勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

文字の大きさ
上 下
37 / 226
第4章 勇者と森のクマさん編

第37話 勇者と嘘つきな少女!

しおりを挟む
「あんなリーシアお姉ちゃんを見るの初めてだよ」


 夕飯のランナーバードを美味しく頂き、お腹を膨らませたヒロは、リーシアと仲の良い弟分であるリゲルにそう話し掛けられた。


 ヒロはリゲルに案内され、孤児院にある男の子たちが集まって寝る部屋へとやって来ていた。
 子供たちは、就寝までの時間を思い思いに過ごしている。
 部屋の中に置かれたベッドは二段ベッドが六台置かれ、小さな子は大きな子と二人で一つのベッドを使っていてとても窮屈そうだった。

 ヒロはお客様と言うこともあり、ベッドを一つ丸々貸すと言われたが、この現状を見て一人で使うには気が引けてしまった……結果、体の小さなリゲルと同じベッドで寝ることになった。


 それは就寝までの間、リゲルにヒロがいろいろと質問攻めにされていた時の話だった。

 
「あんな?」

「うん、リーシアお姉ちゃんが、あんなに声を上げて怒るなんて初めて見たよ!」


 ヒロは先程の食堂での一端を思い出していた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 それは孤児院の皆が食堂に集まり、ランナーバードの料理に舌鼓を打っていた時だった。
 テーブルの上に置かれた大皿から、一人2枚までのルールで各々が自分のペースで焼き鳥を食べていた……ヒロは死闘を繰り広げたランナーバードの美味しさに感謝をしながら、その味を堪能していた。

 引き締まった肉は歯応えがあり、脂が乗った脂肪分が深いコクを出していた。絶妙な塩加減が深いコクをさらに際立たせ、絶妙な焼き加減が肉汁を無駄なく肉の中に封じ込めている。これは料理人の美味しく料理してあげたいと言う愛がなせる賜物か⁈

 噛むほどに口の中に広がる野生味溢れる味わいが、口の中を駆け抜けた時、大草原を走るランナーバードの情景がヒロの心の中に浮かび上がり、果てない草原を共に爆走していた!

 ようするに……『美味いぞぉぉぉぉぉ!』

 そんな風に、某料理アクションゲーム『氷のクッキングファイター零』みたいな料理解説をするヒロに、一緒に食事する子供たちは引いていた。


「ヒロ、子供たちがドン引きしていますので、静かに食事してください!」

「すみません……」


 リーシアにたしなめられたヒロは、一枚目の焼き鳥を完食し、二枚目へ突入しながら、先ほど脳裏をよぎったゲームを思い出していた。



『氷のクッキングファイター零』は、今でこそ有名になった某有名ゲームメーカーが、ブレイクする前に発売した料理ゲームである!

 ジャンルは世界初となる料理アクションゲームとして発売されたのだが、名前からは想像も出来ないほど熱い展開のパロディーが一部のファンを惹きつけて止まない。

 ゲームシステム的には、動きの少ないと言うか、ほとんど動かないシナリオパートを進行し、各章の最後に鎮座するボスキャラと料理で対決するのだが、コレが話題と言うか……大問題だった!

 この料理作成のアクションパートで対戦相手と戦うのがゲームのメインなのだが、調理の仕上げ作業中に相手を妨害し、タイムオーバーを狙って不戦勝を勝ち取ったり……調理が終了した対戦相手を物理的に倒せば、相手の料理を奪える奇想天外のシステムにプレイヤー達は度肝を抜かれた。

 奪った料理を、自分の料理として審査員に食べさせるも事もできてしまい、対戦相手は自らが作った料理を食べ、感想を述べた上で主人公に負けを認めるという、カオスな展開も用意されていた。
 
 料理を作るより、相手の料理を奪う方が効率の良い、料理ゲームにあるまじき禁断のシステムに組み込んできたのである。

『料理は力だ』と言う敵キャラに対して、主人公は『料理は愛だ』と語るが、勝利した料理は対戦相手から奪った料理……全てのプレイヤーは『お前が言うな!』とツッコミを入れたくなる、良い意味での馬鹿ゲーであった。



 思い出したら思わずプレイしたくなってしまうのがゲーマーのさがと言うもの……ヒロはソッと目をつぶり、心のゲーム機に電源を入れプレイしてしまう。


「とぉ! とぉ! はっ! セイッ! はっ! とぉ! セイッ! セイッ! 今だ! 行くぜ! 喰らいやがれ! 蒸し攻撃だああぁぁぁぁ!」

「笑止! 人は生きるために食べるのではない! 食べるために生きるのだ!」


 セリフ一字一句まで暗記するほどやり込んだゲームに没頭し、ついアクションパートのキャラの掛け声や、熱いセリフをヒロは一緒に叫んでしまっていた!

