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番外編《同族嫌悪?》
01
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――本当によかったのか?
ギルドに貼り出されていた依頼を受け、エランとルチアは討伐対象のいる洞窟へと向かっていた。
洞窟までの道のりも魔物に襲われる危険はある。気をつけなければいけない場面なのに、エランはあまり集中できていなかった。
依頼を受けてから、ずっと気にかかっていることがあるからだ。
――討伐対象は〈触手型〉と書いてあったが。
洞窟に巣食う触手型の魔物を討伐するのが、今回の依頼だった。
依頼主はこの近くの村の村長。
どうやら、その触手型の魔物に村人がたびたび襲われているらしい。
命を奪われた者まではいないが、代わりに命を産みつけられた者がいるとのことだった。
要するに、魔物の苗床にされたのだ。
――同類とまでは言わないが……ルチアは気にならないのか?
ルチアは魔族と人間のあいだに産まれた半魔だが、触手の本能を持っている。
自分と似た形態の魔物を倒すことに抵抗はないのだろうか。
「さてと、ここみたいだね」
そんなエランの心配をよそに、ルチアは討伐に乗り気な様子だった。
洞窟の奥を見つめ、「うじゃうじゃいるね」と笑いを含んだ声で言う。
エランには暗闇にしか見えない洞窟内部だが、ルチアにはそこに潜む触手の魔物がはっきりと見えているようだった。
「俺が倒すか?」
「どうして? ……ああ、もしかして仲間意識があるとか思ってる?」
「そこまでじゃないが……やりにくくないのか?」
「平気だよ。むしろ――下等なこいつらを見てると消し飛ばしたくなる」
ルチアは妖しい笑みを浮かべながら、舌舐めずりをしている。
本当に心配は無用のようだった。
「数が多いから手分けする?」
「そうだな。俺も身体を動かしたい」
「ボク以外の触手に襲われたりしないでね」
そんなことは言われなくとも、肌に触れさせる気もない。
エランは太腿のホルスターから短剣を抜くと、躊躇うことなく洞窟へ駆け込んだ。
◆
「なんか、ちょっと複雑な気分」
魔物をすべて倒し終え、二人は洞窟を出てきた。
触手の体液で汚れた武器を拭っていたエランは、ルチアの呟きに首を傾げる。
「何がだ?」
「こんなものと同じ扱いをされたのか、って……」
ルチアの視線は手元の袋に向けられていた。袋の中には、討伐証明となる触手の核が入っている。
こんなもの、というのが触手の魔物を示しているのは明らかだった。
「同じ扱いはしていないだろ」
「入る前、『やりにくくないか』って聞いたじゃん」
「なんだ、拗ねているのか? さっきは気にしていなかっただろ」
「倒してる途中に思ったんだよ。こんな下等生物と一緒にされるなんて心外だなって」
不機嫌そうに唇を尖らせるルチアに、エランは頬を緩めた。
それに気づいたルチアが、余計に眉を顰める。
「笑うとこじゃないでしょ」
「馬鹿にして笑ったんじゃない。そんなに不満なら、お前なりに違いを証明してみせればいいだろ」
「え、それって……そういうお誘い?」
「さあ、どうだろうな」
軽くはぐらかして、歩く速度を上げる。
後ろから聞こえてくる明らかに焦った様子のルチアの声に、エランは思わず笑ってしまった。
番外編「同族嫌悪?」END.
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【お知らせ】
書籍版「その手に、すべてが堕ちるまで ~孤独な半魔は愛を求める~」が5/17発売になりました!
表紙・挿絵はウエハラ蜂先生が担当してくださってます(こちらの作品ページの書影も新しいものになりましたので、ぜひご覧ください)
書籍版もよろしくお願いします!
ギルドに貼り出されていた依頼を受け、エランとルチアは討伐対象のいる洞窟へと向かっていた。
洞窟までの道のりも魔物に襲われる危険はある。気をつけなければいけない場面なのに、エランはあまり集中できていなかった。
依頼を受けてから、ずっと気にかかっていることがあるからだ。
――討伐対象は〈触手型〉と書いてあったが。
洞窟に巣食う触手型の魔物を討伐するのが、今回の依頼だった。
依頼主はこの近くの村の村長。
どうやら、その触手型の魔物に村人がたびたび襲われているらしい。
命を奪われた者まではいないが、代わりに命を産みつけられた者がいるとのことだった。
要するに、魔物の苗床にされたのだ。
――同類とまでは言わないが……ルチアは気にならないのか?
ルチアは魔族と人間のあいだに産まれた半魔だが、触手の本能を持っている。
自分と似た形態の魔物を倒すことに抵抗はないのだろうか。
「さてと、ここみたいだね」
そんなエランの心配をよそに、ルチアは討伐に乗り気な様子だった。
洞窟の奥を見つめ、「うじゃうじゃいるね」と笑いを含んだ声で言う。
エランには暗闇にしか見えない洞窟内部だが、ルチアにはそこに潜む触手の魔物がはっきりと見えているようだった。
「俺が倒すか?」
「どうして? ……ああ、もしかして仲間意識があるとか思ってる?」
「そこまでじゃないが……やりにくくないのか?」
「平気だよ。むしろ――下等なこいつらを見てると消し飛ばしたくなる」
ルチアは妖しい笑みを浮かべながら、舌舐めずりをしている。
本当に心配は無用のようだった。
「数が多いから手分けする?」
「そうだな。俺も身体を動かしたい」
「ボク以外の触手に襲われたりしないでね」
そんなことは言われなくとも、肌に触れさせる気もない。
エランは太腿のホルスターから短剣を抜くと、躊躇うことなく洞窟へ駆け込んだ。
◆
「なんか、ちょっと複雑な気分」
魔物をすべて倒し終え、二人は洞窟を出てきた。
触手の体液で汚れた武器を拭っていたエランは、ルチアの呟きに首を傾げる。
「何がだ?」
「こんなものと同じ扱いをされたのか、って……」
ルチアの視線は手元の袋に向けられていた。袋の中には、討伐証明となる触手の核が入っている。
こんなもの、というのが触手の魔物を示しているのは明らかだった。
「同じ扱いはしていないだろ」
「入る前、『やりにくくないか』って聞いたじゃん」
「なんだ、拗ねているのか? さっきは気にしていなかっただろ」
「倒してる途中に思ったんだよ。こんな下等生物と一緒にされるなんて心外だなって」
不機嫌そうに唇を尖らせるルチアに、エランは頬を緩めた。
それに気づいたルチアが、余計に眉を顰める。
「笑うとこじゃないでしょ」
「馬鹿にして笑ったんじゃない。そんなに不満なら、お前なりに違いを証明してみせればいいだろ」
「え、それって……そういうお誘い?」
「さあ、どうだろうな」
軽くはぐらかして、歩く速度を上げる。
後ろから聞こえてくる明らかに焦った様子のルチアの声に、エランは思わず笑ってしまった。
番外編「同族嫌悪?」END.
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