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《幸季視点》
うさぎのクッキー 02
しおりを挟む「顔色もよくなったみたいだね」
「そんなに、ひどかったですか?」
「ちょっとね」
服を着ながら、少しだけ雑談を交わす。
プレイの間、服を脱いだのは幸季だけだ。着衣の一切乱れていないリウは、ベッドに腰掛けながら着替える幸季のことを眺めている。
達したのも幸季だけだった。だけど、リウのしてくれたプレイについて不満に思うことは少しもない。幸季の精神状態は間違いなく安定していた。
これは紛れもなくSubの欲求が満たされている証拠だ。
「ところでさ、このあと時間ある?」
「え……?」
「もう少しだけ付き合ってほしいんだけど、いい?」
――延長しろってことかな?
予約のときに見た料金表を思い出す。多分、一時間ぐらいの延長なら今ある手持ちで足りるはずだ。
この後に特に予定があるわけでもないし、何より幸季自身ももう少しリウと一緒にいたかった。
その申し出に、こくりと頷く。
「ホントに? じゃあ、出られるように準備しといて。俺も荷物取ってくるから」
――え?
このまま、この部屋で一緒に過ごすのではないのだろうか。
困惑する幸季を置いて、リウが部屋を出て行ってしまう。幸季はその背中を見送ることしかできなかった。
◇
――これは一体、どういう状況なんだろう。
きちんと整頓された部屋。
木目調で統一された家具が配置され、アクセントとして使われている鮮やかな青色がとても綺麗に映えている。窓際に置かれた多肉植物からは可愛らしい花が咲いていて、丁寧に世話をされている様子が伝わってきた。
テーブルにも一輪、花が置かれている。
どこかで見たことのある花だが名前までは知らない。幸季は現実逃避するように、呆然とその花を眺める。
まるでオシャレなカフェのような場所だが、ここはリウの自宅だった。まさかあの店を出てからすぐ、こんなところに連れて来られるなんて。
――どうして、こんなことに。
プレイをした後はいつもどこかぼーっとしてしまう。今日は特にそれがひどかった。
プレイ中、ずっとリウにすべてを委ねていたせいか、Glareがなくてもリウの言葉に従順になってしまう自分がいる。
何も聞かずにここについてきてしまったのだって、そんな理由からだった。
――早めに帰ったほうがいいかな。
リウは今、席を外していた。
キッチンからは紅茶のいい匂いが漂ってきている。リウがお茶を用意してくれているのだ。
まるでカフェで嗅ぐような本格的な香りに、また頭がぼーっとし始める。
かちゃり、と食器の擦れる音がすぐそばで聞こえて、幸季はいつの間にか閉じてしまっていた瞼をぱちりと開いた。
「眠い?」
「……あ、いえ。プレイの後はいつもこんな感じで」
「ぼーっとする感じ? Glareのトランス状態から抜けきれてないのかな。Spaceには入らなかったけど、もしかしたらそうなりやすい体質なのかもね」
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