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水月の典 後半③

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「ルミ!」

 名前を呼ばれて振り返ったらフェルが駆け寄ってくるところだった。嬉しくなって思わず、片手を上げて応える。

「フェル!」

 けどその直後、腰を掴まれて引かれたかと思うと、後ろからノア様に抱き締められた。

「わっ! な、いきなり何してるんですか?」
「先手を取っただけ。説明される前ならフェルは誤解するよね」

 言って彼はいたずらっ子のようにククッと笑う。さっきの話、説明する前に誤解させてやれってことね。

 くっ! 油断した! 

 咄嗟に身動ぎしたら意外とパッと手を離す。両手を軽く上げてニッと笑う。そうこうしてるうちにフェルが傍に来て、私たちを見るなり目を瞬かせた。

「今のは……」
「あれ、今さら来たんだ? フェルが遅いから二人で楽しんできたよ」
「いい加減なこと言わないでください。さっき迷って…」
「事実でしょ? ほら、揃いの腕輪もしてるし」

 と、勝手に腕を掴んで見せつけるようにフェルの前に出す。慌てて引いて腕輪を隠した。だけどフェルが訝しげに眉をひそめる。
 
 これは本当に誤解されそう。急な危機感に急いで訂正を試みる。

「フェル、ちょっと待って。事情は後で説明するから」
「そうそう。言い訳は後でするから」
「ノア様、黙ってください」

 私の肩に寄りかかる彼が、私の言葉にかぶせて言う。フェルが呟いた。

「…言い訳…?」
「そ。この子の言葉、信じちゃダメだよ」
「ノア様!」

 楽しげに笑うノア様と、いまだ事情のわかってないフェル。困惑したもののノア様は、一通り笑ってから離れた。

「あー楽しかった。ま、この間の仕返しのつもりだから許してよね」
「こういう悪趣味なのはやめてくれ」
「まーまー、怒らないでさ。ほら、これもあげるから」

 と、フェルに投げ渡してきたのは先程買ったばかりの腕輪。受け取ったあとノア様が続ける。

「この子が君のために選んだんだよ」
「ルミが?」
「あ、あの……日頃のお礼というか……なんというか」

 なぜ一瞬見ただけなのにばれてしまったのか。急に恥ずかしくなってしどろもどろになる。おまけに買ったのはノア様なんだけど、と思って彼を見たら、フッと笑われた。

「まあ、興味本意で先につけちゃったけど。僕みたいな細腕じゃあ重すぎたよ。あ、でもフェルがいらないなら貰ってあげてもいいけど?」
「いや、断る」
「だろうね。じゃあ、僕はもう行くから」

 身を翻し、歩き始めたノア様に急いで声をかける。

「ノア様、ありがとうございました!」

 返事はなかったけど、片手をあげて応えてくれた辺り本当は優しいのかな、と思う。

 後に残された私とフェルも、ちょっとだけいろいろあったけど、ちゃんと説明してちゃんと丸く収まった。
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