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モンスターシーズン
変わろうとする私
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いつしか日は沈み、シルフィード広場は夜の帳に包まれる。
火魔法による街燈の明かりが灯され、徐々にその光がぼんやりと広場を照らしていく。
私は一人、シルフィード広場の物見台に居た。
昼間は見張りの人がいるけど、夜は誰もいなくなって忍び込むことができる、そう教えてくれたのもミーナだった。
(これからどうしよう……)
みんなとどう接していいかわからなかった。
もう確信していた。この世界のみんなはミーナの事を忘れている。
きっとみんな、みんなにとっての今まで通りを過ごしているのだろう。
別に誰も悪くない。みんなはもう忘れているだけ、ただそれだけ。
昨日のナタリーが頭をよぎる。
ナディア先生の魔法で目を覚ましてから、喉がつぶれるのではないかという程叫び、泣いて、ミーナの名前を叫んでいた。その叫びは体力とマナ切れで倒れるまで続いた。普段あんなにおしとやかなナタリーがあれほど取り乱し、あんなに強い言葉を人に向けるなんて想像もできなかった。
あのままだといずれナタリーが壊れてしまうかもしれなかった。
もしかしたら今の状態の方が良いのかもしれない。
それに、アリシアが悪いわけでもない。アリシアも何も知らない。ゲームのテキストにも「アリシアとの好感度が低かったから攻略対象は死にました」といった文言なんて当然出てこない。ゲームを何週かして経験則からわかってくるものだ。
誰も悪いわけじゃない。
それにこれは私の好きなゲームで、プレイしていた時は何度も経験したことだ。当たり前の事、普通の事、そう必死に言い聞かせる。
……でも、頭ではそう理解しようとしても、それでもそんなナタリーとアリシアが笑って話しているのを今は素直に見れそうもなかった。
ずっと座り続けて硬くなった体をほぐすために立ち上がり一つ伸びをする。
すべての店が閉店した広場はとても静かだった。
初めてきたときはあれほどよそよそしく感じられたこの広場も、ミーナとナタリーと散々遊んだおかげで心地良い場所になっていた。
(これからどうしよう……)
何度考えたかわからないことを考え続ける。
結局生徒会室を飛び出してからこうして一人でふらふらとしている。セオドア先生に借りた書類も返せていない。
大事になる前に戻ったほうがいいに決まっている。でもそんな勇気も持てなかった。
「はぁ……。ん?」
遠くの方からこちらに近づいてくる人影が見えた。
一瞬、アリシアかと思ったけれど違うようだ。
でも服装からセレスティアル・アカデミーの誰かなのは間違いなさそうで慌てて座る。下からはこの場所はわからないはずだ。
「おーい!!レヴィアナー!?いねーのかー!?」
声からノーランだという事が分かった。
唯一の希望はノーランだった。ノーランなら、私と同じゲームの外から来たノーランならもしかしたらミーナの事を覚えてるかもしれない。でももしノーランすら忘れていたら?
そんな現実と向き合えるほど、今の私は強くなれなかった。
「よーし、わかった!!あと10秒以内に出てこないとこの広場めがけて俺の最強魔法をぶっ放す!!!」
(ノーラン?何を言ってるの―――!?)
「どーせこんな世界だ、何とかなんだろ!!!昼間寝て完全回復したしな!!俺もむしゃくしゃしてるしな!!!!はい10―――9――――」
何を言っているのかわからない、どうして?
「8――7――6――」
(ちょ、ちょっとまってよ!!待ってってばっ!!!)
落ち着いて考える暇もなくノーランのカウントダウンは続き、魔力の詠唱は続いていく。
「5――4――3――」
マナの収束は続き、辺りに火魔法特有の気配が漂ってくる。
(あーもうっ!!!!)
「こんな夜にうるさいですわよ!!!!」
「あ、やっぱいたじゃん」
人を食ったような表情のノーランと目が合った。
***
「あんた……!どういうつもり!?」
物見台の上に上がってきたノーランを怒鳴りつける。
「あんたの最強魔法ってフレアバーストよね?こんなところであんな魔法なんて使ったら―――」
「―――――巻き込まれて住人が死ぬってか?ミーナみたいに?」
へらへらしているのに、どこか真剣な口調でぽそっとノーランはつぶやいた。
顔はまっすぐ正面の星空を見つめていた。
「あなた……ミーナの事……っ!!!」
「あぁ、覚えてる……ってかお前も覚えててよかったわ」
そう言ってノーランはふぅ、と一つため息をついた。
「まーさすがにびっくりしたね。マナの使い過ぎ?みたいなので具合悪くて寝てて、ようやく体調も戻ってきて、生徒会のみんなと合流して話したらもっと具合悪くなったっての」
「……」
「はじめはみんなふざけてんのかな?って思った。趣味は良いとは思えなかったけど、なんとなくそういう感じにして、へこんでたナタリーを慰めようとしてんのかな?とか」
ノーランは言葉を選ぶように、一言一言をゆっくりと話していく。
ナタリーやアリシアの様子を思い浮かべながら話しているんだろう。
「でも、ちがったわ。誰に何度聞いてもこっちがおかしいみたいなリアクションされちまってさ」
そっか、怖くて逃げた私と違って、ノーランはちゃんとみんなに話しかけたのか。
「もしかしたらお前なら覚えてるかもしれない!って思って探したけど居ねーんだもん。ほかのみんなに確認しても朝体調が悪そうにして飛び出してから見てないって言われて変に焦っちまったぜ」
そしてノーランは苦笑しながら私の方を見たのが気配でわかる。
でも、私は見る勇気がなかった。また涙が出てきそうで……顔を正面に向けるしかできなかった。
「で、私の事をみんなで捜索してるの?悪い事しちゃったわね」
「いや?探してるのは俺だけだ。っつーかこの世界のお前、これ、元のレヴィアナって意味な?レヴィアナってスゲー女だったんだな」
軽く笑いながらノーランは言葉を続けた。
「探しに行こうぜ!ってみんなに言っても「レヴィアナの事だから何か考えがあるんだろう」っていって誰も付き合ってくれねーでやんの。お前の捜索にかこつけてアリシアと2人きりで夜の散歩とかも計画したけど、それも失敗しちった」
ノーランは乾いた笑い声をあげている。
「それはごあいにくさま。だったらあんたも放っておいてくれても良かったのに」
我ながら可愛くない反応だとは思う。でもどう返事をしていいかわからなかった。
「レヴィアナは無敵超人だったかもしれないけど、今話してるお前は違うだろ」
ノーランと目が合う。いつもと違う、優しい眼差しで、でも少し悲しそうに笑った。
「……だから探しに来た」
その顔を見て、私は溢れ出る涙を我慢することができなかった。
訳もわからずノーランにしがみ付き、そして感情に任せて思いっきり泣いた。
「ノーラン……ミーナが死んじゃった……」
「あぁ」
「ナタリーもみんな忘れちゃった……!」
「あぁ」
一度堰を切ってしまうともう止められなかった。
もう恥ずかしいとかそんなことどうでもよかった。子供みたいにしゃくりあげながら泣いた。
「もっと……もっと早く塔を破壊……できてたら……っ」
「あぁ」
ノーランは子供をあやす様に背中をさすり、頭や髪の毛をなでてくれる。
私はただその胸の中で泣き続けた。
1人きりでミーナが居ない世界に取り残されてしまったと思っていた。
でも、そうじゃなかった。
「私……っ……ずっと1人だと……思って……だれにも……相談……」
「あぁ」
「うあああああああっ!うあぁぁぁぁぁぁっ!!」
私の叫びと嗚咽だけが、夜の始まりに響いていた。
***
一頻り泣き続けた後、ようやく落ち着いた私はノーランから少し離れて座る。
ノーランは私が泣いている間、ずっと頭をなでながら話を聞いてくれていた。今は隣であぐらをかいて頬杖を突きながら星空を眺めていた。
(恥ずかしい……)
穴があったら入りたい。違う意味でしばらく顔を合わせたくない。
でも、泣くだけ泣いてすっきりしたからか、気持ちはさっきよりは落ち着いていた。
涙でぐちゃぐちゃの顔でノーランを見ると目が合った。
ノーランはプッとふき出してけらけらと笑った後、また同じように空を見上げた。
「……で?さっきの魔法を撃つぞーってのは何なのよ?」
恥ずかしくなって別の話題を無理やり振る。
「いやさ、ほら、お前が居そうなところ全部ぶっ壊していけばいつか見つかるかなって。お前なら魔法で防御するだろ」
「えぇ……まぁ……それが?」
言葉の意味が分からず返答に困る。
「だってよ、もし俺がこの広場の全員を魔法でぶっ殺しても、きっと翌日にはきっと全員わすれちゃうんだろ?ミーナみたいによ」
「ノーラン……それ……本気で言ってるの?」
広場が完全に沈黙で包まれた。先ほどまで遠くで聞こえていた笑い声も今やなくなり、沈黙で耳が痛かった。
ノーランは再び視線を正面に戻し、ふぅ―――と息を大きく吐きだす。
「本気な訳ねーだろ。あの雑貨屋の親父も、いつもおまけしてくれる果物屋のおばちゃんも、うさんくせー占い屋の変なのも、もうゲームの登場人物なんて思えねーよ」
そしてノーランはこちらを向き、どこか寂しそうな笑顔を私に向けた。
「もちろんミーナもな」
「……当たり前でしょ……っ!」
「もしさ、俺も死んだらミーナみたいに、みんなに忘れられちまうのかな?それともお前だけは覚えてくれてんのかな?」
「……?」
「なんか死んでる側から文句を言うのも違う気もすっけど、忘れてほしくねーよな」
「……そうよね。私たちだけは絶対にミーナの事忘れないようにしようね」
私は改めて空を見上げ、ミーナから受け取ったイヤリングに優しく触れる。大丈夫。ミーナの事、私が絶対に忘れないから。
「それに私も、もし私が死んだときに覚えてるのがあんただけなんて寂しいから誰よりも長生きすることにするわよ」
「お前みたいな強烈なキャラ、誰も忘れねーと思うけどな!」
そういいながらノーランは少しだけ笑った。
それからまたしばらく沈黙が続いた。
ノーランの息づかいだけがやけに耳に響いた。
***
「今日はありがと。……いえ、ありがとうございますわ。少しだけ、いえ、大分気が楽になりました」
2人でセレスティアル・アカデミーに戻り、寮の前まで送り届けてくれたノーランに礼を言う。
「俺の事少しは見直した?」
「えぇ、そこそこですわね。もっと浮ついたアリシアしか視界に入ってないいい加減な男かと思っていましたわ」
「あー……俺に惚れられても困るんだよなぁ。俺にはアリシアって言う女神がもう……」
「またバカなこと言って……」
ついそんなくだらない軽口につられて笑ってしまう。
「おー、やっと笑った。そうそう、笑う門には福来るって言うからな」
「なんですのその言葉?わらうかどには――……?」
「お?意外と言葉知らねーのな?笑う門には福来る、笑ってる人には幸せがくるぜーってことわざだよ」
「笑う門には福来る……ことわざ……でも、まぁいい言葉ですわね」
笑う門には福来る…
笑う門には福来る…
心の中で何度か唱える。
ミーナもよく笑う子だった。うん、いつも楽しそうで幸せそうだった。
(そうだよね、ずっと沈んでたらきっとミーナにも叱られちゃう)
記憶の中のミーナは太陽の様な笑顔で手をふっていた。
なんだかそれがおかしくって、またクスリと笑顔が漏れてしまう。
今日、ようやく笑えた気がした。
「じゃ、今日はしっかり寝ろよ?その様子じゃ昨日もろくに寝てねーんだろ?」
「あら?あなたは一緒に戻らないんですの?」
「俺はちょっと散歩してから戻るわ。一緒に帰って生徒会メンバーに噂とかされると恥ずかしいし、なーんてな」
「なんですの?それ?」
私の問いかけには答えず、じゃあな、とだけいいノーランは背負向けて歩き始めた。
それからしばらくして振り向くと手を振ってきたので、私も手を振り返しノーランが見えなくなるまで見送った。
