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身を引くという決意①

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 黒いスカートスーツに会社カバン。
 いつの間に、こんなにも馴染まなくなってしまっていたのだろう。

「…………」

 ロギアスタ邸を出て、でもアミーラ様の元に行く勇気が出ない。だから、メディに挨拶がしたいと御者の方に言い訳をして馬車を断った。

 時が来たら歩いて行くから、と。

 でも、メディに何て説明したら良いか分からなくてその場で佇んでしまう。

 素直に全てを話しても理解しがたい事ばかりだ。万が一信じてくれたとしても、迷惑がかかるのは目に見えている。

 彼女には……アンバル様と幸せになって欲しい。健気に頑張る彼女を思い出す。

「……」

 日が暮れる前には、お城まで行かないといけない。さすがに今までいろいろな経験をしてきて野宿が出来るほどの度胸はなかった。

 すでに雨は止んで、鈍色の空だけが広く残っている。それを仰ぐと瞳が潤みそうになる。

 いつから、こんなに弱い人間になったのだろう。独りで生きていくと、父が亡くなった時に決めてそう過ごして来たはずなのに。

 思いがけない温もりに触れてしまって、それがいつの間にか心を占めていた。

 こんなんじゃいけない。振り切るように目元を拭ったら後ろから声をかけられた。

「ルミ?」

 聞き覚えのある声に振り返るとノア様が立っていた。

 この間から、タイミングが良いのか悪いのか。

 その彼が私の服装を見て、紅い瞳を細める。

「何その格好。今から芸事でもする気?」

 相変わらずの言い方。でも今は上手く対処出来る自信がなかった。油断したら、いろいろとこぼれてしまいそうだったから。

 気づかれないように適当にあしらう。

「……そうかも。失礼します」

 顔を見られないように急いで身を翻す。もう、さっさとお城に行こう。これ以上、知り合いに会うのは辛い。そう実感させられた。

 けど直後、腕を掴まれる。

「……?」

 振り返るのも億劫で顔を逸らしたまま言う。

「離して……いただけませんか?」
「なら、こっち見て言いなよ」
「……」

 渋々、ノア様を見上げる。真剣な眼差しに一瞬たじろぐ。それでも懸命に声を出す。

「離してください」
「無理だね」
「! 話が違う!」
「あのさ。今、自分がどんな顔してるか分かってる?」

 そう言ったノア様は、初めて眉をしかめて顔を背けた。

「いいから来なよ」
「え? あの!」

 戸惑いながらも引き摺られるようにして、私はどこかへ連れていかれた。
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