へびのとりこ

コオリ

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へびのとりこ

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「……奥、きて、ヤト」
「あぁ」

 一瞬、少し腰を引いたかと思ったら、ぐん、と今までにない勢いで腰が押し付けられた。俺のお尻とヤトの体が密着するのを感じて、さっきより深く繋がったんだとわかった。
 けど、俺がそういう風に考えられたのはそこまでだ。

「んぁあああ!! ひっ、ひ……ッ」

 衝撃に悲鳴を上げて、次に息もできなくなった。
 視界が真っ白になって、溺れたみたいにもがく。びくびくと打ち上げられた魚みたいに跳ねる体が止められない。快感とも違う、これはなんだ?

「すごい締め付けだな……こんなに乱れて、可愛いぞ。睦月」
「ひっ、ぅッ……」

 ヤトの声はするけど、何も見えない。
 この衝撃から逃げたいのに、手足は硬直したままで全く動かせない。
 このまま死ぬ……本気でそう思った。

「さ、この奥に子種をくれてやる。しっかり受け止めろ」

 何を言われてるのかも、わからなかった。
 必死で息を吸おうとするのにできなくて、壊れた人形みたいにひくりひくりと体を震わせるだけだ。
 首元に温かさと吐息が触れた。
 次の瞬間、そこに鋭い痛みと熱が走ったかと思えば、お腹の中にも熱い濡れた感覚が広がる。その両方からの熱さに、真っ白だった目の前がさらに眩しくなるみたいになる。
 壊れる、壊される……こんなの、無理だ。

「ひ―――ッ!」

 そんな強い両方の衝撃に耐えられるわけなんかなく、俺は真っ白な世界から真っ黒な世界に強い力で引きずり込まれた。


* * *


 温かい……これ、お湯? お風呂の中?

 ぴちゃり、と濡れた音に間違いなく風呂の中なのだと確認する。
 重い瞼を何とかこじ開けると、目の前に白い肌が見える。白くて綺麗だけど、女性じゃないのは均整の取れた筋肉質な体でわかる。

「ヤト……?」
「ようやくお目覚めか」

 すり、とその肌に頬を擦りよせると、笑いながら頭を撫でてくれた。
 どうしよう。ちょっと、いろいろヤバい。

「やはり誘っているだろ」
「……そうかも」
「なんだ、認めるのか」

 体を離して、ヤトの顔を見上げる。整った綺麗な顔。
 お湯の中に浸かった下半身は蛇のものに戻っていた。俺はその上に跨って、ヤトの腕に抱かれている状態だ。

「これって、夢?」
「どちらが望みだ?」
「……夢じゃないほうがいい」
「ならば、そうなのだろう」

 決して、こちらなのだとは断定しない。
 そう言って笑ったヤトにもう一度、体を寄せる。

「今度は甘えているのか?」
「……うん」
「やはり否定しないのだな」

 離れたくないと思うのは、あんな風に抱かれてしまったからだろうか。
 夢だと覚めてしまう。本当に目が覚めてしまえば、ヤトは俺の世界には存在しない。
 それは辛い。寂しい。嫌だって思う。

「……夢じゃなきゃ、いいのに」
「睦月」
「……何?」
「一つ願いを叶えてやろう」
「え?」
「何でもいい。思うことを言え」

 願い? どうして急にそんなこと。
 でも、そんな願いなんて一つしかない。今叶えてほしいことなんて、一つだけだ。

「ずっとヤトと一緒にいたい」
「っくく。本当にそれでいいのか?」
「いい。それがいい」
「金でも名誉でも……何だっていくらでも手に入るとしてもか?」
「そんなのは自分で頑張ってどうにかする……でも、この願いだけは、俺だけじゃどうにもできないから」

 ぎゅ、と体にしがみついた。
 ヤトはまだ笑っているから、その体は楽しげに揺れてる。

「わかった。叶えてやろう」
「本当に?」
「お前こそ、もうそれをたがえることはできないが、本当に構わないのか?」
「いいに決まってる」

 こうと決めた俺の決意は固いんだ。
 何を言ったって願いを変えるつもりなんてない。

「まぁ、離すつもりなど最初からないから、そこに徴をくれてやったのだがな」
「え?」
「さ、契約だ」

 聞き返したのに、はぐらかされた。そのまま、深い口付けを受ける。
 カッと鎖骨のあたりが熱くなって、ちりちりとした痛みと何かが焦げたような匂いが鼻に届く。


「これでもう、逃がしはしない」


 ぎっちりと巻き付かれた体に、俺は至福を感じて目を閉じた。





「へびのとりこ」END
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