―――絶対忘れない。
あんな楽しい友達を絶対に忘れるもんか。
それに、絶対にほかのみんなを死なせもしない。
ほかのみんなとはもっと、もっと楽しい時間を過ごしたい。
何よりも私のために。
そう決意して私は寮へと戻った。
そして、今日のことを忘れない様に日記に書き留めようとノートを開いた時だった。
偶然開いたページに目がとまる。私の知らないページだった。
「……ミーナ……っ!」
さっきあれだけ流した涙がまた溢れ出す。
きっとナタリーと、そしてミーナが私の目を盗んで残した、くちゃくちゃな落書きが残されていた。
夏休み、みんなで遊びに行ったアリシアの故郷の落書きだった。
『レヴィアナさん!またいっしょにあそびましょうです!!』
慣れないペンで書いたからかぐちゃぐちゃに歪んだ、でも間違いなくミーナの文字がそこに書かれていた。
「うん……っ、絶対にまた遊ぼうね……っ」
ミーナの想いがいっぱいつまったメッセージを指でなぞりながら、心にいくつもの絶対を刻み込んだ。
きっと明日は大丈夫。
『ミーナ、大好きだよ』
涙で紙を濡らさないようにそれだけ書いて、これ以上このノートが汚れないように大切に本の引き出しの中にしまった。
火魔法による街燈の明かりが灯され、徐々にその光がぼんやりと広場を照らしていく。
私は一人、シルフィード広場の物見台に居た。
昼間は見張りの人がいるけど、夜は誰もいなくなって忍び込むことができる、そう教えてくれたのもミーナだった。
(これからどうしよう……)
みんなとどう接していいかわからなかった。
もう確信していた。この世界のみんなはミーナの事を忘れている。
きっとみんな、みんなにとっての今まで通りを過ごしているのだろう。
別に誰も悪くない。みんなはもう忘れているだけ、ただそれだけ。
昨日のナタリーが頭をよぎる。
ナディア先生の魔法で目を覚ましてから、喉がつぶれるのではないかという程叫び、泣いて、ミーナの名前を叫んでいた。その叫びは体力とマナ切れで倒れるまで続いた。普段あんなにおしとやかなナタリーがあれほど取り乱し、あんなに強い言葉を人に向けるなんて想像もできなかった。
あのままだといずれナタリーが壊れてしまうかもしれなかった。
もしかしたら今の状態の方が良いのかもしれない。
それに、アリシアが悪いわけでもない。アリシアも何も知らない。ゲームのテキストにも「アリシアとの好感度が低かったから攻略対象は死にました」といった文言なんて当然出てこない。ゲームを何週かして経験則からわかってくるものだ。
誰も悪いわけじゃない。
それにこれは私の好きなゲームで、プレイしていた時は何度も経験したことだ。当たり前の事、普通の事、そう必死に言い聞かせる。
……でも、頭ではそう理解しようとしても、それでもそんなナタリーとアリシアが笑って話しているのを今は素直に見れそうもなかった。
ずっと座り続けて硬くなった体をほぐすために立ち上がり一つ伸びをする。
すべての店が閉店した広場はとても静かだった。
初めてきたときはあれほどよそよそしく感じられたこの広場も、ミーナとナタリーと散々遊んだおかげで心地良い場所になっていた。
(これからどうしよう……)
何度考えたかわからないことを考え続ける。
結局生徒会室を飛び出してからこうして一人でふらふらとしている。セオドア先生に借りた書類も返せていない。
大事になる前に戻ったほうがいいに決まっている。でもそんな勇気も持てなかった。
「はぁ……。ん?」
遠くの方からこちらに近づいてくる人影が見えた。
一瞬、アリシアかと思ったけれど違うようだ。
でも服装からセレスティアル・アカデミーの誰かなのは間違いなさそうで慌てて座る。下からはこの場所はわからないはずだ。
「おーい!!レヴィアナー!?いねーのかー!?」
声からノーランだという事が分かった。
唯一の希望はノーランだった。ノーランなら、私と同じゲームの外から来たノーランならもしかしたらミーナの事を覚えてるかもしれない。でももしノーランすら忘れていたら?
