29 / 34
《莉兎視点》
幸せなうさぎ 01
しおりを挟む軽くシャワーを浴びて部屋に戻った後、莉兎はコウキの身体を清めてやった。
濡らしたタオルで飛び散った体液を優しく拭き取ると、コウキが嬉しそうに表情を緩める。だが時折、店でも見せたような悲しげな表情を浮かべるのが気になった。
誰のことを考えているのかはわかる。前のパートナーのことだろう。
何を考えているのかまではわからないが、首輪の跡に触れる仕草でその相手が誰なのかすぐにわかる。
「コウキさ、たまにすごく寂しそうな顔してること気づいてる?」
思い切って聞いてみた。
コウキが驚いた表情で莉兎のほうを見上げる。
「今もそうなんだけどね。それって、前の人を思い出してたりする?」
別に問い詰めるつもりはなかった。コウキの考えていることが、少し気になっただけだ。
コウキは黙り込むと、自分の顔に手を当てた。どうやら、表情に出ているとは思っていなかったらしい。
質問の返事を急かすつもりはなかった。答えを待つ間も身体の汚れを拭き取ってやる。
コウキは何か言おうとしては、言葉に詰まっているようだった。その表情には明らかな罪悪感が募っている。莉兎に申し訳ないと思っている顔だ。
「ごめん。そんな顔させるつもりじゃなかったんだけど」
「ううん……僕こそ、ごめん」
コウキは肯定も否定もしなかったが、その縋るような視線から感情が伝わってくる。
莉兎に嫌われたくない――そう思ってくれているのがわかる。
感情が言葉よりも顔に出るのは場合によっては不便かもしれないが、今この状況においては嘘をつけないコウキの表情にひどく安心できた。
――嫌われてないのか。
あんな嫌がるようなことをしたのに。
コウキはまだ、自分に好意を寄せてくれているらしい。
「リウ、僕――……っ」
コウキの泣きそうな声に、莉兎まで少し泣きそうになった。
涙があふれてしまう前に身体を折り曲げ、優しく唇を重ねる。くちゅりと舌を絡め、頭を優しく撫でてやると強張っていたコウキの身体から力が抜けた。
まだGlareを当ててもいないのに、簡単に莉兎に身体を委ねてしまうコウキに愛しさがこみ上げてくる。
「謝らなくていいからね。コウキは少し人の反応を怖がりすぎだよ、大丈夫だから」
謝らなくてはいけないのはひどいことばかりをした莉兎のほうだ。
だけど、きっとコウキは謝罪など望んでいない。
「でも……」
「Good。ちゃんと俺のCommandは守れたし、たくさん気持ちよくなれたでしょ?」
「……ぅ、ん」
「俺のGlareを素直に受け止めて、そうやって蕩けた顔をたくさん見せてくれるだけでいいんだよ。苦しそうな顔も泣き顔も、悲鳴だって……コウキは全部、俺の理想なんだから」
――そして、俺を赦してくれるところだって。
DomとSubが互いに支え合う関係なのだと、初めて理解できた。
Subを支配し、コントロールすることこそがDomの役割なのだと思っていた。これはそのための力なのだと。だからこそ、歪んだ自分を認められなかった。
51
お気に入りに追加
1,631
あなたにおすすめの小説


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる