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第2章 レアクエスト編
第32話 リンと覚醒せし者 前編
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「私のリンを泣かせたな!」
頭の中がクリアーになり、思考が加速する。リンを泣かすクソ野郎を完膚なきまでに叩き伏せろと心が叫ぶ。
激情に渦巻く心と裏腹に、その目は冷徹にゴミを見るような眼差しでカオスドラゴンを見据えていた。
ハルカはただ、カオスドラゴンを倒すためだけに意識を集中する。
異常とも言える過剰な集中……それはハルカを『聖域』と呼ばれる特殊な意識状態へ誘う。加速する思考は、あらゆる情報を読み取り、狂える竜を倒すために策を練る。
「……」
(さあ、どうする? アイツを倒すにしてもどうやって? また弱点である首元の黒球を狙う? だけどそれを破壊してもアイツは復活した。アレは弱点じゃない? ……違う。あれは絶対に急所のはずだわ。アイツを倒した時、経験値が入ってレベルアップした。つまり倒せてはいた)
「ダ、ダメ、はーちゃん! ダメ!」
そんなハルカの変化を、泣いていたリンは感じ取り、止めようとするかが、『ゾーン』に入り込んだハルカの耳には届かない。
「……」
(そういえば、レアクエストの詳細が変わっていた。報酬金額アップとクエスト継続中の表示……そうか、これは継続クエストなんだ。おそらく一回倒してもクエストは終わらず、内容が更新されアイツは復活する? なら、倒し続ければいつかクエストは終わり、クリアー扱いになる?)
ハルカを止めようと、リンは立ち上がり手を伸ばすが、タッチの差で届かない。ハルカは腰に収めた二丁のデザートイーグルを引き抜きながら、カオスドラゴンに向かって走り出していた。
「グォー!」
「……」
(やれたとしてもあと一回が限界、これでクエストクリアーになればいいけど……違う、やるんだ。たとえ弾が尽きたとしても、殴ってでもコイツは倒す。リンに涙を流させたこと、絶対に許さない!)
自分に向かい来る敵を見て、カオスドラゴンは体を回転させ、太い尻尾を叩きつける。ハルカはタイミングを計り避けようとした瞬間――尻尾を覆うウロコが爆発させる。
「……」
(ウロコを爆発させて攻撃スピードを上げた⁈ 爆発の威力も上がってる。でも遅い!)
ハルカは無言で、迫り来る尻尾を背面跳びの要領で軽々と跳び避けてしまう。クリアーになった視界と加速する思考……ふたつが合わさった今のハルカにとって、カオスドラゴンの攻撃など、もはや恐るものではなかった。
尻尾を跳びこえた瞬間、手にする銃から二発の弾丸が撃ち出され、それはコンマ何秒の違いでカオスドラゴンの尻尾に着弾する。
一発目の弾丸がウロコに穴を穿ち、リアクティブアーマー爆発させる。間髪を入れず、二発目の弾丸が寸分違わず同じ場所に撃ち込まれる。だが、二発目の弾丸は浅い小さな傷を作るだけで、硬い皮膚に弾かれてしまった。
「……」
(硬い。最初の時よりも、ウロコの下が硬くなっている。これじゃあ、もう一度、首元の黒球を攻撃しようにも貫けない。じゃあ、どうやってアイツの防御を突破する?)
加速する思考は、カオスドラゴンを倒す手段を模索する。その間にも攻撃は続くが、ハルカはそのすべてを避け続ける。
「……」
(これならやれる? いや、やるんだ。残りの弾を撃ち尽くそうとも構わない。リンを泣かしたコイツを絶対に許さない)
するとハルカは、腰のホルスターに銃をしまい、腰に差していた空のマガジンを取り出す。その間も続くカオスドラゴンの攻撃を避けながら、腰に吊るしたポーチから数発の弾丸を取り出し順番に詰めていく。
「……」
(通常弾、地、風、火、氷、水、この順番でうまくいくか? アイツにも属性システムが適用されているならいけるはず。いや、クマ吉のファイヤーボールや属性弾が効いたんだから適用はされている。やれるはずよ)
ハルカは属性弾を詰め終えるとマガジンを腰に差し、再び銃を手にする。残る弾丸は、銃のマガジンに装填された.50AE弾が五発ずつ、そして属性弾を詰めたマガジンしか残されていなかった。
「……」
(さあ、リンに涙を流させたこと後悔させてやる。私のすべてを撃ち尽くす!)