そんな現実と向き合えるほど、今の私は強くなれなかった。
「よーし、わかった!!あと10秒以内に出てこないとこの広場めがけて俺の最強魔法をぶっ放す!!!」
(ノーラン?何を言ってるの―――!?)
「どーせこんな世界だ、何とかなんだろ!!!昼間寝て完全回復したしな!!俺もむしゃくしゃしてるしな!!!!はい10―――9――――」
何を言っているのかわからない、どうして?
「8――7――6――」
(ちょ、ちょっとまってよ!!待ってってばっ!!!)
落ち着いて考える暇もなくノーランのカウントダウンは続き、魔力の詠唱は続いていく。
「5――4――3――」
マナの収束は続き、辺りに火魔法特有の気配が漂ってくる。
(あーもうっ!!!!)
「こんな夜にうるさいですわよ!!!!」
「あ、やっぱいたじゃん」
人を食ったような表情のノーランと目が合った。
***
「あんた……!どういうつもり!?」
物見台の上に上がってきたノーランを怒鳴りつける。
「あんたの最強魔法ってフレアバーストよね?こんなところであんな魔法なんて使ったら―――」
「―――――巻き込まれて住人が死ぬってか?ミーナみたいに?」
へらへらしているのに、どこか真剣な口調でぽそっとノーランはつぶやいた。
顔はまっすぐ正面の星空を見つめていた。
「あなた……ミーナの事……っ!!!」
「あぁ、覚えてる……ってかお前も覚えててよかったわ」
そう言ってノーランはふぅ、と一つため息をついた。
「まーさすがにびっくりしたね。マナの使い過ぎ?みたいなので具合悪くて寝てて、ようやく体調も戻ってきて、生徒会のみんなと合流して話したらもっと具合悪くなったっての」
「……」
「はじめはみんなふざけてんのかな?って思った。趣味は良いとは思えなかったけど、なんとなくそういう感じにして、へこんでたナタリーを慰めようとしてんのかな?とか」
ノーランは言葉を選ぶように、一言一言をゆっくりと話していく。
ナタリーやアリシアの様子を思い浮かべながら話しているんだろう。
「でも、ちがったわ。誰に何度聞いてもこっちがおかしいみたいなリアクションされちまってさ」
そっか、怖くて逃げた私と違って、ノーランはちゃんとみんなに話しかけたのか。
「もしかしたらお前なら覚えてるかもしれない!って思って探したけど居ねーんだもん。ほかのみんなに確認しても朝体調が悪そうにして飛び出してから見てないって言われて変に焦っちまったぜ」
そしてノーランは苦笑しながら私の方を見たのが気配でわかる。
でも、私は見る勇気がなかった。また涙が出てきそうで……顔を正面に向けるしかできなかった。
「で、私の事をみんなで捜索してるの?悪い事しちゃったわね」
「いや?探してるのは俺だけだ。っつーかこの世界のお前、これ、元のレヴィアナって意味な?レヴィアナってスゲー女だったんだな」
軽く笑いながらノーランは言葉を続けた。
「探しに行こうぜ!ってみんなに言っても「レヴィアナの事だから何か考えがあるんだろう」っていって誰も付き合ってくれねーでやんの。お前の捜索にかこつけてアリシアと2人きりで夜の散歩とかも計画したけど、それも失敗しちった」
ノーランは乾いた笑い声をあげている。
「それはごあいにくさま。だったらあんたも放っておいてくれても良かったのに」
我ながら可愛くない反応だとは思う。でもどう返事をしていいかわからなかった。
