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第4章 勇者と森のクマさん編
第44話 勇者と困ったアイツ!
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ヒロが手にしたモノをマジマジと見るナターシャは、ため息をつくしかなかった。
「コレ……本当にアイテム袋なのね」
「はい。中にオーガベアーが入っています」
「そう、ちょっと待って……いま考えをまとめるから」
ナターシャは頭を抱えて考え始める。
アイテム袋の話は、当然ナターシャも知っている。どんな小さな容量でも金貨数十枚の価値があり、希少価値が高いのは、冒険者なら誰でも知っていた。小さな容量程度なら、ナターシャ自身もギルド本部で見た事もあるので、希少ではあるが珍しい物ではなかった。
問題は入る容量である……ヒロの話の流れから何となく嫌な予感がしていたが、ドンピシャの回答にナターシャは頭を抱えざる得なくなってしまった。
オーガベアーの大きさは少なくとも二メートル以上。それが入るアイテム袋となると、少なくとも3㎥は必要になる……少なく見ても金貨四百枚以上の価値はあるのだ。
こんなものを普通に持っていると知れ渡れば、馬鹿な輩が確実に事を起こすのは明白だった。
ナターシャは数分無言になったかと思えば、急に顔を上げ『ジ~』っと、ヒロを見つめ始める。
「ヒロ、私の目を見なさい」
「目ですか?」
言われるがままヒロはナターシャの目を見ると、ナターシャの瞳の色が青色から赤色に変わっているのに気づいた。何だろうと思いヒロが質問する前に、ナターシャが口を開く。
「それを一体どうやって手に入れたの? ダンジョン?」
「いいえ、人から貰いました」
「盗んだり、奪ったりは……」
「そんなことしてませんよ」
「当然、人を殺して盗ったりは?」
「そ、そんなとんでもない事してませんから!」
「質問を変えるわ。オーガベアーは、あなた一人で倒したの?」
「いえ、リーシアと二人で倒しました」
「どこでオーガベアーと遭遇したの? その場所は?」
「南の森の外縁部から、少し入った所で遭遇しました」
「倒したオーガベアーは、そのアイテム袋に入っているのね?」
「はい」
「リーシアちゃんの事をどう思っているの?」
「ど、どうって……い、命の恩人? ってなんですか突然!」
「フフ、まあ嘘は言ってないわね」
「え?」
そう言うとナターシャの瞳の色が、赤色から元の青色の瞳に戻っていた。
「ふ~、悪いけど試させてもらったわ」
「え? 試すって?」
「実は私に嘘は吐けないのよ。私の固有スキルには、質問した答えが本当か嘘かを判別する力があるの。勝手にスキルを使ってごめんなさい」
「いえ、それでナターシャさんの中で、何か疑いが晴れたのなら、構いません」
「そう言ってもらえると助かるわ。アイテム袋を個人で持っている人は限られてくるから、正当な所有者かどうかを確かめないと大変な事になるのよ」
ナターシャは、かつて滅びたある国の話をしてくれた。
ある日、旅の商人がアイテム袋を、とある王国に持ち込み売りに出したそうだ。
アイテム袋は入る容量にもよるが、大量の物資や重い物を運ぶのにとても重宝する便利アイテム故に、誰もが欲しがるが中々手に入れる機会は少ない。
だからこそ、持ち込まれたアイテム袋に大国の王は大いに喜び、高値で買い上げた。
だが旅の商人が持ち込んだアイテム袋が、まっとうな手段で手に入れた物だったら問題はなかった……実は持ち込まれたアイテム袋は、隣の国で盗まれた物だったのだ。
当然、盗まれた国は返還を求めたが、買い上げた王も高いお金を出して購入した以上、『はいどうぞ』と返すなんてできない……肝心の旅の商人は旅立った後で消息不明。
そうこうしている内に互いの国の関係は悪化し、ついに国同士の戦争にまで発展してしまい、最終的には商人からアイテム袋を買い上げた国が滅び、元の国へ返還された。
それがキッカケとなり、それ以後アイテム袋の売買には正当な所有者かどうかを確かめるのが必須になったそうだ。
そう考えると、アイテム袋は便利な反面、所有するには常に厄介ごとを抱えて込む可能性が高いのだと、ヒロは知るのだった。
