狼の疼く魔力と秘めた恋情

コオリ

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02 疼きと熱と

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 どのくらいそうしていたんだろう。
 いつの間にか、魔石から伸びていた魔力の糸は切れていた。
 だけど、身体はずくずく疼いたまま……全身が熱い。

「やばいのかな、これ……」

 発情した獣みたいに呼吸を荒げながら、得体の知れないものへの恐怖に僕は身体を縮こまらせていた。
 ベッドの上で震える僕の背後で、ガチャリと扉の開く音が響く。
 寝転がったままおそるおそる振り返ると、扉の前に立つエヴァロスと視線がぶつかった。

「……ッ」

 短く切り揃えられた漆黒の髪。こちらを射貫く深紅の瞳に息が詰まる。
 エヴァロスの色合いと鋭さは、闇の森に住む血狼を思い出させた。名前こそ物騒な血狼だが、北部では神の遣いとして崇められている希少な獣だ。
 僕も本でしか見たことがないけど……エヴァロスを見ていると、きっとこんな風に気高く美しい獣なんじゃないかって思う。

「……どうした。体調が悪いのか?」

 いつもなら声を掛けてくることなんかないのに、僕の異変に気づいたエヴァロスに話し掛けられた。
 同い年とは思えない、落ち着いた低い声。
 その心地よい響きに、ひくりと身体が小さく震える。

「あ……なんでも、ない」

 そう答えたのに、エヴァロスがこちらに近づいてくる。
 熱で赤らんでいるだろう顔を見られたくなくて慌てて顔を背けようとしたのに、それはうまくいかなかった。
 僕の顎に、エヴァロスの指が触れている。
 大きな手に顔を持ち上げられ、僕は上を向くしかなかった。

「顔が赤いな。熱でもあるのか?」
「ん……ッ」

 エヴァロスは本気で心配してくれているのに、僕は気持ちよさに喉を鳴らしてしまった。
 自分以外の手が触れる感覚にびっくりするぐらい敏感になってしまっている。エヴァロスもそんな僕の異変に気づいたのか、ぎゅっと眉根を寄せた。
 こんなに近くでエヴァロスの顔を見るのは初めてかも知れない。険しい表情に僕の鼓動は速さを増す。
 それは怖いから、というだけではなかった。

「何をした?」
「……何、って」
「いつもと君の魔力と気配が違う。これは……俺の魔力か?」

 すぐに気づかれたことに驚いた。
 エヴァロスは僕のことなんか気にかけていないと思ったのに、いつもと魔力が違っていることがすぐにわかってしまうなんて。

 ――でも、本当のことを言うのは。

 魔石に近づいてしまったことを正直に話して、怒られたりしないだろうか。
 どう答えるか迷った僕は、無意識に机のほうに視線を向けてしまう。

「――あの魔石か」

 説明する前にバレてしまった。

「勝手に、ごめん……」
「いや、あんなところに置きっぱなしにしていた俺も悪い」

 すんなり許してもらえた。
 ほっ、と息をついた僕の頭にエヴァロスの手が触れる。

「ひぁ……んッ!」

 油断していたせいで、今までで一番大きな声が出てしまった。
 びっくりするぐらい高くて、甘えたような声に慌てて両手で口を塞ぐ。
 でも、それに驚いていたのは僕だけで、エヴァロスは冷静な表情のまま僕を見下ろしていた。

「ねえ……触んないで」
「なぜだ?」
「…………変な声、出ちゃうから」

 エヴァロスに触れられると声が我慢できない。
 だから触らないでって言ったのに、エヴァロスは手を離してくれなかった。
 それどころか、僕の寝転がっているベッドの端に腰を下ろす。

「ちょ、っと……」
「反属性の魔力は『いい』らしいな」
「……っ」
「わかっていてやったのか? それとも、本当に偶然?」
「偶然だってばッ! あっ、だめ……そんなとこ、触っちゃ」

 エヴァロスの手が、僕の内腿をなぞった。
 いやいやと首を横に振っているのに、全然やめてくれない。
 大きくて力の強いエヴァロスの手を力づくで無理やり剥がすことは難しくて、僕はエヴァロスの手の甲をカリカリと引っ掻く。

