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輝きの影に潜むもの 後半③

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 ソール嬢は私に気付くとキッと睨み付けてくる。絶叫に似た声で「アンタのせいで!!」と言った彼女は近くのテーブルに手を伸ばす。直後、中身の入ったグラスをそのま投げつけてきた。

「!!」
「ルミ!」

 腕を引かれて、グラスがすり抜けていく。けど、冷たい飛沫が体にかかる。すぐにパリンとグラスが割れた。

「…っ……」

 半身に滴る葡萄酒。銀糸の刺繍にしっかり染みてしまっている。何か拭くものを、と顔を上げたらフェルに覗き込まれた。

「怪我は?」
「大丈夫です。でもドレスが……」

 と言いかけたら、それを見ていたエルスト様がさらに厳しい声を響かせた。

「ソール!! お前はまだ家名に泥を塗るか!!」
「全てはその女のせいじゃない! わたくしじゃないわ!」

 ソール嬢が騎士に押さえつけられ連れていかれる中、私はエルスト卿の指示のもと、動き出すエリック家の使用人たちに囲まれる。

 彼らに布をかけられ、部屋の奥へと促された。エルスト卿が悪い人だとは思わないけど、エリック家はいわば敵陣。そこにお世話になるのは躊躇われる。フェルを見上げたら、彼はエルスト様に声をかけた。

「彼女は私の方で連れて帰りますので」
「いえ、そういうわけにはいきません。すぐに着替えを用意致します。しばしルミ様をお預かりさせていただけないでしょうか……? それにまだ外には今夜の招待客がおります。今、彼女をあのような状態でお出しすれば、なんと言われるか……どうか何卒……」

 頭を下げて、わずかに声が震わせている。そこまで言われたら私たちも拒むことが出来ない。フェルと再び視線を合わせて、今度は私の方から声をかけた。

「では、お言葉に甘えて。ご迷惑ををお掛けしますがよろしくお願いします」

 パッと顔を上げたエルスト様が、安堵したように表情を緩ませる。

「迷惑などとんでもない。ロギアスタ卿、ルミ様は私が責任を持ってお預かり致します」
「くれぐれも宜しくお願い致します」

 そう言って、フェルが頭を下げるとアンバル様が近づいてきた。

「すごい音がしたが……何があった?」
「後で事情は話す。行こう、アン」
「おい。その名で」
「あの、アンバル様。メディは?」

 フェルに連れていかれる間際、アンバル様の服を掴む。役目のこととかメディに聞きたいことがあったから。

 でも、アンバル様はお屋敷の外に視線を流した。

「アイツもあの書類に関わる者だからな。さっさと馬車に押し込んだ」
「……そうですか」

 良く考えれば分かること。だけど、良く知らない場所で一人になるのは心細くて、メディが居てくれたらなんて思ってしまったのも事実。

 けど、あんまり二人を引き留めて心配かけるわけにはいかない。

 アンバル様の服から手を離してフェルを見上げる。

「では、後程」
「ああ。すぐに迎えに来るから」

 そう言って、私の頬に手を添えたあと身を翻し離れていった。

 私は、その後ろ姿を見送ってエリック家の使用人に導かれるままその場を後にした。
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