ハルカは真っ向勝負とカオスドラゴンに真正面から走り寄る。カオスドラゴンはタイミングを計り、爪の届く範囲にハルカが入ると同時に右手を上げ、コタロウを葬った必殺の爪を振るう。
ヒジのウロコが爆発し、破壊力とスピードを増した凶撃がハルカに迫る。
「……」
(それは、もう見た)
ハルカは左手のデザートイーグルをおもむろに上げ、ノールックでカオスドラゴンの体を支える左腕へ、マガジンの中に残る五発のマグナム弾をすべて撃ち出す。
「グォォ⁈」
左手首に並ぶ五枚のウロコに五弾丸が撃ち込まれ、リアクティブアーマーは爆発する。その瞬間、カオスドラゴンの体は傾き、バランスを崩してしまう。そして右手から繰り出した凶撃の軌道は逸れた。
「……」
(威力がありすぎるのも考えものよ。リアクティブアーマーの爆発力は上がっても、デメリットが発生してたんじゃ意味がない!)
ハルカの頭上を、カオスドラゴンの爪が通り過ぎていく。ガンナーは撃ち尽くしたデザートイーグルのマガジンキャッチを操作して、空のマガジンを地面に落とす。同時に右手に持つ銃の照準を首元の弱点部分に合わせ、引き金を連続で引いた。
「グギャアァァァァ」
首元のウロコが爆発し、皮膚が露出する。だがハルカの攻撃はウロコを削いだだけで、下の皮膚は傷ついていない。強靭になった自分の体にカオスドラゴンは不敵な笑みを浮かべる。
「……」
(その笑いを……泣き顔に変えてやる)
ハルカは撃ち尽くした右手の銃を投げ捨て、腰に差した最後のマガジンを左手の銃に装填しチェンバーを引く。両手で銃のグリップを握り締め、露出した肌に照準を合わせ、トリガーを迷うことなく引く。
瞬時に撃ち出された六発の弾丸……ハルカは、一呼吸で全弾を撃ち尽くす。
一発目の水属性の弾丸が着弾すると、皮膚に残る熱を奪い周囲を水で濡らす。
二発目の氷属性の弾丸は濡れた肌を急速に冷やし、瞬時に肌を凍りつかせる。
三発目、火属性の弾丸が凍りついた肌を熱し、一気に氷を溶かしながら砕く。
四発目、風属性の弾丸が風を巻き起こし、火を炎へと変え火力を上げる。冷やされていた皮膚は、急激な温度変化により硬い肌を脆くする。
五発目、最も硬く重い土属性の弾丸が脆くなった肌に、穴を穿つ。
六発目、寸分の狂いなく空いた穴に、マグナム弾が飛び込んでいく。コンクリートブロックを、一瞬で粉々に砕く恐るべき力を秘めた弾丸が、カオスドラゴンの中で爆ぜる。
六発の弾丸は、一ミリもズレることなく首の付け根に喰らいつき、狂える竜の体に大きな穴を穿つことで、体内から弱点である黒い結晶体をさらけ出した。
「グアァァァァ⁈」
「……」
(さあ、泣き叫べ!)
ハルカは露出した黒球に向かって走り跳び、銃のグリップを渾身の力で叩きつけた。その瞬間、結晶体にヒビが入り――砕け散った。
「グギャアァァァァァァァァァッ!」
コアが破壊力されると同時に、カオスドラゴンは天に向かって断末魔を上げ、そのまま横に倒れていく。
カオスドラゴンに巻き込まれないよう、後ろに飛び退くハルカ……そのとき、ハルカは後ろにいた何かと『ドン』とぶつかり、バランスを崩して転んでしまう。
混沌の竜によって『ズシン』と揺れる大地……その揺れが治まると同時に目を開いたハルカの前には、親友リンの顔があった。
「……」
(リン……)
「はーちゃ、戻ってきて! もう三分も経っているの、お願い!」
「……」
(三分……ヤバい!)
