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《莉兎視点》
手負いの獲物 03
しおりを挟む一目見て、莉兎はコウキが我慢ばかりのプレイを強いられてきたタイプなのだと見抜いていた。
見るからに気が弱そうなタイプ。年齢の割には童顔で可愛らしい見た目だが、Sub不安症の症状が出始めているのか顔色が悪く、目の下にもうっすらとクマが浮かび始めていた。
Sub不安症とはSubが長い間、Domの支配を受けないことで起こす症状の総称だ。
大きな不安感と不眠が主訴であることが多く、それが続くとこうして顔色が悪くなったり、目の下のクマがひどくなったりする。さらに強いストレスを感じると、自分の肌を掻きむしるといった自傷行為に発展することもあるらしい。
それを防ぐための薬もあったが、弱い薬ではそれら症状をすべて抑えることは難しく、また強い薬は副作用がきつすぎるため、常用することが禁じられていた。
そのため、一番手っ取り早くこの症状を解消する方法としてDomの支配が必要になる。この店もそのためにあった。
金を払いDomを買い、短時間のプレイでその欲求を解消する。
この店の設定金額は安い額ではなかったが、はっきりと身元の証明されたDomを使っているため、安心して使えると人気が高いようだった。
――まあ、俺は偽物のスタッフなわけだけど。
でも、だからといって手を抜いたプレイをするつもりはない。
呂亜の代わりとはいえ、ここに来たからにはきちんと客を満足させて帰すつもりだった。
――それにしても、めちゃくちゃ緊張してるな。
コウキは随分緊張しているようだった。
挨拶の後、ベッドに腰掛けたかと思えばそこから全く動かない。
GlareとCommandを使えば無理にこちらを向かせることは簡単だったが、今すぐそうするつもりはなかった。
莉兎はコウキの正面にしゃがみ込むと、下からコウキの顔を覗き込む。
「緊張してる?」
聞かなくても答えのわかる質問だったが、一応優しくそう声を掛けてみる。
予想していたとおり、かすかな頷きとともに肯定の返事がかえってきた。
――謝るのは口癖かな?
コウキの発言には何かにつけて「すいません」と小さな謝罪が入る。仕事柄そういう癖がついているのか、それともそういう風にDomに躾けられてきたのか。
視線をコウキの首元に移す。コウキの首には長年首輪をつけていた痕が残されていた。年単位でそこにあったのは間違いない。今まで決まったパートナーがいた証拠だ。
――捨てられたんだな、たぶん。
時折、何かを思い出すような仕草を見せた後、暗い表情をするのはそのせいだろう。
ゆっくりと話を聞いて、なるべく優しく見えるようににっこりと微笑みかけてやる。
呂亜だったら威圧的なプレイを無理にでも進めたかもしれないが、彼は別に呂亜のプレイを目当てに指名をしたようには思えなかった。おそらくは目についた相手を適当に指名したのだろう。
――彼の相手が俺でよかった。
呂亜が相手でも一時的な欲求は解消できただろうが、こうした不安症のメンタルケアはなかなか難しいものがある。
莉兎もカウンセリングは専門外だったが、心理学の知識がある分、呂亜よりは適任だといえた。
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