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白夜の記憶⑥ ※過去編

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 事件後、体内に残る媚薬が完全に抜けフェルクスが精神的にも回復する頃、賭博場の取り壊しが決定したと一報が入る。同じ騎士仲間のアンバル、ノアを中心にフェルクスの調査を引き継ぎ動いていたことが功を奏した。

 もともと情報を共有しており、その上でフェルクスが襲撃された。彼が死に物狂いで手にした発注書からアンバーの従姉妹であるフレイヤが架空の貴族になりすまし、経営者となっていたのを掴んだことが収拾の切っ掛けとなった。

 二人の働きによって賭博場に関わっていた者は皆なんらかの処分を受ける。フェルクスのように後から強引に協力させられた騎士もそこには含まれた。首謀のラベルズ侯爵家は爵位剥奪され、中心人物の二人は平民として遠方に送られた。

 ただ、フェルクスが襲われた場に複数人いたとされていたが誰がいたのか、何人いたのかまでは突き止められなかった。

 さらにアンバーが捕まるまでの間、悪あがきのように彼は悪い噂を流していた。

 ロギアスタ卿は女好きで熱烈なアプローチを求めている。そして乱れる彼は色気があると、まことしやかに話されていた。

 その後、噂がさらにエスカレートしていくが、すでに大火となったそれを消す術はなかった────。

「すまないね、君たちのせいじゃないんだが」

 玄関口でフェルクスが申し訳なさそうに眉尻を下げる。荷物を持った使用人たちが別れの挨拶をしていた。

「気にしないのよ、坊っちゃん。いつかまた機会があったら呼んでね」
「ええ、ええ、お気になさらず。多くの退職金もありがとうございます。ただ」

 おさげの女性が少しだけ困ったように表情を変える。

「カマリは驚くでしょうね」

 三人は長くロギアスタ邸に勤めていた女性たちだった。フェルクスが事件以降、女性に対してトラウマを持ってしまい、精神的にも不安定になることがあるため一時的に離れることにした。

 しかしカマリはすでに出産のため離れており、戻ってくる職場がないのは、と懸念していたのだった。

 ガルシアが事情は話しておくと伝える。そうしてロギアスタ邸から去っていった。

「……」

 無言のまま彼女たちの背を見つめる。表向きにはこの別れも転職として扱われていた。フェルクスの心の傷は隠されていた。 

 それでもいずれ戻ることがあればと願って止まない。

 その場から動こうとしないフェルクスに少しして「冷えますよ」とガルシアが声をかけた。
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