勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第4章 勇者と森のクマさん編

第38話 ヒーローvs オーガベアー 流星よ駆け上がれ!

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 オーガベアーは怒り狂っていた……取るに足りない小物と侮り、右目を潰されたことに憤慨していたのだ。

 痛みを感じるより、目の前の鬼に対しての怒りが勝り、絶対に逃すまいと鉄壁の如き巨体が鬼の前に立ちはだかる。

 鬼は全身にダメージを受けており、辛うじて立ち上がるも動きは鈍い。体中に傷を負い右足は骨折している。破壊してしまった右腕をダランと垂れ下げた鬼は、最後の足掻きを行うべく満身創痍の体で構える。

 確実に生き残るには、浸透系打撃技を確実に頭か心臓に決め、一撃で破壊するしかない。
 だが、いまの鬼には、オーガベアーの攻撃をかい潜って鬼の身長より上の、頭か心臓に攻撃を当てる余力は残されていなかった。

 鬼に残された道は、オーガベアーの左足のヒザを破壊し、足を奪った上で鬼化が終わる前に、できるだけ遠くに逃げるしかいなかった……確実に足のヒザを破壊しななければ、鬼化が解け動けなくなったところで、なぶり殺しだろう。

 鬼は覚悟を決め、最後の一撃を放つタイミングを計ろうとした時だった。


『今からそいつに隙を作ります。その隙を突いてください!』


 鬼の頭の中によく知る男の声が響くと、鬼は目を見開き声を上げた。


『なんで? 逃げてと言ったじゃないですか! あなたは馬鹿ですか!』

『文句は後で聞きますから! リーシアはそのまま殺気を放って、ソイツの注意を引き付けてください! さあ、行きますよ!』

「ぃ……ゃぁ……」


 何かがオーガベアーの背後から声を上げながら近づい来る。
 鬼はその声に聞き覚えがあった……微かに聞こえていた声がドンドン大きくなって行く。
 そしてそれは鬼達の前に姿を現した。


「イヤアアアアアアア!」



【魔草マンドラゴラが現れた】



 けたたましい声を上げながら疾走するマンドラゴラに、オーガベアーが反応して後ろを振り返った。
 一直線に走り来るマンドラゴラに、オーガベアーが殺気を放ち邪魔者に攻撃を加えようと待ち構える。

 だがマンドラゴラはオーガベアーの放つ殺気に反応し、直前に進路を左へと変更して逃げようとする。
 オーガベアーはマンドラゴラを片目で追い、顔と視線を左側へ向けてしまった。
 マンドラゴラと背後にいる鬼に警戒を向けるオーガベアーは気づいていなかった。マンドラゴラの後を離れて追走するヒロの気配に!

 真正面から攻撃しても有効打を打つ前に潰されると考えたヒロは、まずはオーガベアーの気を引き、攻撃を当てる方法を考えた。

 思考の果てに辿り着いたのがマンドラゴラだった。元の世界では走りはしなかったが、マンドラゴラの元になった逸話……実在する植物、マンドレイクの植生をヒロは思い出していた。


 マンドレイクは、分球か種で増えるナス科の多年草である。多年草とは冬が来ても枯れず、二年以上も同じ場所に自生する植物の事を指す。枯れた花の蕾から種は生まれ、地面に落ちた種が風に飛ばされることで、近い場所に繁殖する。

 同じような由来を持つ植物同士なら、繁殖方法も似ているのではないかと推測したヒロは、逃げて来た道を戻りながらマンドラゴラを探した。

 すると予想通り、自生していたマンドラゴラをヒロは見つけ、リーシアに褒められた堀りテクニックで素早く掘り出していた。あとはオーガベアーの方向へ、マンドラゴラに巻きつけたロープでうまく誘導して走らせるだけだった。
 
 そしてその結果……見事なまでにオーガベアーの注意を引き付けることに成功していた。


 ヒロは集中する。スローモーションのように感じられる世界で、リーシアと分かれた後の状況を瞬時に読み取り、情報の更新と攻略の修正を行う。

 オーガベアーの右目が閉じられ血を流すさまから、右側が死角となっていると判断した。左足を引きずる様子から、足に何らかのダメージを負っており、動きに支障をきたしていると見て取れた。

 リーシアは、なぜか激オコ状態で満身創痍、立つだけで精一杯な状態である。加えるなら、怒りで顔が変わりすぎていて……怖かった! リーシアの攻撃は、あと一回が限度だと判断する。

 ヒロにはオーガベアーを倒し切る力がない……ヒロが立てたオーガべアー攻略には、リーシアの一撃が必要不可欠だった。
 
 ヒロは、左へ折れたマンドラゴラを追わず直進する。右目を潰されたオーガベアーにとって、今や右側は死角となっていたからだ。

 ヒロはショートソードを構え、森を駆け抜ける。
 マンドラゴラに気を取られたオーガベアーは、ヒロの接近に気づくのが遅れた。ようやくヒロには気づいた時には、その間の距離を15mにまで詰めていた。

 距離的にはまだ余裕があり、ヒロの走るスピードは決して速くない。それがオーガベアーの慢心を招いた。
 オーガベアーは自分に走り来る者を、真正面から叩き潰すため、右腕の2本を構え振り下ろすタイミングを計るが……。


「Bダッシュ!」


 ヒロが声を上げると急に走る速度が上がり、深い踏み込みからジャンプしてオーガベアーへ跳び掛かる!
 Bダッシュとジャンプを組み合わせることで、ヒロは15mの距離を一気に縮めてオーガベアーの手前へと躍り出る!

