私の召喚獣が、どう考えてもファンタジーじゃないんですけど? 〜もふもふ? いいえ……カッチカチです!〜

空クジラ

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第2章 レアクエスト編

第20話 リンとハルカの危ない掃討戦

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「みんな……ふぉ、フォーメーションRよ!」


 ハルカの言葉を皮切りに、モンスターのむれが一斉にリンたちへ襲い掛かってきた。


 フォーメーションR……それはハルカが提案したパーティー戦術のひとつだった。

 事前に決めておいた役割を、アルファベットの一文字で実行するフォーメーションシステム。戦況によって臨機応変に戦い方を変えられるシステムの導入により、リン達は的確な動きを瞬時に取ることを可能にしていた。

 フォーメーションRはパーティーが不測の事態に陥った際、発動される緊急フォーメーションであり、『リンを絶対に守る』のRを意味する。

 リンを守るためならば持てる力をすべて出し切り、採算度外視の赤字覚悟で敵を殲滅する。

 リンさえ無事なら、自分を囮にして死んでも構わない。リンこそが至高、リンこそがすべて!

 リンにあだなす者はサーチ&デストロイ!

 リンLOVEなハルカの考えた……自爆テロの思想に近い危なげなフォーメーションRが、いま発動された。


「リンには指一本触れさせない!」


 勇ましい声を上げたハルカは、何のためらいもなくモンスターの群れの中に飛び込んでいく。

 先頭のコボルトが、向かいくる少女の頭に棍棒を振り下ろすと、ハルカは左手にもつ銃で攻撃を横に受け流してしまう。
 攻撃をらされ、無防備な姿を晒したモンスターの眉間に、流れるような動きで銃口が突きつけられる。


「さあ、リンのために踊りなさい!」


 躊躇ためらうことなく、ハルカはトリガーを引く。その顔は猛禽類であるわしの目のように鋭く、獰猛な笑みを浮かべていた。

 デザートイーグル砂漠の鷲の銃口から、直径12.7mmの大口径マグナム弾が撃ち出される。

 音速のスピードで弾丸を撃ち出すため、燃焼させた火薬の閃光マズルフラッシュが銃口から吐き出され、轟音が耳をつんざいた。

 零距離から撃ち出された弾丸は、コボルトの頭を一瞬にして爆散するが弾丸の勢いは止まらない。そのまま背後にいたコボルトに命中し、さらなる命を刈り取る。

 だが、AIで動くモンスターたちは、仲間がやられた姿を見ても恐れはなく、左右から別々のコボルトが同時にハルカへと棍棒を振りおろす。

 右側から迫り来るコボルトの棍棒を、右手に持つ銃で下からすくい上げるように受け止めると、力に逆らうことなく棍棒を左に流してしまう。


「キャン!」


 すると、らされた棍棒が左手から襲いくるコボルトの頭に命中する。
 まるでワルツを踊るように優雅なステップを踏んだハルカはターンを決め、瞬時にコボルトと自分の位置を入れ替えてしまう。

 ハルカの鋭い眼差しが、銃口とコボルトを一直線につないだ瞬間、再び最強のハンドガンから凶悪な弾丸が撃ち出される。


「グワーン⁈」

「ワオーン!」


 たった一発の弾丸が、コボルト二匹の命を絶ち、体を光の粒子へ変えてしまう。

 相手の攻撃を逸らし、有利なポジションへの移動と零距離からの射撃による必中……そして最大の威力を発揮する部位への銃撃!

 まるでダンスを踊るかのような、華麗なるターンからの攻撃に、一瞬にして二匹のコボルトが倒される。


「さあ、ワンちゃん達……私と一緒に踊ってちょうだい!」


 狩人の鋭い眼差しが次なる獲物をロックオンすると、なんの躊躇ためらいもなく、ハルカはモンスターのれへと駆け出していくのであった。



「あわわわわ」


 ハルカがコボルトの群れに単身で飛び込んでいくなか、突然のことに慌てふためくリンを守るため、コタロウとクマ吉の二匹は左右に別れ、眼前のモンスターに攻撃を加えていた。


「ワン!」


 リンに襲い掛からんと棍棒を振り回すコボルトの首に、コタロウは猛然と喰らいつく!


