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9page・なんいうことでしょう。ビフォーをアフターさせたった。
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日記
魔道具による転移とかないらしい。転移が使える人とかいるのかな?
しかも拐かされるき満々で接触したのに、奴隷の見張り係になってた。なぜ。
魚頭の魚人は体育座りしててまっぱっぽいし、赤黒い肌で日本の角が生えてる男は戦闘狂らしいし、腰から下が蛇な女性はお金を払って子供を買って食べる人らしいし。
奴隷ってなんか狂ってるやつらの代名詞なのかな? 実は迫害対象ではないのかな?
====================
彼らと仲良くなって、馬鹿話で盛り上がっていたところで金貨20枚を渡した上司(?)が出荷を知らせに来た。
知らせに来たけど、なんかこの奴隷たちの和気藹々とした雰囲気に驚いていたようで、かなりビクビクしながら話しかけて来た。
「なんでこんなになってるか知らないけど、そろそろこの棚も出荷だから。後は競売の専門員が出荷するからついて来て」
「はい。じゃあ皆、バイバイ」
「ばいばい?」
「さよならって意味の言葉かぃ?」
「あー‥‥うちの地方の方言みたいなもんで、『またいつか会いましょう、お元気で』みたいな意味で」
間違ってはいないはず。
英語起源はダメか。変態紳士の紳士をジェントルマンって言ってたからにはなにか条件があると思うんだけどなぁ。
「おー面白い表現だなぁ」
「寒いところ少ない言葉。聞いたことない初めて」
「お前喋れたのか‥‥ずっと黙ってたから口無しかと思ってたぞ」
「‥‥‥」
「思わず言葉が出ちゃったかー」
確かに口無しかと思ってた。
でもヒトは会話が出来ることが前提条件っぽいし、軟体動物のような外見で人っぽい手とか足はなくても触手はあるからいいのかな。どうやって生活してるんだろう? キノコのようなクラゲのようなこのヒトは。
「じゃあ見張りくん、ばいばい!」
「見張り君ばーいばーい」
「思ったより言いやすいな。ばいーばい」
「はは、バイバイ。良い買い手に巡り合ってくださいね~」
笑顔で手を振って、離れた後に上司(?)の顔を見ると、引きつった顔でコッチを見ていた。
「えっと?」
「あーのね、慣れてるなって思っただけだから‥‥」
「そうですか」
「そうだ、次の場所なんだけど。同じように明るい雰囲気にしてくれるかな?」
「え? 明るい雰囲気ですか?」
「そう。この先の子、大樹の子なんだけど親がいなくてね。引き取られた先が没落して売られちゃったのよ。相当な金額になるから今回も買われないと思うのだけど、売るからには商品の状態をよくした方が見ためいいでしょ」
奴隷イコール商品的な考え方にちょっと慣れた気がする。
多分前の檻の中の奴隷経験者達が明るく次の購入者について語っていたからだろうけど。
「でも明るい雰囲気が必要って‥‥病気か何かですか?」
「あーいやいや。どうやらその子の養父が引き取って良い人の従者に成ればって育てたらしいんだけど、会う人会う人全員断ったらしくてね。養父も社交界で爪弾きにされて事業もいいことなしで大樹の子を売り払うしかなかったって。育ててくれた人が目の前で、お前を売れば当面は凌げるなんていったそうよ」
「酷いですね」
「でも貴族だからね。売れれば前金の10倍以上の金貨が手に入るから必死だったみたいだけど、先日亡くなったって連絡が来たらしくてね。その大樹の子、宙ぶらりんなの」
「へぇ~」
お家騒動異世界版って感じ?
