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第2章 勇者と最悪な出会い編
第19話 激走、ランナーバード!
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ランナーバード Dランク 危険度 ★★★☆☆
巨体ゆえに空を飛べなくなった鳥系の魔物。飛べない代わりに脚の筋肉が発達し、地上を時速50kmで一時間以上、走り回れるスタミナを持つ。
普段は草原に生息しており、巨体を維持するのに一日に5kgものエサを必要とする。その餌を求めて毎日20kmも歩き回る。
エサが不足すると草原から森の中へ入り、エサを求めるて彷徨うこともしばしあるが、基本的に用心深く、臆病な性格なため、ランナーバードから近づいて来ることはあまりない。
だが、不意に遭遇した時には注意が必要である。臆病な性格故に、突発的な事態に遭遇するとパニックになり、誰かまわず襲い掛かって来るからである。
その鋭い鉤爪から繰り出される蹴りは、簡単に人を引き裂き、三歩で最高速度に達する脚力で体当たりをされれば、人は跳ね飛ばされてしまう。
一度戦闘になれば逃走は困難を極め……駆け出しの冒険者がランナーバードに遭遇したならば、死を覚悟して挑むことになるだろう。
著 冒険者ギルド 魔物図鑑参照
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「クエエエエエエェェェェェェ!」
不意に現れたランナーバードが、声を上げながらヒロ達に向かって走り出した。
「リーシアさん⁈」
「避けてください!」
二人同時に声を上げるが、急に現れたランナーバードとの距離は5mも離れておらず、ヒロはリーシアの声に反応が出来なかった。
避けられないと思った瞬間、咄嗟にリーシアがヒロを突き飛ばしていた!
リーシアは、ヒロを突き飛ばした反動を利用して反対側へと飛び退く。
「痛!」
リーシアが痛みで声を上げ、突き飛ばされたヒロは体勢を崩し、その場に倒れ込んでしまう。
体勢を立て直すべく急ぎ立ち上がったヒロは、ランナーバードがいる方向に顔を向け、痛みで声を上げたリーシアの様子をうかがおうとするが……。
「前を見て下さい! よそ見は禁物です!」
「ですが、怪我を!」
「これくらいなら大丈夫です。それよりランナーバードの動きをよく見て、避けて下さい。動き出したら大きく横に避ければ、回避できますから!」
腕を押さえながらリーシアが声を荒らげ、ランナーバードから視線を離したヒロを叱咤する。
突如始まった遭遇戦……ランナーバードの先制攻撃を辛くも避けたように見えたが、リーシアの二の腕から服が裂かれ血が流れ出ていた。
ランナーバードの突進からヒロを突き飛ばした際、鉤爪の蹴りが当たっていたようだ。幸い出血量は少なく、致命傷にまでは至ってはいないが状況は芳しくない。
「クエエエエエエェェ」
再びランナーバードが声を上げ、リーシアに突進を開始する。
ランナーバードは、その強靭な脚力でたった三歩でトップスピードに達すると、リーシアに肉薄し鋭い爪で前蹴りを繰り出して来た。
ランナーバードの蹴りは、飛び上がりながらの前蹴りになる。これは鳥類の身体の構造上、蹴りをするにはジャンプを用いなければならないからである。その為、必然的に飛び上がりながらの前蹴りになってしまうのだ。
スピードに乗ったジャンプ蹴りは、元のスピードと合わさり、さながらニ段ブーストの様にさらなる加速を得る。
リーシアが横に素早くステップし、ギリギリで回避すると、流れる様な動作で横回転からの後ろ回し蹴りを蹴り出すが、空振りに終わってしまう。
ランナーバードに攻撃を加えようにも、横に回避しながら攻撃したのでは遅すぎた。
リーシアが攻撃を加える頃には、ランナーバードの姿はすでにその場にはなく、彼女の蹴りの間合いから離脱しているのだ。ランナーバードの一撃離脱、ヒットアンドアウェイの動きに、ヒロは脅威を感じていた。
「厄介です! ランナーバードの攻撃を避けてからでは、コチラの攻撃が当たりません! 何とかして足を止めるか、ダメージ覚悟のカウンターに掛けるしかないです」
「足を止めるにしても……どうやって?」