「レヴィアナは無敵超人だったかもしれないけど、今話してるお前は違うだろ」
ノーランと目が合う。いつもと違う、優しい眼差しで、でも少し悲しそうに笑った。
「……だから探しに来た」
その顔を見て、私は溢れ出る涙を我慢することができなかった。
訳もわからずノーランにしがみ付き、そして感情に任せて思いっきり泣いた。
「ノーラン……ミーナが死んじゃった……」
「あぁ」
「ナタリーもみんな忘れちゃった……!」
「あぁ」
一度堰を切ってしまうともう止められなかった。
もう恥ずかしいとかそんなことどうでもよかった。子供みたいにしゃくりあげながら泣いた。
「もっと……もっと早く塔を破壊……できてたら……っ」
「あぁ」
ノーランは子供をあやす様に背中をさすり、頭や髪の毛をなでてくれる。
私はただその胸の中で泣き続けた。
1人きりでミーナが居ない世界に取り残されてしまったと思っていた。
でも、そうじゃなかった。
「私……っ……ずっと1人だと……思って……だれにも……相談……」
「あぁ」
「うあああああああっ!うあぁぁぁぁぁぁっ!!」
私の叫びと嗚咽だけが、夜の始まりに響いていた。
***
一頻り泣き続けた後、ようやく落ち着いた私はノーランから少し離れて座る。
ノーランは私が泣いている間、ずっと頭をなでながら話を聞いてくれていた。今は隣であぐらをかいて頬杖を突きながら星空を眺めていた。
(恥ずかしい……)
穴があったら入りたい。違う意味でしばらく顔を合わせたくない。
でも、泣くだけ泣いてすっきりしたからか、気持ちはさっきよりは落ち着いていた。
涙でぐちゃぐちゃの顔でノーランを見ると目が合った。
ノーランはプッとふき出してけらけらと笑った後、また同じように空を見上げた。
「……で?さっきの魔法を撃つぞーってのは何なのよ?」
恥ずかしくなって別の話題を無理やり振る。
「いやさ、ほら、お前が居そうなところ全部ぶっ壊していけばいつか見つかるかなって。お前なら魔法で防御するだろ」
「えぇ……まぁ……それが?」
言葉の意味が分からず返答に困る。
「だってよ、もし俺がこの広場の全員を魔法でぶっ殺しても、きっと翌日にはきっと全員わすれちゃうんだろ?ミーナみたいによ」
「ノーラン……それ……本気で言ってるの?」
広場が完全に沈黙で包まれた。先ほどまで遠くで聞こえていた笑い声も今やなくなり、沈黙で耳が痛かった。
ノーランは再び視線を正面に戻し、ふぅ―――と息を大きく吐きだす。
「本気な訳ねーだろ。あの雑貨屋の親父も、いつもおまけしてくれる果物屋のおばちゃんも、うさんくせー占い屋の変なのも、もうゲームの登場人物なんて思えねーよ」
そしてノーランはこちらを向き、どこか寂しそうな笑顔を私に向けた。
「もちろんミーナもな」
「……当たり前でしょ……っ!」
「もしさ、俺も死んだらミーナみたいに、みんなに忘れられちまうのかな?それともお前だけは覚えてくれてんのかな?」
「……?」
「なんか死んでる側から文句を言うのも違う気もすっけど、忘れてほしくねーよな」
「……そうよね。私たちだけは絶対にミーナの事忘れないようにしようね」
私は改めて空を見上げ、ミーナから受け取ったイヤリングに優しく触れる。大丈夫。ミーナの事、私が絶対に忘れないから。
「それに私も、もし私が死んだときに覚えてるのがあんただけなんて寂しいから誰よりも長生きすることにするわよ」