大樹の子ってことは、フリューレと同じ赤い髪に青い目なんだよね。フリューレ2号が居たらちょっと喋りにくそうだな~。単語から始まる言葉しか話さないんだもん。
「奴隷商としても、非公認じゃなくて国家公認の奴隷商だったから維持費もかさんでてね、今回でどうにかして売りたいわけだ。生活奴隷だから購入者に文句言われると大変なんだけど」
奴隷商に国家公認とか非公認とかあるんだ‥‥いや、奴隷が生活の一部ならあるか。
非公認が出品できるなら、無関係な僕を見張りに据えたことから察するに、国家公認は皇室御用達とかそう言うネームバリューに近いものなんだろ。多分。
「じゃあ、あそこの扉を潜った先だから。奇形の檻の競売が始まった頃に呼びに来るわ。その頃にはだいぶでが空いてるだろうし。競売、見たいんでしょ?」
「はい!」
宜しくたのむねーって手を振りながら居なくなった。あの喋り方、あのキャラで、女の人だったら良いのになー。
====================
檻の中ははっきり言って荒れていた。
ひっくり返された食事に、少しすえたような臭い。奇形の彼らは結構いい匂いしてたのも多かったのに、ちょっと不思議。
檻の出入り口の鍵穴近くの木片には、国家公認奴隷商セザライ商会って書いてある。これはマンボウ頭のおっさんが教えてくれた。変態かと思ったけど、どうやら魔術で水のベールを生み出して纏ってたらしい。そのせいで普通の服は着れないのだとか。
水に帰れ。
ちなみに砂漠地帯で水の飲み逃げで捕まった犯罪奴隷でした。
「あのー、見張りに来ましたー! 結構臭いキツイんで、どーにかしたほーが良いですよー」
「酷くない!?」
どうやら女性らしい。
奥から這って出てきた姿はなんとも言えないさ◯こ感があった。髪のせいで顔が見えないから尚更。奴隷用の服も結構小汚い。
そんなことより、深緋のような赤だったフリューレに比べるとピンクじみていて、良くて薔薇色? だし、暗くて良くわからないけど目も青より紫に近い気がするしかも薄そう。本当にフリューレと同じ大樹の子?
もしかしたら大樹の子はこの色でフリューレが変なのか? むしろ変でも何でもなくて色の区別をあまりしない国民性みたいな‥‥同じ世界に暮らしてても、日本では雨に関する単語沢山あったけど米国には無かったし。環境によって変わるもんなぁ。
「あんた何なの! ここから出る気ないから出てってよっ!!」
「いやー仕事なんだよね。お金もらってる以上投げ出すことはできないというか」
「はぁ!?」
最初っから好感度低いなー。
見張りなんて奴隷商のお仲間ですもんね。でも奴隷の身近さから考えると奴隷商ってあっちで言う質屋みたいなものじゃないの? 特に彼女の身の上を考えるに。反感はするだろうけどさー。
お金はーもらったと言うか払ったと言うか。あれ?こっちの見張りのお仕事はお給料頂けるのだろうか。
「出てけ出てけっ出てけ!!」
「えー‥‥とりあえず臭いから魔術使っていい?」
「それ終わったら出て行ってよ」
「んー‥‥暗いから明るくするね。火だと危ないよなー。『陰影・街灯』」
なんということでしょう。
通常は倉庫に使われているせいか、小さく取り付けられた天窓から薄く差し込む光しかない薄暗い部屋でした。入る時は松明が手放せない、一歩間違えば火事になってしまうような倉庫でした、が。
陰影属性の魔術を使ったおかげで埃がたまる一方だった部屋に光が。誰でも安心してこの倉庫を使うことができるようになったのです。一定の間隔で取り付けられた燭台を模したLEDライトは変わらぬ明かりで部屋を満たし、その姿も世界観から大きく外れず、この空間に寄り添い一部と化しています。
ふざけ過ぎた。でもあのナレーションには憧れたなー。
「な!?」
「うっわ。暗くて良くわからなかったけど、すっごい汚れてるのな」
ポカーンと僕の創り出した壁から生えたLED燭台を見つめ微動だにしない少女。
かなり煤けていて、奴隷用の服もまだら模様に変色している。髪には皮脂でベタベタ、肌は女性と思えないほど荒れ、声を発さなければ少年でいけるかもしれない小汚い少女がそこにいた。
「洗ってあげちゃって良いのかな? ペットショップの犬をトリミングしてみて良いですか? とか、ショーケースに入ってる時計に油をさしても良いですか? なんて言うもんだし‥‥だめだよなー」
まだ少女は燭台を見上げている。首ほっそいなー、折れそうそういえばアナウンサー系の子はほっそい子多かったけど、アニメ声優目指してますっ! って子は健康的に太ましい子が多かった気がする。
この少女は比較的肉付きはいい。一部を除いて。