 そんなテンションがダダ上がりのヒロの後頭部に、突如『スパーン』と衝撃が走った。

 
「ヒロ! いい加減にしてください! 子供たちが怯えています! 意味不明なことを叫ばずに静かに食べてください! いいですね⁈」


 いつの間にかヒロの後ろにリーシアが立ち、頭を軽く叩かれていた。だがヒロは意味不明と言われた事に反論した。


「いえ、今のはですね、主人公の熱いセリフを『!』はい。申し訳ありませんでした……」


 顔は笑っているが、怒りのオーラが迸るリーシアのプレッシャーに負けたヒロは、最後まで無言で食事するのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 


 食堂での出来事を思い出す二人……。


「たしかに怒る時は怒るけど、手を挙げて怒られた事なんてないよ。それといつもと雰囲気が違って、なんか……」

「なんか?」

「なんか楽しそうだった!」

「え……あれで? 怒ってましたよね? 叩かれましたよね? 笑顔で怒りオーラが出てましたよね?」

「でも、あの後のリーシアお姉ちゃん、文句を言いながらも楽しそうだったよ」


 そうリゲルに言われ、リーシアの新たなる一面、S属性疑惑にヒロは直面した! ただでさえ攻撃力の高い少女が、他人に害を与えることに喜びを感じる性癖を持っていようとは……ヒロは心の中で恐怖していた。


「ヒロ兄ちゃん、リーシアお姉ちゃんは嘘がヘタなんだよ……隠しているつもりみたいだけどさ」

「隠しているつもり?」

「うん。いつも内緒でいろんなことをしているけど、バレバレなんだ」

「あー、それ俺も思う! バレバレだよな!」


 リゲルとの話に、他の子供たちが参加して来た。


「この前なんて、ポマトをつまみ食いしてバレてた!」

「掃除で僕が花瓶を割った時は、リーシア姉が身代わりになってくれたけど、バレて結局二人で怒られた!」

「風邪を引いて寝込んでいた時に、キイチが食べたいって言ったら、キイチを食べさせてくれたよ。親切な人がたまたま寄付してくれたって……バレバレ!」

「僕は誕生日にお腹一杯お肉が食べてみたいって言ったら、イノーシが偶然、道端で死んでいて女神様に感謝しましょうって……バレバレでしょ!」

 
 子供たちが次々とリーシアとのバレバレエピソードを持ち寄り、楽しそうに話しだす。その日、夜遅くまで子供たちとバレバレネタに興じるヒロは、リーシアの根底にある優しさ感じるのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 オーガベアーとの戦いから一人離脱するヒロ。


『ーー足手まといが居て邪魔なんです! ヒロがいて何の役に立つのですか? 私一人でなら役立たずを守って戦わなくて良い分、まだ勝機があります! だから……役立たずはサッサと逃げてください!』


 走りながらヒロは、リーシアの言葉を思い出していた。

 昨晩、子供達が話してくれたリーシアのバレバレネタを……下手クソな嘘で隠そうとする彼女の優しさを……自分だけでも逃そうと必死に嘘をつくリーシアの顔が、何度もヒロの脳裏に浮かでは消えていく。

 次第にヒロの走りは歩きへと変わり、そしていつの間にか立ち止まってしまった。

 そしてヒロは何も力になれない不甲斐ない自分に、逃げ出してしまった情けない今の自分に問いかける。
『お前は本当にそれで良いのかと?』と……心の中で何かが『否』と叫んでいた。


 それはヒロを叱咤する……二人で助かる道を見つけ出せと!
 
 それはヒロに促す……助かる道は必ずあるはずだと!

 それは声を上げて叫ぶ……諦める暇があるなら考えろと! 

 心の中に響く声に導かれ、ヒロは深い深い思考の海へとダイブする……ただ少女を助けるためだけに、彼は命を懸ける覚悟を決めた!
 

 集中しろ!
 リーシアと二人で生き残る方法を考えろ。

 集中しろ!
 あの熊に有効な攻撃手段が本当にないのかを考えろ。

 集中しろ!
 持ち得る技能、アイテム、状況、環境、ありとあらゆる物を組み合わせて考えろ。

 集中しろ!
 僕に出来るのはコレだけなのだから! 可能性を信じろ! 無駄だと思うことを無駄にするな! 全てを掛けて考え尽くせ! 答えはきっとあるのだから!


 そして深く長い思考の果てで、ついに彼は答えにたどり着くと、勇者ゲーマーが踵を返し、再び戦場へと走り出した!


 その目に恐れはすでにない……ただ少女を助けたいという純粋な気持ちが、彼を突き動かす!


数多あまた世界ゲーム救済クリアーした僕に、ヒロインを救わない選択肢なんてありやしない! 見せてやる…… 勇者ゲーマーの戦い方ってヤツをな!」



英雄ヒーローは、嘘がヘタな少女ヒロインを救うため、強敵へと立ち向かう!〉
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。 目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。 「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」 突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。 和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。 訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。 「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」 だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!? ================================================ 一巻発売中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...