98 / 134
輝きの影に潜むもの 後半③
しおりを挟む
ソール嬢は私に気付くとキッと睨み付けてくる。絶叫に似た声で「アンタのせいで!!」と言った彼女は近くのテーブルに手を伸ばす。直後、中身の入ったグラスをそのま投げつけてきた。
「!!」
「ルミ!」
腕を引かれて、グラスがすり抜けていく。けど、冷たい飛沫が体にかかる。すぐにパリンとグラスが割れた。
「…っ……」
半身に滴る葡萄酒。銀糸の刺繍にしっかり染みてしまっている。何か拭くものを、と顔を上げたらフェルに覗き込まれた。
「怪我は?」
「大丈夫です。でもドレスが……」
と言いかけたら、それを見ていたエルスト様がさらに厳しい声を響かせた。
「ソール!! お前はまだ家名に泥を塗るか!!」
「全てはその女のせいじゃない! わたくしじゃないわ!」
ソール嬢が騎士に押さえつけられ連れていかれる中、私はエルスト卿の指示のもと、動き出すエリック家の使用人たちに囲まれる。
彼らに布をかけられ、部屋の奥へと促された。エルスト卿が悪い人だとは思わないけど、エリック家はいわば敵陣。そこにお世話になるのは躊躇われる。フェルを見上げたら、彼はエルスト様に声をかけた。
「彼女は私の方で連れて帰りますので」
「いえ、そういうわけにはいきません。すぐに着替えを用意致します。しばしルミ様をお預かりさせていただけないでしょうか……? それにまだ外には今夜の招待客がおります。今、彼女をあのような状態でお出しすれば、なんと言われるか……どうか何卒……」
頭を下げて、わずかに声が震わせている。そこまで言われたら私たちも拒むことが出来ない。フェルと再び視線を合わせて、今度は私の方から声をかけた。
「では、お言葉に甘えて。ご迷惑ををお掛けしますがよろしくお願いします」
パッと顔を上げたエルスト様が、安堵したように表情を緩ませる。
「迷惑などとんでもない。ロギアスタ卿、ルミ様は私が責任を持ってお預かり致します」
「くれぐれも宜しくお願い致します」
そう言って、フェルが頭を下げるとアンバル様が近づいてきた。
「すごい音がしたが……何があった?」
「後で事情は話す。行こう、アン」
「おい。その名で」
「あの、アンバル様。メディは?」
フェルに連れていかれる間際、アンバル様の服を掴む。役目のこととかメディに聞きたいことがあったから。
でも、アンバル様はお屋敷の外に視線を流した。
「アイツもあの書類に関わる者だからな。さっさと馬車に押し込んだ」
「……そうですか」
良く考えれば分かること。だけど、良く知らない場所で一人になるのは心細くて、メディが居てくれたらなんて思ってしまったのも事実。
けど、あんまり二人を引き留めて心配かけるわけにはいかない。
アンバル様の服から手を離してフェルを見上げる。
「では、後程」
「ああ。すぐに迎えに来るから」
そう言って、私の頬に手を添えたあと身を翻し離れていった。
私は、その後ろ姿を見送ってエリック家の使用人に導かれるままその場を後にした。
「!!」
「ルミ!」
腕を引かれて、グラスがすり抜けていく。けど、冷たい飛沫が体にかかる。すぐにパリンとグラスが割れた。
「…っ……」
半身に滴る葡萄酒。銀糸の刺繍にしっかり染みてしまっている。何か拭くものを、と顔を上げたらフェルに覗き込まれた。
「怪我は?」
「大丈夫です。でもドレスが……」
と言いかけたら、それを見ていたエルスト様がさらに厳しい声を響かせた。
「ソール!! お前はまだ家名に泥を塗るか!!」
「全てはその女のせいじゃない! わたくしじゃないわ!」
ソール嬢が騎士に押さえつけられ連れていかれる中、私はエルスト卿の指示のもと、動き出すエリック家の使用人たちに囲まれる。
彼らに布をかけられ、部屋の奥へと促された。エルスト卿が悪い人だとは思わないけど、エリック家はいわば敵陣。そこにお世話になるのは躊躇われる。フェルを見上げたら、彼はエルスト様に声をかけた。
「彼女は私の方で連れて帰りますので」
「いえ、そういうわけにはいきません。すぐに着替えを用意致します。しばしルミ様をお預かりさせていただけないでしょうか……? それにまだ外には今夜の招待客がおります。今、彼女をあのような状態でお出しすれば、なんと言われるか……どうか何卒……」
頭を下げて、わずかに声が震わせている。そこまで言われたら私たちも拒むことが出来ない。フェルと再び視線を合わせて、今度は私の方から声をかけた。
「では、お言葉に甘えて。ご迷惑ををお掛けしますがよろしくお願いします」