ヒロは停滞した状況を打破するため、ランナーバードについて考え始めた。
空を飛べない鳥はヒロの世界にもいた。ダチョウと呼ばれた巨大な鳥がランナーバードに近い。
ダチョウの特徴をあげるとすると、誰もがまず足の速さを想像するだろう。だがダチョウには、足の速さよりも優れている点があることを知る人は少ない……それは視力である。
ダチョウは陸上生物では最大の眼球を持つとされており。脳味噌より目玉の方が大きいのだ。
それだけに目がとても良く、人間の視力平均が1.2と言われている中、ダチョウの視力は25と恐るべき視力を有している。動物の視力ランキングで1位になるくらいダチョウの視力は良い。
人間の中で、視力が最も良いとされる人で最高視力は13とされ、これは30m先のハエが見える程である。
対してダチョウは、40m先のアリの動きも見えていると言われている。
だが、鳥類の中で一番の視力を誇る反面、嗅覚や聴覚は他の動物よりも弱く、逆に言えば視力に頼った生き方をしているのだ。
攻撃が当たらないなら当たるようにすれば……リーシアが攻めあぐねている間にも、ランナーバードは再び走り出していた。
ヒロは足元の土を手に素早く握り締めると、ランナーバードの注意を引くために声を上げていた。
「こっちだ! こっちに来い! このチキン野郎!」
「なっ! ダメですヒロさん!」
「動きを止められないか試してみます。動きが止まったら攻撃をお願いします!」
ランナーバードが、今度はリーシアには向かわず、ヒロの方へと走り始めた。
ランナーバードをギリギリまでヒロは引き付けて……。
「Bダッシュ!」
急加速して、ランナーバードの飛び蹴りをヒロは回避する。そしてランナーバードの顔が通過するであろう場所に、手に握った土をばら撒いていた。
ランナーバードの目は、直径が5cmもありとても大きい……土とは言え、目に入れば一時的に視力を奪えるはずだ。いくら速く走れても、目が見えなければ無闇に動けなくなり、動きを止められるだろうとヒロは考えたが、それは失敗に終わる……ランナーバードは目に土が入る瞬間に目を閉じ、異物が目に入るのを防いでいたのである。
ヒロは以前、TVの情報番組で動きの速い動物は総じてまつ毛が長いと言っていたのを思い出していた。
これはまつ毛がセンサーの働きを担っており、目に異物が入ろうとすると、目を閉じる働きがあるからだった。人のように美しくなるため、まつ毛を増やしたり伸ばしたりはしていないのである。
ランナーバードもまつ毛が多くかなり長いが、それは走ることに特化した進化の結果なのだろう。
ランナーバードは飛び蹴りから着地すると、何事もなかったかのように距離を取り、僕たちの方へ体を向ける。
「待っていても状況は変わりません。攻めます!」
リーシアはランナーバードに攻撃すべく、前へと走り出していた。守りに入れば、体力の差でランナーバードに分がある以上、負けるのは自分たちだと判断したリーシアは、攻めに転じたのだ。
小柄なリーシアは、ランナーバードとのリーチ差を蹴りでカバーするため、スピードを乗せたハイキックを繰り出すが……空振りに終わり突き飛ばされてしまう!
リーシアが地面を派手に転がるが、すぐに立ち上がると何事もなかったかのように構える。
どうやらランナーバードの蹴りをとっさに後ろに飛び、地面を転がることでダメージを逃し事なきを得たようだ。
幸い、最高速に達する前の加速中だった事も功を奏した。
ランナーバードはリーシアを突き飛ばすと、そのまま距離を少し取り、体の向きを変えようと立ち止まる。
その瞬間を……ヒロは見逃さなかった。
「Bダッシュ!」
リーシアが吹き飛ばされるのを見ながらも、ヒロはランナーバードを後ろから追いかけていた。Bダッシュの加速がヒロをランナーバードに肉薄させ、後方からの気配にランナーバードが焦る。
「クエエエエエエェェ」
叫ぶランナーバードに、ヒロは解体用ナイフを腰に構えて突っ込む!
「なっ! アレを避けるのですか⁉︎」
リーシアが驚愕する声が森に響き渡った。ヒロの攻撃が当たったと思った瞬間、ランナーバードはその強力な脚力で真上に飛び上がり、攻撃を回避したのである。
ランナーバードの下を通り過ぎたヒロはすぐに止まれず、逆に着地したランナーバードに後ろから突進され、一瞬で数メートルも前に蹴り飛ばされてしまった!
