悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
109 / 143
悲しみの向こう側

初めて入る懐かしい部屋

しおりを挟む
「おかえりなさいませ、お嬢様」

屋敷に着き、3人で馬車を降りると、フローラがいつもの優しい笑顔で出迎えてくれた。

「ただいま、フローラ」
「あらあら、ガレンさんとナタリーさんまで。ようこそおいでくださいました」
「お久しぶりです。フローラさん。最近挨拶できずに申し訳ありませんでした」
「いえいえ、ガレンさんもお忙しいでしょうから。それにナタリーさんも夏休みぶりですね」
「お久しぶりです!私の名前、憶えててくださったんですね」
「ええ、ナタリーさんのようなかわいらしい方、一度見たらわすれませんよ」

フローラがナタリーに笑顔を見せる。

「ふふふっ、ありがとうございます。ここまでお疲れでしょう。どうぞおあがりください」
「……あの、フローラ……」

お父様の事、ちゃんと話さないと。そう思って一歩踏み出した時だった。

「まずは、ゆっくり紅茶を楽しんでから、それからでも遅くはないでしょう?」

フローラがいつもの笑顔でこちらを向いた。でも、そのいつもの笑顔がなんだか無理しているようで……。

(知ってるんだ……)

そうよね、フローラはずっとお父様と一緒に過ごしてきたんだもの。きっとお父様もフローラに伝えて……それで。

「……そうね。ごめんなさいフローラ。みんなも行きましょう?」
「そうそう、みなさんお腹はすいていないかしら?ナタリーさんの好きなあのお菓子、すぐに焼けるわよ?」
「へっ!?あのお菓子ですか!?食べたいです!」
「ふふっ、じゃあとびっきりのを用意しますからね」

2人を連れて屋敷に入る。屋敷はあの襲撃からまだ日が浅いにも関わらず、綺麗に修復されていた。
いつもと変わらない家なのに、なんだか少しだけ広く感じる。
大広間の席に着くと、いつかお父様も一緒に楽しんだ、芳醇な紅茶と、焼き菓子の甘い香りで部屋が包まれた。

「お待たせしました」

フローラが紅茶とお菓子をナタリーの前に置いた。

「わぁー!やっぱり美味しいですね!!このお菓子!!」

ナタリーは嬉しそうに頬張ると、さらにもう一口を口に運んだ。

「それで、お嬢様、旦那様は格好良かったですか?」

フローラが世間話のようにそんなことを言うものだから、私も何のことを言っているのか、はじめ理解ができなかった。

「お父様は……そうですわね……」

少しだけ目をつむり考える。そんなに長い間話したわけではない。言葉を交わしたのも本当にわずかだ。
でもどのお父様の表情を思い返しても、いつもにこやかに笑っていて、優しくて、ちょっと子供っぽくて、でも頼りがいがあって……、あぁ、ダメだ、こんなにも私の中にしっかり根付いてしまっている。

「……うん、とっても、とっても素敵なお父様でした」
「ふふっ、そうですか。それは何よりです」

フローラは満足したように一度表情を崩すと、食器を片手にそそくさと厨房に向かって行った。

「あの、レヴィアナさん……?」

ナタリーが不安そうに私の顔を覗き込んできた。

「大丈夫、ありがとう」

そう言って私は紅茶を口に運ぶ。その紅茶は少しだけしょっぱかった。

***

「失礼しまーす」

何となく気恥ずかしい気持ちになりながらも、ナタリーとガレンを連れてお父様の部屋に入る。
初めて入るお父様の部屋は、私の部屋よりも書籍にあふれ、そしてなんとなくだけどお父様らしい部屋だった。
正面の厳かな椅子に腰かけたお父様が「おかえり」と笑いかけてきそうだった。

「なんだか少し師匠の部屋に似てる気もします」
「アイザリウム様の部屋もこんな本だらけなのか?」
「そうですね。師匠の部屋はもっと魔導書が多い印象ですけど、あ、この本、師匠の部屋にもありました」

ナタリーが本を一冊懐かしげに手に取った。表紙には『基本3属性魔法概論』と書かれている。
2人が書籍で盛り上がっている間、私は部屋をぐるっと見渡す。
魔導書に研究資料、インクの匂いとお父様のコロンの香りが入り混じったこの部屋は、初めて入ったのになんだかとても落ち着いた。

本棚の一角に肖像画が掛かっている。そこに写っているのはお父様とお母様だ。その横には……。

(これ……私……、レヴィアナ……よね?)

男の子4人と一緒に映っているのは間違いなく私だ。そして、この4人の男の子は。

「おー、懐かしいなぁ」

ガレンがひょっこりと私の横から顔を出す。

「この時イグニスが『俺様が中央じゃないと!』とか言い出して、そしたらマリウスも張り合ったりしてなー……」
「え?なんですか?私にも見せて下さい!」

ナタリーも私の横から顔を出し、ガレンの持っている肖像画を覗き込んだ。

「これは……レヴィアナさん?わぁ!ちっちゃいころからきれいだったんですね!マリウスさんもみんな面影ありますねー」

きっとイグニスとマリウスは喧嘩してそっぽを向きながら中央を陣取っているのだろう。それでも5人そろって絵をかいてもらう間ずっとじっとひとところに居たことになる。
本当に仲睦まじい幼馴染の一コマだ。それ以外にもお父様とほかの4人のみんなや、小さな頃のレヴィアナときっとガレンのお父様と思われる男性との絵画など、家族ぐるみの付き合いがうかがい知れる。

イグニスもちゃんと肖像画の中では生きていた。お父様も、イグニスも今にも「元気か?」なんて声をかけてきそうだった。

このまま感傷に浸りたい気持ちもあったが、まずはこちらからだ。

ずっと気になっていた部屋の隅にあった小箱へと歩みを進める。この部屋に入ってからずっと異質の、そしてあの学園長室の扉で感じた魔力反応がする小箱。

「さっきからなんだっての」
「この箱。開けられる?」

私はガレンに問いかける。ガレンは小箱を受け取ると、継ぎ目と思われる場所に手をかけ、力いっぱい引っ張っているが、箱が開く気配はない。

「なんだこれ。全然開く気がしないな。ナタリーもやってみるか?」
「はい、やってみます!」

ナタリーは丁寧に箱を観察しながら、ガレンと同じように開けようと試みる。

「これ……封印魔法がかけられてるみたいですね」
「封印魔法?」
「はい。それにこの箱にかかっている封印、封印した本人でないと解除することができない類のものだと思います。おそらくですがアルドリック様の魔力じゃないでしょうか?私には解除できません」
「さすが三賢者の弟子、詳しいな。じゃあ俺たちじゃ開けられないだろ?」

ガレンがナタリーから箱を受け取り私に問いかける。私はその小箱をそっと手に取ると、お父様から受け取った鍵をそっと近づけた。

――――パキン

小さな音と共に封印魔法が砕け散る。

「お、おいマジかよ。なにしたんだお前?」

そっと小箱を机に置き開いた。
小箱の中には見慣れた文字で書かれた手紙と、分厚い一冊の本が入っていた。

「ここにあったのか」

ガレンがその本を見てぽそっとつぶやいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。 そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。 母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。 家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。 そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。 淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。 そんな不遇な少女に転生した。 レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。 目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。 前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。 上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎ 更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...