「なるほど……だからアイテム袋の話をした時、ナターシャさんは頭を抱えたんですね」
「そう言う事よ。ヒロが正当な所有者とは認めるけど、アイテム袋の話は内密にした方が良いわね。馬鹿な事をする連中がいるかも知れないから……」
「はい。リーシアからも言われました。実はそれで相談があるんですが……」
「アイテム袋の存在を隠して、オークベアーを売りたいって話かしら?」
察しの良いナターシャは、ヒロが言わんとしている事を先に言い当てる。
「そうなんです。どうやってギルドに売りに持ち込もうか、困っていて」
「う~ん、そうね。それなら専属のギルド職員を付けてあげるわ。リーシアちゃんのいるパーティーなら、専属がいても不思議じゃないしね」
「専属?」
ギルドには、数多くの冒険者が日々訪れる。あまりの多さに受付の順番待ちが発生する事が日常茶飯事だ。
だが、低ランクならまだしも高ランク冒険者も同じ様に受付に並ばせる訳にはいかない。高ランク冒険者は、当然高レベルのクエストを請け負ってもらう事になる。
高レベルのクエストは数多くあるが、高ランクの冒険者の数には限りがある。一つでも多くのクエストを受けてもらうため、ギルドでは専属のギルド職員を付け、優先的に受付けをする制度があった。
「とりあえず、専属には口止めをしておくわ。そうね~、ライムちゃんが適任かしら」
「ライムさんですか?」
「あら、知っているの?」
「ランナーバードを持ち込んだ時に、担当になってくれました」
「そう。なら話は早いわ。彼女、解体が趣味でカウンター業務を嫌がるから、解体部屋にいつも入り浸っているのよ。他の人と接触も少ないし、アイテム袋の情報も漏れ難いでしょう」
聞き間違いだと思いたい……怪しげなフレーズがヒロの耳に入る。
「解体が趣味?」
「魔物の解体に関しては天才的よ……まあ少し、変わっているけどね」
「変わっているって?」
「百閒は一件に如かず、実際に見てみれば分かるわ」
そのままナターシャが部屋を後にすると、ヒロも連れられて一階にある解体部屋へと向かった。
この前ライムに会った時には、特に問題なく丁寧に対応してくれたと記憶しているが……先日と同じ、五番の解体部屋の前まで来ると、ナターシャがノックして声を掛ける。
「ライムちゃん、ちょっと良いかしら? 話があるの」
だが、何も反応がない……留守なのかと思うヒロを置いて、ナターシャが扉を開け部屋の中に入って行く。ヒロも後に続き、部屋の中へ足を踏み入れるとそこには……。
「いいわ。この感触……死後硬直が始まっているのに、まだこんなに……いいわ……素敵♡」
そこには危ない女がトリップしていた! どの位、危ないかと言うと……体中に解体した魔物の血が付着するのも構わず、解体した肉に手を置き、弾力を愉しみながら、恍惚の表情を浮かべるくらいだ。
この前は、ギルドの制服を着ていたが、今日は血が付いても良いように、ツナギの作業着に身を包んでいた。通常の服に比べ、布の面積を多くする事で、動きやすさを考慮した作業着は体のラインが隠しやすい。
だが、その女のグラマラスなボディーは、ツナギの作業着を着ているにもかかわらず、男の視線を一点に集めさせるダイナマイトな部分が隠せずにいた。
インテリメガネに飛び散った血を拭わずに、ウットリとした表情を浮かべる女性は、間違いなくライムさん本人だった……。
「ライムちゃん、作業中に悪いんだけど、ちょっと良いかしら?」
「はっ! ギ、ギルドマスター! いつからそこに?」
「つい、今さっきよ。ノックしても返事がなかったから部屋に勝手に入らせてもらったわ。少し話があるのだけど良い?」
「はい。それじゃあ、あちらの事務部屋で話しましょう。あら? あなたはこの間、ランナーバードを持ち込んだ人ですね」
「はい。この前は解体していただいて、ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます。久しぶりに解体のしがいがある仕事で楽しかったです。立ち話もなんですから座って話しましょう」
そう言うと、ライムは奥にある事務作業用の小部屋へと、僕たちを案内してくれた。
