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私が生まれたのは、市内にある小さな古びた総合病院だった。
予定日から2週間も早く生まれ、それはそれは小さな赤ん坊だったそうだ。
保育器ギリギリのその小さな身体を持つ私は、両親ともに長男長女、つまり1人目ということもあって、生まれた瞬間からとても可愛がられた。
母は当時のことをこう振り返っている。
「男の子だと聞いていたから女の子で驚いた。」
私は知らなかった。
本当は望まれていなかった子だったこと。
本当は堕ろされる運命だったこと。
父と母はいわゆるデキ婚だった。
私がお腹にいることが分かって、2人の結婚が決まったそうだ。
そこまでは良かった。
当時、両親の結婚は周囲に反対されていたと聞いている。
家族だけにとどまらず、友人や幼馴染を始め、色んな人が2人の結婚を聞いて顔をしかめた。
その理由は、父にあった。
父はもともと、家庭環境に恵まれていなかった。
幼い頃に両親が離婚し、自身と血の繋がりのある父は既に他界。
先代から継いだBARを経営していた母(祖母)に連れ添うも、当時住んでいた小さなアパートに夜な夜な男を連れ込むその姿を見て、段々と家に帰らなくなる日が増えていったそう。
母から女へと変わるその瞬間を、父は何度も見て育ったらしい。
父は学校でこそ成績優秀だったものの、BARを経営しつつ夜遊びが盛んだった母のおかげで、同級生が当たり前のように出来ているはずの高校進学を金銭的な面で諦めざるを得なかった。
初めこそ、詰めに詰め込んだバイト代だけで自ら学費を支払っていたらしい。
しかし、高校生が学業とバイトを両立しながら得るほんの僅かな収入だけで事足りるはずもなく、父の最終学歴は高校から中学校へと成り下がった。
父には異父兄弟がいる。
自身とは似つかない、出来のいい弟が。
真っ当な愛情を受けられず、家族の会話もなく、母の2度目の離婚が訪れた頃には、幼き頃の明るい父はもう居なかったという。
一方で村社会である田舎に生を受けた母は、家族友人共に恵まれ、学生時代にいじめを経験しつつも明るく楽しい人生を送っていた。
男勝りで陽気なその性格は、歳の近い2人の弟に感化されたのか、それともお気楽な父(祖父)に似たのか、いまとなっては分からない。
劣悪な環境で育った父。
愛に囲まれて育った母。
そんな正反対の2人が結婚。
祖母に当時の父の印象を聞いてみた。
「それはもう最悪で。目も合わないし、笑わないし、挙句の果てに"結婚するつもりは無かった" "子供が出来ると思わなかった"って言い出して、もうおじいちゃん怒って追い返しちゃったのよ。いまとなっては笑い話だけどね。」
間もなくして、2人は小さな式場を借りて家族内だけでの結婚式を挙げた。
母側の参列者には、両親、祖父母、兄弟、数人の知人がいたそうだが、父側の参列者には、母、祖母、弟の3人だけだったそうだ。
予定日から2週間も早く生まれ、それはそれは小さな赤ん坊だったそうだ。
保育器ギリギリのその小さな身体を持つ私は、両親ともに長男長女、つまり1人目ということもあって、生まれた瞬間からとても可愛がられた。
母は当時のことをこう振り返っている。
「男の子だと聞いていたから女の子で驚いた。」
私は知らなかった。
本当は望まれていなかった子だったこと。
本当は堕ろされる運命だったこと。
父と母はいわゆるデキ婚だった。
私がお腹にいることが分かって、2人の結婚が決まったそうだ。
そこまでは良かった。
当時、両親の結婚は周囲に反対されていたと聞いている。
家族だけにとどまらず、友人や幼馴染を始め、色んな人が2人の結婚を聞いて顔をしかめた。
その理由は、父にあった。
父はもともと、家庭環境に恵まれていなかった。
幼い頃に両親が離婚し、自身と血の繋がりのある父は既に他界。
先代から継いだBARを経営していた母(祖母)に連れ添うも、当時住んでいた小さなアパートに夜な夜な男を連れ込むその姿を見て、段々と家に帰らなくなる日が増えていったそう。
母から女へと変わるその瞬間を、父は何度も見て育ったらしい。
父は学校でこそ成績優秀だったものの、BARを経営しつつ夜遊びが盛んだった母のおかげで、同級生が当たり前のように出来ているはずの高校進学を金銭的な面で諦めざるを得なかった。
初めこそ、詰めに詰め込んだバイト代だけで自ら学費を支払っていたらしい。
しかし、高校生が学業とバイトを両立しながら得るほんの僅かな収入だけで事足りるはずもなく、父の最終学歴は高校から中学校へと成り下がった。
父には異父兄弟がいる。
自身とは似つかない、出来のいい弟が。
真っ当な愛情を受けられず、家族の会話もなく、母の2度目の離婚が訪れた頃には、幼き頃の明るい父はもう居なかったという。
一方で村社会である田舎に生を受けた母は、家族友人共に恵まれ、学生時代にいじめを経験しつつも明るく楽しい人生を送っていた。
男勝りで陽気なその性格は、歳の近い2人の弟に感化されたのか、それともお気楽な父(祖父)に似たのか、いまとなっては分からない。
劣悪な環境で育った父。
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そんな正反対の2人が結婚。
祖母に当時の父の印象を聞いてみた。
「それはもう最悪で。目も合わないし、笑わないし、挙句の果てに"結婚するつもりは無かった" "子供が出来ると思わなかった"って言い出して、もうおじいちゃん怒って追い返しちゃったのよ。いまとなっては笑い話だけどね。」
間もなくして、2人は小さな式場を借りて家族内だけでの結婚式を挙げた。
母側の参列者には、両親、祖父母、兄弟、数人の知人がいたそうだが、父側の参列者には、母、祖母、弟の3人だけだったそうだ。
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