「なっ、なっ、なんじゃこりゃぁああああああ!!」
「うわっびっくりした」
「ねぇ! なんであんな‥‥もしかして、もしかしてあなたが主人なの!?」
「え?」
「わ、私大樹の子よ! あなたが私のご主人様でしょ!!」
「いや、間に合ってるんで」
フリューレ1人で十分です。
と言うかまだ一緒に旅してくださいってお願いしてないのに新しい子を連れ帰るわけには行かないでしょ。
「間に合ってるって何!? さてはあなた良いところの坊ちゃんなのね! 大樹の子は使用人じゃないのよ! 一生をあなたに捧げる従者なの!」
相思相愛な夫婦のどちらかが大樹の試練に挑戦すると、夫が挑んだ場合は妻の胎に、妻が挑んだ場合は夫の胎に、性交渉なしで宿った命を大樹の子と呼ぶらしい。男も産めるんだね、そこに驚きだよ。
生まれた大樹の子は一定の年齢になると大樹の声が聞こえるようになるらしく、唯一の主人を見つけるまで、その声に様々なことを教えられるらしい。唯一と決めた主人に付いていった後は、その主人が全てで、絶対に裏切らない優秀な側仕えとして過ごすらしい。
大樹の子が側仕えになった人物は将来必ず何かを成し遂げる優秀な人材になる為、どうにか大樹の子と縁を作ろうとかなりの人が暗躍するらしい。水戸◯門に印籠みたいなものなのかな? 駄目押しの一手みたいな。
「ーーそれでね、王弟様も大樹の子を側近にしていてね。前の王様の時代に次代は王弟様にって話が上がってたけど、王弟様自身が「私は戦うしかできない男です。国をまとめるには兄が王になるべきだ。王位継承権を返上させてください」って言ったのは有名な話で、現王様も「そなたに軍部を任せる。朕を支える重要な命を授けよう。しかしながら朕に何があった場合に備えて王位継承権を復活させる」って戴冠式で軍部の長を象徴する宝剣を渡しながら言ったのも歴史に残すべきよね!」
「長いなー」
なんでこうも話の長いやつは区切らずに捲し立てられるのか。生来情熱的な性格してるんだろうな。
暇だし、宿の料理人が詰めてくれた軽食でも摘みながらこのうるさいBGMがかかった時間を乗り過ごしましょうね。
それにしても本当にうるさいな。
臭くて仕方ないから魔術で換気しよっと。
風系の魔術は知らないんだよなー‥‥もう1つの系統は風系なのかな? 熱で現象は起こせる筈だし、火炎でできないかな。
====================
昼食は黒パンサンドイッチのようなものでした。シャキシャキしたお野菜に何かわからないけどお肉とか卵っぽいなにかが挟まっていたり色とりどりのソースがかけられてたりでちょっと見た目はエグい感じだったけど味はかなり美味しかった。さすが上の中な感じのお宿。
よく異世界もので料理に希望が持てない話多いけど、そんなことなくて本当良かった。落としたら割れる、じゃなくて落としたら爆発するような野菜が育つ場所で料理再現とかできる気がしない。
「ーーってなわけ。ちょっと! 話聞いてた!?」
「あーうん? きっと」
「何よその美味しそうな食べ物っ、1人で食べるんてズルいわ!」
「いや、残骸を見るに棄てたの君でしょ」
途端にキョトンとした顔になった少女。
見てくれは良さそうだけどゴミの中で生活していたかのような臭いと姿がちょっといただけない。
「食べれないものが出されたからはたき落しただけよ」
「へー。好き嫌いとか? それとも体質的に食べてないものが多いの?」
「そんなもの無いわよ。私これでも大樹の子よ、人一倍健康だわ」
「じゃあなんで」
「話す代わりにその野菜と肉を挟んだやつ、寄越しなさい」
結構美味しいんだけど。
小さいバスケットだから15歳の肉体には足りない。そこから分け与える余裕は‥‥。
「っ! 何よその憐れんだ目は!!」
女の子なのに。なったお腹を押さえずにプルプルしながらこっちに手を一生懸命伸ばしてくる様には罪悪感を感じざるを得ません。
「はい。ついでに水もあげるからゆっくり食べな」
「わぁ!!」
目をキラキラさせて原色サンドイッチにかぶりつく少女。
ああ、食べこぼしでさらに汚れていく。
====================
食べ終わった少女は約束なんてすっかり忘れてて、昼寝しようとしたからイラっとして魔術ぶちかました。悪気しかない。後悔もしていない。
「ちょっとなにこれ! 部屋が綺麗になってるじゃないのっ」
ブッパしたのは『導水・津波』。全てをさらって行く津波は、汚れを部屋の隅に積み上げてくれた。よくある生活魔法的なものがあれば一発だったのかも知れないけど、そんなの知らないし。あ、前にフリューレがカトラリー綺麗にしてくれたのでいけたのかな?
