上 下
5 / 6

閉店間際のお客様

しおりを挟む
19時すぎ、私達はご飯を食べに南の港へむかった。

「最悪ね…。」

18時頃から降りだした雨は未だに止まない。
このままでは折角の作戦も実行できないかもしれないわ。

「お嬢様、腹が減っては戦は出来ぬと申しますので、沢山食べましょう。」

パウロはお昼の白髭のお爺さんの姿のまま、ほんわかとした笑顔を私に向けた。

「そうね。」

メニューに目を通していると、雨でずぶ濡れになった私服の兵士が1人駆け込んできた。

「お嬢様、大変です!!」
「どうしたの!?」
「こ…侯爵が来ます…。」

え…?

「それは、私の夫が来るという事かしら…?」
「はい。雨で足止めされているので、ここへの到着はもう暫くかかりますが、確実にここへ向かってます。」

嘘でしょ…。

「何故ここへ来るの…?」
「理由は解りかねます。」
「そうよね。報告ありがとう。体が冷えてるから、早く宿に戻って温まって。」
「はい、失礼します。」

どういう事なの。
沢山仕事があるのに、港に来て何をするつもりよ。

「お嬢様、港の現状を侯爵はご存じですか?」
「いいえ。知っていたら港へ行く許可は出してもらえないわ。」
「もし、お嬢様を見送った後に知ったとしたら、心配して追いかけてくるのではないでしょうか?」
「心配するとは思うけど、お仕事を放っておく人ではないと思う。」

どんな理由にしても、もし21時までにトーマがここへ着いてしまったら、私は北の港を歩けなくなるわ。
『侯爵夫人を護る』という大義名分があるからこそ、カスターナ達や警察を動せる作戦なのよ。
私が安全な場に避難させられてしまえば、護衛が北の港に行く必要性が無くなってしまう。

私が違法薬物を買ってしまって、事件に巻き込まれているという事実があったとしても、私に付いてきた護衛兵が解決していい理由にはならないもの。

「パウロ、作戦を1時間前倒しに出来ないかしら…。」
「可能ですよ。」

パウロから、あっさり返事が帰って来た。

「既に『陽当たりの良い倉庫』に、警察を集めてあります。北の港の保管庫にはセロリ小隊の6人を潜ませてます。」
「準備万端ね。」
「視界が悪くなるのは不利ですが。」

そうよね。ただでさえ暗闇で私が誰なのか判別するのが難しいんだし。相手が気付かず素通りする事もありえるわ。

「…雨だと、犯人が外へ出てこないかもね。」
「利点もありますよ。雨音と荒れた波音は、我々の動く音を消してくれる。奇襲をかけるには丁度良い。」
「奇襲…、場所は解るの?」

聞いたけれど、パウロは微笑むだけで答えてはくれなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あやかしよりまし

葉来緑
ライト文芸
超自然的存在・妖(あやかし)が見える少年──稲生修一郎と、 様々な種類の妖達の物語。 ある日、修一郎は一人の少女に出会う。少女は自分の事を、 “座敷わらし”だと話すが…… ■2006年に一般公開されたサウンドノベルのテキスト版です。 のちにアプリ版の際に追加されたシナリオが含まれます。 ※全六日+追加エピローグで本作は完結してます。 七話以降の【あやかしよりまし逢魔】は2008年に公開された後日譚であり、続編です。 「連載中」に変更し、少しづつアップロードしていきます。 1作目の四、五倍ほどのボリュームでかなりの長編です。 作中の”一日”のテキスト量が2万字以上とかなり多いので、今後は分割していくと思います。 あらかじめご了承ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隠れ肉食系男子

詩織
恋愛
駅から歩いて10分、住宅街にある小さなカフェ「青い空」。 大学生の楓子は週3~4日その店でバイトをしている。 日常生活から離れ、ゆっくり時間を過ごしたいお店です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。 母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。 心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。 短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。 そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。 一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。 やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。 じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。

処理中です...