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なん……ですと……!?⑤
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カデムの後ろ姿を見ながら、セルトンが呟く。
「でも正直、驚いたな…」
「どうかした?」
「あ、いえ。カデムがあんなに楽しそうなのは珍しくて」
「楽しそう……?」
細かくいろいろ配慮してくれるのはわかるけど、私と会うといつも彼は素っ気ない。笑った顔なんて見たこともない。だからセルトンの言っていることは同意しかねる。
けど彼は「楽しそうですよ」と笑う。そしてコソコソと耳打ちしてきた。
「こんなに口数が多いのが何よりの証拠です」
だっていつも『わかりました…』しか言わないでしょう?と続けられて納得しかけた。
たしかにその場面は私も何度も見たことがある。けど口数くらい、と思ったところで唐突にセルトンがカデムに声をかけた。
「なあ、カデム。あの話、してもいいか?」
「勝手にしなよ。許可とるとかアンタぐらいなんだけど。ホント真面目なやつ」
こっちを見ないまま、まだカチャカチャ手を動かしている。セルトンが「本当なら……」と話し始めた。
「カデムだって旦那様たちと同じだったんですよ」
通常、使用人になるのは平民出の者たちが主だそうだ。専門の教育施設に決まった年数通い、そのあとだいたいの人が協会を通して各地のお屋敷に配属される。
でも……カデムは違った。
元貴族であり、爵位を取り上げられたお家の出身だという。
詳しい事情は分からない。ただロギアスタ邸に来たときにはすでに、家族はおらず一人だった。
フェルのお父様の指示で迎え入れたものの、みんな腫れ物に触るような対応をしてきたそうだ。
だからいずれまた、もとの場所に戻れたら…と彼はこぼした。
そこまで聞いていたカデムがムッとして言う。
「誰も戻りたいなんて言ってないんだけど」
「でも本当なら貴族だろう? こんなところに」
「別に今のままでいいし……あ! でもそうだな」
彼は初めてニヤリと笑う。
「セルトンだけ貴族扱いしてくれていいけど? 言ってみなよ、カデム様って」
「なっ! なんで俺が」
「だってそういうことだろ? もとの場所って」
「まだ戻ってないだろ。それに戻っても俺は勤めてないからな」
「じゃあ一緒にくればいいじゃん」
「嫌だよ」
そんなやり取りを微笑ましくみていたら、気づいたカデムが「とめてよ」という。クスクス笑って「そのうちね」と返しておいた。
「まったく……まあ、とりあえず出来たから見てみて」
そう渡されたスマホを再度つけてみる。すると今度は見慣れた文字が出て、壁紙の青空の写真が現れた。
「おお! すごい!」
「な、なんですか? これ」
「へえ……こうなってるんだ」
でも……その上に表示されてる時刻が、ピコピコ変わってすごい勢いでデタラメな数字を出してる。
「!」
驚いて、慌てて画面を消した。
「……」
再び確認しようとして、ボタンに触れるとカデムが頭を傾けた。
「急に消えた? ダメだった?」
「あ、ううん。いつも見てるのと違ったから、つい消しちゃった。もう一回つけてみるね」
そっと画面を点ける。今度は数字が止まっていた。時刻は6時ピッタリ。初期化されたなら0時になりそうなものだけど。
じっと見つめてたらカデムが手元を覗き込んでくる。
「これで合ってると思ったんだけど」
「合ってるよ。だけど……」
何か違和感を覚える。けどハッキリなにがとは言えない。結局モヤモヤした感じを抱えたまま、カデムにお礼を伝えてその日は解散することにした。
「でも正直、驚いたな…」
「どうかした?」
「あ、いえ。カデムがあんなに楽しそうなのは珍しくて」
「楽しそう……?」
細かくいろいろ配慮してくれるのはわかるけど、私と会うといつも彼は素っ気ない。笑った顔なんて見たこともない。だからセルトンの言っていることは同意しかねる。
けど彼は「楽しそうですよ」と笑う。そしてコソコソと耳打ちしてきた。
「こんなに口数が多いのが何よりの証拠です」
だっていつも『わかりました…』しか言わないでしょう?と続けられて納得しかけた。
たしかにその場面は私も何度も見たことがある。けど口数くらい、と思ったところで唐突にセルトンがカデムに声をかけた。
「なあ、カデム。あの話、してもいいか?」
「勝手にしなよ。許可とるとかアンタぐらいなんだけど。ホント真面目なやつ」
こっちを見ないまま、まだカチャカチャ手を動かしている。セルトンが「本当なら……」と話し始めた。
「カデムだって旦那様たちと同じだったんですよ」
通常、使用人になるのは平民出の者たちが主だそうだ。専門の教育施設に決まった年数通い、そのあとだいたいの人が協会を通して各地のお屋敷に配属される。
でも……カデムは違った。
元貴族であり、爵位を取り上げられたお家の出身だという。
詳しい事情は分からない。ただロギアスタ邸に来たときにはすでに、家族はおらず一人だった。
フェルのお父様の指示で迎え入れたものの、みんな腫れ物に触るような対応をしてきたそうだ。
だからいずれまた、もとの場所に戻れたら…と彼はこぼした。
そこまで聞いていたカデムがムッとして言う。
「誰も戻りたいなんて言ってないんだけど」
「でも本当なら貴族だろう? こんなところに」
「別に今のままでいいし……あ! でもそうだな」
彼は初めてニヤリと笑う。
「セルトンだけ貴族扱いしてくれていいけど? 言ってみなよ、カデム様って」
「なっ! なんで俺が」
「だってそういうことだろ? もとの場所って」
「まだ戻ってないだろ。それに戻っても俺は勤めてないからな」
「じゃあ一緒にくればいいじゃん」
「嫌だよ」
そんなやり取りを微笑ましくみていたら、気づいたカデムが「とめてよ」という。クスクス笑って「そのうちね」と返しておいた。
「まったく……まあ、とりあえず出来たから見てみて」
そう渡されたスマホを再度つけてみる。すると今度は見慣れた文字が出て、壁紙の青空の写真が現れた。
「おお! すごい!」
「な、なんですか? これ」
「へえ……こうなってるんだ」
でも……その上に表示されてる時刻が、ピコピコ変わってすごい勢いでデタラメな数字を出してる。
「!」
驚いて、慌てて画面を消した。
「……」
再び確認しようとして、ボタンに触れるとカデムが頭を傾けた。
「急に消えた? ダメだった?」
「あ、ううん。いつも見てるのと違ったから、つい消しちゃった。もう一回つけてみるね」
そっと画面を点ける。今度は数字が止まっていた。時刻は6時ピッタリ。初期化されたなら0時になりそうなものだけど。
じっと見つめてたらカデムが手元を覗き込んでくる。
「これで合ってると思ったんだけど」
「合ってるよ。だけど……」
何か違和感を覚える。けどハッキリなにがとは言えない。結局モヤモヤした感じを抱えたまま、カデムにお礼を伝えてその日は解散することにした。
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