部屋の中はそれほど広くはなく、事務作業用の机の他には、来客用のテーブルと椅子しか置かれていない。来客用の椅子に座る三人だが、おもむろにライムがツナギのボタンに手をかけ、ツナギの上を脱ぎ出した。
袖の部分を腰で結び、麻のシャツ一枚でヒロ達の前に座る……作業中にかいた汗が体に張り付き、ヒロの視線はライムの胸に釘付けになってしまう。メガネに付いた血糊さえ拭いていればコロっと惚れてしまいそうであった。
「作業中でしたので、こんな格好で申し訳ありません。それで話とは?」
「ええ、実は内密にしてほしいことがあるの。秘密は厳守して頂戴。下手したらアルムの町が、災厄に見舞われる可能性があるから……」
「さ、災厄ですか? 分かりました。秘密は厳守します」
真剣な眼差しのナターシャに、ただ事ならぬ雰囲気を感じたライムは、緊張しながら答える。
「内密にして欲しいのは、ヒロが持つアイテム袋と。中に入っているオーガベアの事なのよ」
『ガタッ』と、机に手をおきながら、急に椅子から立ち上がったライムは興奮で顔を赤くしていた。
「オーガベアー! まさか倒したのですか? あのオーガベアーを!」
「はい。このアイテム袋の中に入っています」
ヒロが腰から外したアイテム袋を、ライムに見せる。するとライムはヒロの元に駆け寄り、アイテム袋を持つヒロの手を『ガシッ』っと握る。絶対に逃さないと言わんばかりに、力を込めて握られたヒロの手が悲鳴を上げた!
「この中にオーガベアーが……ああ、信じられない。あの森の王者とも言われるオーガベアーがこの中に……見せて! 中に入っているオーガベアーを見せなさい! さあ早く! とっとと出しなさい!」
もの凄い剣幕でヒロの胸ぐらを掴み、ガクガクとヒロを揺するライム! ダイナマイトな胸がヒロに当たる……揺れながら当たる!
「ライムちゃん、落ち着きなさい。まずは約束して頂戴。話はそれからよ」
「ーーします。約束しますから! 誰にも言いません! だから早く見せて! アイテム袋なんかどうでもいいですから! オーガベアーを! 何でもしますから早く見せてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
目が血走り、狂気を孕んだライムの叫びに、ヒロは恐怖を感じ始めるのだった。
〈狂気の解体屋、ライムが真の正体を現した!〉
「コレ……本当にアイテム袋なのね」
「はい。中にオーガベアーが入っています」
「そう、ちょっと待って……いま考えをまとめるから」
ナターシャは頭を抱えて考え始める。
アイテム袋の話は、当然ナターシャも知っている。どんな小さな容量でも金貨数十枚の価値があり、希少価値が高いのは、冒険者なら誰でも知っていた。小さな容量程度なら、ナターシャ自身もギルド本部で見た事もあるので、希少ではあるが珍しい物ではなかった。
問題は入る容量である……ヒロの話の流れから何となく嫌な予感がしていたが、ドンピシャの回答にナターシャは頭を抱えざる得なくなってしまった。
オーガベアーの大きさは少なくとも二メートル以上。それが入るアイテム袋となると、少なくとも3㎥は必要になる……少なく見ても金貨四百枚以上の価値はあるのだ。
こんなものを普通に持っていると知れ渡れば、馬鹿な輩が確実に事を起こすのは明白だった。
ナターシャは数分無言になったかと思えば、急に顔を上げ『ジ~』っと、ヒロを見つめ始める。
「ヒロ、私の目を見なさい」
「目ですか?」
言われるがままヒロはナターシャの目を見ると、ナターシャの瞳の色が青色から赤色に変わっているのに気づいた。何だろうと思いヒロが質問する前に、ナターシャが口を開く。
「それを一体どうやって手に入れたの? ダンジョン?」
「いいえ、人から貰いました」
「盗んだり、奪ったりは……」
「そんなことしてませんよ」
「当然、人を殺して盗ったりは?」
「そ、そんなとんでもない事してませんから!」
「質問を変えるわ。オーガベアーは、あなた一人で倒したの?」
「いえ、リーシアと二人で倒しました」
「どこでオーガベアーと遭遇したの? その場所は?」
「南の森の外縁部から、少し入った所で遭遇しました」
「倒したオーガベアーは、そのアイテム袋に入っているのね?」
「はい」
「リーシアちゃんの事をどう思っているの?」
「ど、どうって……い、命の恩人? ってなんですか突然!」
