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第2章 レアクエスト編
第30話 リンと極限の世界 前編
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「娘さんの症状に、劇的な快復が見られました」
背もたれのあるイスに座った白衣の男の言葉に、対面にいた女性は大きく目を見開いた。
「本当ですか先生! それじゃあ、娘は……助かるのですか⁈」
思ってもいなかった言葉に、女性は声のトーンを上げイスから立ち上がると、医師に詰め寄った。
「お母さん、落ち着いてください」
「おまえ、止めなさい。先生が話せないじゃないか」
「だってあなた、このままじゃ長くは生きられないかもって言われていたあの子が……」
母親の隣に座っていた父親は、医師に詰め寄る妻を止めようとすると、母親はうつむき涙を流していた。
父親は母親の肩に手をおき、落ち着くまで軽く抱きしめた。数分の後、ようやく落ち着きを取り戻した夫婦はイスに座り直し、あらためて医師から娘の症状について説明を受ける。
「先生、症状が快復されたのなら、娘は助かるのですか?」
「結論からいうと、治ったわけではありません。ですが症状は劇的に緩和されつつあります。とくに過密集中による無呼吸症候群は抑えられ、自動心肺器を取り付けなくてもよいくらいにまで、快復が認められました」
「じゃあ、娘は他の子と同じように普通に生きられるの⁈」
「おそらくはとしか……なにぶん娘さんの症状は、今まで報告されたことのない症例です。どの範囲で完治と言っていいのかわかりません。ですが、間違いなく言えることは、今の状態を維持できるなら、長く生きていけます」
「良かった。娘は生きられるのね」
医師の言葉に母親の瞳に涙が浮かび、それを見た父親は妻の手を握る。
「先生、質問があります。娘の症状が快復されたことはわかりました。ですが、今の状態を維持とは?」
「それなのですが……実際のところ、いまの医学では娘さんの病気を治すことは難しく、対症療法も見つかっていません」
「それは何度も聞いています。娘は異常なまでの過密集中により、本来なら意識しなくて行える自発呼吸が止まると……」
「そうです。意識を集中することで、娘さんの脳はゾーンと呼ばれる極限の集中状態に切り替わります。常人ではありえない集中により、人の限界を超えた驚異的な身体能力を発揮するばかりか、体が感じる痛みや苦しみからも解放された状態になります」
「たしか、一部のトップアスリートや、一流のスポーツ選手はゾーンを体験していると……」
「ええ、ゾーン自体は昔からあると言われていますが、いまだそのメカニズムは解明されていません。一部の天才と呼ばれる人が持つといわれるものを、娘さんは持っていました」
「本来ならば喜ぶべき神からの贈り物を、娘は過剰に渡された……」
「そうです。娘さんの場合、あまりにも過密に集中するあまり、本来なら止まらない自発呼吸を止めてしまいます。そして体が呼吸困難で危険信号を脳に送っても、ゾーンに至った彼女は苦しさも感じられず集中を続け……」
「脳が酸欠状態に陥り窒息死してしまう。だから、いつ呼吸が止まってもいいように、常に自動呼吸機を着けなければならないなんて…… うちの娘が何をしたというんですか⁈」
母親は誰にぶつけるでもなく、怒りを露わにしていた。
「技術の進歩で呼吸器はかなり小型化したと聞いています。ランドセル並の大きさの機械を背負えば生きていけると説明は受けましたが、そんなものを娘は一生着けなければならないとは、こんな呪われた贈り物を押しつけた神をぶん殴ってやりたい!」
父親は手を力一杯握り込み、神に怒りをぶつける。
「お二人とも落ち着いてください」
医師は夫婦をなだめ、落ち着きを取り戻すのを待つ。
「取り乱してしまい申し訳ありません。一生あのままだと言われたことを思い出して思わず……」
「いえ、お気持ちはお察しします」
「それで先生、娘の症状はなぜ快復されたんですか?」
「はい。それですが……先週から娘さんの病室に新しい子が入院しました」
「その子もまさか⁈」
母親は、娘と同じ病室に入院したと聞いて、嫌な予感を覚えた。
「申し訳ありません。患者さんのプライバシーがありますので、お答えできません。ですが、その子が入院した日から、なぜか娘さんの症状は緩和され、今では無呼吸の症状はおろか過剰な集中も見られなくなりました」
