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報告②
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ひとり奥の机にいるノア様が、頭を傾けて「なに?」と言う。アンバル様が「なに、じゃない」と応えた。
「何故お前がいるんだ。呼んだ覚えはないぞ」
「えー、一人だけ除け者にするわけ? ひどくない?」
その反応にアンバル様が溜め息を吐く。
「今回はただの報告だ。何故そういう話になる」
「だから聞きたいんじゃん。こんな楽しいことが起きるって知ってたら、無理してでも行ったのに」
「事前に分かるわけないだろ。それに」
アンバル様の言葉を遮って、フェルが口を挟む。
「ノア。悪いがその言葉は許容出来ない」
表情はいつもとそう変わらない。けどその声は厳しい。だからなのかノア様は不服そうに唇を尖らせる。
「自分の婚約者が巻き込まれたから? ふぅん……ずいぶんと可愛がってるんだ?」
「ああ。だから、彼女に無用な話はしないで欲しい」
「フェル、私なら平気だから……」
ちょっと言い過ぎじゃないかな、とフェルの服を引っ張ったけど訂正する気はないみたい。彼は私の手をぎゅっと握っただけだった。ふいにクスクスと笑う小さな声が聞こえる。
視線を移したらメディが声を出さずに口を動かした。
『愛されてるのね』
「!」
自分だってちゃっかりアンバル様のそばにいるくせに。赤面する顔を誤魔化すように首を振る。
すると、そのタイミングでアンバル様が口を開いた
「たくっ、フェルも突っかかるな。コイツの物言いは今に始まったことじゃないだろ」
「だが……」
わずかに私へ視線を落とす。その瞳には気遣う様子が窺えた。
安心させるように微笑んだら、そっと頬に手の甲で触れる。瞬間ドキッとした。
同時に視線を感じた。恐る恐る顔を動かしたら、奥のテーブルに頬杖をつくノア様と目が合う。彼はジトッとした目をしていた。
「へえ、だいぶ骨抜きにされてるんだね」
「ノア」
アンバル様の嗜める声がする。
ノア様は尚も不服そうに頬を膨らませながら、そっぽを向いた。
けどすぐに何かを思い出したのか口角を上げる。直後、胸ポケットから封筒を取りだし前にピラッと出した。
「そうやって邪険にするなら、これあげないよ?」
薄い黄色の封筒のお手紙みたい。
なんだろう? 大切なものかしら?
チラリとフェルを見上げると、彼は一拍置いてにこやかな笑みを向けた。
「残念だけど、それはもういらないかな」
その言葉を受けてノア様の顔が引き攣る。
「君さー……いらないなら、もっと早く言わない? なんか前より性格悪くなってるよ、フェル」
「そうかい? 自分では分からないが……変化があったというのなら誉め言葉として受け取っておこうかな」
ふふっ、と笑って彼は私の方に視線を落とす 。首をかしげても理由はわからなかった。
ただノア様が小さく舌打ちをして、封筒をテーブルの上に投げ捨てる。
……機嫌を損ねてしまったみたい。
「とにかく、持ってきちゃったんだから行ってよね」
「ああ分かった。一応、礼を言っとくよ」
「一応ね。ふぅん」
相変わらずノア様は、不機嫌そうに横を向く。その後立ち上がるフェルが封筒を取りに行く。戻ってきたタイミングで尋ねた。
「また夜会か何かですか?」
似たような封筒、行ってよね、と言ったノア様の言葉。自分なりに推測する。もしそういう集まりならば、少し心の準備をさせて欲しい。そんな想いが滲み出てしまったのだろうか。フェルが「大丈夫だよ」と柔らかく笑った。
「これは王宮からの招待状だよ」
「王宮?」
「ずっと前にノアに頼んでいたんだ。伝を辿って入手してほしいって。彼の部隊は近衛師団にも近いから王家にも顔が利くんだ」
「でも、どうして王家の方に?」
私が訊くと彼は一瞬動きを止めて、気まずそうに視線を逸らした。
「その……地図を借りるために、かな」
「もしかして、あの時のですか?」
初めてこの国に来た日、地図を見せて欲しいと言った。けど彼の家にあったものには、私の故郷は載ってなくて……王城にあるものなら、もっと広い地域が載ってるかもと教えてもらっていた。
その時はそれで終わったと思っていた話。それを密かに行動に移してくれていたのは嬉しい。けど……。
唐突に帰ることがちらついて、チクリと胸が痛んだ。わずかに視線を下げたらコソッと耳打ちされる。
「勘違いしないで欲しい。頼んだのはだいぶ前の話だから」
そのまま彼は離れたけど正面のメディが首をかしげる。
「地図が必要なの? 秘密の話かしら」
「えーっと……」