 速度を緩めずにオーガベアーの顔の前にまで飛び上がったヒロは、上段の構えから剣を振り下ろすべく力を溜める!

 急に上がった速度に、オーガベアーは攻撃のタイミングをズラされ動きが止まっていた。ズラされたタイミングを、鬼の殺気を警戒して残しておいた左腕二本で補い水平に腕を振るう!

 空中を飛ぶヒロに攻撃はもう避けられない! 一度放たれた矢が軌道を変えられないように、ヒロに残された選択肢は相打ちか、迎撃されるかの二つに一つしかなかった……だが、それは普通ならばの話である!
 水平になぎ払われたオーガベアーの攻撃は、そこに居たはずのヒロに当たる事なく空を切っていた。

 突如、視界から消えたヒロを探すオーガベアー……辺りを見回すが見つけられない。微かに感じられた気配が、オーガベアーの背後にいる鬼が放つ殺気にかき消され、ヒロの姿を見失ってしまった。

 そして急に日の光に影が差し、辺りが暗くなったことを訝しんだオーガベアーが何気なく顔を上に向けるて……上空から自分に向かい、剣を構えながら落下して来るヒロの姿が見えた!

 攻撃が当たる瞬間、ヒロは二段ジャンプのスキルを使い、オーガベアーの頭上高くにまで、その身を跳ばしていた。

 身体操作スキルでイメージ通りに体を動かせるヒロは、落下の速度と上段に構えた剣の溜めに合わせ、オーガベアーに渾身の一撃を与えようと狙いを定めて落下して行く!

 流星のように、落下しながら上段からで斬り掛かるヒロの攻撃に、もうオーガベアーの回避と防御は間に合わない!

 
「当たれぇぇぇぇぇ!」


全てを賭けたヒロ渾身の一撃が!


 「「あっ……」」


 ……渾身の一撃が外れた!

 ヒロとリーシアの素っ頓狂な声がハモる……ヒロは目測を誤った。

 オーガベアーにギリギリ刃が届かず空振りすると、地面にその勢いのまま剣が突き刺さってしまった。硬めの地面に剣身が半ばまで埋まってしまい、固く動かなくなってしまう。

 いくら身体スキルでうまく体を動かせても、戦いの経験からなるタイミングや距離感は一長一短では養われない。経験がものをいう命のやり取りの中で、ヒロは致命的なミスを犯してしまった。

 思わぬ幸運に、オーガベアーが雄叫びを上げ腕を振り上げる!

 ヒロは地面の半ばにまで突き刺さった剣を両手に持ち、足を踏ん張るが抜き出せない……絶体絶命のピンチに、ヒロは集中によるスローモーションの世界で足掻き続けていた。

 引き伸ばされた時間の中で、生き残る方法をヒロは考える。


 集中しろ!
 剣を離して逃げても、なぶり殺されるだけだ。何としても隙を作り、リーシアの攻撃を当てなくちゃ……立つのが精一杯のリーシアは、もう限界だ。ここで決めなくてはもう後はない。

 集中しろ!
 剣は抜けない訳じゃない。少しずつだが抜けてきている……なら地面に埋まった剣に、いま以上の力を加えれば一気に引き抜けるかもしれない。生き残るチャンスは、もう今をおいて他にない!

 集中しろ!
 考えろ、考えろ、考えろ! 持てる全てを組み合わせろ。答えを見つけ出せ。お前に出来るのはそれだけなのだから、諦めるな!


 振り下ろされるオーガベアーの攻撃を見ながら。ヒロは叫ぶ。
  

「Bダッシュ!」
 

 限界まで地面を踏ん張り、Bダッシュとジャンプを組み合わせる事で、瞬間的に生まれた爆発的な力が体を前へ押し出していた!

  地面から一気にショートソードを引き抜くと、そのまま下から上へと剣を斬り上げながら、さらに二段ジャンプを発動する。

 オーガベアーに向かって加速した力は、勢いを殺すことなく二段ジャンプの能力で、真上に飛び上がる力へと変換された。

 地面から引き抜くために、限界以上に力を入れてショートソードを引き抜いた結果、溜めを作った攻撃と同じ……いや、それ以上の威力と鋭さを剣に与えていた。

 Bダッシュと二段ジャンプの力で、ヒロの剣撃は想像を超えた威力にまで高まり、オーガベアーへと放たれる!


「うぉぉぉぉぉっ!」


 ヒロが気合いを入れて剣を振り抜くと、剣の持つ鈍い銀光が線となって立ち昇る。


「オーガベアー! お前はここでゲームオーバーだ!」


 そして一条の銀の軌跡が地上から空に駆け上がった時、ついにヒロの剣が鉄壁の防御を斬り裂いた!



〈空に駆け上がる銀の流星に、少女は希望を見いだした〉
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