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この先の予感②

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 ジッとアンバル様を見上げたメディは決心した様子で口を開く。

「あの、失礼を承知でお願いがあります」
「…なんだ」

 まだ不機嫌そうな声は変わらない。メディが怯んでしまうかなと心配したけれど、彼女は変わらず相手を見ていた。

「手紙を、お送りさせていただきたいのです」
「必要ない。そういうものは全て断っている」
「では今日のお礼になにか」
「それはフェルクスに言え」
「ですが……」

 懸命に繋がりを作ろうとする。その努力がものの見事に崩されていく。思わず助け船を出せないか、と二人に近づき掛けたら手首を掴まれた。

 視線を向けるとフェルが小さく首を横に振る。

 たしかにここは間に入るべきじゃないのかもしれない。だけどどうすればいいのか……思案する中、視線の先のメディがわずかに頬を染めた。

「でしたら馬に……馬に乗せていただけませんか?」
「馬? 何故俺が」
「以前ある方に教えていただいたのです。お前の悩みなど駆ければ消える、と。だからお願いです。他の方ではなく、貴方と乗りたいのです」
「…………」

 アンバル様がこれまで以上に顔をしかめる。眉間に皺を寄せて目を伏せて腕を組む。その隣で聞いていたノア様がクスクス笑い始めた。

「それどっかで聞いたな。とりあえず走っとけ、だっけ?」
「黙れ」

 少しして、再びアンバル様が口を開く。

「さっきも言ったが、くだらない手紙はいらない。当然俺の馬にも乗せん」
「そう、ですか……そうですよね」

 返ってきた答えにメディが悲しげに表情を曇らせる。思わず駆け寄ると、アンバル様は「だから」と続けた。

「馬には自分で乗れ。その訓練なら……不本意だが俺が教えてやる」
「!」

 バッと彼女が顔を上げる。その顔がみるみる明るくなっていく。頬を紅潮させ可愛らしい笑みを浮かべたあと、思いきり頭を下げた。

「はい! よろしくお願いします!」

 メディの様子に盛大な溜め息をつくアンバル様。その隣でノア様がニヤニヤしている。新しいおもちゃでも見つけたよう。

 フェルもあとから並んで「珍しい光景だな」と笑った。私もホッと胸を撫で下ろしながら、つられるように笑った。

 良かった。なんとか丸く収まったみたい。

 そんな風に思ってたら、不意に名前を呼ばれる。

「ルー!」

 反応したら、今まさにメディが抱きついてくるところだった。突然のことに焦りながらもなんとか両手を広げる。

 彼女は思い切り…なんの躊躇いもなく飛び込んできた。それはもう渾身の一撃で。

「っ!」

 支えきれずに倒れそうになる。

 けど後ろからフェルが軽く支えてくれた。

「あ、ありが──」

 反射的に見上げたら、ふわりと微笑まれる。瞬間、胸に鼓動が響いた。

 同時にメディに話しかけられる。

「ルーあのね、後で話したいことが……ルー?」
「……」

 再度声をかけられてハッとする。

「あ、ごめんなさい。なに?」
「近いうちにお茶会しましょ? アタシがお招きしたいの」

 ふふっ、と笑う彼女はいつもの調子が戻ってきたみたいだ。

 その後、大して進展はなかったものの、とりあえずアンバル様とお知り合いになる、という目標は達成し鍛練場見学ツアーはお開きになった。
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