どう説明したものかと言い淀む。すると沈黙を話の区切りと判断したのか、アンバル様がテーブルに一枚の紙を広げた。
「何故お前がいるんだ。呼んだ覚えはないぞ」
「えー、一人だけ除け者にするわけ? ひどくない?」
その反応にアンバル様が溜め息を吐く。
「今回はただの報告だ。何故そういう話になる」
「だから聞きたいんじゃん。こんな楽しいことが起きるって知ってたら、無理してでも行ったのに」
「事前に分かるわけないだろ。それに」
アンバル様の言葉を遮って、フェルが口を挟む。
「ノア。悪いがその言葉は許容出来ない」
表情はいつもとそう変わらない。けどその声は厳しい。だからなのかノア様は不服そうに唇を尖らせる。
「自分の婚約者が巻き込まれたから? ふぅん……ずいぶんと可愛がってるんだ?」
「ああ。だから、彼女に無用な話はしないで欲しい」
「フェル、私なら平気だから……」
ちょっと言い過ぎじゃないかな、とフェルの服を引っ張ったけど訂正する気はないみたい。彼は私の手をぎゅっと握っただけだった。ふいにクスクスと笑う小さな声が聞こえる。
視線を移したらメディが声を出さずに口を動かした。
『愛されてるのね』
「!」
自分だってちゃっかりアンバル様のそばにいるくせに。赤面する顔を誤魔化すように首を振る。
すると、そのタイミングでアンバル様が口を開いた
「たくっ、フェルも突っかかるな。コイツの物言いは今に始まったことじゃないだろ」
「だが……」
わずかに私へ視線を落とす。その瞳には気遣う様子が窺えた。
安心させるように微笑んだら、そっと頬に手の甲で触れる。瞬間ドキッとした。
同時に視線を感じた。恐る恐る顔を動かしたら、奥のテーブルに頬杖をつくノア様と目が合う。彼はジトッとした目をしていた。
「へえ、だいぶ骨抜きにされてるんだね」
「ノア」
アンバル様の嗜める声がする。
ノア様は尚も不服そうに頬を膨らませながら、そっぽを向いた。
けどすぐに何かを思い出したのか口角を上げる。直後、胸ポケットから封筒を取りだし前にピラッと出した。
「そうやって邪険にするなら、これあげないよ?」
薄い黄色の封筒のお手紙みたい。
なんだろう? 大切なものかしら?
チラリとフェルを見上げると、彼は一拍置いてにこやかな笑みを向けた。
「残念だけど、それはもういらないかな」
その言葉を受けてノア様の顔が引き攣る。
「君さー……いらないなら、もっと早く言わない? なんか前より性格悪くなってるよ、フェル」
「そうかい? 自分では分からないが……変化があったというのなら誉め言葉として受け取っておこうかな」
ふふっ、と笑って彼は私の方に視線を落とす 。首をかしげても理由はわからなかった。
ただノア様が小さく舌打ちをして、封筒をテーブルの上に投げ捨てる。
……機嫌を損ねてしまったみたい。
「とにかく、持ってきちゃったんだから行ってよね」
「ああ分かった。一応、礼を言っとくよ」
「一応ね。ふぅん」
相変わらずノア様は、不機嫌そうに横を向く。その後立ち上がるフェルが封筒を取りに行く。戻ってきたタイミングで尋ねた。
「また夜会か何かですか?」
似たような封筒、行ってよね、と言ったノア様の言葉。自分なりに推測する。もしそういう集まりならば、少し心の準備をさせて欲しい。そんな想いが滲み出てしまったのだろうか。フェルが「大丈夫だよ」と柔らかく笑った。
「これは王宮からの招待状だよ」
「王宮?」
「ずっと前にノアに頼んでいたんだ。伝を辿って入手してほしいって。彼の部隊は近衛師団にも近いから王家にも顔が利くんだ」
「でも、どうして王家の方に?」
私が訊くと彼は一瞬動きを止めて、気まずそうに視線を逸らした。
「その……地図を借りるために、かな」
「もしかして、あの時のですか?」
初めてこの国に来た日、地図を見せて欲しいと言った。けど彼の家にあったものには、私の故郷は載ってなくて……王城にあるものなら、もっと広い地域が載ってるかもと教えてもらっていた。
その時はそれで終わったと思っていた話。それを密かに行動に移してくれていたのは嬉しい。けど……。
唐突に帰ることがちらついて、チクリと胸が痛んだ。わずかに視線を下げたらコソッと耳打ちされる。
「勘違いしないで欲しい。頼んだのはだいぶ前の話だから」
そのまま彼は離れたけど正面のメディが首をかしげる。
「地図が必要なの? 秘密の話かしら」
「えーっと……」
どう説明したものかと言い淀む。すると沈黙を話の区切りと判断したのか、アンバル様がテーブルに一枚の紙を広げた。
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