パッと顔を上げたエルスト様が、安堵したように表情を緩ませる。
「迷惑などとんでもない。ロギアスタ卿、ルミ様は私が責任を持ってお預かり致します」
「くれぐれも宜しくお願い致します」
そう言って、フェルが頭を下げるとアンバル様が近づいてきた。
「すごい音がしたが……何があった?」
「後で事情は話す。行こう、アン」
「おい。その名で」
「あの、アンバル様。メディは?」
フェルに連れていかれる間際、アンバル様の服を掴む。役目のこととかメディに聞きたいことがあったから。
でも、アンバル様はお屋敷の外に視線を流した。
「アイツもあの書類に関わる者だからな。さっさと馬車に押し込んだ」
「……そうですか」
良く考えれば分かること。だけど、良く知らない場所で一人になるのは心細くて、メディが居てくれたらなんて思ってしまったのも事実。
けど、あんまり二人を引き留めて心配かけるわけにはいかない。
アンバル様の服から手を離してフェルを見上げる。
「では、後程」
「ああ。すぐに迎えに来るから」
そう言って、私の頬に手を添えたあと身を翻し離れていった。
私は、その後ろ姿を見送ってエリック家の使用人に導かれるままその場を後にした。
67
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ハズレの姫は獣人王子様に愛されたい 〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
五珠 izumi
恋愛
獣人の国『マフガルド』の王子様と、人の国のお姫様の物語。
長年続いた争いは、人の国『リフテス』の降伏で幕を閉じた。
リフテス王国第七王女であるエリザベートは、降伏の証としてマフガルド第三王子シリルの元へ嫁ぐことになる。
「顔を上げろ」
冷たい声で話すその人は、獣人国の王子様。
漆黒の長い尻尾をバサバサと床に打ち付け、不愉快さを隠す事なく、鋭い眼差しを私に向けている。
「姫、お前と結婚はするが、俺がお前に触れる事はない」
困ります! 私は何としてもあなたの子を生まなければならないのですっ!
訳があり、どうしても獣人の子供が欲しい人の姫と素直になれない獣人王子の甘い(?)ラブストーリーです。
*魔法、獣人、何でもありな世界です。
*獣人は、基本、人の姿とあまり変わりません。獣耳や尻尾、牙、角、羽根がある程度です。
*シリアスな場面があります。
*タイトルを少しだけ変更しました。
運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています
四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
ヴァルプルギスの夜が明けたら~ひと目惚れの騎士と一夜を共にしたらガチの執着愛がついてきました~
天城
恋愛
まだ未熟な魔女であるシャナは、『ヴァルプルギスの夜』に一人の騎士と関係を持った。未婚で子を成さねばならない魔女は、年に一度のこの祭で気に入った男の子種を貰う。
処女だったシャナは、王都から来た美貌の騎士アズレトに一目惚れし『抱かれるならこの男がいい』と幻惑の術で彼と一夜を共にした。
しかし夜明けと共にさよならしたはずの騎士様になぜか追いかけられています?
魔女って忌み嫌われてて穢れの象徴でしたよね。
なんで追いかけてくるんですか!?
ガチ執着愛の美形の圧に耐えきれない、小心者の人見知り魔女の恋愛奮闘記。
自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで
嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。
誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。
でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。
このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。
そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語
執筆済みで完結確約です。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる