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婚約の証①

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 旦那様が戻られます──そう言って呼ばれたのは陽が暮れたあと。私がチクチク、チクチクとパッチワークをしていた時だった。

 なぜ内職パッチワークなんてしてるのかって?それはお屋敷の内装を変えるため。今よりもっと明るく可愛らしく。

 ゴミは綺麗なところにポイ捨てされづらい、今回で言えば、手が加えられてるところには怖い人は来ないかもしれない。そんな心理をついてみようと思った。つまりは不審者が入り難いお家作り。

 ただ私自身、今は自由に出来るお金がない。だから端切れを頂戴した。まあフェルに言えば必要経費だと簡単に出してもらえそうだけど。契約時にドレスだの宝飾品だの勧めてきた彼を思い出す。

 だけどそれでは意味がない。結局、高価なものばかりでは彼女たちは見慣れてしまってるだろうから。

 そんなことを考えていたら、ガルシアさんに再び声をかけられた。

「ルミ様も向かいますか?」
「あ、はい。今いきます!」

 危ない危ない、忘れてた。今は婚約者の務めを果たすときだ。出迎えがないと不仲だなんて言われそうだもの。私は素早く布の塊を座っていたソファの上に置く。

 そのまま駆け足で傍へ行くと、ガルシアさんが扉を開けて待っていた。

 廊下に出ると壁のランプが煌々と穏やかな光を灯している。

 窓の向こうはいつの間にか真っ暗になっていて、チラホラ見える外灯が星の煌めきのように輝いていた。

「……」

 さっき夕飯をいただいた時は、まだ陽が見えていたのだけれど。時間が経つのはあっと言う間ね。

 私は正面扉に通じる階段を降りて、玄関ホールに出る。ガルシアさんが、すぐに来ますよ、と言った。

 その言葉通り微かな話し声が聞こえたかと思うと、大きな扉がガタンと音を立てる。

 ゆっくりと外側に開いていく扉。傍にはセルトンと同じ使用人のカデム。彼はセルトンより若くて、まだあどけなさが残っているようにも見えた。

 髪色は主人と同じ金髪。目は黒。ふっくらした頬とスベスベなお肌。羨ましい。でも、そんな可愛らしい容姿に反して人懐こくはない。

 現に今も私を一瞥して主人あるじに一礼したあと、さっさと外に出てしまった。

 まあ、私は突然来た余所者だ。そう簡単に受け入れてもらえるとは思っていない。むしろ、ガルシアさんとかセルトンの反応の方が珍しいのだ。

 カデムの消えていった扉から、フェルに視線を戻す。彼もちょうど、こちらを見たタイミングだったのか目が合った。

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