「それは偶然じゃないんですか? たまたま娘の症状は、別の要因で治ったのでは?」
「私も最初は半信半疑でしたが、確信に変わったのは検査のために病室から娘さんが移動してしばらくたったときです」
医師は手にしたポールペンで額をかき、困った顔をしていた。
「娘さんの過剰な集中が再び始まり、それにともない無呼吸症候群もまた起こりました。症状は軽かったため、検査を取りやめすぐに病室に戻ったのですが……病室に戻ると同時に過密な集中は再びなくなりました。これは娘さんに取り付けた、バイタルサインからも確認できています」
「そんなことが……」
夫婦は不可解な現象に、眉をひそめる。
「原因はわかりません。これは仮説ですが、同室に入院した子と……波長というか、何か精神的に合うものがあり、過剰な集中から解放されたのかもしれません」
「では、娘はその子といれば普通に生きられると? そんな馬鹿な話が⁈」
「馬鹿な話ではありますが、現に娘さんの症状は緩和されています。今後、一緒に過ごしたとして完治するかはわかりません。ですが、少なくともこれ以上、悪化することはないと思います」
医師の言葉に、母親は意を決して尋ねる。
「娘と同室に入院したということは、その子も娘と同じような病気ということでしょうか?」
「お答えはできません。ですが……その子もまた娘さんといることで、症状が緩和されているようです。二人は一緒にいることで、普通の人と同じように生きられる可能性は高いです」
「……その子に会ってみても?」
「ええ、同室ですので問題ありません。たぶん今日も……」
「今日も?」
医師は何かを思い出し、『ぷっ!』と吹き出していた。
「すみません。とにかく病室に行ってみましょう。話はそれからでも」
「はあ……わかりました」
夫婦へ訳もわからず、医師と診断室を後にすると、愛娘のいる病室へと移動する。
「あなた……さっきの笑いは、なんだったのかしら?」
「わからん。だがあの子の病気が治るのなら、なんだって構わない」
「そうね。それにしても同室の子か……。この脳神経専門の大学病院にいるのなら、普通の病気じゃないわよね」
「シッ、滅多なことをいうものじゃない」
「ごめんなさい。あの子と同じように苦しんでいる子がいると思ったら……」
母親はうつむき、うつろな瞳で虚空を見つめる娘の姿を思い出す。過密集中を防ぐため、極力考え事をしないようという言いつけを守り、ロボットのように振る舞う娘は、そのうち感情すら表に出さなくなった。ここ数か月は、笑った顔を見たことがない。
感情はおろか思考すらも抑止して、死んだような目になりながら、ただ生かされる娘……そんな子と同じ境遇の子どもがいると思い、母親は思わず同情していた。
夫婦はお互いの手を強く握りしめ、病院の通路を急ぐ。そして娘のいる病室の前に来たとき、夫婦の耳に歌が聞こえてきた。
まいごのまいごのこねこちゃん
あなたのおうちはどこですか?
おうちをきいてもわからない
なまえをきいてもわからない
にゃんにゃん にゃにゃん にゃんにゃん にゃにゃん
ないてばかりいる こねこちゃん
いぬのおまわりさん
こまってしまって わんわん わわん わんわん わわん
半開きになった病室の中から、しっかりとした音程で歌う子どもの声を聞き、夫婦は互いに目頭を熱くする。それはここ半年の間、聞くことがなかった娘の歌声を聞いたからだった。
医師と夫婦は病室の前で立ち止まり、開いた扉から中の様子をそっとうかがう。
「わ~、お歌じょうず~、すご~い♪」
「そう……ありがとう」
パチパチと手を叩く黒髪の子と、ポニーテイルの女の子は恥ずかしそうにはにかんだ。
「ね~ね~、この犬のお巡りさんってお歌、子猫ちゃんはどうなるの?」
「知らない。お母さんからはここまでしか歌ってもらえていないから……」
「え~、そうなの? 続きが気になるね。可哀想な犬のお巡りさん、どうなっちゃうんだろう?」
「なんでお巡りさんが可哀想なの? このお歌、子猫ちゃんの方が可哀想なんじゃ?」
「だって、悪い人と間違われて、子猫ちゃんに泣かれちゃったんでしょう?」
「えっと、これは迷子になって、お母さんと離れ離れになったから、寂しくて泣いているんじゃ?」
「そっか~、そうすると子猫ちゃんが家にちゃんと帰れたか、気になるね。……そうだ! 私が続きを考えて歌ってもいい?」
「別にいいけど」
「わ~い。ん~、そうだなあ。こんなのどうかな?」
すると、今度はおっとりとした口調の声が、部屋の中から聞こえてきた。
