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03 互いに秘めた恋情
しおりを挟む「本当にすごいな……これは」
唸る獣のような声で言ったエヴァロスに、僕は返事ができなかった。
後ろから最奥まで貫かれ、激しく前後に揺さぶられ――そんな余裕があるはずない。
奥を押し潰されれば、口から勝手に声が漏れる。涙と唾液で顔をぐちゃぐちゃにしながら、僕はずっと掠れた声でエヴァロスの名前を呼んでいた。
「あっ、あ……エヴァロス……ンぁっ」
こんな風に誰かに抱かれるのは初めてなのに、僕の後孔はしっかりエヴァロスの昂ぶりを受け止めていた。
繋がったところからも魔力がさらに流れ込んできて、身体は快楽に弛緩しきっている。
ぐちゅぐちゅという濡れた音と、素肌同士のぶつかり合う音が生々しい。耳からも犯されているような感覚に、理性がどんどん塗りつぶされていた。
――魔力も、混ざり合ってる。
僕の身体の中で、僕とエヴァロスの魔力が混ざり合っているのがわかる。
最初は反発していたのに、今じゃすっかり絡まり合って……それがさらに僕の身体の熱を高める。
エヴァロスも同じなんだろうか。
僕の中に穿つほど、エヴァロスの昂ぶりの質量が増している気がする。
これ以上は無理ってぐらいギチギチで苦しいはずなのに、今は苦しさより幸せを感じていた。
「ん、ぁ……あッ、ひぁっ」
イく感覚はもうなかった。
もうずっと、イキっぱなしのような状態だからだ。僕の中心からは、薄まった精と一緒に混ざり合った二人の魔力があふれ出している。
――気持ちよすぎて、頭がおかしくなりそう。
そう思うけど、やめてほしいとは思わない。
このまま、おかしくなったほうが幸せなんじゃないかって思ってしまうぐらい、僕の身体はもう完全にエヴァロスの与える快楽に支配されていた。
「……そろそろ、イきそうだ」
エヴァロスの動きが激しさを増した。
僕はもう、自分じゃ何もできない。支えられた腰だけを高く上げて、エヴァロスの昂ぶりを受け入れるだけの壊れた人形だ。
強く穿たれ、揺さぶられ、甘く鳴く。
「……くッ」
「ん、ぁあああ――っ」
エヴァロスが中で果てた瞬間、僕は叫んでいた。
放たれた精と一緒に、大量の魔力が流れ込んできたからだ。
魔力が熱となって、すごい勢いで身体の中を駆け巡る。今までと比べものにならないぐらい暴力的な快楽が僕を襲った。
びくんびくん、と身体がしなるように跳ねる。
「――ッ!」
ぷつん、と焼き切れるように意識が途切れた。
†
「う…………ぁ」
目を覚ました僕は、全身の痛みに小さく唸った。
話そうとしたけど喉もすごく痛くて、うまく声が出せない。
その原因は明白だった。
思い出すと、恥ずかしくなっちゃうけど。
「目が覚めたか。回復魔法を使うぞ」
「……ん」
どうせなら、意識がないうちにしておいてくれたらよかったのに。
「そうしたら、君は全部夢だったと思うだろ?」
口には出していないのに、思ったことが顔に出てしまっていたのか、エヴァロスが僕の頭を撫でながら言った。
エヴァロスの回復魔法はびっくりするぐらい効果抜群で、ボロボロだった僕の身体は一瞬で回復する。確かに、起きてこの状態だったら「あれは全部夢だったんだ」って思っちゃってたかも。
「それって、夢だと思われるのが嫌だったってこと?」
「……そうだな」
「まあ……それは、僕も嫌だけど」
身体を起こした僕は、目の前に座るエヴァロスの身体に、ぽふんと体重を預けた。
二人ともまだ裸なので、密着した肌から伝わってくる体温がすごく心地いい。
「そんなことをしたら勘違いするぞ?」
「していい、って言ったら?」
「嫌じゃないのか?」
「……嫌だったら、最初から許してない」
いくら知的好奇心と興味に負けたからとはいえ、嫌な相手に身体を委ねるなんてするはずがない。
「そうか。気持ちよさに流されただけなのかと」
「ちょっと……僕のこと、そんな風に思ってたの?」
「いや、いつも可愛らしいと思っていた」
「ふぁ?」
エヴァロスの口から飛び出た信じられない言葉に、僕は口をあんぐり開けたまま固まった。
「……いつも? ……可愛らしい?」
言われたことを声に出して復唱してみるものの、エヴァロスの言葉の意味がわからない。
目をぱちぱちと何度も瞬かせてみたけど、僕の思考は停止したままだった。
「君のことが気になっていたと、はっきり言葉にしたほうがよさそうだな」
「そ、それ……本当?」
「ああ。それこそ、俺がどうでもいい相手にこんなことをする人間だと思っていたのか?」
そんな風に思ったことはない。
ふるふると首を横に振った僕を見て、エヴァロスが表情を緩める。
いつもは人を寄せない鋭い目つきのエヴァロスが穏やかに目を細めて笑う仕草に、どくんと強く鼓動が跳ねた。
「……勘違い、しちゃうよ?」
「すればいい」
「僕のうっかりのせいで、こんなことになっちゃっただけなのに?」
「そうじゃないって言ったら?」
「――え?」
顔を上げて問い返した僕と目を合わせて、エヴァロスが気まずげな表情を浮かべる。
「……魔石を置きっぱなしにしたのはわざとだと言ったら、君は怒るか?」
「わざと?」
「君が俺に興味を持っていてくれたら……と、下心があったという話だ」
――え、あれってそういうことだったの?