「食べ物あげたら話してくれる約束」
「あ。ああ! ごめんなさい、忘れてたわ」
「良いけど。で? 何で出された食事に手を付けないの?」
「単純な話よ。出される料理には毒が入ってるから」
「はぁ? 国家奴隷商なのに毒入り飯を出すわけ?」
なんとか話させた理由をまとめると、国家奴隷商が扱う奴隷は王やそれに近い高位の貴族が集まる場所にお試しで出されて相当気に入ったら事前購入がなされるらしい。大手企業の談合みたいなものだと思う。
そこで既に王家が購入する手はずになっており、前金も支払われているらしい。
んで王家による、大樹の子ってどこまで耐えられるのか調べてみようぜって言うことでこのお食事が始まったらしい。
どこの世界でも王侯貴族は深謀遠慮を巡らせる中で、どこか暗くなって行くものなのだろうな。
なるべく関わりたくないな、王侯貴族。
魔道具による転移とかないらしい。転移が使える人とかいるのかな?
しかも拐かされるき満々で接触したのに、奴隷の見張り係になってた。なぜ。
魚頭の魚人は体育座りしててまっぱっぽいし、赤黒い肌で日本の角が生えてる男は戦闘狂らしいし、腰から下が蛇な女性はお金を払って子供を買って食べる人らしいし。
奴隷ってなんか狂ってるやつらの代名詞なのかな? 実は迫害対象ではないのかな?
====================
彼らと仲良くなって、馬鹿話で盛り上がっていたところで金貨20枚を渡した上司(?)が出荷を知らせに来た。
知らせに来たけど、なんかこの奴隷たちの和気藹々とした雰囲気に驚いていたようで、かなりビクビクしながら話しかけて来た。
「なんでこんなになってるか知らないけど、そろそろこの棚も出荷だから。後は競売の専門員が出荷するからついて来て」
「はい。じゃあ皆、バイバイ」
「ばいばい?」
「さよならって意味の言葉かぃ?」
「あー‥‥うちの地方の方言みたいなもんで、『またいつか会いましょう、お元気で』みたいな意味で」
間違ってはいないはず。
英語起源はダメか。変態紳士の紳士をジェントルマンって言ってたからにはなにか条件があると思うんだけどなぁ。
「おー面白い表現だなぁ」
「寒いところ少ない言葉。聞いたことない初めて」
「お前喋れたのか‥‥ずっと黙ってたから口無しかと思ってたぞ」
「‥‥‥」
「思わず言葉が出ちゃったかー」
確かに口無しかと思ってた。
でもヒトは会話が出来ることが前提条件っぽいし、軟体動物のような外見で人っぽい手とか足はなくても触手はあるからいいのかな。どうやって生活してるんだろう? キノコのようなクラゲのようなこのヒトは。
「じゃあ見張りくん、ばいばい!」
「見張り君ばーいばーい」
「思ったより言いやすいな。ばいーばい」
「はは、バイバイ。良い買い手に巡り合ってくださいね~」
笑顔で手を振って、離れた後に上司(?)の顔を見ると、引きつった顔でコッチを見ていた。
「えっと?」
「あーのね、慣れてるなって思っただけだから‥‥」
「そうですか」
「そうだ、次の場所なんだけど。同じように明るい雰囲気にしてくれるかな?」
「え? 明るい雰囲気ですか?」