まいごのまいごのこねこちゃん
ポッケのスマホからコールオン
おかあさんからのコールオン
いそいで電話に出てみたら
にゃんにゃん にゃにゃん にゃんにゃん にゃにゃん
うれしくて泣いちゃうこねこちゃん
いぬのおまわりさん
こねこを見送って わんわん わわん わんわん わわん
「どう?」
「いやいやいや、なんでこねこちゃんがスマホもっているの⁈ あと、お巡りさんは、子猫ちゃんを見送るだけ? 一緒にいかないの? どうやって、子猫ちゃんは帰ったの?」
「やだな~、……スマホもっているから、地図ソフトのギリギリMAPを使って帰ったに決まってるよ」
「待って! ギリギリMAPが使えるなら、最初から迷子にならないよね⁈」
「ん~、使い方が分からなくて、お巡りさんに聞いたとか?」
「お巡りさんなんだから、使い方がだけじゃなくて、せめてお家まで一緒にいこうよ!」
「仕事が忙しかったのかも?」
「子猫ちゃんを無事に送り届けるのも仕事でしょう! まったく……フフフ」
感情を露わにしながらも、大きな声で楽しそうに話す娘の声を夫婦は聞き入っていた。
「ぷっ、今日もやっていますね。ここのところ、起きてから寝るまでずっとあんな感じなんです。たわいのない話なんですけど、聞いているとおかしくて、思わず笑ってしまいます」
「ええ、とても微笑ましい。私も聞いただけで思わず、笑ってしまいそうになりました」
「本当、楽しそうに話している。娘の笑い声なんて久しぶり……」
夫婦は涙を流しながら寄り添っていた。
「まずは娘さんとお話をしてみてください。今後のことはそれから話しましょう」
「はい。先生、ありがとうございます」
医師は半開きになった病室の扉をノックしながら中へ入り、夫婦はその後に続いていく。
病室の入り口には、『犬飼 鈴』と『神先 遥』の名前が掲げられていたのであった。
……To be continued『リンと極限の世界 後編』
背もたれのあるイスに座った白衣の男の言葉に、対面にいた女性は大きく目を見開いた。
「本当ですか先生! それじゃあ、娘は……助かるのですか⁈」
思ってもいなかった言葉に、女性は声のトーンを上げイスから立ち上がると、医師に詰め寄った。
「お母さん、落ち着いてください」
「おまえ、止めなさい。先生が話せないじゃないか」
「だってあなた、このままじゃ長くは生きられないかもって言われていたあの子が……」
母親の隣に座っていた父親は、医師に詰め寄る妻を止めようとすると、母親はうつむき涙を流していた。
父親は母親の肩に手をおき、落ち着くまで軽く抱きしめた。数分の後、ようやく落ち着きを取り戻した夫婦はイスに座り直し、あらためて医師から娘の症状について説明を受ける。
「先生、症状が快復されたのなら、娘は助かるのですか?」
「結論からいうと、治ったわけではありません。ですが症状は劇的に緩和されつつあります。とくに過密集中による無呼吸症候群は抑えられ、自動心肺器を取り付けなくてもよいくらいにまで、快復が認められました」
「じゃあ、娘は他の子と同じように普通に生きられるの⁈」
「おそらくはとしか……なにぶん娘さんの症状は、今まで報告されたことのない症例です。どの範囲で完治と言っていいのかわかりません。ですが、間違いなく言えることは、今の状態を維持できるなら、長く生きていけます」
「良かった。娘は生きられるのね」
医師の言葉に母親の瞳に涙が浮かび、それを見た父親は妻の手を握る。
「先生、質問があります。娘の症状が快復されたことはわかりました。ですが、今の状態を維持とは?」
「それなのですが……実際のところ、いまの医学では娘さんの病気を治すことは難しく、対症療法も見つかっていません」
「それは何度も聞いています。娘は異常なまでの過密集中により、本来なら意識しなくて行える自発呼吸が止まると……」
「そうです。意識を集中することで、娘さんの脳はゾーンと呼ばれる極限の集中状態に切り替わります。常人ではありえない集中により、人の限界を超えた驚異的な身体能力を発揮するばかりか、体が感じる痛みや苦しみからも解放された状態になります」
「たしか、一部のトップアスリートや、一流のスポーツ選手はゾーンを体験していると……」
「ええ、ゾーン自体は昔からあると言われていますが、いまだそのメカニズムは解明されていません。一部の天才と呼ばれる人が持つといわれるものを、娘さんは持っていました」
「本来ならば喜ぶべき神からの贈り物を、娘は過剰に渡された……」