確かに魔石を置きっぱなしにするなんて、普段のエヴァロスではあり得ないことだった。
エヴァロスはかなり几帳面だし、部屋の片付けなんかもしっかりしているのに……どうしてすぐに、気づかなかったんだろう。
「一応、先に弁解させてほしい。君を罠にかけるつもりはなかった。君が魔石に触れなければ何も起こらないようにしてあったし」
「ん? 僕、触ってないよ?」
「――え?」
「手は魔石に向かって伸ばしたけど、触れるより前にビリッてなったもん」
魔石から魔力の糸が伸びてきて、それに捕まってこんなことになったのだ。
僕は魔石に一度も触れていない。
「……そんな、ばかな」
僕の言葉を聞いて、急にエヴァロスが慌て始めた。
ベッドから立ち上がって机に近づく。自分の作った魔石を手に取り、そこに魔力を込めたようだった。
ふわり、と魔法陣が浮かび上がる。
僕はその魔法陣の美しさに見惚れていたけど、エヴァロスの顔は少しずつ青ざめていった。
「……魔法陣に当てはめるべき文字を間違えた?」
「え? エヴァロスが間違えるなんてことあるの?」
エヴァロスはすべてが完璧な印象だった。
筆記も実技も試験はいつも満点だし、エヴァロスが何かを間違えたところなんて見たことがない。
「すまない……こんなことをするつもりじゃ」
謝罪するエヴァロスの表情はわかりやすいぐらい萎れていた。ぽふんと力なくベッドに腰を下ろし、魔石を手に持ったまま項垂れている。
そんなエヴァロスに、僕は後ろから近づいた。
「魔法陣、僕にも見せて」
僕がそう言うと、エヴァロスは俯いたまま、魔石の魔法陣を見せてくれる。
間違っているところは、僕にもすぐにわかった。
「これ……一年生でも間違えないよ?」
こんなの初歩の初歩だ。
信じられないぐらい簡単な魔法陣を間違えていた。首席のエヴァロスがこんな失敗をするなんて、本当に信じられない。
「緊張していたんだ……信じてもらえないかもしれないけど」
「……っぷ、あははは」
いつもからは想像できないぐらい弱々しいエヴァロスに、僕は思わず笑ってしまった。
後ろからエヴァロスの身体に抱きついて、全身を揺らして笑う。
「リーツ?」
「いや、だってさ。そんなにも情けない声で言うんだもん。ちゃんと信じるって。こんな恥ずかしい間違い方、嘘だってしたくないでしょ」
「う……」
「あ、ごめん。別にばかにしたわけじゃなくて」
こんな初歩的な間違いをしてしまうぐらい、この完璧超人のエヴァロスが緊張していたなんて――そこまで想われていたなんて、気を悪くするはずない。
「きっかけはどうあれ、僕たち両想いってことでいいんだよね?」
僕の言葉に、エヴァロスが驚いたように目を見開いた。
その顔がなんだか可愛らしく見えて、僕は戯れるようにエヴァロスに口づける。触れた場所から、あの疼いてたまらない反属性魔力の気配を感じた。
END.
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