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二人は一緒に檻の中 1
しおりを挟む驚く量の吐精のあと、陣は衣吹の中から自分の陰茎を引き抜いた。
一度の吐精だけではまだ治まらない熱もあったが、これ以上、衣吹を苦しめる行為をするつもりはなかった。
崩れ落ちるようにうつ伏せのまま倒れ込む衣吹を楽な体勢に変えてやり、自分もその隣に寝転がる。身体を拭きたかったが、すぐには動けそうになかった。
すっかり意識を失ってしまっている衣吹は、ぴくりとも動く様子がない。
だが、きちんと呼吸はしているし、苦しそうな様子もない。ただ気を失っただけだろうと、陣は衣吹をそのまま寝かせてやることにした。
いつの間にか客はいなくなっていた。
二人がいる部屋も、先ほどより一段階ほど薄暗くなっている。あの馬鹿げた【特別展示】はこれで終わったのだろう。
―――まさか、こんなことをさせられるとはな。
衣吹の横顔を眺めながら、陣は小さく溜め息をついた。
苦しめられるのが自分だけなら、別に気にすることはない。どれだけ痛めつけられようが、構いはしなかった。
それが彼を巻き込むことになってしまうとは……完全に誤算だった。
自分の浅はかな行動で人を苦しめることになるのは、これが初めてではない。
陣がここに来ることになった原因の事件でさえ、元を辿れば陣の普段の行いのせいだった。
たった一人の大切な家族を巻き込み、その報復をしたことで更に自分を貶めた。
自分がいるだけで大切な誰かを不幸にするのなら、誰も知らないこの場所で朽ちるのもいい。
陣のそんな投げやりな気持ちが調教師にも伝わっていたのだろう。
こんな手に出るとは想像もしていなかったが、確かに陣に何かをさせるつもりならばこれは効果的な方法だと言えた。
―――わかってたから、深く関わらないようにしてたんだけどな。
陣の努力は無駄だったらしい。
陣がどれだけ関わらないようにしても、衣吹から陣に接触してくる。
その優しさに一度でも触れてしまえば、心が動かされてしまうのは仕方がないことだった。
衣吹はどことなく、陣の妹に似ていた。
両親を早くに失くした陣にとって、妹は唯一の家族。そして一番大切な人間だった。
同じ黒く真っ直ぐな髪。きょとんとした様子で覗き込んでくるときの目も、どことなく似ていた。
性別という根本的な部分が違うはずなのに、なぜここまで似ていると感じるのだろう。
しかも、どんな神の悪戯なのか。そんな衣吹と同室になってしまうとは。
陣は己の境遇を呪った。
同じ部屋といっても、日中の衣吹と陣は完全に別行動だった。
夜、陣が調教部屋から戻ると、衣吹はいつもベッドに寝そべり、本を読んでいた。
音を立てて入っても、ちらりと視線をこちらに向けるだけ。
話しかけてくることはほとんどなかった。
起きているときの二人の関係は、いつもこんな感じだった。
調教にはよく薬が使われた。
身体が疼き、どうしようもなくなるものだ。
だが、それすら陣は耐えた。
請えば許してやると言われても、そうするつもりはなかった。
夜はいつも薬の抜けきらない身体のまま、ベッドの上で丸まってそれを堪えていた。
意識が落ちても苦しみは変わらず、夢の中でもよく苦しめられていた。
その時に感じていたのが、自分よりも小さく細い手の感触だ。
最初は妹の夢を見ているんだと思った。
苦しむ自分を妹が慰めてくれているんだと。だが、違った。
苦しみに喘ぎながら、うっすらと開いた目に映ったのは、衣吹の姿だった。
陣が起きたことに衣吹は気づいていない様子で、衣吹が陣の汗を拭ったのだろうタオルを洗面器でゆすいでいる。
―――いつも、こんなことを?
どんなに苦しんだ日でも、朝すっきりしていたのは、衣吹がこうして面倒を見てくれていたからなんだろうか。
関係がないと、そっけないふりをしていたのに。
まさか自分が眠っているうちに、こんなことをしてくれていたなんて―――。
次の日から、衣吹のことが気になって仕方なかった。
時々、ぶっきらぼうに話しかけるその言葉にも彼なりの優しさがこめられていたことに気づいた。
それでも調教師には従わなかった。反抗し、痛めつけられることで自分を罰し続けていたのかもしれない。
そして、今日の出来事だ。
巻き込まれても、衣吹は飄々としていた。
どうすれば食事を与えてもらえるか、といつもと変わらぬ淡々とした口調で調教師に問い、そして二人でセックスをすることになった。
しかも、公開セックスだ。
どこの誰かもわからない相手の前でこんな行為を見せることになるなんて。
陣は躊躇ったが、衣吹は素直に受け入れた。
抱く抱かれるの話のあと「僕で勃ちそう?」などというふざけた言葉に陣は怒った。
だが、その言葉に対して返ってきた衣吹の言葉に、何も言えなくなった。
「僕は死にたくなかったから、自分で選んでここに来たんだ。生きるためなら何でもする。それがどんなに無様でも―――僕はそのために足掻き続ける覚悟があるんだ」
陣は浅はかだった自分の行動を振り返り、衣吹を巻き込んでしまったことを恥じた。
どうしようもない気持ちに顔が上げられなくなった陣を励ましたのもまた、衣吹だった。
ぽんぽんと優しく肩に触れられ、その触れ方に優しく身体を拭ってくれていた手をぬくもりを思い出す。
顔を上げると、優しく目を細めて陣の方を見る衣吹と目が合った。
僕は大丈夫、そう言った声にぐっと込み上げてきたものを堪えるのに、陣は必死だった。
何とか気持ちを落ち着けて立ち上がり、自分に比べてあまりに小さい衣吹の身体を見下ろした。
最初は妹に似てると思ったその印象も、その時にはすっかり変わっていた。
衣吹は自分が守らなくてはいけない存在ではない。
彼は立派に一人で立っているのだから。
握手を求めるように手を出せば、衣吹は躊躇うこともなくその手を掴んできた。
そのまま力任せに引っ張ると、陣の腕の中に衣吹がすっぽりとおさまる。
こうして誰かを腕の中に抱きしめるのは、随分と久しぶりだった。
* *
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