「そうです。娘さんの場合、あまりにも過密に集中するあまり、本来なら止まらない自発呼吸を止めてしまいます。そして体が呼吸困難で危険信号を脳に送っても、ゾーンに至った彼女は苦しさも感じられず集中を続け……」
「脳が酸欠状態に陥り窒息死してしまう。だから、いつ呼吸が止まってもいいように、常に自動呼吸機を着けなければならないなんて…… うちの娘が何をしたというんですか⁈」
母親は誰にぶつけるでもなく、怒りを露わにしていた。
「技術の進歩で呼吸器はかなり小型化したと聞いています。ランドセル並の大きさの機械を背負えば生きていけると説明は受けましたが、そんなものを娘は一生着けなければならないとは、こんな呪われた贈り物を押しつけた神をぶん殴ってやりたい!」
父親は手を力一杯握り込み、神に怒りをぶつける。
「お二人とも落ち着いてください」
医師は夫婦をなだめ、落ち着きを取り戻すのを待つ。
「取り乱してしまい申し訳ありません。一生あのままだと言われたことを思い出して思わず……」
「いえ、お気持ちはお察しします」
「それで先生、娘の症状はなぜ快復されたんですか?」
「はい。それですが……先週から娘さんの病室に新しい子が入院しました」
「その子もまさか⁈」
母親は、娘と同じ病室に入院したと聞いて、嫌な予感を覚えた。
「申し訳ありません。患者さんのプライバシーがありますので、お答えできません。ですが、その子が入院した日から、なぜか娘さんの症状は緩和され、今では無呼吸の症状はおろか過剰な集中も見られなくなりました」
「それは偶然じゃないんですか? たまたま娘の症状は、別の要因で治ったのでは?」
「私も最初は半信半疑でしたが、確信に変わったのは検査のために病室から娘さんが移動してしばらくたったときです」
医師は手にしたポールペンで額をかき、困った顔をしていた。
「娘さんの過剰な集中が再び始まり、それにともない無呼吸症候群もまた起こりました。症状は軽かったため、検査を取りやめすぐに病室に戻ったのですが……病室に戻ると同時に過密な集中は再びなくなりました。これは娘さんに取り付けた、バイタルサインからも確認できています」
「そんなことが……」
夫婦は不可解な現象に、眉をひそめる。
「原因はわかりません。これは仮説ですが、同室に入院した子と……波長というか、何か精神的に合うものがあり、過剰な集中から解放されたのかもしれません」
「では、娘はその子といれば普通に生きられると? そんな馬鹿な話が⁈」
「馬鹿な話ではありますが、現に娘さんの症状は緩和されています。今後、一緒に過ごしたとして完治するかはわかりません。ですが、少なくともこれ以上、悪化することはないと思います」
医師の言葉に、母親は意を決して尋ねる。
「娘と同室に入院したということは、その子も娘と同じような病気ということでしょうか?」
「お答えはできません。ですが……その子もまた娘さんといることで、症状が緩和されているようです。二人は一緒にいることで、普通の人と同じように生きられる可能性は高いです」
「……その子に会ってみても?」
「ええ、同室ですので問題ありません。たぶん今日も……」
「今日も?」
医師は何かを思い出し、『ぷっ!』と吹き出していた。
「すみません。とにかく病室に行ってみましょう。話はそれからでも」
「はあ……わかりました」
夫婦へ訳もわからず、医師と診断室を後にすると、愛娘のいる病室へと移動する。
「あなた……さっきの笑いは、なんだったのかしら?」
「わからん。だがあの子の病気が治るのなら、なんだって構わない」
「そうね。それにしても同室の子か……。この脳神経専門の大学病院にいるのなら、普通の病気じゃないわよね」
「シッ、滅多なことをいうものじゃない」
「ごめんなさい。あの子と同じように苦しんでいる子がいると思ったら……」
母親はうつむき、うつろな瞳で虚空を見つめる娘の姿を思い出す。過密集中を防ぐため、極力考え事をしないようという言いつけを守り、ロボットのように振る舞う娘は、そのうち感情すら表に出さなくなった。ここ数か月は、笑った顔を見たことがない。
感情はおろか思考すらも抑止して、死んだような目になりながら、ただ生かされる娘……そんな子と同じ境遇の子どもがいると思い、母親は思わず同情していた。
夫婦はお互いの手を強く握りしめ、病院の通路を急ぐ。そして娘のいる病室の前に来たとき、夫婦の耳に歌が聞こえてきた。
まいごのまいごのこねこちゃん
あなたのおうちはどこですか?