「ほんと、だめだって……」
「出せば治まるんだろう? 手伝ってやる。なんなら、もっと魔力を流し込んでやってもいいが」
「何、言って」
「反属性の魔力がどうしてこんな効果をもたらすのか、君は気にならないのか?」
「それ、は」

 正直、気になっていた。
 こうして身体が熱く疼く理由も、これ以上やったらどうなってしまうのかも――僕は知的好奇心と快楽への興味にすぐに敗北した。

「決まったな」

 エヴァロスが口の端を上げて笑う。
 一際強く鼓動が跳ねて、僕はエヴァロスのローブにぎゅっとしがみついていた。



     †



 触れた場所から流し込まれる反属性の魔力に、僕の身体の熱は上がり続けている。
 胡座をかいて座るエヴァロスの脚に跨り、僕はエヴァロスの唇の端にぺろぺろと舌を這わせていた。
 唾液が甘く感じるのは、そこに含まれる魔力のせいだ。
 じわじわと侵食するエヴァロスの魔力の量が増えるだけ、僕の身体は敏感さを増していた。

「ん、ん……ッ」

 服は早々に脱ぎ捨てていた。熱くて、もどかしくてどうしようもなかったからだ。
 エヴァロスも上半身の服を脱いでいる。
 脱がしたのは、僕だった。
 素肌のほうがより相手の魔力を感じる。こうして素肌を合わせることの気持ちよさを知ってしまったら、もっともっとと欲しくなるのは仕方ないことだ。
 すりすりと肌を擦り合わせる僕の背中に、エヴァロスが優しく手を添える。
 背骨をなぞるように腰までゆったりとした手つきで撫でられて、込み上げる快感にひくひくと腹筋が小刻みに震えた。

「ねえ……また、出そう」

 僕はもう二度、吐精済みだった。
 一度は自分の腹に盛大にこぼしてしまい、もう一度はエヴァロスの手を汚してしまった。
 反属性魔力が満ちた身体で吐精するのは想像していた何倍も気持ちよくて……あまりの快感に意識を失わずにいられたことが奇跡に思えたぐらいだ。

「達してばかりだな。今度は出す前にちゃんと、君の身体にどんなことが起こっているか説明してくれるか?」
「うん……やる」

 エヴァロスは身体の変化について、僕に説明を求めた。
 僕もこの現象がどういうものなのか、きちんと突き止めたかったはずなのに、気持ちよさに押し流されて二度失敗してしまったのだ。
 次こそはと気合いを入れつつ、エヴァロスの首の後ろに腕を回す。

「反属性魔力は、魔力回路に混ざると……んぁ、反発で、ピリピリして……あと、ぞくぞくして、おかしくなりそう」
「擬音ばかりだな」
「だって、本当に……そうなんだもん」

 自分の魔力しか流れていないとき、全身を巡る魔力回路を意識することはほとんどない。
 常に自分の身体に、しっかりと馴染んでいる魔力だからだ。
 でも、反属性の魔力は違う。
 流れたところからピリピリと痺れるような感覚が襲う。それが熱になり、疼きになるのだ。
 そこからさらに流し込むと、今度は意識が朦朧としてくる。これは気持ちよさのせいもあるのかもしれないけど、身体の震えは止まらないし、何より精を吐き出したくて仕方なくなる。
 今も、そんな感じだった。

 エヴァロスは拙い僕の説明を、興味深げに聞いてくれる。
 僕が話し終えた後、少し考えるように首を傾げて、「そういえば」とおもむろに口を開いた。

「ここの勃ち具合は、いつもと変わらないのか?」

 そう言ってエヴァロス指さしたのは、僕の小ぶりな中心だ。
 その先端からは、とろとろと先走りがあふれている。

「……そこも、いつもと違う。いつもよりパンパンだし……たくさん出るよ。それに出すとき、怖いぐらい気持ちいい」
「それは、俺も体験してみたいな」
「ん……いいよ」

 僕も、同じ感覚をエヴァロスに体験してほしかった。
 とろりと意識を蕩かせたまま、エヴァロスの瞳を覗き込む。獰猛な輝きに気づいたときにはもう、噛みつくように口づけられていた。
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