「そう。この先の子、大樹の子なんだけど親がいなくてね。引き取られた先が没落して売られちゃったのよ。相当な金額になるから今回も買われないと思うのだけど、売るからには商品の状態をよくした方が見ためいいでしょ」
奴隷イコール商品的な考え方にちょっと慣れた気がする。
多分前の檻の中の奴隷経験者達が明るく次の購入者について語っていたからだろうけど。
「でも明るい雰囲気が必要って‥‥病気か何かですか?」
「あーいやいや。どうやらその子の養父が引き取って良い人の従者に成ればって育てたらしいんだけど、会う人会う人全員断ったらしくてね。養父も社交界で爪弾きにされて事業もいいことなしで大樹の子を売り払うしかなかったって。育ててくれた人が目の前で、お前を売れば当面は凌げるなんていったそうよ」
「酷いですね」
「でも貴族だからね。売れれば前金の10倍以上の金貨が手に入るから必死だったみたいだけど、先日亡くなったって連絡が来たらしくてね。その大樹の子、宙ぶらりんなの」
「へぇ~」
お家騒動異世界版って感じ?
大樹の子ってことは、フリューレと同じ赤い髪に青い目なんだよね。フリューレ2号が居たらちょっと喋りにくそうだな~。単語から始まる言葉しか話さないんだもん。
「奴隷商としても、非公認じゃなくて国家公認の奴隷商だったから維持費もかさんでてね、今回でどうにかして売りたいわけだ。生活奴隷だから購入者に文句言われると大変なんだけど」
奴隷商に国家公認とか非公認とかあるんだ‥‥いや、奴隷が生活の一部ならあるか。
非公認が出品できるなら、無関係な僕を見張りに据えたことから察するに、国家公認は皇室御用達とかそう言うネームバリューに近いものなんだろ。多分。
「じゃあ、あそこの扉を潜った先だから。奇形の檻の競売が始まった頃に呼びに来るわ。その頃にはだいぶでが空いてるだろうし。競売、見たいんでしょ?」
「はい!」
宜しくたのむねーって手を振りながら居なくなった。あの喋り方、あのキャラで、女の人だったら良いのになー。
====================
檻の中ははっきり言って荒れていた。
ひっくり返された食事に、少しすえたような臭い。奇形の彼らは結構いい匂いしてたのも多かったのに、ちょっと不思議。
檻の出入り口の鍵穴近くの木片には、国家公認奴隷商セザライ商会って書いてある。これはマンボウ頭のおっさんが教えてくれた。変態かと思ったけど、どうやら魔術で水のベールを生み出して纏ってたらしい。そのせいで普通の服は着れないのだとか。
水に帰れ。
ちなみに砂漠地帯で水の飲み逃げで捕まった犯罪奴隷でした。
「あのー、見張りに来ましたー! 結構臭いキツイんで、どーにかしたほーが良いですよー」
「酷くない!?」
どうやら女性らしい。
奥から這って出てきた姿はなんとも言えないさ◯こ感があった。髪のせいで顔が見えないから尚更。奴隷用の服も結構小汚い。
そんなことより、深緋のような赤だったフリューレに比べるとピンクじみていて、良くて薔薇色? だし、暗くて良くわからないけど目も青より紫に近い気がするしかも薄そう。本当にフリューレと同じ大樹の子?
