113 / 134
水月の典 後半③
しおりを挟む
「ルミ!」
名前を呼ばれて振り返ったらフェルが駆け寄ってくるところだった。嬉しくなって思わず、片手を上げて応える。
「フェル!」
けどその直後、腰を掴まれて引かれたかと思うと、後ろからノア様に抱き締められた。
「わっ! な、いきなり何してるんですか?」
「先手を取っただけ。説明される前ならフェルは誤解するよね」
言って彼はいたずらっ子のようにククッと笑う。さっきの話、説明する前に誤解させてやれってことね。
くっ! 油断した!
咄嗟に身動ぎしたら意外とパッと手を離す。両手を軽く上げてニッと笑う。そうこうしてるうちにフェルが傍に来て、私たちを見るなり目を瞬かせた。
「今のは……」
「あれ、今さら来たんだ? フェルが遅いから二人で楽しんできたよ」
「いい加減なこと言わないでください。さっき迷って…」
「事実でしょ? ほら、揃いの腕輪もしてるし」
と、勝手に腕を掴んで見せつけるようにフェルの前に出す。慌てて引いて腕輪を隠した。だけどフェルが訝しげに眉をひそめる。
これは本当に誤解されそう。急な危機感に急いで訂正を試みる。
「フェル、ちょっと待って。事情は後で説明するから」
「そうそう。言い訳は後でするから」
「ノア様、黙ってください」
私の肩に寄りかかる彼が、私の言葉にかぶせて言う。フェルが呟いた。
「…言い訳…?」
「そ。この子の言葉、信じちゃダメだよ」
「ノア様!」
楽しげに笑うノア様と、いまだ事情のわかってないフェル。困惑したもののノア様は、一通り笑ってから離れた。
「あー楽しかった。ま、この間の仕返しのつもりだから許してよね」
「こういう悪趣味なのはやめてくれ」
「まーまー、怒らないでさ。ほら、これもあげるから」
と、フェルに投げ渡してきたのは先程買ったばかりの腕輪。受け取ったあとノア様が続ける。
「この子が君のために選んだんだよ」
「ルミが?」
「あ、あの……日頃のお礼というか……なんというか」
なぜ一瞬見ただけなのにばれてしまったのか。急に恥ずかしくなってしどろもどろになる。おまけに買ったのはノア様なんだけど、と思って彼を見たら、フッと笑われた。
「まあ、興味本意で先につけちゃったけど。僕みたいな細腕じゃあ重すぎたよ。あ、でもフェルがいらないなら貰ってあげてもいいけど?」
「いや、断る」
「だろうね。じゃあ、僕はもう行くから」
身を翻し、歩き始めたノア様に急いで声をかける。
「ノア様、ありがとうございました!」
返事はなかったけど、片手をあげて応えてくれた辺り本当は優しいのかな、と思う。
後に残された私とフェルも、ちょっとだけいろいろあったけど、ちゃんと説明してちゃんと丸く収まった。
名前を呼ばれて振り返ったらフェルが駆け寄ってくるところだった。嬉しくなって思わず、片手を上げて応える。
「フェル!」
けどその直後、腰を掴まれて引かれたかと思うと、後ろからノア様に抱き締められた。
「わっ! な、いきなり何してるんですか?」
「先手を取っただけ。説明される前ならフェルは誤解するよね」
言って彼はいたずらっ子のようにククッと笑う。さっきの話、説明する前に誤解させてやれってことね。
くっ! 油断した!
