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番外編
【番外編】カウントダウン **
しおりを挟む「ねー、銀弥くん、メロンソーダ取ってー」
「おう。あ、ドラ、ケーキ切り分けるけど、皿ってどっかある?」
「別に切り分けんでええやん。このまま、フォークぶっ刺して食べたら」
「勝手なこと言わないでよ、田中。ボクは嫌だからね。ちゃんと切り分けて」
ドラ、銀弥、田中、蘭紗の四人が、テーブルの前で賑やかに話している。
――こんなに大勢の人と過ごす年越しは、これが初めてかもな。
純嶺はそんなことを考えながら、ぼんやりとその光景を眺めていた。
昔はコウやアキラと一緒に過ごすこともあったが、最近ではそれもなかったし、わざわざ正月に合わせて実家に帰ることもなくなっていたので、誰かと一緒に過ごすこと自体久しぶりだった。
テーブルの上に並んだ大量の料理は、VIΓLAINのメンバー全員で持ち寄ったものだ。
桶に入った寿司にフレンチのオードブル、中華料理の盛り合わせ、ケーキやスナック菓子まである。
メンバーの個性をそのまま表したような、見事なバラバラ具合だった。
用意された飲み物にアルコールがないのは、まだ十代の叶衣に配慮してのことだ。間違って飲んでしまっては大問題になってしまう。
今回の年越しパーティーは、VIΓLAINメンバーの身内的な集まりではなかった。
会場として使っているのは、景塚プロダクションの持ち物であるスタジオの一室。純嶺たちの前にはカメラやマイクといった撮影機材があり、周りにはスタッフの姿もある。
このパーティーの様子は、ネットを通じて生配信されていた。
「新年まで、あと三十分なの? 早いなー!」
「二時間も何喋って繋ぐねんって思とったけど、あっという間やな。ファンの子たちのコメントおもろすぎやし。あ、『真栄倉くんがみんなの輪に混ざれなくて寂しそう』やって。おーちゃん、そうなん?」
「は? 勝手なこと言ってんなよ」
「ほんまやー。おーちゃん、寂しくて拗ねてもてるやん」
そわそわと時間を確認するドラの隣で、田中はわざとらしく大声でそう言うと、真栄倉に絡み始めた。
グレープジュースの入ったワイングラス片手に、田中はいつもより上機嫌だ。
「それ、酒じゃないよな?」
「ちゃうって。どう見てもジュースやん。疑うんやったら、おーちゃんも飲む? 間接キスやで」
「お前の絡み方……酔っ払いにしか見えないんだけど」
「えー、いつもと変わらへんやん」
「おいっ、くっつくな!」
田中は嫌がる真栄倉を揶揄うのが楽しいのか、かなり強めに叩かれているのに気にする様子はない。
それを見たファンから、リアルタイムにコメントが飛んできていた。『いいぞ、もっとやれ!』と田中を煽るようなものばかりだ。
「――アンタ、全然食べてねえじゃん」
コメントモニターを眺めていたら、染が純嶺のほうに近づいてきた。
「お前だって、食べてないだろ」
染だって、さっきから炭酸水しか飲んでいないのは知っている。
純嶺の指摘を笑って受け流しながら、染は純嶺の隣を陣取った。
「踊る前って、あんまり食べたくねえんだよぁ」
「おれもだ」
マイクに入らないぐらいの小声で会話を交わす。
二人の会話の内容が、配信を見ているファンにはシークレットにしなければならないものだからだ。
吐息が触れるぐらいの距離まで顔を近づけて話していると、染の香りが鼻をくすぐる。毎日一緒にいて嗅ぎ慣れた香りに、純嶺は目を細めた。
「……二人、近すぎだよ」
後ろから、蘭紗に背中をつつかれた。
非難するように物言いの蘭紗に対して、染は全く表情を崩さない。距離を取ろうとした純嶺の肩に腕を回し、逆に身体を密着させてくる。