おうちをきいてもわからない
なまえをきいてもわからない
にゃんにゃん にゃにゃん にゃんにゃん にゃにゃん
ないてばかりいる こねこちゃん
いぬのおまわりさん
こまってしまって わんわん わわん わんわん わわん
半開きになった病室の中から、しっかりとした音程で歌う子どもの声を聞き、夫婦は互いに目頭を熱くする。それはここ半年の間、聞くことがなかった娘の歌声を聞いたからだった。
医師と夫婦は病室の前で立ち止まり、開いた扉から中の様子をそっとうかがう。
「わ~、お歌じょうず~、すご~い♪」
「そう……ありがとう」
パチパチと手を叩く黒髪の子と、ポニーテイルの女の子は恥ずかしそうにはにかんだ。
「ね~ね~、この犬のお巡りさんってお歌、子猫ちゃんはどうなるの?」
「知らない。お母さんからはここまでしか歌ってもらえていないから……」
「え~、そうなの? 続きが気になるね。可哀想な犬のお巡りさん、どうなっちゃうんだろう?」
「なんでお巡りさんが可哀想なの? このお歌、子猫ちゃんの方が可哀想なんじゃ?」
「だって、悪い人と間違われて、子猫ちゃんに泣かれちゃったんでしょう?」
「えっと、これは迷子になって、お母さんと離れ離れになったから、寂しくて泣いているんじゃ?」
「そっか~、そうすると子猫ちゃんが家にちゃんと帰れたか、気になるね。……そうだ! 私が続きを考えて歌ってもいい?」
「別にいいけど」
「わ~い。ん~、そうだなあ。こんなのどうかな?」
すると、今度はおっとりとした口調の声が、部屋の中から聞こえてきた。
まいごのまいごのこねこちゃん
ポッケのスマホからコールオン
おかあさんからのコールオン
いそいで電話に出てみたら
にゃんにゃん にゃにゃん にゃんにゃん にゃにゃん
うれしくて泣いちゃうこねこちゃん
いぬのおまわりさん
こねこを見送って わんわん わわん わんわん わわん
「どう?」
「いやいやいや、なんでこねこちゃんがスマホもっているの⁈ あと、お巡りさんは、子猫ちゃんを見送るだけ? 一緒にいかないの? どうやって、子猫ちゃんは帰ったの?」
「やだな~、……スマホもっているから、地図ソフトのギリギリMAPを使って帰ったに決まってるよ」
「待って! ギリギリMAPが使えるなら、最初から迷子にならないよね⁈」
「ん~、使い方が分からなくて、お巡りさんに聞いたとか?」
「お巡りさんなんだから、使い方がだけじゃなくて、せめてお家まで一緒にいこうよ!」
「仕事が忙しかったのかも?」
「子猫ちゃんを無事に送り届けるのも仕事でしょう! まったく……フフフ」
感情を露わにしながらも、大きな声で楽しそうに話す娘の声を夫婦は聞き入っていた。
「ぷっ、今日もやっていますね。ここのところ、起きてから寝るまでずっとあんな感じなんです。たわいのない話なんですけど、聞いているとおかしくて、思わず笑ってしまいます」
「ええ、とても微笑ましい。私も聞いただけで思わず、笑ってしまいそうになりました」
「本当、楽しそうに話している。娘の笑い声なんて久しぶり……」
夫婦は涙を流しながら寄り添っていた。
「まずは娘さんとお話をしてみてください。今後のことはそれから話しましょう」
「はい。先生、ありがとうございます」
医師は半開きになった病室の扉をノックしながら中へ入り、夫婦はその後に続いていく。
病室の入り口には、『犬飼 鈴』と『神先 遥』の名前が掲げられていたのであった。
……To be continued『リンと極限の世界 後編』
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