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ここにいる理由 前半③

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 重ねるようにアミーラ様の声が耳に届く。

「ええ、そうよ。ルミの素性はこちらで調べました。彼女は、あの獣達と同じ波長を持っているの。ルミが、あの魔獣達を消すために必要な存在なのよ」

 フェルが、ギュッと掌を握り締めるのが視界の隅に掠めた。

「……仮にそうだとして、具体的に何をさせるおつもりですか?」

 フェルの声が、徐々に厳しいものへ変わっていく。顔を上げたら、その横顔も同じ様に厳しい。

 それが私の為だと思うと、場違いながらも嬉しくなってしまう。

 でもそれもアミーラ様の行動一つで、すぐさま冷えていく。彼の腕に触れる彼女が柔らかく微笑んだ。

「ただ、彼女があの場に行けばいいの。でも大丈夫。危険はないようにします。あの場でルミが専用の術式を展開すれば、獣達は皆消えるはずですから」
「では、彼女自身はどうなるのですか?」
「彼女は一時的に自国に戻ることになるわ」
「それは……」
「心配なのね、フェル。なら、全てを終えた後ルミの国まで迎えに行くのはどうかしら? 彼女がまたこの国に戻ってくるなら、当然、歓迎します。如何かしら? それで国の驚異がなくなるなら問題はないでしょう?」
「……ですが」
「ねえ、フェル」

 アミーラ様は幼い子にするように、彼の頭を撫でて、首に腕を回す。そしてさらに、体をぴったりとくっつけた。

「迷うのなら、私を傍に置く許可を出しましょう。姿形は同じだもの。貴方を慰められるのは私しかいないわ」
「!」

 心臓がドクンと大きく跳ねる。同時に動揺するフェルが呟く。

「…どういう…」
「言葉の通りよ。彼女の代わりに私が婚約者となりましょう。今の貴方ならば十分その資格があるわ」

 アミーラ様の言葉に目の前の色彩が消えていく。まるでモノクロの世界。ただ理解したくないのに分かるのはひとつだけ。

 私の代わりが──いる。

 たとえ私がいなくなろうとも、彼のそばには同じ顔をした別の人がいる。どんどん暗くなる心。外の雨音だけが耳に入る。身体の芯が冷えていくような気がした。

 けどフェルの息を吸う音と直後のハッキリした言葉が耳に届く。

「申し訳ありませんが、その話はお断りします。魔獣への対処についても後日返事を致しましょう。では私たちは失礼致します」

 アミーラ様を無理やり剥がして、身を翻すフェルが私の元へと来る。手を掴まれたところで、アミーラ様から「お待ちなさい」と止められた。

「今日は彼女にも個別で話があったと言ったでしょう。続きは自室で行うわ。貴方はここにいなさい、フェル」
「アミーラ様、それは許諾しかねます」
「国王が臥せっている今、実質統治者は私。黙って従いなさい」

 一度、私を見つめたフェル。悔しげにその顔を歪め頭を下げた。

「……御意に」

 フェルが手を離し、アミーラ様が乱暴に私の手を掴む。口を挟むのは憚られて、成すがままに謁見の間を出た。けれど、その間際、掠めたフェルの顔は私も苦しくなるくらい、辛そうな顔をしていた。
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