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定休日のガーデンパーティー
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いつもなら定休日である日曜日。
三日月亭の裏庭では、結婚式の二次会として、ガーデンパーティーが開かれていた。
「マスター、今日は無理なお願いを聞いてくれてありがとう」
本日の主役である新婦が、三日月亭の店主に声をかけると、隣にいた新郎も深々と頭を下げて
「本当にありがとうございます」
とお礼を述べた。
「いやいや、そんな。こちらとしても、お店を使ってもらえるのはありがたいことですから。それにしても、お二人が結婚することになるとは……出会いから見守ってきた私としても、嬉しい限りです」
マスターの言葉には、心からの祝福がこもっているように聞こえた。
「そうそう、毎朝『三日月亭』でモーニングセットを食べるのがルーティンだった私に、マスターが彼を引き合わせてくれたのよね」
「引き合わせたというほどのことはしていませんよ。ただ、閉店間際に来店したお客様に、『モーニングもやっているのでぜひお越しください』とご案内しただけですから」
「でも、その一言が無ければ俺はモーニングを食べに行かなかっただろうし、彼女にも出会えなかったと思うので、こうして結婚することが出来たのは、やっぱりマスターのおかげですよ」
新郎と新婦は改めてマスターにお礼を告げると、他の招待客にも挨拶をするため、人々の輪の方へ戻って行った。
マスターはその後ろ姿を見送った後、料理や飲み物の補充をしているパート店員のサツキを呼び止め
「サツキさん、それが終わったらヤヨイと一緒に休憩に入っちゃって。調理場に賄いを用意してあるから」
と声をかけた。
「あら、賄いまでいただいちゃっていいんですか?」
「もちろん。休みの日にまで手伝いに来てもらっちゃって悪かったね」
「いえいえ、うちの旦那は出張中だし、お義母さんと二人で家にいるのも気まずいなぁと思ってたから、かえって助かりましたよ。それじゃ、ヤヨイちゃんと一緒に休憩をいただいてきますね」
サツキはそう言うと、空いたお皿を下げているヤヨイに声をかけ、二人で店内に入って行った。
しばらくして戻ってきたヤヨイは
「お父さん、冷凍庫に入ってるバニラアイス、クロワッサンに挟んで食べてもいい?」
とマスターに尋ねた。
するとその声が聞こえたのか、近くにいた新婦の友人達も
「何それ、美味しそう!」
「食べてみたいね」
と言いながらマスターの方を見る。
「それじゃ、皆さんの分もご用意しましょうか。ヤヨイ、手伝ってくれ」
マスターの声かけに、ヤヨイが元気よく答える。
「はーい。でも、私とサツキさんの分もちゃんと残しておいてよ!」
「分かってるよ」
マスターは目を細めながら、ヤヨイの頭にポンと手を置く。
「ちょっと、子供扱いしないでよ」
「はいはい」
涼しい風が吹き抜け、裏庭に植えてあるジャスミンの木が大きく揺れた。
白くて可憐なジャスミンの花からは、甘い香りが漂ってくる。
「ジャスミンはペルシャ語のヤースミーンが語源で、『神様からの贈り物』っていう意味があるんだ。ヤヨイが生まれた時に、おじいちゃんが植えてくれたんだよ」
と話すマスターに、ヤヨイは
「それ、何度も聞いた」
と、素っ気なく返す。
けれどもその横顔は、何だかとても誇らしげに見えた。
三日月亭の裏庭では、結婚式の二次会として、ガーデンパーティーが開かれていた。
「マスター、今日は無理なお願いを聞いてくれてありがとう」
本日の主役である新婦が、三日月亭の店主に声をかけると、隣にいた新郎も深々と頭を下げて
「本当にありがとうございます」
とお礼を述べた。
「いやいや、そんな。こちらとしても、お店を使ってもらえるのはありがたいことですから。それにしても、お二人が結婚することになるとは……出会いから見守ってきた私としても、嬉しい限りです」
マスターの言葉には、心からの祝福がこもっているように聞こえた。
「そうそう、毎朝『三日月亭』でモーニングセットを食べるのがルーティンだった私に、マスターが彼を引き合わせてくれたのよね」
「引き合わせたというほどのことはしていませんよ。ただ、閉店間際に来店したお客様に、『モーニングもやっているのでぜひお越しください』とご案内しただけですから」
「でも、その一言が無ければ俺はモーニングを食べに行かなかっただろうし、彼女にも出会えなかったと思うので、こうして結婚することが出来たのは、やっぱりマスターのおかげですよ」
新郎と新婦は改めてマスターにお礼を告げると、他の招待客にも挨拶をするため、人々の輪の方へ戻って行った。
マスターはその後ろ姿を見送った後、料理や飲み物の補充をしているパート店員のサツキを呼び止め
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と声をかけた。
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「もちろん。休みの日にまで手伝いに来てもらっちゃって悪かったね」
「いえいえ、うちの旦那は出張中だし、お義母さんと二人で家にいるのも気まずいなぁと思ってたから、かえって助かりましたよ。それじゃ、ヤヨイちゃんと一緒に休憩をいただいてきますね」
サツキはそう言うと、空いたお皿を下げているヤヨイに声をかけ、二人で店内に入って行った。
しばらくして戻ってきたヤヨイは
「お父さん、冷凍庫に入ってるバニラアイス、クロワッサンに挟んで食べてもいい?」
とマスターに尋ねた。
するとその声が聞こえたのか、近くにいた新婦の友人達も
「何それ、美味しそう!」
「食べてみたいね」
と言いながらマスターの方を見る。
「それじゃ、皆さんの分もご用意しましょうか。ヤヨイ、手伝ってくれ」
マスターの声かけに、ヤヨイが元気よく答える。
「はーい。でも、私とサツキさんの分もちゃんと残しておいてよ!」
「分かってるよ」
マスターは目を細めながら、ヤヨイの頭にポンと手を置く。
「ちょっと、子供扱いしないでよ」
「はいはい」
涼しい風が吹き抜け、裏庭に植えてあるジャスミンの木が大きく揺れた。
白くて可憐なジャスミンの花からは、甘い香りが漂ってくる。
「ジャスミンはペルシャ語のヤースミーンが語源で、『神様からの贈り物』っていう意味があるんだ。ヤヨイが生まれた時に、おじいちゃんが植えてくれたんだよ」
と話すマスターに、ヤヨイは
「それ、何度も聞いた」
と、素っ気なく返す。
けれどもその横顔は、何だかとても誇らしげに見えた。
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