リンの言葉に、ハルカは頭のスイッチを切る。異常な集中を解き、ゾーンから抜け出る少女……その瞬間、脳は足りない酸素を求め、呼吸を再開する。体は空気を急速に肺へ送ろうとして、ハルカは激しく咳込む。
「ゴホッ! ゴホッ……」
体は酸素を求め続け、ハルカは荒い息を吐きながら苦しみの表情を浮かべる。ゾーンに至った代償なのか、体から力が抜け、まともに動けなくなっていた。
リンは横たわるハルカの頭を抱きかかえ、顔を覗き込むと――
「はーちゃんのばか!」
――真剣な眼差しでリンは怒り、ハルカの心をえぐる。
「ゴホッ、リ、リン……」
「わたしと約束したよね。アレは使わないって⁈」
「リンを泣かしたアイツを見たら、ついカッとなって……ゴホッ」
「……」
ハルカの答えにリンは無言で答える。その瞳に再び涙が浮かんでいた。
「約束を破って、ごめん」
自分を思って怒ってくたことに、ハルカは反省し素直に謝まる。その言葉にリンの目は、いつもの優しげな眼差しへと変わる。
「体は大丈夫なの?」
「力が入らない。VR世界のはずなのになんでかな? いくらリアルが売りだからって、現実世界と体の状態がリンクするなんてありえないわね……」
「はーちゃん、ログアウトして」
リンは顔を青くしながら、ハルカにログアウトを促すのだが……。
「まだ大丈夫よ」
「大丈夫じゃないよ。ゲームの中なのに、体が動かないなんて変だよ。早くログアウトして!」
「ダメ……いま私がログアウトしたら、クエストは強制終了しちゃう。せめてアイツを倒してコタロウの仇を討たなきゃ。クエストはどうなっているの?」
「待って」
ハルカの言葉にイヤな予感を覚えたリンは、急ぎクエストの詳細を表示する。
◆【強制クエスト】継続中……
レベル80
初心者の洞窟に現れた混沌の竜を退治せよ!
報酬 50万ゴル
必要討伐数 1匹
期限 あり
発生条件
【機獣召喚】スキル所持者がパーティー内にいること
発生条件を満たすと、強制的にクエストは開始される
プレイヤーはクエスト中、以下の制限を受けます
・ショックアブソーバーの強制オフ
・クエストのキャンセルは不可
・プレイヤーによる任意のログアウトは不可
・ゲームを強制終了した場合、クエストは失敗と判定される
・このクエストで召喚獣のHPがゼロになる。もしくはクエストに失敗した場合、召喚中の召喚獣データは消去され、以後は召喚できなくなる
「はーちゃん、クエストが……」
「グゥゥゥッ」
リンの言葉を裏付けるかのように、ピクリともしなかったカオスドラゴンは唸り声を上げた。
ハルカによって破壊された黒球は、まるでTVレコーダーの録画番組を早戻しするかのように再生し、傷口を瞬く間に塞いでいく。
そして何事もなかったかのように、カオスはノソリと立ち上がり――
「グォォォォ!」
――復活の雄叫びを上げるのであった。
……To be continued『リンと覚醒せし者 後編』
頭の中がクリアーになり、思考が加速する。リンを泣かすクソ野郎を完膚なきまでに叩き伏せろと心が叫ぶ。
激情に渦巻く心と裏腹に、その目は冷徹にゴミを見るような眼差しでカオスドラゴンを見据えていた。
ハルカはただ、カオスドラゴンを倒すためだけに意識を集中する。
異常とも言える過剰な集中……それはハルカを『聖域』と呼ばれる特殊な意識状態へ誘う。加速する思考は、あらゆる情報を読み取り、狂える竜を倒すために策を練る。
「……」
(さあ、どうする? アイツを倒すにしてもどうやって? また弱点である首元の黒球を狙う? だけどそれを破壊してもアイツは復活した。アレは弱点じゃない? ……違う。あれは絶対に急所のはずだわ。アイツを倒した時、経験値が入ってレベルアップした。つまり倒せてはいた)
「ダ、ダメ、はーちゃん! ダメ!」
そんなハルカの変化を、泣いていたリンは感じ取り、止めようとするかが、『ゾーン』に入り込んだハルカの耳には届かない。
「……」
(そういえば、レアクエストの詳細が変わっていた。報酬金額アップとクエスト継続中の表示……そうか、これは継続クエストなんだ。おそらく一回倒してもクエストは終わらず、内容が更新されアイツは復活する? なら、倒し続ければいつかクエストは終わり、クリアー扱いになる?)
ハルカを止めようと、リンは立ち上がり手を伸ばすが、タッチの差で届かない。ハルカは腰に収めた二丁のデザートイーグルを引き抜きながら、カオスドラゴンに向かって走り出していた。
「グォー!」
「……」
(やれたとしてもあと一回が限界、これでクエストクリアーになればいいけど……違う、やるんだ。たとえ弾が尽きたとしても、殴ってでもコイツは倒す。リンに涙を流させたこと、絶対に許さない!)
自分に向かい来る敵を見て、カオスドラゴンは体を回転させ、太い尻尾を叩きつける。ハルカはタイミングを計り避けようとした瞬間――尻尾を覆うウロコが爆発させる。
「……」
(ウロコを爆発させて攻撃スピードを上げた⁈ 爆発の威力も上がってる。でも遅い!)