「お前みたいな強烈なキャラ、誰も忘れねーと思うけどな!」
そういいながらノーランは少しだけ笑った。
それからまたしばらく沈黙が続いた。
ノーランの息づかいだけがやけに耳に響いた。
***
「今日はありがと。……いえ、ありがとうございますわ。少しだけ、いえ、大分気が楽になりました」
2人でセレスティアル・アカデミーに戻り、寮の前まで送り届けてくれたノーランに礼を言う。
「俺の事少しは見直した?」
「えぇ、そこそこですわね。もっと浮ついたアリシアしか視界に入ってないいい加減な男かと思っていましたわ」
「あー……俺に惚れられても困るんだよなぁ。俺にはアリシアって言う女神がもう……」
「またバカなこと言って……」
ついそんなくだらない軽口につられて笑ってしまう。
「おー、やっと笑った。そうそう、笑う門には福来るって言うからな」
「なんですのその言葉?わらうかどには――……?」
「お?意外と言葉知らねーのな?笑う門には福来る、笑ってる人には幸せがくるぜーってことわざだよ」
「笑う門には福来る……ことわざ……でも、まぁいい言葉ですわね」
笑う門には福来る…
笑う門には福来る…
心の中で何度か唱える。
ミーナもよく笑う子だった。うん、いつも楽しそうで幸せそうだった。
(そうだよね、ずっと沈んでたらきっとミーナにも叱られちゃう)
記憶の中のミーナは太陽の様な笑顔で手をふっていた。
なんだかそれがおかしくって、またクスリと笑顔が漏れてしまう。
今日、ようやく笑えた気がした。
「じゃ、今日はしっかり寝ろよ?その様子じゃ昨日もろくに寝てねーんだろ?」
「あら?あなたは一緒に戻らないんですの?」
「俺はちょっと散歩してから戻るわ。一緒に帰って生徒会メンバーに噂とかされると恥ずかしいし、なーんてな」
「なんですの?それ?」
私の問いかけには答えず、じゃあな、とだけいいノーランは背負向けて歩き始めた。
それからしばらくして振り向くと手を振ってきたので、私も手を振り返しノーランが見えなくなるまで見送った。
―――絶対忘れない。
あんな楽しい友達を絶対に忘れるもんか。
それに、絶対にほかのみんなを死なせもしない。
ほかのみんなとはもっと、もっと楽しい時間を過ごしたい。
何よりも私のために。
そう決意して私は寮へと戻った。
そして、今日のことを忘れない様に日記に書き留めようとノートを開いた時だった。
偶然開いたページに目がとまる。私の知らないページだった。
「……ミーナ……っ!」
さっきあれだけ流した涙がまた溢れ出す。
きっとナタリーと、そしてミーナが私の目を盗んで残した、くちゃくちゃな落書きが残されていた。
夏休み、みんなで遊びに行ったアリシアの故郷の落書きだった。
『レヴィアナさん!またいっしょにあそびましょうです!!』
慣れないペンで書いたからかぐちゃぐちゃに歪んだ、でも間違いなくミーナの文字がそこに書かれていた。
「うん……っ、絶対にまた遊ぼうね……っ」
ミーナの想いがいっぱいつまったメッセージを指でなぞりながら、心にいくつもの絶対を刻み込んだ。
きっと明日は大丈夫。
『ミーナ、大好きだよ』
涙で紙を濡らさないようにそれだけ書いて、これ以上このノートが汚れないように大切に本の引き出しの中にしまった。
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