もしかしたら大樹の子はこの色でフリューレが変なのか? むしろ変でも何でもなくて色の区別をあまりしない国民性みたいな‥‥同じ世界に暮らしてても、日本では雨に関する単語沢山あったけど米国には無かったし。環境によって変わるもんなぁ。
「あんた何なの! ここから出る気ないから出てってよっ!!」
「いやー仕事なんだよね。お金もらってる以上投げ出すことはできないというか」
「はぁ!?」
最初っから好感度低いなー。
見張りなんて奴隷商のお仲間ですもんね。でも奴隷の身近さから考えると奴隷商ってあっちで言う質屋みたいなものじゃないの? 特に彼女の身の上を考えるに。反感はするだろうけどさー。
お金はーもらったと言うか払ったと言うか。あれ?こっちの見張りのお仕事はお給料頂けるのだろうか。
「出てけ出てけっ出てけ!!」
「えー‥‥とりあえず臭いから魔術使っていい?」
「それ終わったら出て行ってよ」
「んー‥‥暗いから明るくするね。火だと危ないよなー。『陰影・街灯』」
なんということでしょう。
通常は倉庫に使われているせいか、小さく取り付けられた天窓から薄く差し込む光しかない薄暗い部屋でした。入る時は松明が手放せない、一歩間違えば火事になってしまうような倉庫でした、が。
陰影属性の魔術を使ったおかげで埃がたまる一方だった部屋に光が。誰でも安心してこの倉庫を使うことができるようになったのです。一定の間隔で取り付けられた燭台を模したLEDライトは変わらぬ明かりで部屋を満たし、その姿も世界観から大きく外れず、この空間に寄り添い一部と化しています。
ふざけ過ぎた。でもあのナレーションには憧れたなー。
「な!?」
「うっわ。暗くて良くわからなかったけど、すっごい汚れてるのな」
ポカーンと僕の創り出した壁から生えたLED燭台を見つめ微動だにしない少女。
かなり煤けていて、奴隷用の服もまだら模様に変色している。髪には皮脂でベタベタ、肌は女性と思えないほど荒れ、声を発さなければ少年でいけるかもしれない小汚い少女がそこにいた。
「洗ってあげちゃって良いのかな? ペットショップの犬をトリミングしてみて良いですか? とか、ショーケースに入ってる時計に油をさしても良いですか? なんて言うもんだし‥‥だめだよなー」
まだ少女は燭台を見上げている。首ほっそいなー、折れそうそういえばアナウンサー系の子はほっそい子多かったけど、アニメ声優目指してますっ! って子は健康的に太ましい子が多かった気がする。
この少女は比較的肉付きはいい。一部を除いて。
「なっ、なっ、なんじゃこりゃぁああああああ!!」
「うわっびっくりした」
「ねぇ! なんであんな‥‥もしかして、もしかしてあなたが主人なの!?」
「え?」
「わ、私大樹の子よ! あなたが私のご主人様でしょ!!」
「いや、間に合ってるんで」
フリューレ1人で十分です。
と言うかまだ一緒に旅してくださいってお願いしてないのに新しい子を連れ帰るわけには行かないでしょ。
「間に合ってるって何!? さてはあなた良いところの坊ちゃんなのね! 大樹の子は使用人じゃないのよ! 一生をあなたに捧げる従者なの!」
相思相愛な夫婦のどちらかが大樹の試練に挑戦すると、夫が挑んだ場合は妻の胎に、妻が挑んだ場合は夫の胎に、性交渉なしで宿った命を大樹の子と呼ぶらしい。男も産めるんだね、そこに驚きだよ。
生まれた大樹の子は一定の年齢になると大樹の声が聞こえるようになるらしく、唯一の主人を見つけるまで、その声に様々なことを教えられるらしい。唯一と決めた主人に付いていった後は、その主人が全てで、絶対に裏切らない優秀な側仕えとして過ごすらしい。
大樹の子が側仕えになった人物は将来必ず何かを成し遂げる優秀な人材になる為、どうにか大樹の子と縁を作ろうとかなりの人が暗躍するらしい。水戸◯門に印籠みたいなものなのかな? 駄目押しの一手みたいな。
「ーーそれでね、王弟様も大樹の子を側近にしていてね。前の王様の時代に次代は王弟様にって話が上がってたけど、王弟様自身が「私は戦うしかできない男です。国をまとめるには兄が王になるべきだ。王位継承権を返上させてください」って言ったのは有名な話で、現王様も「そなたに軍部を任せる。朕を支える重要な命を授けよう。しかしながら朕に何があった場合に備えて王位継承権を復活させる」って戴冠式で軍部の長を象徴する宝剣を渡しながら言ったのも歴史に残すべきよね!」
