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《エピローグ》
そのうさぎ、支配者につき 01
しおりを挟む――ここ、は。
ぼんやりと天井を見上げる。
幸季は寝ぼけた頭でしばらく考えた後、ここがリウの寝室であることを思い出した。
「……そうか、僕。Spaceに入って」
店でSpaceの兆候だと思った現象は本当にただの兆候だったらしく、本当のSpaceはそれとは比べ物にならないほど幸せな空間だった。
リウが傍にいる安心感と多幸感で、あの色とりどりの世界に身体が溶けてしまうかと思ったほどだ。
「いま、何時……?」
Spaceが終わった後、幸季はそのまま眠ってしまっていたらしい。窓の外はすっかり暗くなってしまっている。
枕元の目覚まし時計が指す時間は、午後十時を回ったところだった。
ゆっくりと身体を起こして、ベッドから出る。
抱かれ続けた身体は少し痛んだが、動けないほどではなさそうだ。
――リウは、どこだろ。
Spaceの間のことはちゃんと覚えている。
頭はふわふわしていたけど、リウと話したこともそのときリウが見せた表情も、きちんと全部覚えていた。
だからこそ、早くリウに会いたい。
――リウと、ちゃんと話さなきゃ。
焦る気持ちのまま、幸季は寝室の扉を開いた。
◆
扉を出て、短い廊下を進むとすぐにリビングについた。
紅茶をごちそうしてもらったダイニングテーブルのところに誰かが座っている。
後ろ姿しか見えないが、リウではなさそうだ。
「あの……すみません。リウは?」
「あれ? 間違わないんだな、アンタ」
「?」
椅子に腰かけてスマホを弄る青年に声を掛けたら、不思議な返答がかえってきた。言葉の意味がよくわからず首を傾げていると、立ち上がった青年が幸季のほうへ近づいてくる。
近くに立って、顔を覗き込まれた。
「莉兎とオレ、似てると思うんだけど?」
「……そう言われれば」
間近で見た青年の顔は確かにリウの顔と似ているようだった――いや、髪の色以外は全く同じ顔の作りだ。
だけど、リウとは別人だとはっきり言える。
彼とリウを間違うなんて、そんなことがあるはずない。
「……親でもたまに間違うのにな」
「おい、勝手に近づくな」
「あ、悪ぃ。ちょっと珍しかったもんだから」
二人の声を聞きつけて、キッチンからリウが出てきた。
つかつかと早足でこちらに歩いてきて、青年と幸季を引き離すようにその間に立つ。
並んでみると、二人はとてもよく似ていた。
先ほど、すぐに青年の顔がリウと似ていると気がつかなかったのが不思議なぐらい、そっくりだ。
「双子、ですか?」
「おう。一卵性双生児ってやつだな。オレは呂亜。コイツの兄貴な」
「……お兄さん」
「少し先に生まれただけだよ。コウキ、身体は痛くない? 起きて平気?」
「大丈夫。ごめん……なんかゆっくり寝ちゃったみたいで」
リウの手がそっと頬に触れる。そうやって優しくされるのには、まだ慣れそうもない。
心配そうに顔を覗き込みながら、身体に触れてくるリウに幸季はドキドキが止まらなかった。思わず、視線から逃れるように俯く。
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「ううん。そんなことはない。自然と目が覚めただけだから」
「そうだよ。別にうるさくしてねえだろ」
「顔がうるさい」
「同じ顔だろうが」
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