「フフ、まあ嘘は言ってないわね」
「え?」
そう言うとナターシャの瞳の色が、赤色から元の青色の瞳に戻っていた。
「ふ~、悪いけど試させてもらったわ」
「え? 試すって?」
「実は私に嘘は吐けないのよ。私の固有スキルには、質問した答えが本当か嘘かを判別する力があるの。勝手にスキルを使ってごめんなさい」
「いえ、それでナターシャさんの中で、何か疑いが晴れたのなら、構いません」
「そう言ってもらえると助かるわ。アイテム袋を個人で持っている人は限られてくるから、正当な所有者かどうかを確かめないと大変な事になるのよ」
ナターシャは、かつて滅びたある国の話をしてくれた。
ある日、旅の商人がアイテム袋を、とある王国に持ち込み売りに出したそうだ。
アイテム袋は入る容量にもよるが、大量の物資や重い物を運ぶのにとても重宝する便利アイテム故に、誰もが欲しがるが中々手に入れる機会は少ない。
だからこそ、持ち込まれたアイテム袋に大国の王は大いに喜び、高値で買い上げた。
だが旅の商人が持ち込んだアイテム袋が、まっとうな手段で手に入れた物だったら問題はなかった……実は持ち込まれたアイテム袋は、隣の国で盗まれた物だったのだ。
当然、盗まれた国は返還を求めたが、買い上げた王も高いお金を出して購入した以上、『はいどうぞ』と返すなんてできない……肝心の旅の商人は旅立った後で消息不明。
そうこうしている内に互いの国の関係は悪化し、ついに国同士の戦争にまで発展してしまい、最終的には商人からアイテム袋を買い上げた国が滅び、元の国へ返還された。
それがキッカケとなり、それ以後アイテム袋の売買には正当な所有者かどうかを確かめるのが必須になったそうだ。
そう考えると、アイテム袋は便利な反面、所有するには常に厄介ごとを抱えて込む可能性が高いのだと、ヒロは知るのだった。
「なるほど……だからアイテム袋の話をした時、ナターシャさんは頭を抱えたんですね」
「そう言う事よ。ヒロが正当な所有者とは認めるけど、アイテム袋の話は内密にした方が良いわね。馬鹿な事をする連中がいるかも知れないから……」
「はい。リーシアからも言われました。実はそれで相談があるんですが……」
「アイテム袋の存在を隠して、オークベアーを売りたいって話かしら?」
察しの良いナターシャは、ヒロが言わんとしている事を先に言い当てる。
「そうなんです。どうやってギルドに売りに持ち込もうか、困っていて」
「う~ん、そうね。それなら専属のギルド職員を付けてあげるわ。リーシアちゃんのいるパーティーなら、専属がいても不思議じゃないしね」
「専属?」
ギルドには、数多くの冒険者が日々訪れる。あまりの多さに受付の順番待ちが発生する事が日常茶飯事だ。
だが、低ランクならまだしも高ランク冒険者も同じ様に受付に並ばせる訳にはいかない。高ランク冒険者は、当然高レベルのクエストを請け負ってもらう事になる。
高レベルのクエストは数多くあるが、高ランクの冒険者の数には限りがある。一つでも多くのクエストを受けてもらうため、ギルドでは専属のギルド職員を付け、優先的に受付けをする制度があった。
「とりあえず、専属には口止めをしておくわ。そうね~、ライムちゃんが適任かしら」
「ライムさんですか?」
「あら、知っているの?」
「ランナーバードを持ち込んだ時に、担当になってくれました」
「そう。なら話は早いわ。彼女、解体が趣味でカウンター業務を嫌がるから、解体部屋にいつも入り浸っているのよ。他の人と接触も少ないし、アイテム袋の情報も漏れ難いでしょう」
聞き間違いだと思いたい……怪しげなフレーズがヒロの耳に入る。
「解体が趣味?」
「魔物の解体に関しては天才的よ……まあ少し、変わっているけどね」
「変わっているって?」
「百閒は一件に如かず、実際に見てみれば分かるわ」
そのままナターシャが部屋を後にすると、ヒロも連れられて一階にある解体部屋へと向かった。
この前ライムに会った時には、特に問題なく丁寧に対応してくれたと記憶しているが……先日と同じ、五番の解体部屋の前まで来ると、ナターシャがノックして声を掛ける。
「ライムちゃん、ちょっと良いかしら? 話があるの」
だが、何も反応がない……留守なのかと思うヒロを置いて、ナターシャが扉を開け部屋の中に入って行く。ヒロも後に続き、部屋の中へ足を踏み入れるとそこには……。
「いいわ。この感触……死後硬直が始まっているのに、まだこんなに……いいわ……素敵♡」
そこには危ない女がトリップしていた! どの位、危ないかと言うと……体中に解体した魔物の血が付着するのも構わず、解体した肉に手を置き、弾力を愉しみながら、恍惚の表情を浮かべるくらいだ。
この前は、ギルドの制服を着ていたが、今日は血が付いても良いように、ツナギの作業着に身を包んでいた。通常の服に比べ、布の面積を多くする事で、動きやすさを考慮した作業着は体のラインが隠しやすい。
だが、その女のグラマラスなボディーは、ツナギの作業着を着ているにもかかわらず、男の視線を一点に集めさせるダイナマイトな部分が隠せずにいた。
インテリメガネに飛び散った血を拭わずに、ウットリとした表情を浮かべる女性は、間違いなくライムさん本人だった……。
「ライムちゃん、作業中に悪いんだけど、ちょっと良いかしら?」
「はっ! ギ、ギルドマスター! いつからそこに?」
「つい、今さっきよ。ノックしても返事がなかったから部屋に勝手に入らせてもらったわ。少し話があるのだけど良い?」
「はい。それじゃあ、あちらの事務部屋で話しましょう。あら? あなたはこの間、ランナーバードを持ち込んだ人ですね」
「はい。この前は解体していただいて、ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます。久しぶりに解体のしがいがある仕事で楽しかったです。立ち話もなんですから座って話しましょう」
そう言うと、ライムは奥にある事務作業用の小部屋へと、僕たちを案内してくれた。
部屋の中はそれほど広くはなく、事務作業用の机の他には、来客用のテーブルと椅子しか置かれていない。来客用の椅子に座る三人だが、おもむろにライムがツナギのボタンに手をかけ、ツナギの上を脱ぎ出した。
袖の部分を腰で結び、麻のシャツ一枚でヒロ達の前に座る……作業中にかいた汗が体に張り付き、ヒロの視線はライムの胸に釘付けになってしまう。メガネに付いた血糊さえ拭いていればコロっと惚れてしまいそうであった。
「作業中でしたので、こんな格好で申し訳ありません。それで話とは?」
「ええ、実は内密にしてほしいことがあるの。秘密は厳守して頂戴。下手したらアルムの町が、災厄に見舞われる可能性があるから……」
「さ、災厄ですか? 分かりました。秘密は厳守します」
真剣な眼差しのナターシャに、ただ事ならぬ雰囲気を感じたライムは、緊張しながら答える。
「内密にして欲しいのは、ヒロが持つアイテム袋と。中に入っているオーガベアの事なのよ」
『ガタッ』と、机に手をおきながら、急に椅子から立ち上がったライムは興奮で顔を赤くしていた。
「オーガベアー! まさか倒したのですか? あのオーガベアーを!」
「はい。このアイテム袋の中に入っています」
ヒロが腰から外したアイテム袋を、ライムに見せる。するとライムはヒロの元に駆け寄り、アイテム袋を持つヒロの手を『ガシッ』っと握る。絶対に逃さないと言わんばかりに、力を込めて握られたヒロの手が悲鳴を上げた!
「この中にオーガベアーが……ああ、信じられない。あの森の王者とも言われるオーガベアーがこの中に……見せて! 中に入っているオーガベアーを見せなさい! さあ早く! とっとと出しなさい!」
もの凄い剣幕でヒロの胸ぐらを掴み、ガクガクとヒロを揺するライム! ダイナマイトな胸がヒロに当たる……揺れながら当たる!
「ライムちゃん、落ち着きなさい。まずは約束して頂戴。話はそれからよ」
「ーーします。約束しますから! 誰にも言いません! だから早く見せて! アイテム袋なんかどうでもいいですから! オーガベアーを! 何でもしますから早く見せてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
目が血走り、狂気を孕んだライムの叫びに、ヒロは恐怖を感じ始めるのだった。
〈狂気の解体屋、ライムが真の正体を現した!〉
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