上 下
61 / 143
反乱

反乱の終わり

しおりを挟む
「本当に良かったのかしら」

学校への帰りの馬車で揺られながら2人に問いかける。

結局奇妙な夕食会は、カムラン達が魔法の使い過ぎで体調不良を訴え終了となった。
カムランは最後まで礼儀を尽くそうと頑張っていたが、顔色が真っ青になったところでフローラからストップがかかった。

結局私たちも前日明け方まで作戦会議をしていたことや、私自身も限界以上の魔法を使ってからあまり体調がすぐれなかったこともあり、すぐに眠ってしまった。
お父様と言えば、あれだけの魔法を使い続けていたにもかかわらず、涼しい顔で食事を楽しんでいたのだから驚き以外の何物でもなかった。さすがは三賢者と言ったところなのだろうか。

今日もたいしたこともしていない。
フローラの指揮のもと玄関の瓦礫掃除をした程度で、あまりこういったことに慣れていない私たちは、結局ほとんど右往左往しただけで昼食をとることになった。

「あとはそうだな、君たちに対しての罰として学園でのレヴィについて教えてもらおうかな」
「ちょっと……お父様!?」
「まぁいいじゃないか。こんな機会でもないと聞くことができないしね」

そこからは反乱軍、もといセレスティアル・アカデミーの生徒による私に対してのコメント大会が始まった。
恥ずかしくて、こそばゆくて、またそれにいちいち嬉しそうに反応するアルドリックを見ていると拒否もできなくて、私の方が罰を受けている気分だった。

そして昼食が終わると「あまり遅くなっては帰るのも大変だろう」と、既に全員分の馬車までも用意されていた。

「学校に返ったらしっかり休むんだよ。今回はこんな形だったけど何かの縁だ。今度来る時はあらかじめ教えておいてくれ。ちゃんとした食事でもてなすよ」

アルドリックはそう言って私たちを見送ってくれた。

「―――本当によかったのかしら……?」

無言の二人に対してもう一度呼びかける。二人も明確な回答を持っていないのか、沈黙を保ったままだった。

「……よかったか、つっても言ってもアルドリックおじさんが許してるならいいんじゃねーの?まぁ実際俺様達に何か被害が出てるわけでもねーし」
「お屋敷は壊されていますし、フローラもケガをさせられていますわ!」
「屋敷の主のアルドリックおじさんが良いって言ってるんだし、フローラさんも許してるんだからこれ以上何もしようがなくねーか?」
「それは、そうですけど」

その通りではあるのだけれど、納得はしていなかった。
もしあの時連鎖魔法陣が発動していたらお父様はこの世界からいなくなっていたかもしれない。お父様だけではない。あの場所にいたフローラも同様だ。

それに、あの時お父様は彼らの攻撃に恣意的に巻き込まれようとしていた様にも見える。
強固なエレクトロフィールドを自分を守るためではなく、内側の私たちを守るために発動したことからもほぼこの予想は当たっている……と思う。

「多分下手に大事になったりするのを避けたんじゃないか?」

ガレンは頭をぼりぼりと掻きながら答える。

「わたくしのお父様が殺されかけたんですのよ?十分大事ですわ!」
「そうなんだけどさ。あれで【罪を償え】とかしちゃったらあいつらの家にも影響がいっちまうだろ?」
「それはそうですけど」
「アルドリックさんは貴族の中でも人気者だ。そんなアルドリックさんに弓を引いたやつなんて絶対に許されないだろ。貴族に領土を追われてしまうだろうし、下手したら星辰警団の登場なんてことにもなりかねない」
「星辰警団って……」
「そう。王国直属の精鋭部隊。なんせ、正真正銘、三賢者に対しての襲撃事件だからな」

星辰警団…ステラセンチネル。
このゲームをやった人間なら一度はぶつかったことがある……かもしれない隠しイベントの様な物だ。星辰警団につかまるとそのループでそのキャラクターの出番はなくなってしまう。
結構出現条件が難しくて初めのうちは都市伝説のように言われていたようだが、やり込み要素の一つではある。

確かにガレンがいう事も分からないでもない。3回目の「それはそうですけど」に続け、同じように反論する。

「とは言ってもですよ!?もしわたくしたちが居なかったら万が一という事もあったでしょうに!」
「だから……アルドリックおじさんはすげーんじゃねーか」

イグニスは本当にうれしそうにそう言った。

「もしあそこで後ろの馬車に乗っている奴らを八つ裂きにしたとする。でも別に反乱した罪は消えない。そうしたらあいつらの家族は領土を追放されちまう。自分の息子もいなくなって、住む家もなくなって、そしたらまたアルドリックさんの所に復讐に……みたいなことも考えられるだろ?」
「誰かが我慢しないといけない……ってことですの?」
「単純に我慢って訳でもないと思うぜ。仮にあいつらが言う通り反乱自体の記憶はないとしても、それでもああして一方的に許されちまったらもう恩を感じるしかなくなっちまう。その上ああも優しくされたら、将来にわたって絶対アルドリックさんに変な事はできねぇだろ」

確かに言われてみればその通りかもしれない。

「ま、これは俺様のうがった見方で、ただ本当に優しいだけな気もするけどな」

そう続けてイグニスはまたはははと笑った。

「規則違反って点では俺たちもそうだよなぁ……俺たち結局3日間まるまる無断で学校サボってたわけだろ…?先生たち怒ってねぇかな……」
「あう……。確かにそうですわね。もうこればっかりはアリシアがうまく説明してくれていることを願いましょう……」