「ヒロ、横に転がって!」
モロに攻撃を受け蹴り飛ばされたヒロは、リーシアの上げる声に反応してその場で立ち上がらず、痛みを堪えて横に転がった。
「クエェェェ」
ランナーバードの悔しそうな声が聞こえ、ヒロが蹴り飛ばされた場所を鋭利な鉤爪が通り過ぎて行く。もし横に転がらず、その場で立ち上がっていたら……今頃あの鉤爪でズタズタにされていただろう。
蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられたせいで体のあちこちが痛む……だが、痛いからといって立ち止まっているわけにはいかなかった。
「さあ! あなたの相手は私ですよ! こっちに来なさい! 今日の晩ご飯はチキンです!」
リーシアが手に装備したグローブを『ガン!ガン!』と打ち鳴らし、ランナーバードを挑発してヒロから引き離そうとしていた。
ランナーバードは見事なまでに引っ掛かり、リーシアに突撃して行く……さすがは目玉よりも小さい脳味噌。だが、あの身体能力は脅威的であり、いまだ打開策をヒロは見いだせない。
ランナーバードは無傷、こちらはヒロが体当たりを喰らってダメージを受けている。リーシアが奮戦しているが、有効打を打てず、戦況は悪い方へと傾きつつあった。
ヒロは今の状況と情報を元に考える……生き残るのに必要な何かを探すため、深い思考の海へと意識を沈めていた。
集中しろ!
それはゲームをクリアーするため、生活の全てを投げ打って命を捧げた時のように……。
集中しろ!
ひたすらトライ&エラーを繰り返し情報を集め、パーフェクトクリアーを目指した時のように……。
集中しろ!
この世にクリアー不可能なゲームはない。
設定ミスで製作者がクリアー不可能とまで言われた時ゲームさえも、バグ技を駆使してクリアーした時のように……。
集中しろ! 考えろ! 諦めるな! この世に絶対なんて存在しない!
ハイスコアーは常に更新される!
クリアータイムは日夜短縮される!
どんな高難易度でもいつかクリアーされる!
持ち得る全てを駆使して状況を打開しろ!
諦めるな……答えは必ずある!
そして思考の果てに、ヒロの脳裏に答えが浮かび上がるのだった。
〈勇者の集中が極限を迎えた時、勝利へ道が開けた〉
巨体ゆえに空を飛べなくなった鳥系の魔物。飛べない代わりに脚の筋肉が発達し、地上を時速50kmで一時間以上、走り回れるスタミナを持つ。
普段は草原に生息しており、巨体を維持するのに一日に5kgものエサを必要とする。その餌を求めて毎日20kmも歩き回る。
エサが不足すると草原から森の中へ入り、エサを求めるて彷徨うこともしばしあるが、基本的に用心深く、臆病な性格なため、ランナーバードから近づいて来ることはあまりない。
だが、不意に遭遇した時には注意が必要である。臆病な性格故に、突発的な事態に遭遇するとパニックになり、誰かまわず襲い掛かって来るからである。
その鋭い鉤爪から繰り出される蹴りは、簡単に人を引き裂き、三歩で最高速度に達する脚力で体当たりをされれば、人は跳ね飛ばされてしまう。
一度戦闘になれば逃走は困難を極め……駆け出しの冒険者がランナーバードに遭遇したならば、死を覚悟して挑むことになるだろう。
著 冒険者ギルド 魔物図鑑参照
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「クエエエエエエェェェェェェ!」
不意に現れたランナーバードが、声を上げながらヒロ達に向かって走り出した。
「リーシアさん⁈」
「避けてください!」
二人同時に声を上げるが、急に現れたランナーバードとの距離は5mも離れておらず、ヒロはリーシアの声に反応が出来なかった。
避けられないと思った瞬間、咄嗟にリーシアがヒロを突き飛ばしていた!
リーシアは、ヒロを突き飛ばした反動を利用して反対側へと飛び退く。
「痛!」
リーシアが痛みで声を上げ、突き飛ばされたヒロは体勢を崩し、その場に倒れ込んでしまう。
体勢を立て直すべく急ぎ立ち上がったヒロは、ランナーバードがいる方向に顔を向け、痛みで声を上げたリーシアの様子をうかがおうとするが……。
「前を見て下さい! よそ見は禁物です!」
「ですが、怪我を!」
「これくらいなら大丈夫です。それよりランナーバードの動きをよく見て、避けて下さい。動き出したら大きく横に避ければ、回避できますから!」
腕を押さえながらリーシアが声を荒らげ、ランナーバードから視線を離したヒロを叱咤する。
突如始まった遭遇戦……ランナーバードの先制攻撃を辛くも避けたように見えたが、リーシアの二の腕から服が裂かれ血が流れ出ていた。
ランナーバードの突進からヒロを突き飛ばした際、鉤爪の蹴りが当たっていたようだ。幸い出血量は少なく、致命傷にまでは至ってはいないが状況は芳しくない。
「クエエエエエエェェ」
再びランナーバードが声を上げ、リーシアに突進を開始する。
ランナーバードは、その強靭な脚力でたった三歩でトップスピードに達すると、リーシアに肉薄し鋭い爪で前蹴りを繰り出して来た。
ランナーバードの蹴りは、飛び上がりながらの前蹴りになる。これは鳥類の身体の構造上、蹴りをするにはジャンプを用いなければならないからである。その為、必然的に飛び上がりながらの前蹴りになってしまうのだ。
スピードに乗ったジャンプ蹴りは、元のスピードと合わさり、さながらニ段ブーストの様にさらなる加速を得る。
リーシアが横に素早くステップし、ギリギリで回避すると、流れる様な動作で横回転からの後ろ回し蹴りを蹴り出すが、空振りに終わってしまう。
ランナーバードに攻撃を加えようにも、横に回避しながら攻撃したのでは遅すぎた。
リーシアが攻撃を加える頃には、ランナーバードの姿はすでにその場にはなく、彼女の蹴りの間合いから離脱しているのだ。ランナーバードの一撃離脱、ヒットアンドアウェイの動きに、ヒロは脅威を感じていた。
「厄介です! ランナーバードの攻撃を避けてからでは、コチラの攻撃が当たりません! 何とかして足を止めるか、ダメージ覚悟のカウンターに掛けるしかないです」
「足を止めるにしても……どうやって?」
ヒロは停滞した状況を打破するため、ランナーバードについて考え始めた。
空を飛べない鳥はヒロの世界にもいた。ダチョウと呼ばれた巨大な鳥がランナーバードに近い。
ダチョウの特徴をあげるとすると、誰もがまず足の速さを想像するだろう。だがダチョウには、足の速さよりも優れている点があることを知る人は少ない……それは視力である。
ダチョウは陸上生物では最大の眼球を持つとされており。脳味噌より目玉の方が大きいのだ。
それだけに目がとても良く、人間の視力平均が1.2と言われている中、ダチョウの視力は25と恐るべき視力を有している。動物の視力ランキングで1位になるくらいダチョウの視力は良い。
人間の中で、視力が最も良いとされる人で最高視力は13とされ、これは30m先のハエが見える程である。
対してダチョウは、40m先のアリの動きも見えていると言われている。
だが、鳥類の中で一番の視力を誇る反面、嗅覚や聴覚は他の動物よりも弱く、逆に言えば視力に頼った生き方をしているのだ。
攻撃が当たらないなら当たるようにすれば……リーシアが攻めあぐねている間にも、ランナーバードは再び走り出していた。
ヒロは足元の土を手に素早く握り締めると、ランナーバードの注意を引くために声を上げていた。
「こっちだ! こっちに来い! このチキン野郎!」
「なっ! ダメですヒロさん!」
「動きを止められないか試してみます。動きが止まったら攻撃をお願いします!」
ランナーバードが、今度はリーシアには向かわず、ヒロの方へと走り始めた。
ランナーバードをギリギリまでヒロは引き付けて……。
「Bダッシュ!」
急加速して、ランナーバードの飛び蹴りをヒロは回避する。そしてランナーバードの顔が通過するであろう場所に、手に握った土をばら撒いていた。
ランナーバードの目は、直径が5cmもありとても大きい……土とは言え、目に入れば一時的に視力を奪えるはずだ。いくら速く走れても、目が見えなければ無闇に動けなくなり、動きを止められるだろうとヒロは考えたが、それは失敗に終わる……ランナーバードは目に土が入る瞬間に目を閉じ、異物が目に入るのを防いでいたのである。
ヒロは以前、TVの情報番組で動きの速い動物は総じてまつ毛が長いと言っていたのを思い出していた。
これはまつ毛がセンサーの働きを担っており、目に異物が入ろうとすると、目を閉じる働きがあるからだった。人のように美しくなるため、まつ毛を増やしたり伸ばしたりはしていないのである。
ランナーバードもまつ毛が多くかなり長いが、それは走ることに特化した進化の結果なのだろう。
ランナーバードは飛び蹴りから着地すると、何事もなかったかのように距離を取り、僕たちの方へ体を向ける。
「待っていても状況は変わりません。攻めます!」
リーシアはランナーバードに攻撃すべく、前へと走り出していた。守りに入れば、体力の差でランナーバードに分がある以上、負けるのは自分たちだと判断したリーシアは、攻めに転じたのだ。
小柄なリーシアは、ランナーバードとのリーチ差を蹴りでカバーするため、スピードを乗せたハイキックを繰り出すが……空振りに終わり突き飛ばされてしまう!