「ちょっと、春日之」
「いいじゃん。こういうの、ファンサービスにもなるって知らねえの?」
「そんなこと言って、キミは芦谷に触りたいだけだろ」
「まあな」
相変わらず、染はそういう感情を全く隠そうとしない。
周りの意見に左右されない野生の獣のような自由奔放な振る舞いが、染らしさだった。
「あ、十五分前だ! みんな、準備するよー」
ドラの声が響いた。
ファンのコメントが『準備?』『何かあるの?』とざわつき始める。
「みんなのために、ちゃんとサプライズ用意してるからねー」
「ってことで、こっからはしばらく音声のみな」
銀弥がカメラに向かって手を振ると、配信画面が中継映像からVIΓLAINのロゴのみの画像に切り替わった。
音声だけは繋がったままらしい。
「ほら、行くぞ」
パーティー会場にしていたスタジオを出て、隣のスタジオへと移動する。
そこにはライブのステージセットが用意されていた。
衣装とメイクは既に準備済みだ。
ステージにスタンバイした純嶺たちの周りを、スタッフたちが慌ただしく駆け回っている。
「――来年は俺たちの年にするぞ」
リーダーらしく、銀弥が全員に向かって来年の抱負を告げた。
「今年だって、結構目立ってなかった?」
「全然、暴れ足りねえだろ」
そう言い放った染の言葉に、純嶺も同意して頷く。
ドラも「まあね」と言って笑った。
「一分前ですっ!」
スタッフの声に一気に緊張が高まった。
カメラの位置を最終確認した後、純嶺はちらりと自分の隣に立つ染へ視線を向ける。
染の支配に満たされているおかげで、人前に立つことに恐怖を覚えることは全くなくなった。それどころか、このDomと一緒にステージに立てることが嬉しくてたまらない自分がいる。
――来年は、今年よりもっとたくさんのステージに立ちたい。
考えていることが伝わったのか、染が目を合わせて笑った。
カウントダウンの数字がゼロになる。
同時に、初公開の新曲のイントロが始まった。
◆
「やべ……まだ収まりそうにねえわ」
パフォーマンスで高まった熱を発散するため、こうして抱き合うのが、二人の間で暗黙の了解となっていた。
染の掠れた声が耳元をくすぐる感触すら、心地よくて仕方ない。ん、と喉を鳴らし、身体の奥に力を込めた純嶺の反応に気づいて、染がちゅっと耳たぶに唇で触れた。
「アンタ、まだいけそう?」
「……足りないぐらいだ」
「案外、貪欲で欲しがりだよな、アンタって。俺が先に全部搾り取られそう」
汗で濡れた髪を掻き上げる仕草が絵になっている。
染と少しも離れていたくなくて、首の後ろに腕を回し、自分のほうへ引き寄せた。嬉しそうに笑った染の唇を無理やり奪うと、濡れた卑猥な音を響かせながら、その舌を貪る。
ぎゅっと下半身も押しつけた。繋がった場所から、じわじわと気持ちよさが波紋のように全身に広がる。
口の端からあふれた唾液をなぞる染の指先の動きにじれったい快感を覚えながら、純嶺はじっと染の瞳の奥を見つめた。
グレアを纏う支配者の瞳。
いつもより青みの増した淡い青灰色の瞳に、自分だけが映っていることが誇らしい。
このDomは自分のものだ――その気持ちが一層強くなる。
「噛めよ」
染が笑いながら、純嶺の口元に触れる。
願望は筒抜けのようだった。
初めてプレイをしたときにもそうしたように、純嶺は自分を支配するDomに痕を残したくて仕方なくなる性質らしい。
自分の行為がどこまで許されるのかを試す気持ちはもうない。ただ、噛むという行為だけはやめられそうになかった。
染の首元に顔をうずめる。
ぺろり、とその肌を舐めてから、ゆっくりと歯を立てた。
「……んっ」
染の昂ぶりがまた硬くなる。
ナカの圧迫感が増し、弱いところを押しつぶされ、思わず声が漏れた。
