そのうさぎ、支配者につき

コオリ

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《幸季視点》

取り上げられた首輪 02

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「え、と……」
「ご主人様とか呼ばせるタイプだった? 俺、そういうの苦手。なんか演技させてるみたいじゃない? そんなんじゃ相手の本質がわかんないと思うんだよね」
「……本質?」
「そう。だから俺のことは呼び捨てで呼んでほしいな。敬語は……まあ、コウキには似合ってるからそのままでもいいけど」

 了承の意味を込めてコクリと頷くと、リウが目を細めて満足そうに笑みを浮かべた。そんな表情をDomに向けられたのも初めてで、とくりと心臓の音が跳ねる。

「コウキって年齢よりも若く見えるね。その見た目で三十って誰も信じないと思うけど」
「そうですね……この間、新入社員に間違えられました」
「ははっ、だよね。そんな感じする。あ、先週誕生日だったんだよね。おめでと」

 ――全然、めでたくなんかない。

 そのせいで、幸季は前のパートナーには捨てられたのだ。
 元々、幸季が三十になるまでの限定パートナーだと言われていた。若いSubにしか興味はないと。それでも気に入ってもらえればその制約だってなくなるかもしれないと、どこかで期待していた。自分だけは特別だと言ってもらえないかと――。
 だが、そんなことは起きなかった。
 三十歳の誕生日。
 それは幸季がずっと来なければいいと思っていた日だ。
 当日にはお祝いもなく、あっさりと捨てられてしまった。クレイムの契約とともに贈られた首輪も、そのときに彼に取り上げられてしまった。

 ――彼から貰った唯一の贈り物だったのに。

「コウキ、ダメだよ」
「――っ、あ」

 無意識に首を掻きむしっていたらしい。手首を大きな手に掴まれ、幸季はハッと顔を上げる。
 真剣な表情をしたリウと目が合った。

「申し訳、ありません」
「掻きむしりは不安症の症状でもあるけど……コウキのそれはストレスも強いのかな?」

 しゃがんだままのリウに、じっと下から瞳の中を覗き込まれる。
 まだ、Glareは出されていないはずなのに、何故かそうされるだけで身体の奥が小さく震えてしまう。

「さてと、プレイの前にセーフワードを決めようか。何がいい?」
「…………」

 その言葉に、彼とのセーフワードが「愛してる」だったことを思い出す。それを言ったらプレイをやめると言われていた。
 どうして気づかなかったんだろう。
 その時点で、彼からの愛は得られないと言われているようなものだったのに。
 愛してしまったら終わり、なんて――そんな残酷なルール。

「コウキってさ、嫌いな食べ物は何?」
「? ……ピーマン、ですけど」
「じゃあそれにしよう。セーフワードはピーマンね。あ、ちなみに俺もピーマンは嫌い」

 同じだね、と笑うリウの表情にきゅっと胸が痛くなる。
 それを振り払うように幸季は小さく首を振った。

「じゃ、始めよっか」

 立ち上がったリウが、うんと背伸びをする。
 その言葉にまた少しだけ緊張が増した。彼以外のDomとの初めてのプレイだ。

「――よろしく、お願いします」
「うん」

 対照的にリウの態度はずっと変わらなかった。口調だって軽いままだ。
 でも、それもきっとここまでだろう。
 プレイが始まればDomは豹変する。
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