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ここにいる理由 後半③
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あまりの自分勝手さに思わずテーブルへ手をつき立ち上がる。ガタンっと跳ねてソーサーが音を立てた。
「こんなことのために家族を巻き込むなんて、なんてことを?!」
私が言うと、アミーラ様はムッとした表情をしてカップをガシャンっと強く置いた。
「いいこと? 今、貴女を不敬で捕えないのは仕事があるからよ。あまりに口が過ぎればすぐに地下牢行き。覚えておきなさい」
その言葉にわずかに怯んだものの、やっぱり納得できない。重ねるように続けた。
「たとえそれでも、貴女のやってることは正しいことだと思えません」
ハッキリ告げると、尚も言い返そうとしてきた。けどすぐに肩を竦めて背凭れに寄りかかる。投げやりに返した。
「別に分かり合う必要はないのよ。どうせもうすぐ貴女はいなくなるのだから」
「魔獣への対抗措置として、ですか」
「使用した魔具は稀少なものばかりだったの。しかも全部が繊細で壊れやすい。すでにいくつか壊れてるわ。放っておけばそのうち全て壊れる」
アミーラ様は言いながらソファに横たわる。しなやかな肢体を伸ばして、くつろぎ始めた。
私は眉をひそめて訊く。
「壊れたら…どうなるんですか?」
「私が喚んだものはすべて戻せなくなるわね。だからね、その前にあの獣達を元の世界に戻さなければいけないのよ。そうじゃないと永遠に国が危機にさらされるの。さすがにそれは私も困るのだけれど、私にはもうそれが出来ない」
どこか他人事のような言葉に苛立ちが募る。それを抑えてまた問いかける
「…どういうことですか?」
「私の魔力は貴女に流れてるから」
「私に……?」
「そうよ。貴女の持ち物に変化はなかった? それが触媒になってるの」
変化のあった持ち物なんて一つしかない。思い当たる節があることに気づいたのか、アミーラ様が続ける。
「実は今も流れ続けてるのよ。だから私もすぐ疲れちゃう。正直もう、獣に使用した術式を破ることなんて出来ないわ。でも貴女なら出来るの」
「私なら…」
「ええ。貴女にしか出来ないことよ。どうする? 魔獣がいる限り、フェルをまた戦場へ送り出さなければならないの。それは貴女も望まないでしょう?」
「……」
「今はまだ膠着状態だから構わないけど、いずれ相手も本気で暴れるのでしょうね。それを止めるために彼は真っ先に出るはずだわ。そういう人だもの。ね?」
知っているでしょう?と言いたげな表情。分かっている。彼はきっと真っ先に戦場へ駆けていく。ここに私がいたら尚更。
そうしたら選択肢は一つしかない。ぎゅっと手の平を握り締める。彼女は私の表情から悟ったのだろう。ふわりと微笑んで身を起こした。
「馬車を用意させるわ。荷物を纏めて戻ってらっしゃい。今はフェルに会いたくないでしょう? 私が上手く言っておいてあげる」
「…お願い…します」
「ええ、任せなさい。それから近いうちに帰るのだから、お別れも済ませておきなさい。ああでも……逃げても無駄だからね。さっきも言ったけど、私と貴女は魔力を共有してる。辿れば貴女の行動は把握出来るのだから」
今までの内容がまだ整理できていない。だけど一つだけ分かってることがある。
……私はもう、フェルの傍にはいられない。
立ち上がり髪を整えるアミーラ様が、侍女に指示を出す。私は促されるまま別の扉から外に出た。そのあとフェルに会うことなくロギアスタ邸から姿を消した。
「こんなことのために家族を巻き込むなんて、なんてことを?!」
私が言うと、アミーラ様はムッとした表情をしてカップをガシャンっと強く置いた。
「いいこと? 今、貴女を不敬で捕えないのは仕事があるからよ。あまりに口が過ぎればすぐに地下牢行き。覚えておきなさい」
その言葉にわずかに怯んだものの、やっぱり納得できない。重ねるように続けた。
「たとえそれでも、貴女のやってることは正しいことだと思えません」
ハッキリ告げると、尚も言い返そうとしてきた。けどすぐに肩を竦めて背凭れに寄りかかる。投げやりに返した。
「別に分かり合う必要はないのよ。どうせもうすぐ貴女はいなくなるのだから」
「魔獣への対抗措置として、ですか」
「使用した魔具は稀少なものばかりだったの。しかも全部が繊細で壊れやすい。すでにいくつか壊れてるわ。放っておけばそのうち全て壊れる」
アミーラ様は言いながらソファに横たわる。しなやかな肢体を伸ばして、くつろぎ始めた。
私は眉をひそめて訊く。
「壊れたら…どうなるんですか?」
「私が喚んだものはすべて戻せなくなるわね。だからね、その前にあの獣達を元の世界に戻さなければいけないのよ。そうじゃないと永遠に国が危機にさらされるの。さすがにそれは私も困るのだけれど、私にはもうそれが出来ない」
どこか他人事のような言葉に苛立ちが募る。それを抑えてまた問いかける
「…どういうことですか?」
「私の魔力は貴女に流れてるから」
「私に……?」
「そうよ。貴女の持ち物に変化はなかった? それが触媒になってるの」
変化のあった持ち物なんて一つしかない。思い当たる節があることに気づいたのか、アミーラ様が続ける。
「実は今も流れ続けてるのよ。だから私もすぐ疲れちゃう。正直もう、獣に使用した術式を破ることなんて出来ないわ。でも貴女なら出来るの」
「私なら…」
「ええ。貴女にしか出来ないことよ。どうする? 魔獣がいる限り、フェルをまた戦場へ送り出さなければならないの。それは貴女も望まないでしょう?」
「……」
「今はまだ膠着状態だから構わないけど、いずれ相手も本気で暴れるのでしょうね。それを止めるために彼は真っ先に出るはずだわ。そういう人だもの。ね?」
知っているでしょう?と言いたげな表情。分かっている。彼はきっと真っ先に戦場へ駆けていく。ここに私がいたら尚更。
そうしたら選択肢は一つしかない。ぎゅっと手の平を握り締める。彼女は私の表情から悟ったのだろう。ふわりと微笑んで身を起こした。
「馬車を用意させるわ。荷物を纏めて戻ってらっしゃい。今はフェルに会いたくないでしょう? 私が上手く言っておいてあげる」
「…お願い…します」
「ええ、任せなさい。それから近いうちに帰るのだから、お別れも済ませておきなさい。ああでも……逃げても無駄だからね。さっきも言ったけど、私と貴女は魔力を共有してる。辿れば貴女の行動は把握出来るのだから」
今までの内容がまだ整理できていない。だけど一つだけ分かってることがある。
……私はもう、フェルの傍にはいられない。
立ち上がり髪を整えるアミーラ様が、侍女に指示を出す。私は促されるまま別の扉から外に出た。そのあとフェルに会うことなくロギアスタ邸から姿を消した。
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