全生徒の規範であるべき生徒会メンバー3人が無断で外出、考えるだけでゾッとする。

でも今日の今まであまりにバタバタしすぎて、そこから三人は一言も言葉を発することなく馬車の中で船をこいでいた。
学園に戻ると関わった生徒全員セオドア先生に呼び出された。

怒られることも覚悟していたが、アリシアが先生や生徒たちに「レヴィアナの実家が襲われたからみんなでレヴィアナの実家に向かった」と説明をしていてくれた様で、私たちだけじゃなくてかかわった生徒全員が怒られるどころか、逆に褒められてしまった。

心の中でアリシアにお礼をしながら、その称賛を受けとった。

「ただ、こういった時はちゃんと先生に報告してから行くんだよ」と少しのお小言をもらいながら、先生からも解放された。

「さすがに…もう…無理…」

馬車の揺れもそうだし、学校でみんなの顔を見て本当に安心して、緊張の糸が途切れてしまった。

時間ももう22時を過ぎている。なぜカムラン達があんなことをしたのか、そしてなぜ覚えていなかったのか、そして戦えばすぐに一蹴できたはずのお父様がそうしなかったかなど、考えなければならないことは山の様に残っていたが、もう限界だった。

まるで水の中に入った時の様に体が重く、自分の意思とは関係なく瞼が落ちてくる。

日課にしていた日記を書くこともなく、制服のままベッドへとダイブした。

「あーだめー…これ…もう…しわとか全部無理…溶ける…」

そうして私の意識はあっという間に眠り落ちていった。

***

カムランは部屋についてから、一息つく間も無くノートのページを開く。
最後に記憶に残っているイグニスやレヴィアナたちと模擬戦闘を行った振り返りの途中で内容は途切れていた。

(やっぱり……あいつらの言っていた事は本当だったのか)

これで確信に変わった。俺はあの日確かにレヴィアナの家を襲ったのだ。
俺が夢で見ていたことは本当に起きたことだったんだ。

帰りにアルドリック公からもらったネックレスを一度握りしめる。

「ふーっ……」

大きく息を吐いて椅子に腰かける。
流石に疲れた。
気付いたら全身がだるかったし、ケガもしているし、イグニスやガレンやレヴィアナには睨まれるし、狐につままれたような話を聞かされるし、俺があのアルドリック公と食事ができるなんて思ってもいなかった。

本当の事を言えば今すぐ布団に入って眠りたかった。それでも今日だけは絶対に眠るわけにはいかなかった。

いつでも無詠唱魔法を展開できるようにあらかじめマナを部屋中に錬成しておく。これで何かあっても少しは抵抗できるだろう。

時計の音だけが部屋に響きわたる。

辺りは静かだった。いつも夜遅くまで灯りがともっている訓練場も今日は誰も使っていない様だった。

―――23時を過ぎた。
―――23時半を過ぎた。

誰も来ないなら、何も起きないならそれでもいい。
いずれにせよ今日はこのまま意識が飛ぶまで起きててやる、そう決意した時だった。

―――コンコン

部屋の扉がノックされた。
鍵は開けてある。どうせ鍵をかけていても先日の様に勝手に部屋に入ってくるんだろう。

「起きてたのか…」
「あぁ、なんとなくお前が来るような気がしてな」

この状況は初めてではない。
ここに来て完全に思い出した。

「お前じゃ何も抵抗できないというのに……。お前には絶対にこちらに不利になるようなことは出来ない」
「それもわかってる」

昨日の夜、イグニスたちに問い詰められた時もアルドリック公に問いただされた時も俺はこいつの顔も全部頭に浮かんでいた。あの時は夢だと思っていたが、それでもはっきりと顔も声も浮かんでいた。
でも勝手に口から出たのは「何も覚えていない」という言葉だった。

「俺がアルドリック公を襲ったのは……お前の仕業か……?」
「あぁそうだ。作戦の第一段階は失敗したようだがな。まぁさすがのアルドリックとその仲間たちという事かな。それ以外にもイレギュラーがあるみたいだし、まぁ仕方がないか」

(イレギュラー……?何を言っているんだ……?こいつは……)

改めて聞くこいつの声にはまるで質量が無いかのように宙を舞い世界から消えていくようだった。

「という訳で次の策という訳だ」
「策……?俺たちを好き勝手しておいてまだやるつもりか……?ここから出られると思ってるのか?」
「この無詠唱魔法か?」
「少しでも変な動きをしてみろ?すぐにでもすべてのエアースラッシュをてめぇに―――」
『解呪しろ』
「―――――――っ!?」

俺が部屋中に構築していた無詠唱魔法が四散する。
こいつに強制的に解呪された?いや……なにか違う気がする。詠唱中の魔法に対して、それもあと発動させるだけの魔法に対して外部からの割り込みなんてできるはずが………。

「―――――まさか……?」
「きっと今頭に思い浮かんでるのが正解だよ。でも残念だったね。もうそろそろ24時になってしまう。お前には死んでもらわないとならない」

―――――動け……動け……っ!!!

あの時と同じだ。いくら念じても体はピクリとも動くことも、今ではもう声一つ上げることは出来なかった。対策はしていたはずだ、こんなのアリか!?

「まぁ、他の奴らも始末したしお前で最後だ。さすがにもう眠い」

……ほかのやつら……?反乱にかかわったやつの事か……!?
ダメだ、もう考える時間もない、悔しい……。こんなやつの思い通りになるのは……!何かないか……?何か……っ!

「ヒートスパイク」

そこまで考え、俺の思考は灼熱の炎の槍に貫かれた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯

赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。 濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。 そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――? ※恋愛要素は中盤以降になります。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...