痛めつけられて悦ぶなんて、このDomは少し変わっている――そんな染の反応に、喜んでいる自分もだ。
「……消えない痕が欲しいな」
純嶺は、無意識にそう口にしていた。
「首輪の代わりに、首にタトゥーでも彫る?」
「いいな、それ」
「え……っ」
言い出したのは染なのに、どうしてそんなに驚くのだろう。
「冗談だったのか?」
「本気だけど……そんな簡単にOKすると思わねえじゃん」
ぎゅっ、と強く抱きしめられた。
濡れた肌同士が密着する。
繋がった場所もさらに深くなり、ぞくぞくと身体の奥から背筋に快感が駆け上がってきた。
「ん、は……っ」
「今はナカに、マーキングさせて」
ずん、といつもより深いところを抉られる。
箍の外れたらしい染の激しい責めに、何度も意識が遠のきそうになる。容赦なく求められることに、多幸感があふれ、溺れてしまいそうだった。
◆
「ちょっと、やりすぎたな」
「明日までにはなんとかなるだろ……たぶん」
オフは一日しかないのに、限界まで求め合ってしまった。
身体のあちこちが悲鳴を上げている。
かなりストイックに鍛えているほうなのに、まだこういった行為には身体が慣れていないようだ。
「ただれた寝正月だなぁ」
「嫌か?」
「俺が嫌がってるように見えんの?」
「…………見えないな」
隣で寝転がる染は、いつにも増して楽しそうで満足げだ。
踊り終わった後の表情にも似ている。
自分も今、同じような顔をしているのだろうか。
「……あ、そうだ」
「どうした?」
染の質問に答える前に、純嶺は身体を起こした。
全身が痛むが、動けないほどではない。
足元のほうに移動して、染の太腿に向かって手を伸ばした。
「え、ちょっと、何?」
「ここがいい」
「え?」
「お前も同じタトゥーを入れるなら、ここに入れてほしい……だめか?」
純嶺が触れたのは、初めて染の身体に噛み痕をつけた場所だった。
もう何も残っていないが、純嶺にとって大事な場所であることに変わりはない。
「その前にさ……マジでいいの? アンタの身体に俺の証を刻んで。誰からも丸見えだし、簡単に消せねえよ?」
身体を起こした染が、真剣な表情で純嶺の顔を覗き込んできた。
指先で純嶺の首をなぞりながら、確認するように告げる。
「見えたほうがいいんじゃないのか?」
「そりゃ……俺は嬉しいけど」
「おれも同じだ。見えたほうが嬉しい」
これは隠すものではないと思う。
自分はこのDomのものなのだと、誰の前でも胸を張りたい。
「お前は、おれを絶対手放さないだろ?」
「……ッ」
染の顔が一気に赤くなった。
本人もすぐに気づいたらしい。手で口元を隠して、恥ずかしそうに顔を背ける。
「あー……ったく、もう……アンタには勝てそうにない」
「惚れたほうが負けだというからな」
「言うようになったじゃん」
じゃれつくように、押し倒された。
こちらを見下ろす瞳から、強いグレアを感じる。官能的な痺れに、脳が蕩けてしまいそうだ。
「――離れる気なんかねえよ。一生な」
重い言葉だが、それが嬉しい。
純嶺は両腕を伸ばすと、染の首の後ろに手を回す。
全身を濃厚な支配に包まれる感覚を味わいながら、自分に惚れてやまない変わり者のDomの唇に噛みついた。
END.
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返信が遅くなってごめんなさい。
一気読みありがとうございます!
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ファンチャットもあわせて読んでいただけたようで☺️
彼らの物語はまだ書きたいことがあるので、その時はお付き合いいただけたら嬉しいです!