「キャン!」


 首筋に鋼鉄の牙が突き立てられ、コボルトは地面に押し倒されてしまう。
 恐るべき力で牙が喰い込み、コボルトにHPをガンガン削っていく。
 コボルトも負けじとマウントを取られた状態から、コタロウの前脚に噛み付くが、カッチカチな体には文字通り歯が立たない。


「グゥ~!」


 必死にコタロウの下であらがうコボルト……非情にも首筋に噛み付いた口が、トラバサミのように閉じられ、喰い千切られてしまう。

 首の半分以上を失ったコボルトは、『ビクンッ!』と身体を震わせてると、その体は光の粒子へと姿を変え、ドロップアイテムを地面に撒き散らす。


「コタロウ、強~い! いい子、いい子♪」

「わん♪」


 愛犬を褒めるリン、すると――


「クマー!」


――不意にクマ吉の勇ましい声が上がり、リンは思わず振り返る。するとそこにはリンの背後を守るべく、クマ吉が炎をまとわせた爪……ファイヤークロウでコボルトを切り裂く姿があった。

 切り裂かれたコボルトが地面に倒れ込むと、傷口が燃えあがり、身体を覆う毛に引火して燃え広がっていく。

 引火した炎により、HPバーがガンガン削られ、熱さと傷の痛みでコボルトは地面をゴロゴロと転げ回る。


「ふえ~、クマ吉すご~い」

「くま~♪」


 クマ吉は『近づく奴は丸焼きくま♪』と、次々と炎
宿した爪を振るい、モンスター達を火だるまにしていく。


「ワオ~ン!」


 コタロウも負けていられるかと、敵の憎しみヘイトあおる遠吠えで、リンに襲い掛かるコボルトたちの目標タゲを自分に向けさせ固定する。

 すると近くにいたコボルトやバットが、ようやく出会えた怨敵とばかりに、犬(?)へと殺到した。
 コタロウは、襲いくるコボルトに跳び掛かり、顔にカッチカチな前脚を叩き込む!


 鋼鉄の肉球シチールスタンプを顔に押され、倒れ込むコボルト……激しい痛みから、顔を押さえ地面をのたうち回る。

 そんなコボルトに目もくれず、地面に着地したコタロウは、次の獲物にスタンプを押すべく、すぐさま跳び掛かった。

 コボルトの攻撃を交わしながら、スタンプ攻撃を繰り返すコタロウ……地面には数匹のコボルトが倒れ込み、無防備なお腹をさらけ出していた。

 するとコタロウは、いい具合にHPが減ったコボルトを確認し、ご主人様であるリンへ顔を向けながら、『わん!』と合図を送る。


「うん、コタロウ、ありがとう」


 するとリンは、おもむろに手にした初心者のナイフを逆手に持ち、地面をのたうち回るコボルトに近づいていく。すると――


「ごめんね、グサッ!」

「ギャワーン」


――無防備にさらけ出されたお腹に、ナイフを突き立てた! 
 攻撃がクリティカルヒットとなり、コボルトは一撃で残りのHPを全損させ、光の粒子へと姿を変えてしまう。


「できるだけ、痛くないように……、グサッ! グサッ! グサッ! ごめんね」

「グッワーン」


 謝りながらクリティカルの一撃を見舞い、リンはトドメを刺し続ける。
 
 LUKにステータスポイントを極振りしているリンは、いまや二回に一度の割合で防御力無視、武器が持つ最大ダメージ固定の必中クリティカル攻撃が可能になっていた。

 クマ吉によって火だるまで転げ回るコボルト達にも、リンは謝りながらトドメを刺していく。

 コタロウとクマ吉のサポートで、快調にモンスターの群れを掃討していくリンだったが……。


「キャッ!」

〈リン HP80→79〉


 突如、喰い千切った首の一部を『ペっ!』と吐き出したコタロウの耳に、ご主人様の悲鳴が聞こえてきた。


「わわわ! こ、コウモリのモンスター⁈」


 空中から襲い来るコウモリ型モンスターバッドが、コタロウとクマ吉をすり抜けリンに襲い掛かる。
 リンは背後から急に攻撃を受け、軽い痛みを感じて慌ててしまう。

 神器オンラインではダメージを負った際、疑似的に軽い痛みを感じるように作られている。
 これは最新ニューロデバイス『ウィッド』に備わる機能であり、脳内に疑似電気パルスを送り、痛みを錯覚させる最新の技術のおかげだった。

 しかし軽いと言っても痛みを感じるとあって、発売当初は安全性に懸念をもたれた。
 いまのところ問題は起きておらず、痛みを感じるといっても、最大レベルで頬を思いっきりビンタされたくらいで、命に別状はない。

 連続で最大レベルのダメージが発生すると、自動的に信号を遮断する機能も付けられており、絶対に安全であるとメーカーがうたっている。


「いたっ!」

〈リン HP 79→78〉


 リンは手にした初心者のナイフを迫りくるバットに振るうが、ヒョイっと空中で避けられると同時に攻撃されHPを削られる。


「痛みが多少ないと、ダメージコントロールができないからって、はーちゃんに言われてダメージレベルは1にしたけど、デコピンされているみたいで結構痛いよ~。指輪のおかげでダメージは1だけど……」


 レアアイテム『従魔の指輪』の効果で、コタロウの一番高いステータスであるVITを、リンは自らのステータスに加算していた。

 通常の高レベルタンク職のVIT平均が99の中、すでにリンのVITは241に達しており、コタロウを召喚している間は鉄壁の防御力を誇っていた。

 そんな無敵に近い能力を手にしたリンであったが、弱点もまた存在する。

 コタロウの場合、鋼鉄ボディーのおかげでどんな攻撃されてもダメージ0なのに対し、同じVITステータスであるリンが攻撃を受けると、必ずダメージが1発生してしまうのだ。

 全ての攻撃ダメージが、1になるなら無敵に近いように思える。しかし最大HPが低い召喚士には危ない場面も出てきてしまう。

 それが多段攻撃や、複数から同時に攻撃を受けたときなのだ。


「グサッ! あっ、痛っ! 避けられて攻撃が当たらないよ⁈」


〈リン HP78→77〉

 空から襲いくるバットに、タイミングを合わせナイフを突き出すリン……だが奮闘虚しく『ヒョイッ!』と攻撃を避けたバットが、リンに一撃を加え再び上空へと逃げ去る。

 LUKとVIT以外のステータスが1のリンを嘲笑うかの如く、バットは『キーキー』笑いながら空中でホバリングしているときだった。

 『バン!』という轟音が鳴り響き、いきなりバットの体が弾け飛んでしまった。地面に落ちるバットの体が光の粒子へ変わり、アイテムを落とし。


「リン大丈夫⁈」

「うん、はーちゃん、ありがとう♪」


 モンスターの群れに飛び込み、殲滅に勤しんでいたハルカ……リンを守るべくスキル【精密射撃】を用いて、遠距離からの狙撃に成功していた。


「数は大分減ったわね。そろそろ頃合か……みんな仕上げよ!」

「うん」

「ワオーン」

「クマー」


 ハルカの声にコタロウが挑発スキルの【吠える】を使い、残り少なくなったモンスターのタゲを奪いつつ、ハルカのいる方へと走り出す。

 それを見たクマ吉は、両手を上に掲げ唸り声を上げると……頭上に小さな火球が現れ、見るみるうちに直径五メートルを超える巨大な火の球に変わる。


「来たわね。コタロウ、私のタゲを!」

「ワオーン! ワオーン!」


 コタロウは連続で【吠える】スキルを使い、ハルカからモンスターのタゲを残らず奪い取る。

 すると、残り二十匹あまりのコボルトとバットの群れは……ハルカへの攻撃を止め、憎しみのオーラを放ちながら、コタロウに向かって走り出す。

 迫り来るモンスターを見たコタロウは、洞窟の壁に向かって走り出すと、その後ろをモンスター達が、『ドッドッドッ!』と足音を立てながら追いかけて行く。


「よし、すべてのタゲがコタロウに移ったわね」


 タゲがコタロウに移るなり、急ぎリンの元へと駆け寄るハルカ……不測の事態に備えるべく、横に並び立つ。


「リン、クマ吉の準備はいい?」

「いつでもOKだよ」

「クマー」


 クマ吉の頭上をハルカが見上げると、そこには直径十メートルを超える灼熱の太陽の如き、炎の塊が浮かんでいた。

 バーチャルなので熱さは感じないはずなのに、リンとハルカは思わず肌に熱さを感じてしまう。


「それじゃあリン、仕上げよ」

「うん、コタロウ、『お座り』だよ!」

「わん!」


 その言葉に『は~い♪』と答えたコタロウが、トップスピードからいきなりお座りのポーズをとった瞬間、お座りポーズのまま宙を舞っていた!


「ああ! コタロウ!」

「わう? わうー!」

 さすがにコタロウといえど猛スピードからの急制動に、慣性の法則が働き、お座りポーズのまま空を舞ってしまい、すごい音を立てながら壁に激突する。


「ええ!」


 リンが驚愕の声を上げ、ハルカと共に壁にぶつかったコタロウの姿を見ると――


「いやいやいやいやいやいや! ないから! そんなスピードで壁にぶつかったら、普通、壁に激突した方が跳ね返されるわよ! そんな頭から壁に突き刺さって、下半身丸出しで、なんてないからね!」


――すかさず、ハルカの激しいツッコミが入った。

 そこには頭から壁に激突し、頭と体の前半分をダンジョンの壁に埋めたコタロウの姿があった。

 後ろ足をバタバタさせて、壁に埋もれた体を抜き出そうとするが、よほど固く埋まってしまったのか、抜け出せない。



「コタロウ……だ、大丈夫?」

「く、くま~?」

「くう~ん」


 ご主人様の問いかけに、力なく答えるコタロウ……必死に抜け出そうもがいているところへ、憎しみのオーラを携えたコボルトとバット集団が追いつき、コタロウのお尻に殺到した。


「わうーん」


 次々とお尻に攻撃を加えていくモンスターたちに、手も足も出せないコタロウが、『助けて~』と困った様子で鳴いていた。


「クマ吉、早くそれをコタロウに!」

「クマー!」


 愛犬のピンチにリンが命令すると、クマ吉は天高く掲げた両腕をコタロウに向かって勢いよく振り下ろした。
 すると頭上で燃え上がる巨大な火球が、コタロウのお尻に向かって放たれた。

 巨大な炎の塊がモンスター達を飛び越え、コタロウのお尻に着弾すると――


「わ、わっ!」


――炎がぜ、爆炎と爆風が辺り一面を飲み込んでしまい。リンとハルカはその爆風から顔を守るように目をつぶり、さらに腕で顔をガードする。

 すると広間の天井に届くほどの巨大な火柱が立ち昇り、コタロウのお尻に攻撃を加えていたコボルトとバット達は、一匹残らず爆炎に焼かれ、その身体を光の粒子へと変える。

 爆風が収まるのを感じたリンとハルカは、ソッと目を開けて腕を下ろす。
 目の前には、ドロップアイテムが撒き散らされた地面と火球によって焦げてしまった洞窟の岩肌……そして相変わらず、後ろ足をバタつかせて壁に埋まる愛犬の姿があった。


「コタロウ無事だね? 良かった♪ でもこれ……はーちゃん、抜けるのかな?」

「ん~、いざとなれば召喚解除すればいいけど、再召喚にかかるMPを節約したいから、できれば引っこ抜きましょう」

「うん。コタロウ、もうちょっと我慢してね。みんなでそこから出してあげるから」

「わう~ん」

「リン、さっさとコタロウを助けて、みんなでレアクエストをやるわよ♪」

「だね、はーちゃん♪」

「くま~♪」


 このあと、岩肌に突き刺さり『早く抜いて~!』と鳴き続けるコタロウを、リンたち一向は必死に引っこ抜くのであった。


【リンとハルカのレベルが上がった】


 名前 リン
 職業 召喚士 LV9 → LV10

 HP 77/80 → 80/83
 MP 25/95 → 35/105

 STR 1
 VIT 1 (+240)
 AGI 1
 DEX 1
 INT 1
 LUK 121

 ステータスポイント残り0 → 5

 所持スキル ペット召喚【犬】
       機獣召喚 【ファイヤーベアー】
       機獣変形  NEW


 名前 ハルカ 
 職業 ガンナー LV9 → LV10

 HP 155/155 → 165/165
 MP  20/27→ 20/30

 STR 45(+10)
 VIT 1
 AGI 80
 DEX 13(+15)
 INT 1
 LUK 1

 ステータスポイント残り0 → 5

 所持スキル 銃打
       弾丸作成
       精密射撃
       チェインアタック NEW


 …… To be continued 『リンとおかしな変形スキル』
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