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婚約の証⑥
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フェルがチョーカーを改めて手に取り、ガルシアさんが軽く咳ばらいをする。
「では私が加護の儀の証人となりましょう。後程、神殿へ申し出をすませておきます」
その言葉に「神殿?」と繰り返し続けた。
「加護の儀って、さっきの話の?」
「そう。本来なら求婚後に承諾を得て、神殿へ向かい加護の儀をおこなう。そうして初めて愛閃の護りが得られるとされているんだ。加護の儀は決まった日におこなわれていて、平民だとみんなその日に集まるみたいだね」
ただ、と付け加える。
「貴族やそれに準ずる家柄だと政略結婚も多いから、加護の儀もわざわざ神殿まで行かずに済ませてしまうんだよ。後から申し出て献金することで護りが得られることになってる」
「なるほど」
つまり形式的なものってことかな、と納得する。「始めてもいいかな」と問われ承諾すると、フェルが先に立ち手を差しのべる。
促されるまま、その手に触れた直後ピクリと反応した。
「…─!」
つい反射的に離そうとしたけど、逆にしっかりと掴まれ引かれて立ち上がる。咄嗟に見たフェルの顔色は青ざめているように見えた。
「フェル…顔色が…」
「問題ない。気にしないで。ガルシア、頼むよ」
目を合わせることなく、ガルシアさんへ声をかける。「承知しました」と返ってくる声のあとに窓際へ行くよう勧められた。
「では、加護を賜るお言葉は私の方で」
フェルの前に向かい合わせで立つとガルシアさんが言う。彼は一歩離れた場所で、聖書に似た装丁をした厚い本を開いた。
「生まれし人の行く末に天護の身がある。灯煌から離れ深藍が見守る中、今ひととき愛閃に願う」
瞬間────チョーカーの青い石が淡く光った気がした。同時に部屋を照らしていた明かりがフッと消える。
「え…?」
驚いて周りを見てしまう。けどフェルの落ち着いた声がする。
「安心して。石が反応しただけだから」
屋敷と分離されているワゴンやテーブルのランプだけがほのかに灯っている。その薄暗さの中、チョーカーの宝石が発する青白い光に照らされてフェルがじっと私を見つめた。
「……」
静かな部屋で変に緊張する中、ガルシアさんの声だけが耳に届く。
「ひとつの命、ひとつ心、互いを想い合う二人に祝福を」
フェルが一歩そばに来る。金具を持って私の首に手をまわす。ドキドキと心臓が騒ぎ始めた。
近づく石の輝きがさらに強くなる。周囲に反射した青い光は、まるで水中の煌めきのように揺れている。美しいと感じた瞬間……目の前のフェルが顔をしかめた。
眉間にシワを寄せて唇を噛み締めて苦しそうにしている。フラりと後ろへ下がる彼は口元に手の甲を当てる。その仕草から、出会った頃を思い出す。最近はほとんど見なくなっていたのに。
つい無意識に手を伸ばす。
「大丈夫──」
「!」
その時、触れそうな手をパシッと弾かれた。突然のことに痛みよりも驚きで息を呑む。なにも言えずに呆然とする中、フェルが絞り出すように謝罪した。
「……すまない…今は少し…離れてくれ」
弱々しい声。ガルシアさんも慌ててフェルのもとに行き背を撫でている。
「……」
何も出来ない私は叩かれた手を軽くさする。でも本当は胸の辺りの方が痛い気がした。
ふと徐々に弱まっていくチョーカーの光が目に入る。このまま消えたら加護はどうなるんだろう──そんな不安とともにガルシアさんは儀式を延期すると言った。
「では私が加護の儀の証人となりましょう。後程、神殿へ申し出をすませておきます」
その言葉に「神殿?」と繰り返し続けた。
「加護の儀って、さっきの話の?」
「そう。本来なら求婚後に承諾を得て、神殿へ向かい加護の儀をおこなう。そうして初めて愛閃の護りが得られるとされているんだ。加護の儀は決まった日におこなわれていて、平民だとみんなその日に集まるみたいだね」
ただ、と付け加える。
「貴族やそれに準ずる家柄だと政略結婚も多いから、加護の儀もわざわざ神殿まで行かずに済ませてしまうんだよ。後から申し出て献金することで護りが得られることになってる」
「なるほど」
つまり形式的なものってことかな、と納得する。「始めてもいいかな」と問われ承諾すると、フェルが先に立ち手を差しのべる。
促されるまま、その手に触れた直後ピクリと反応した。
「…─!」
つい反射的に離そうとしたけど、逆にしっかりと掴まれ引かれて立ち上がる。咄嗟に見たフェルの顔色は青ざめているように見えた。
「フェル…顔色が…」
「問題ない。気にしないで。ガルシア、頼むよ」
目を合わせることなく、ガルシアさんへ声をかける。「承知しました」と返ってくる声のあとに窓際へ行くよう勧められた。
「では、加護を賜るお言葉は私の方で」
フェルの前に向かい合わせで立つとガルシアさんが言う。彼は一歩離れた場所で、聖書に似た装丁をした厚い本を開いた。
「生まれし人の行く末に天護の身がある。灯煌から離れ深藍が見守る中、今ひととき愛閃に願う」
瞬間────チョーカーの青い石が淡く光った気がした。同時に部屋を照らしていた明かりがフッと消える。
「え…?」
驚いて周りを見てしまう。けどフェルの落ち着いた声がする。
「安心して。石が反応しただけだから」
屋敷と分離されているワゴンやテーブルのランプだけがほのかに灯っている。その薄暗さの中、チョーカーの宝石が発する青白い光に照らされてフェルがじっと私を見つめた。
「……」
静かな部屋で変に緊張する中、ガルシアさんの声だけが耳に届く。
「ひとつの命、ひとつ心、互いを想い合う二人に祝福を」
フェルが一歩そばに来る。金具を持って私の首に手をまわす。ドキドキと心臓が騒ぎ始めた。
近づく石の輝きがさらに強くなる。周囲に反射した青い光は、まるで水中の煌めきのように揺れている。美しいと感じた瞬間……目の前のフェルが顔をしかめた。
眉間にシワを寄せて唇を噛み締めて苦しそうにしている。フラりと後ろへ下がる彼は口元に手の甲を当てる。その仕草から、出会った頃を思い出す。最近はほとんど見なくなっていたのに。
つい無意識に手を伸ばす。
「大丈夫──」
「!」
その時、触れそうな手をパシッと弾かれた。突然のことに痛みよりも驚きで息を呑む。なにも言えずに呆然とする中、フェルが絞り出すように謝罪した。
「……すまない…今は少し…離れてくれ」
弱々しい声。ガルシアさんも慌ててフェルのもとに行き背を撫でている。
「……」
何も出来ない私は叩かれた手を軽くさする。でも本当は胸の辺りの方が痛い気がした。
ふと徐々に弱まっていくチョーカーの光が目に入る。このまま消えたら加護はどうなるんだろう──そんな不安とともにガルシアさんは儀式を延期すると言った。
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