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白夜の記憶② ※過去編

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 街の奥に二階建ての大きなカフェがある。外にはテラス席、入り口は白く曇ったようなガラスの扉で仕切られている。フェルクスが入るとウェルカムベルが軽やかに鳴り、くつろいでいた令息たちがざわめいた。

 その中を一人の男性が近づいてくる。赤い短い髪に金の片耳ピアス。彼は青い瞳を一瞬細めて、すぐに柔和な笑みを浮かべた。

「やあ、君がフェルクス・ロギアスタかい? ……おっと失礼。ロギアスタ卿?」
「ええ、初めまして。貴方がラベルズ小侯爵のアンバー殿ですね。従姉妹ぎみから聞きました」
「君をサロンに誘うよう勧めてきたのもあの子なんだよ、気にかけてくれると嬉しいな」
「ええ。では後程また手紙を送っておきましょう」

 アンバーは「喜ぶよ」と返す。そしてせっかくだから、とフェルクスへサロンの案内を始めた。

「俺らのサロンは完全会員制なんだよね。君は幸運だよ、なかなか声がかからないやつもいる」
「ちなみに活動目的などは?」
「特に決まったものはない。だがそれぞれ人脈を得たり、情報を得たりで自由にしてるよ」

 サロンに入会すれば今いるカフェ『ドン・ベリテ』で集まることになる。入会資格はすでにサロンの会員である者から招待を受けた人のみ。

 活動拠点となるカフェの一階は普通の飲食店のように営業している。そこで紅茶や珈琲、軽食を食べながら雑談を交わすこともできる。二階は個室もあり、本格的な商談も出来る。

 一通り案内してカフェの一画にアンバーが座る。フェルクスも促されて腰をおろした。珈琲を二つ頼んでアンバーは聞く。

「どうだい? 騎士様方にはない上品な世界だろう?」
「ええ、こういうのは初めてですね。我々が集まるのはもっと賑やかな場所ですから」
「呑み屋ってやつだっけか? 平民が集まる場所なんだろう? 君ももうこちら側だ。行くこともなくなるさ」

 注文した品がテーブルに置かれる。珈琲に口をつけるアンバーを見ながらフェルクスは「いえ」と答えた。

「向こうには向こうの良さがありますから」
「ふーん、そうかい。まあいいや。それよりさ…」

 チョイチョイっと近づくように示す。彼は顔を寄せたフェルクスにひそひそと小声で言う。

「ロギアスタ卿にいい儲け話があるんだ」
「儲け話…?」
「ああ、だがここでは言えないな。正式に会員になるなら二階に行くだろ? そんとき詳しく教えるよ」

 アンバーが珈琲を飲み干し、通りがかった男性を呼び止める。軽く話をして、フェルクスを紹介する。

 彼らに促されフェルクスは立ち上がり二階へ向かった。

 会員手続きは簡素なもので、さして時間はかからない。すでに入会した者たちの名が書かれた用紙に自身の名前を付け加えただけだった。

 終わる頃にアンバーが再び現れる。彼は二階の一室を押さえた、とフェルクスに言い連れていった。


 
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