ハルカは無言で、迫り来る尻尾を背面跳びの要領で軽々と跳び避けてしまう。クリアーになった視界と加速する思考……ふたつが合わさった今のハルカにとって、カオスドラゴンの攻撃など、もはや恐るものではなかった。
尻尾を跳びこえた瞬間、手にする銃から二発の弾丸が撃ち出され、それはコンマ何秒の違いでカオスドラゴンの尻尾に着弾する。
一発目の弾丸がウロコに穴を穿ち、リアクティブアーマー爆発させる。間髪を入れず、二発目の弾丸が寸分違わず同じ場所に撃ち込まれる。だが、二発目の弾丸は浅い小さな傷を作るだけで、硬い皮膚に弾かれてしまった。
「……」
(硬い。最初の時よりも、ウロコの下が硬くなっている。これじゃあ、もう一度、首元の黒球を攻撃しようにも貫けない。じゃあ、どうやってアイツの防御を突破する?)
加速する思考は、カオスドラゴンを倒す手段を模索する。その間にも攻撃は続くが、ハルカはそのすべてを避け続ける。
「……」
(これならやれる? いや、やるんだ。残りの弾を撃ち尽くそうとも構わない。リンを泣かしたコイツを絶対に許さない)
するとハルカは、腰のホルスターに銃をしまい、腰に差していた空のマガジンを取り出す。その間も続くカオスドラゴンの攻撃を避けながら、腰に吊るしたポーチから数発の弾丸を取り出し順番に詰めていく。
「……」
(通常弾、地、風、火、氷、水、この順番でうまくいくか? アイツにも属性システムが適用されているならいけるはず。いや、クマ吉のファイヤーボールや属性弾が効いたんだから適用はされている。やれるはずよ)
ハルカは属性弾を詰め終えるとマガジンを腰に差し、再び銃を手にする。残る弾丸は、銃のマガジンに装填された.50AE弾が五発ずつ、そして属性弾を詰めたマガジンしか残されていなかった。
「……」
(さあ、リンに涙を流させたこと後悔させてやる。私のすべてを撃ち尽くす!)
ハルカは真っ向勝負とカオスドラゴンに真正面から走り寄る。カオスドラゴンはタイミングを計り、爪の届く範囲にハルカが入ると同時に右手を上げ、コタロウを葬った必殺の爪を振るう。
ヒジのウロコが爆発し、破壊力とスピードを増した凶撃がハルカに迫る。
「……」
(それは、もう見た)
ハルカは左手のデザートイーグルをおもむろに上げ、ノールックでカオスドラゴンの体を支える左腕へ、マガジンの中に残る五発のマグナム弾をすべて撃ち出す。
「グォォ⁈」
左手首に並ぶ五枚のウロコに五弾丸が撃ち込まれ、リアクティブアーマーは爆発する。その瞬間、カオスドラゴンの体は傾き、バランスを崩してしまう。そして右手から繰り出した凶撃の軌道は逸れた。
「……」
(威力がありすぎるのも考えものよ。リアクティブアーマーの爆発力は上がっても、デメリットが発生してたんじゃ意味がない!)
ハルカの頭上を、カオスドラゴンの爪が通り過ぎていく。ガンナーは撃ち尽くしたデザートイーグルのマガジンキャッチを操作して、空のマガジンを地面に落とす。同時に右手に持つ銃の照準を首元の弱点部分に合わせ、引き金を連続で引いた。
「グギャアァァァァ」
首元のウロコが爆発し、皮膚が露出する。だがハルカの攻撃はウロコを削いだだけで、下の皮膚は傷ついていない。強靭になった自分の体にカオスドラゴンは不敵な笑みを浮かべる。
「……」
(その笑いを……泣き顔に変えてやる)
ハルカは撃ち尽くした右手の銃を投げ捨て、腰に差した最後のマガジンを左手の銃に装填しチェンバーを引く。両手で銃のグリップを握り締め、露出した肌に照準を合わせ、トリガーを迷うことなく引く。
瞬時に撃ち出された六発の弾丸……ハルカは、一呼吸で全弾を撃ち尽くす。
一発目の水属性の弾丸が着弾すると、皮膚に残る熱を奪い周囲を水で濡らす。
二発目の氷属性の弾丸は濡れた肌を急速に冷やし、瞬時に肌を凍りつかせる。
三発目、火属性の弾丸が凍りついた肌を熱し、一気に氷を溶かしながら砕く。
四発目、風属性の弾丸が風を巻き起こし、火を炎へと変え火力を上げる。冷やされていた皮膚は、急激な温度変化により硬い肌を脆くする。
五発目、最も硬く重い土属性の弾丸が脆くなった肌に、穴を穿つ。
六発目、寸分の狂いなく空いた穴に、マグナム弾が飛び込んでいく。コンクリートブロックを、一瞬で粉々に砕く恐るべき力を秘めた弾丸が、カオスドラゴンの中で爆ぜる。
六発の弾丸は、一ミリもズレることなく首の付け根に喰らいつき、狂える竜の体に大きな穴を穿つことで、体内から弱点である黒い結晶体をさらけ出した。
「グアァァァァ⁈」
「……」
(さあ、泣き叫べ!)
