そのうさぎ、支配者につき

コオリ

文字の大きさ
上 下
18 / 34
《莉兎視点》

手負いの獲物 02

しおりを挟む

 前に呂亜が部屋に置いていった服を一式、身につける。
 一卵性双生児の莉兎と呂亜の顔はほぼ見分けがつかないほどに似ていたが、念のため、バイト先にはマスクをつけていくことにした。

 ――そいや、髪の色ってどうなんだろ。

 最近、呂亜には直接会っていなかった。違う大学に通っているし、お互い家を出て一人暮らしをしているのでなかなか会う機会はない。
 呂亜も莉兎と同じで気分で髪色を変えるタイプだ。好みは似ているので、お互いがあり得ないと思う色になることはなかったが、全く同じ色ということはおそらくないだろう。
 呂亜の写真を探すため、スマホでSNSを開く。画像はすぐに見つかった。

「……あー、これは……ギリいけるか?」

 自撮りらしい呂亜の写真と睨み合う。
 髪の長さや髪型はほぼ同じだったが、色味が少し違う気がした。
 同じグレージュ系ではあるようだが、呂亜のほうが少しトーンの明るいメッシュが入っているようだ。莉兎のほうは毛先に行くほど淡くなるようにグラデになっており、そこにカーキ系の色を追加している。
 光の加減によっては似た感じに見えそうだが、どこまで誤魔化せるだろうか。

「しゃーない。帽子被っていくか」

 帽子にマスク。その格好は完全に不審者だが、バレてしまうよりはいい。
 双子であることはバイト先の誰にも話していないと言っていたので、まず疑われることもなさそうだが、何かツッコまれるのは避けておきたかった。
 呂亜も言っていたとおり、喋られなければ似ている二人だが、話をすれば違う人物だとバレてしまう可能性が高くなる。
 顔はそっくりだし、同じDomでもあったが、性格はあまり似ていなかった。

「……行くか」

 そう呟いて、マスクの下で欠伸あくびを一つ噛み殺す。
 今日は一日中、惰眠を貪るつもりだったのに――、まさかこんなことになるとは。しかし、これも金のため。そう。呂亜のためではなく金のためだ。背に腹は代えられない。
 うん、と大きく背伸びをした後、莉兎は呂亜のバイト先に向けて出発した。


  ◆


 案の定、誰にもバレずにバイト先に入ることができた。
 誰も疑っている様子すらない。
 挨拶をして少し驚いた顔をされたときは焦ったが、ピンチといえばそれだけだった。

 ――呂亜のやつ、バイト先では挨拶ぐらいしろよ。

 仕事用に割り当てられた個室に入って、帽子とマスクを取った。先ほど受付で手渡されたカルテに目を通す。
 客は予約の時点でこのカルテを記入することになっているらしい。客の情報やプレイの希望はこの用紙に全て書かれているようだった。

「相手の名前は……コウキ、か」

 年齢は三十歳。ちょうど一週間前に誕生日を迎えたばかりのようだ。
 職業は会社員。パートナーはなし、プレイ経験はあり。
 微妙なプロフィールだった。
 パートナーを解消したところなのか、普段からこういう店を利用して欲求を解消しているタイプのSubなのか。
 このカルテでは、そこまで詳しくはわからない。

「プレイの希望は特になし。NGプレイも特になしって……なんか気になるな」

 プレイ希望がないのは、別に気になる点ではない。
 Subは自分から主張しない性格の人間が他の二次性よりも多い傾向があった。おそらくは《支配される性》であることが影響しているのだろう。
 だが、NGプレイがないというのは気にかかる。
 本当になんのプレイでも問題なしという猛者がいないわけではなかったが、そんなSubであれば逆に「激しいプレイ希望」などと要望を書いてきそうなものだ。
 どちらもなし、というのはどうにも違和感が拭えない。
 無理に調教されてそうなったか、もしくは今まで我慢ばかりのプレイを強いられてきたか――そのどちらかであることが懸念された。

「って……うっかり分析するのは悪いクセだな」

 莉兎の専攻はDomとSubに関する心理学、その心理的な構造を調べることだった。だからこういうカルテを見ると、無意識に相手の人物像を探ろうとしてしまう。
 この一回、たった二時間関わるだけの人間をそこまで深読みする必要は全くないのに。
 予約の時間まであと五分。
 この客は時間きっちりに訪れるような気がしていた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

処理中です...