「長いなー」
なんでこうも話の長いやつは区切らずに捲し立てられるのか。生来情熱的な性格してるんだろうな。
暇だし、宿の料理人が詰めてくれた軽食でも摘みながらこのうるさいBGMがかかった時間を乗り過ごしましょうね。
それにしても本当にうるさいな。
臭くて仕方ないから魔術で換気しよっと。
風系の魔術は知らないんだよなー‥‥もう1つの系統は風系なのかな? 熱で現象は起こせる筈だし、火炎でできないかな。
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昼食は黒パンサンドイッチのようなものでした。シャキシャキしたお野菜に何かわからないけどお肉とか卵っぽいなにかが挟まっていたり色とりどりのソースがかけられてたりでちょっと見た目はエグい感じだったけど味はかなり美味しかった。さすが上の中な感じのお宿。
よく異世界もので料理に希望が持てない話多いけど、そんなことなくて本当良かった。落としたら割れる、じゃなくて落としたら爆発するような野菜が育つ場所で料理再現とかできる気がしない。
「ーーってなわけ。ちょっと! 話聞いてた!?」
「あーうん? きっと」
「何よその美味しそうな食べ物っ、1人で食べるんてズルいわ!」
「いや、残骸を見るに棄てたの君でしょ」
途端にキョトンとした顔になった少女。
見てくれは良さそうだけどゴミの中で生活していたかのような臭いと姿がちょっといただけない。
「食べれないものが出されたからはたき落しただけよ」
「へー。好き嫌いとか? それとも体質的に食べてないものが多いの?」
「そんなもの無いわよ。私これでも大樹の子よ、人一倍健康だわ」
「じゃあなんで」
「話す代わりにその野菜と肉を挟んだやつ、寄越しなさい」
結構美味しいんだけど。
小さいバスケットだから15歳の肉体には足りない。そこから分け与える余裕は‥‥。
「っ! 何よその憐れんだ目は!!」
女の子なのに。なったお腹を押さえずにプルプルしながらこっちに手を一生懸命伸ばしてくる様には罪悪感を感じざるを得ません。
「はい。ついでに水もあげるからゆっくり食べな」
「わぁ!!」
目をキラキラさせて原色サンドイッチにかぶりつく少女。
ああ、食べこぼしでさらに汚れていく。
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食べ終わった少女は約束なんてすっかり忘れてて、昼寝しようとしたからイラっとして魔術ぶちかました。悪気しかない。後悔もしていない。
「ちょっとなにこれ! 部屋が綺麗になってるじゃないのっ」
ブッパしたのは『導水・津波』。全てをさらって行く津波は、汚れを部屋の隅に積み上げてくれた。よくある生活魔法的なものがあれば一発だったのかも知れないけど、そんなの知らないし。あ、前にフリューレがカトラリー綺麗にしてくれたのでいけたのかな?
「食べ物あげたら話してくれる約束」
「あ。ああ! ごめんなさい、忘れてたわ」
「良いけど。で? 何で出された食事に手を付けないの?」
「単純な話よ。出される料理には毒が入ってるから」
「はぁ? 国家奴隷商なのに毒入り飯を出すわけ?」
なんとか話させた理由をまとめると、国家奴隷商が扱う奴隷は王やそれに近い高位の貴族が集まる場所にお試しで出されて相当気に入ったら事前購入がなされるらしい。大手企業の談合みたいなものだと思う。
そこで既に王家が購入する手はずになっており、前金も支払われているらしい。
んで王家による、大樹の子ってどこまで耐えられるのか調べてみようぜって言うことでこのお食事が始まったらしい。
どこの世界でも王侯貴族は深謀遠慮を巡らせる中で、どこか暗くなって行くものなのだろうな。
なるべく関わりたくないな、王侯貴族。
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現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
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