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婚約の証②
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目が合って、とりあえず笑いかける。けどフェルは固まったまま動かない。
「……」
「あ、えっと、おかえりなさい」
どうしようか、と悩んでひとまず出迎えの言葉だけ伝える。だけど相変わらず動き出す気配がない。
聞こえなかったのかな、と一度咳ばらいして再度声をかけた。
「フェル、おかえりなさい」
「……! あ、ああ。すまない、今戻った」
やっと呪縛から解放された彼が動き出す。
フェルはマントを外し、控えていた使用人に渡す。中は、昨日と同じような首元まで締まってる上衣。内側に重ねられてるシャツには金糸で刺繍もされている。そして白いボトムとブーツ。騎士の正装みたい。王城に行ってたからかな。
傍に来ると、じっと見つめられる。あまり見られると恥ずかしくなる。頬が熱くなるのを誤魔化すように首をかしげた。
「フェル?」
「あ、いや……」
目をパチパチしていたら、彼は口元に手を添えて続ける。
「その……用意させた服は、気に入らなかったかな、と」
「え……と」
まさかあの奇抜な服を彼が用意していたとは思わず、今度は私の方が固まってしまう。今思い出しても……なんとも複雑なキラキラのドレス。正直に着れないとは言えず、なんとか言葉を選ぶ。
「なんというか……私には着こなせないかなって。別のものをお借りしました。ごめんなさい」
「いや、気にしないで。こちらも街で流行っているものを安易に選んでしまった。近々仕立て屋を直接呼ぶことにするよ」
「……仕立て屋?」
「ああ。よく母が頼んでいたテイラーがいるんだ」
それはつまりオーダーメイドってやつだよね。それはご勘弁願いたい。私に合わせられちゃ困る。ずっと使う訳じゃあるまいし。
一拍置いて事の重大さに気付いた私は、慌てて首を横に振った。
「大丈夫です! あのドレスも着れないわけではありませんので」
「そういうわけにはいかないな。ガルシア、頼めるかい」
「最短でお呼びしましょう」
ガルシアさんがニコッと笑って下がっていく。
引き留めることも出来ずに呆然としていたら、フェルが私の袖口の刺繍へ指先で触れる。
「懐かしいな……」
「?」
「あ、ごめん」
小さく謝ってすぐに話を変えて、ふわりと笑った。
「当日は私も同席できるよう時間を作るよ。君の服を見繕うのも楽しそうだ」
「え!? だから必要ありませんって!」
そんな私の焦りもなんのその。フェルは笑いながら食堂に向かう。
私はもう食事は終えてるし、ついていくわけにはいない。仕方ないけど待つしかないな、と離れていく背に声をかけた。
「フェル、食事が終わったら声をかけてくださいね。仕立て屋の話はもう一度話し合いましょう」
すると、足を止めた彼が振り返り頭を傾けた。
「君は?」
「先程いただきました」
「そうか……」
「どうしました?」
「いや、なんでもないよ」
少しだけ寂しそうに見えたけど気のせいかな。一応、「失礼します」と短く断りを入れて階段を上がる。
でも、その途中で引き留められた。
「ルミ」
「はい?」
「後で部屋に行くよ。渡したいものがあるんだ」
「……わかりました」
渡したいものってなんだろう? いろいろ想像してみようとしたけど全く浮かばない。まあ、どちらにせよお屋敷全体の図面を借りようと思ってたからちょうどよかったかな。
ひとまず部屋行かないと、と軽く階段を上がっていった。
「……」
「あ、えっと、おかえりなさい」
どうしようか、と悩んでひとまず出迎えの言葉だけ伝える。だけど相変わらず動き出す気配がない。
聞こえなかったのかな、と一度咳ばらいして再度声をかけた。
「フェル、おかえりなさい」
「……! あ、ああ。すまない、今戻った」
やっと呪縛から解放された彼が動き出す。
フェルはマントを外し、控えていた使用人に渡す。中は、昨日と同じような首元まで締まってる上衣。内側に重ねられてるシャツには金糸で刺繍もされている。そして白いボトムとブーツ。騎士の正装みたい。王城に行ってたからかな。
傍に来ると、じっと見つめられる。あまり見られると恥ずかしくなる。頬が熱くなるのを誤魔化すように首をかしげた。
「フェル?」
「あ、いや……」
目をパチパチしていたら、彼は口元に手を添えて続ける。
「その……用意させた服は、気に入らなかったかな、と」
「え……と」
まさかあの奇抜な服を彼が用意していたとは思わず、今度は私の方が固まってしまう。今思い出しても……なんとも複雑なキラキラのドレス。正直に着れないとは言えず、なんとか言葉を選ぶ。
「なんというか……私には着こなせないかなって。別のものをお借りしました。ごめんなさい」
「いや、気にしないで。こちらも街で流行っているものを安易に選んでしまった。近々仕立て屋を直接呼ぶことにするよ」
「……仕立て屋?」
「ああ。よく母が頼んでいたテイラーがいるんだ」
それはつまりオーダーメイドってやつだよね。それはご勘弁願いたい。私に合わせられちゃ困る。ずっと使う訳じゃあるまいし。
一拍置いて事の重大さに気付いた私は、慌てて首を横に振った。
「大丈夫です! あのドレスも着れないわけではありませんので」
「そういうわけにはいかないな。ガルシア、頼めるかい」
「最短でお呼びしましょう」
ガルシアさんがニコッと笑って下がっていく。
引き留めることも出来ずに呆然としていたら、フェルが私の袖口の刺繍へ指先で触れる。
「懐かしいな……」
「?」
「あ、ごめん」
小さく謝ってすぐに話を変えて、ふわりと笑った。
「当日は私も同席できるよう時間を作るよ。君の服を見繕うのも楽しそうだ」
「え!? だから必要ありませんって!」
そんな私の焦りもなんのその。フェルは笑いながら食堂に向かう。
私はもう食事は終えてるし、ついていくわけにはいない。仕方ないけど待つしかないな、と離れていく背に声をかけた。
「フェル、食事が終わったら声をかけてくださいね。仕立て屋の話はもう一度話し合いましょう」
すると、足を止めた彼が振り返り頭を傾けた。
「君は?」
「先程いただきました」
「そうか……」
「どうしました?」
「いや、なんでもないよ」
少しだけ寂しそうに見えたけど気のせいかな。一応、「失礼します」と短く断りを入れて階段を上がる。
でも、その途中で引き留められた。
「ルミ」
「はい?」
「後で部屋に行くよ。渡したいものがあるんだ」
「……わかりました」
渡したいものってなんだろう? いろいろ想像してみようとしたけど全く浮かばない。まあ、どちらにせよお屋敷全体の図面を借りようと思ってたからちょうどよかったかな。
ひとまず部屋行かないと、と軽く階段を上がっていった。
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