに……」
「一番の行き遅れのクセに……クックックッ」
青髪のシスターの顔が凍る……ヒロの方を向いているため、後ろの二人のシスターには顔が見えていないだろうが、物凄い形相で顔の表情が固まっている。それはまるで、般若の面を被った能役者のみたいな表情だった。
三人のシスターが誰に言われる訳でなく、なぜか包丁に手を伸ばしていた。
振り向く般若のシスターの一言が、戦いの始まりを告げた!
「誰が彼氏いない歴=年齢だと言ったあぁぁぁぁぁぁ!」
〈彼氏募集中のシスターズが現れた!〉
「ちょ、ライムちゃん。ストップよ! もうオーガベアーを解体したでしょう!」
「足りないんです! まだまだ解体したいんです! この際、何でも良いですから解体させてぇぇぇぇ」
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「何でも良いならあります。だから揺すらないでくださいぃぃぃぃぃ」
目が血走るライムを、ナターシャが羽交い締めにしてようやくヒロから引き離してくれた。まるで何かの中毒患者のように解体を望む姿は、薬物切れによる禁断症状みたいな様相を呈していた。
「さっき薬草採取のクエストに行った際に、狼に襲われまして、それを倒して回収しておいたんです。いま出します。『リスト』」
アイテム袋のメニューを操作するヒロに、まだかまだかと待ち構えるライムをナターシャが押さえてくれている。
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「な⁈ 森林狼じゃないの! しかも七匹も! ちょっとヒロ、これをどこで倒したの?」
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「嘘だろ? もし本当ならGランクな訳ねえだろ」
「いや、俺がギルドのクエスト募集の掲示板の前で、ソイツに尋ねられて薬草採取クエストを教えてやったから、多分Gランクなのは間違いない」
「ああ、ソイツなら知っているぜ。何日か前にギルドのラウンジで、斧使いのゼノンと揉めてた奴だろ?」
「あ~、キラーシスターと一緒にいた奴か!」
「ああ、ブラッディシスターの知り合いなら、あの強さは納得だよな」
「歩くファイナルウェポン、シスターリーシアの男か……どんだけ強いんだよ! 痴話喧嘩なんてされたら、巻き添えで死人が出るんじゃね~かそれ?」
カウンターで静かに酒を飲んでいた男が、酒場で話題に上がる話に反応し、おもむろに中央のテーブルで呑む三人の冒険者達へと酒を持って近づいて行く。
「いや~、面白そうな話をしてらっしゃいますね」
「あん? 誰だテメー?」
酒場で見た事がないフードの男に、警戒する冒険者たち。
「私は旅の商人でして、この町には先ほど着きました。面白そうな話をされていましたので、話をぜひ聞かせてもらえないかと思いまして……無論、一杯奢らせてもらいますよ」
「おお、話が分かるじゃないか! よし、さあ座った座った。奢ってもらった分は話をさせてもらうぜ。お~い! マスター! 酒のおかわりだ~!」
空いていた席に座るフードの男は、そのまま話の輪に入り込み、根掘り葉掘り話を聞くと、冒険者たちの代金を置いてソソクサと店を出て行ってしまった。
「なんだったんだアイツ? やけに拳鬼シスターリーシアの話ばかり、聞いて来やがったけど?」
「薄気味悪かったな。フードで顔をずっと隠してたし」
「あ~、おれチラッと見えたけど、あれ右の頬にある痣を隠してたんだろ。変わった痣が見えたぜ」
「まあ、いいじゃねえか、奢ってくれたんだし。それより奢ってもらって浮いた分も呑もうぜ!」
「「おう!」」
アルムの町の夜は、まだまだ続くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局、ヒロが孤児院に戻れたのは夕飯前になってしまった。
ライムがおかわりを要求した森林狼七体は、一体辺り十分で解体されたが七匹もいたため、単純計算でも70分も時間が掛かってしまった。
さすがに狂気の解体屋ライムも、最後はエクスタシーの波に飲まれ、満足げに果てていた。
そこから薬草採取クエストの報告に、また受け付けに並び直した結果、ギルドに足を踏み入れてから三時間も経過してしまっていた。
だが、急ぎ孤児院へ歩くヒロの足取りは軽い! その原因は、アイテム袋に入った大量のお金だった。
なんと、オーガベアーが金貨1枚、森林狼で銀貨350枚、マンドラゴラは一本銀貨10枚、薬草採取クエストの報酬で銀貨2枚、合わせて金貨1枚と銀貨422枚の大金を手に入れ、ヒロの懐はホクホクである!
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今回、ヒロが手に入れたお金を銀貨で計算すると1422枚、日本円換算で711万円になる。金欠に落ち入りつつあったヒロには、嬉しい収入であった。
それにアイテム袋に入れた食べ応え満点の熊肉が、10kgも入っている。一口試食にナターシャさんが焼いてくれたが、ライムの解体の腕のおかげで、臭みがまったくない。
野生味溢れた肉汁が口の中一杯に広がり、とても美味しかった。孤児院の子供たちが喜んで食べる様子と「とってもジュ~シ~でおいしいです♪」と言う、リーシアの喜ぶ顔がヒロの目に浮かんできた。
夕飯までに間に合えばと急ぐヒロは、何とか日が落ち切る前に孤児院へ戻ってこれた。誰にも見られないよう、建物の陰に隠れてアイテム袋から熊肉を取り出したヒロは、そのまま孤児院の中へと入って行く。
夕飯の支度をしていたシスター達に、熊肉を渡そうと調理場へとヒロは足を運ぶ。
「ただいま戻りました」
「あら、ヒロさんお帰りなさい。もうすぐ夕飯ですから、呼んだら食堂にお願いします」
「えと、実は肉を手に入れたのですが、夕飯の献立に間に合いますか?」
「まあ! お肉ですか? 焼くだけなら手間も掛かりませんし十分間に合いますよ」
「良かった。それじゃあコレをお願いします」
「まあ、こんなに沢山! 子供達も喜びます。ありがとうございます」
長く青い髪をしたシスターが丁寧に礼を述べる。
「僕だけで手に入れた訳ではありません。先日、リーシアと二人で倒した魔物ですから、お礼ならリーシアにもして上げてください」
「ほうほう? リーシアと呼び捨てですか? 仲がよろしいようで、あのリーシアにも春が来たって噂は、本当だったかな?」
「ええと……」
黄色のショートの髪をしたシスターがニマニマしながら話しかけられ、ヒロが言葉に詰まっていた。
「クックックッ、二人の共同作業、むしろ二人はもう……クックックックッ」
「……」
赤い髪のオカッパシスターが不気味な笑い方をしながら、ヒロを茶化す。
「二人共、止めなさい! ヒロさんに失礼ですよ。ごめんなさいね、この子たち、自分より年下のリーシアが先に結婚するかもと、噂を聞いて焦ってしまっているの。許して上げて」
自分に対して失礼したと謝る青い髪のシスターだが、二人のシスターに関して、とても失礼な事を言っていることにヒロが気付く。
「自分が一番焦っていたくせに……」
「一番の行き遅れのクセに……クックックッ」
青髪のシスターの顔が凍る……ヒロの方を向いているため、後ろの二人のシスターには顔が見えていないだろうが、物凄い形相で顔の表情が固まっている。それはまるで、般若の面を被った能役者のみたいな表情だった。
三人のシスターが誰に言われる訳でなく、なぜか包丁に手を伸ばしていた。
振り向く般若のシスターの一言が、戦いの始まりを告げた!
「誰が彼氏いない歴=年齢だと言ったあぁぁぁぁぁぁ!」
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