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ざわざわ、ざわざわ……①

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 流れる景色がゆるやかになって間もなく到着というとき、ふとメディが口を開いた。

「そういえば、次の夜会が延期されるそうね」
「うん?」
「ソール様が体調を崩されているそうよ。次の夜会を任されているエリック家のご令嬢」
「へぇ、そう」

 そんな話どっかで聞いたな、なんて思ってたら馬車が止まる。外から声を掛けられて返事をしたら扉が開いた。

 先にメディが降りて私も後を追う。外に出た直後、わずかに砂混じりの風が吹く。

「…っ!」

 咄嗟に帽子を押さえる。同時に目に入ってきたのは、円形をした立派な建物だった。何かに似てると思ったけど…なんか、コロッセオっぽい。昔写真で見た気がする。

 この鍛練場は王城からはそれほど離れていない。けど街外れにあるからか、周りには何もないと聞いていた。

 ……はずなんだけど。

「ねぇメディ。あの人だかりは何だと思う?」
「さあ、何かしら?」

 フェルからメディに伝えられたのは『鍛練場の前でお待ちください。迎えに行きます』との内容だったらしい。

 それもメディから手紙を送って、ようやく返ってきた約束だったそうだ。たぶんフェル自身も忘れてたのかも。

 そしてその鍛練場の前に人だかりが出来てる。さしずめ出待ちのファンって感じ。

 ほどなくして金髪の青年が現れる。あ、と思ったのと同時に黄色い声が上がる。咄嗟に耳を押さえた。

「っ!!」

 落ち着くころ、ふと隣を見たらメディが驚きで目を見開いていた。

「なんでバレてるの……」

 もしかして手紙の内容が抜かれたってことかしら。一気にキナ臭くなるわね。まるで事件のようだ、とジトッと人混みを観察する。

 彩り豊かなアフタヌーンドレスの美女たち。そこに不審な人物はいない。だが────って探偵の真似事でもしかけたけど、フェルの動きが目に入る。

 そうっかり人だかりに入った彼は驚いて、でもすぐに爽やかな笑顔を浮かべていた。

「……」

 それに一瞬……ほんの一瞬だけだけど、嫌だと思ってしまった。あれだけ選べるなら偽物の婚約者なんていらないじゃないって、ついそんなひねくれたことを考えそうになって、すぐに否定する。

 私の契約は感情じゃなくて衣食住がメインなんだもの。

 ふと私たちに気づいたフェルがこちらに向かってくるのが見えた。丁寧に断りを入れているらしいが女性たちは離れる様子を見せない。

 クイッと袖口を引かれ隣を見るとメディが私を見上げている。「あのままでいいの?」と小首をかしげる。仕方がない、とばかりに断りを入れた。

「ごめんね、メディ。少し外すね」
「ええ。いってらっしゃい」

 ニコニコと見送られて、いざ敵陣へ向かう。人集りに近づいたら女性たちの声が否応にも耳に入ってきた。
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