ハルカは露出した黒球に向かって走り跳び、銃のグリップを渾身の力で叩きつけた。その瞬間、結晶体にヒビが入り――砕け散った。
「グギャアァァァァァァァァァッ!」
コアが破壊力されると同時に、カオスドラゴンは天に向かって断末魔を上げ、そのまま横に倒れていく。
カオスドラゴンに巻き込まれないよう、後ろに飛び退くハルカ……そのとき、ハルカは後ろにいた何かと『ドン』とぶつかり、バランスを崩して転んでしまう。
混沌の竜によって『ズシン』と揺れる大地……その揺れが治まると同時に目を開いたハルカの前には、親友リンの顔があった。
「……」
(リン……)
「はーちゃ、戻ってきて! もう三分も経っているの、お願い!」
「……」
(三分……ヤバい!)
リンの言葉に、ハルカは頭のスイッチを切る。異常な集中を解き、ゾーンから抜け出る少女……その瞬間、脳は足りない酸素を求め、呼吸を再開する。体は空気を急速に肺へ送ろうとして、ハルカは激しく咳込む。
「ゴホッ! ゴホッ……」
体は酸素を求め続け、ハルカは荒い息を吐きながら苦しみの表情を浮かべる。ゾーンに至った代償なのか、体から力が抜け、まともに動けなくなっていた。
リンは横たわるハルカの頭を抱きかかえ、顔を覗き込むと――
「はーちゃんのばか!」
――真剣な眼差しでリンは怒り、ハルカの心をえぐる。
「ゴホッ、リ、リン……」
「わたしと約束したよね。アレは使わないって⁈」
「リンを泣かしたアイツを見たら、ついカッとなって……ゴホッ」
「……」
ハルカの答えにリンは無言で答える。その瞳に再び涙が浮かんでいた。
「約束を破って、ごめん」
自分を思って怒ってくたことに、ハルカは反省し素直に謝まる。その言葉にリンの目は、いつもの優しげな眼差しへと変わる。
「体は大丈夫なの?」
「力が入らない。VR世界のはずなのになんでかな? いくらリアルが売りだからって、現実世界と体の状態がリンクするなんてありえないわね……」
「はーちゃん、ログアウトして」
リンは顔を青くしながら、ハルカにログアウトを促すのだが……。
「まだ大丈夫よ」
「大丈夫じゃないよ。ゲームの中なのに、体が動かないなんて変だよ。早くログアウトして!」
「ダメ……いま私がログアウトしたら、クエストは強制終了しちゃう。せめてアイツを倒してコタロウの仇を討たなきゃ。クエストはどうなっているの?」
「待って」
ハルカの言葉にイヤな予感を覚えたリンは、急ぎクエストの詳細を表示する。
◆【強制クエスト】継続中……
レベル80
初心者の洞窟に現れた混沌の竜を退治せよ!
報酬 50万ゴル
必要討伐数 1匹
期限 あり
発生条件
【機獣召喚】スキル所持者がパーティー内にいること
発生条件を満たすと、強制的にクエストは開始される
プレイヤーはクエスト中、以下の制限を受けます
・ショックアブソーバーの強制オフ
・クエストのキャンセルは不可
・プレイヤーによる任意のログアウトは不可
・ゲームを強制終了した場合、クエストは失敗と判定される
・このクエストで召喚獣のHPがゼロになる。もしくはクエストに失敗した場合、召喚中の召喚獣データは消去され、以後は召喚できなくなる
「はーちゃん、クエストが……」
「グゥゥゥッ」
リンの言葉を裏付けるかのように、ピクリともしなかったカオスドラゴンは唸り声を上げた。
ハルカによって破壊された黒球は、まるでTVレコーダーの録画番組を早戻しするかのように再生し、傷口を瞬く間に塞いでいく。
そして何事もなかったかのように、カオスはノソリと立ち上がり――
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