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迷子の会社員、無事に居場所を見つけました⑤

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 その藍色の瞳が愛おしげにスッと細められて、柔らかく笑う。

「ルミ」

 差し伸べられた手を取ると、私にだけ聞こえる声で呟いた。

「君が来てくれて……ここにいてくれて良かったとそう強く思うよ」
「フェル。私もそう思います」

 そっと寄りかかるように頭を寄せたら、同じように彼も頭を寄せた。

「式の日取りは早めにしようか」
「式?」
「そう。婚約期間はもう十分だろう?」
「どうでしょう…カデムのこともありますし、当分は忙しくなりそうだから、それが落ち着いてからで……」

 と言いながらフェルの方を見たら、なんか不機嫌そうな顔をされた。

 んん??

 直後、肩に手を回されて引き寄せられる。

「フェル?」
「私が落ち着かないんだ。だから、早めにする」

 そっと彼の顔を見上げようとしたら、隠すように肩口にすがってくる。「フェル?」と声をかけると、しばらくして続けた。

「ごめん、もう少しこのままで」

 そんな風に言われてしまえば、断ることなんて出来なくて、私も応えるように背に回した手に力を込めた。

「ふふっ、それじゃあ仕方ありませんね。日取りはフェルに任せます。でも他のことは一緒に」

 そう言って再度見上げたら、ようやく顔を上げた彼に柔らかく笑われた。

「そうだね。これからは共に」
「ええ」

 そんな風に笑顔を交わした。


 ────……………。


 ……重ねた契約から始まった偽りの婚約者。

 けど今は、愛し、愛されることも知った上の関係に変われた。

 だから。

 ――これから先は妻としてあなたの隣に。芽生えた決意は確かな力となって、心に宿った気がした。



fin.
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