リーシアが地面を派手に転がるが、すぐに立ち上がると何事もなかったかのように構える。
どうやらランナーバードの蹴りをとっさに後ろに飛び、地面を転がることでダメージを逃し事なきを得たようだ。
幸い、最高速に達する前の加速中だった事も功を奏した。
ランナーバードはリーシアを突き飛ばすと、そのまま距離を少し取り、体の向きを変えようと立ち止まる。
その瞬間を……ヒロは見逃さなかった。
「Bダッシュ!」
リーシアが吹き飛ばされるのを見ながらも、ヒロはランナーバードを後ろから追いかけていた。Bダッシュの加速がヒロをランナーバードに肉薄させ、後方からの気配にランナーバードが焦る。
「クエエエエエエェェ」
叫ぶランナーバードに、ヒロは解体用ナイフを腰に構えて突っ込む!
「なっ! アレを避けるのですか⁉︎」
リーシアが驚愕する声が森に響き渡った。ヒロの攻撃が当たったと思った瞬間、ランナーバードはその強力な脚力で真上に飛び上がり、攻撃を回避したのである。
ランナーバードの下を通り過ぎたヒロはすぐに止まれず、逆に着地したランナーバードに後ろから突進され、一瞬で数メートルも前に蹴り飛ばされてしまった!
「ヒロ、横に転がって!」
モロに攻撃を受け蹴り飛ばされたヒロは、リーシアの上げる声に反応してその場で立ち上がらず、痛みを堪えて横に転がった。
「クエェェェ」
ランナーバードの悔しそうな声が聞こえ、ヒロが蹴り飛ばされた場所を鋭利な鉤爪が通り過ぎて行く。もし横に転がらず、その場で立ち上がっていたら……今頃あの鉤爪でズタズタにされていただろう。
蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられたせいで体のあちこちが痛む……だが、痛いからといって立ち止まっているわけにはいかなかった。
「さあ! あなたの相手は私ですよ! こっちに来なさい! 今日の晩ご飯はチキンです!」
リーシアが手に装備したグローブを『ガン!ガン!』と打ち鳴らし、ランナーバードを挑発してヒロから引き離そうとしていた。
ランナーバードは見事なまでに引っ掛かり、リーシアに突撃して行く……さすがは目玉よりも小さい脳味噌。だが、あの身体能力は脅威的であり、いまだ打開策をヒロは見いだせない。
ランナーバードは無傷、こちらはヒロが体当たりを喰らってダメージを受けている。リーシアが奮戦しているが、有効打を打てず、戦況は悪い方へと傾きつつあった。
ヒロは今の状況と情報を元に考える……生き残るのに必要な何かを探すため、深い思考の海へと意識を沈めていた。
集中しろ!
それはゲームをクリアーするため、生活の全てを投げ打って命を捧げた時のように……。
集中しろ!
ひたすらトライ&エラーを繰り返し情報を集め、パーフェクトクリアーを目指した時のように……。
集中しろ!
この世にクリアー不可能なゲームはない。
設定ミスで製作者がクリアー不可能とまで言われた時ゲームさえも、バグ技を駆使してクリアーした時のように……。
集中しろ! 考えろ! 諦めるな! この世に絶対なんて存在しない!
ハイスコアーは常に更新される!
クリアータイムは日夜短縮される!
どんな高難易度でもいつかクリアーされる!
持ち得る全てを駆使して状況を打開しろ!
諦めるな……答えは必ずある!
そして思考の果てに、ヒロの脳裏に答えが浮かび上がるのだった。
〈勇者の集中が極限を迎えた時、勝利へ道が開けた〉
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