咄嗟に身動ぎしたら意外とパッと手を離す。両手を軽く上げてニッと笑う。そうこうしてるうちにフェルが傍に来て、私たちを見るなり目を瞬かせた。
「今のは……」
「あれ、今さら来たんだ? フェルが遅いから二人で楽しんできたよ」
「いい加減なこと言わないでください。さっき迷って…」
「事実でしょ? ほら、揃いの腕輪もしてるし」
と、勝手に腕を掴んで見せつけるようにフェルの前に出す。慌てて引いて腕輪を隠した。だけどフェルが訝しげに眉をひそめる。
これは本当に誤解されそう。急な危機感に急いで訂正を試みる。
「フェル、ちょっと待って。事情は後で説明するから」
「そうそう。言い訳は後でするから」
「ノア様、黙ってください」
私の肩に寄りかかる彼が、私の言葉にかぶせて言う。フェルが呟いた。
「…言い訳…?」
「そ。この子の言葉、信じちゃダメだよ」
「ノア様!」
楽しげに笑うノア様と、いまだ事情のわかってないフェル。困惑したもののノア様は、一通り笑ってから離れた。
「あー楽しかった。ま、この間の仕返しのつもりだから許してよね」
「こういう悪趣味なのはやめてくれ」
「まーまー、怒らないでさ。ほら、これもあげるから」
と、フェルに投げ渡してきたのは先程買ったばかりの腕輪。受け取ったあとノア様が続ける。
「この子が君のために選んだんだよ」
「ルミが?」
「あ、あの……日頃のお礼というか……なんというか」
なぜ一瞬見ただけなのにばれてしまったのか。急に恥ずかしくなってしどろもどろになる。おまけに買ったのはノア様なんだけど、と思って彼を見たら、フッと笑われた。
「まあ、興味本意で先につけちゃったけど。僕みたいな細腕じゃあ重すぎたよ。あ、でもフェルがいらないなら貰ってあげてもいいけど?」
「いや、断る」
「だろうね。じゃあ、僕はもう行くから」
身を翻し、歩き始めたノア様に急いで声をかける。
「ノア様、ありがとうございました!」
返事はなかったけど、片手をあげて応えてくれた辺り本当は優しいのかな、と思う。
後に残された私とフェルも、ちょっとだけいろいろあったけど、ちゃんと説明してちゃんと丸く収まった。
65
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
愛されたくて、飲んだ毒
細木あすか(休止中)
恋愛
私の前世は、毒で死んだ令嬢。……いえ、世間的には、悪役令嬢と呼ばれていたらしいわ。
領民を虐げるグロスター伯爵家に生まれ、死に物狂いになって伯爵のお仕事をしたのだけれど。結局、私は死んでからもずっと悪役令嬢と呼ばれていたみたい。
必死になって説得を繰り返し、領主の仕事を全うするよう言っても聞き入れなかった家族たち。金遣いが荒く、見栄っ張りな、でも、私にとっては愛する家族。
なのに、私はその家族に毒を飲まされて死ぬの。笑えるでしょう?
そこで全て終わりだったら良かったのに。
私は、目覚めてしまった。……爵位を剥奪されそうな、とある子爵家の娘に。
自殺を試みたその娘に、私は生まれ変わったみたい。目が覚めると、ベッドの上に居たの。
聞けば、私が死んだ年から5年後だって言うじゃない。
窓を覗くと、見慣れた街、そして、見慣れたグロスター伯爵家の城が見えた。
私は、なぜ目覚めたの?
これからどうすれば良いの?
これは、前世での行いが今世で報われる物語。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※保険でR15をつけています。
※この物語は、幻想交響曲を土台に進行を作成しています。そのため、進みが遅いです。
※Copyright 2021 しゅんせ竣瀬(@SHUNSEIRASUTO)
運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています
四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……
ハズレの姫は獣人王子様に愛されたい 〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
五珠 izumi
恋愛
獣人の国『マフガルド』の王子様と、人の国のお姫様の物語。
長年続いた争いは、人の国『リフテス』の降伏で幕を閉じた。
リフテス王国第七王女であるエリザベートは、降伏の証としてマフガルド第三王子シリルの元へ嫁ぐことになる。
「顔を上げろ」
冷たい声で話すその人は、獣人国の王子様。
漆黒の長い尻尾をバサバサと床に打ち付け、不愉快さを隠す事なく、鋭い眼差しを私に向けている。
「姫、お前と結婚はするが、俺がお前に触れる事はない」
困ります! 私は何としてもあなたの子を生まなければならないのですっ!
訳があり、どうしても獣人の子供が欲しい人の姫と素直になれない獣人王子の甘い(?)ラブストーリーです。
*魔法、獣人、何でもありな世界です。
*獣人は、基本、人の姿とあまり変わりません。獣耳や尻尾、牙、角、羽根がある程度です。
*シリアスな場面があります。
*タイトルを少しだけ変更しました。
自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで
嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。
誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。
でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。
このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。
そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語
執筆済みで完結確約です。
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる